偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2015.06.01
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カテゴリ: 若草読書会

 昨日(5月31日)は若草読書会の例会でありました。
 課題図書は、葉室麟著「恋しぐれ」。解説は凡鬼さん担当。
 何故、この本を選ぶに至ったかの話から、小説の読後感などをお話戴きました。また、蕪村の生涯を年譜でご説明戴き、芭蕉や一茶との比較で蕪村の代表句25句をご紹介下さいました。正岡子規によって蕪村の句の評価が高まったことなどの経緯をご紹介戴き、芭蕉の句は奥へ奥へ、これに対して蕪村の句は「広がり」であり、豊かな色彩があり、映像的・絵画的であり、物語性があるとも。
 たしかにそんな気がします。小生のように文才の無い人間でも、蕪村の或る句から短編小説のストーリーを作り上げることも出来そうな気がしてくるのは、そのような蕪村の句の性格に依るものであるのでしょう。
 この「恋しぐれ」所収の短編小説群も、サラリとした書き方で俳句の雰囲気とうまくマッチして品のいい上質な小説に仕上がっていると感じられました。
 小生は、先月22日~25日の当ブログ記事でご紹介した蕪村関連銀輪散歩の写真も参考になるかと記事を印刷に打ち出したものをお持ち致しました。
<参考>京都・蕪村銀輪散歩 (1) (2) (3) (4)
 凡鬼さんがご紹介下さった蕪村の「春風馬堤曲」は初めて知るもので、興味深いものがありました。これは、蕪村が旧友を訪ねて淀川べりを行く途上で行き逢った里帰りの若い娘の姿に触発されて、その女性の心の内を思いめぐらし、その女性になり代わってしたためた一文である。このような文章の作り方は何となく万葉の高橋虫麻呂の「河内の大橋」の歌などを連想させもするのでありました。
 その全文を以下に記載して置きます。
(春風馬堤曲前文)
余、一日、耆老を故園に問ふ。
澱水を渡り馬堤を過ぐ。
偶、女の郷に帰省する者に逢ふ。
先後して行くこと数里、相顧みて語る。
容姿嬋娟として、癡情憐れむべし。
因りて歌曲十八首を製し、女に代はりて意を述ぶ。
題して春風馬堤曲と曰ふ。
(春風馬堤曲 十八首)
やぶ入や浪花を出て長柄川
春風や堤長うして家遠し
 堤より下りて芳草を摘めば荊と蕀と路を塞ぐ
 荊蕀何ぞ妬情なる 裙を裂き且つ股を傷つく
渓流石點々 石を踏んで香芹を撮る
多謝す水上の石 儂をして裙を沾らさざらしむ
 一軒の茶見世の柳老にけり
茶店の老婆子儂を見て慇懃に
無恙を賀し且つ儂が春衣を美ム
 店中二客有り 能く解す江南の語
 酒錢三緡擲ち我を迎へ榻を譲って去る
古驛三兩家猫兒妻を呼ぶ 妻來らず
 雛を呼ぶ籬外の鶏 籬外草地に滿つ
 雛飛びて籬を越えんと欲す 籬高うして堕三四
春艸路三叉中に捷徑あり我を迎ふ
 たんぽゝ花咲り三々五々五々は黄に
   三々は白し記得す去年此路よりす
憐みとる蒲公莖短して乳をあませり
 むかしむかししきりにおもふ慈母の恩
 慈母の懐袍別に春あり
春あり成長して浪花にあり
梅は白し浪花橋邊財主の家
春情まなび得たり浪花風流
 郷を辭し弟に負く身三春
 本をわすれ末を取る接木の梅
故郷春深し行々て又行々
楊柳長堤道漸くくだれり
 嬌首はじめて見る故園の家黄昏
 戸に倚る白髪の人弟を抱き我を待春又春
君不見古人太祇が句
藪入りの寢るやひとりの親の側
  <参考>「 春風馬堤曲

 上の「春風馬堤曲」の2首目の「春風や~」の句碑は、毛馬閘門脇に建てられていて、偐山頭火氏や小生にはお馴染みの句である。
 馬堤とは毛馬の堤でしょうから、我々二人は何度となくこの長堤を輪行しているのでありましたが、春風馬堤曲を読むのは初めてのことでありました。
 小生は今までさしたる根拠もなく、蕪村が家に帰るのに淀川堤を歩いている景色かと思っていましたが、これは藪入りで家路を辿る少女の心情を詠ったものであったのですな。まあ、蕪村さんよりも少女の方が絵にもなるし、「虫麻呂」的で宜しい(笑)。

009蕪村句碑.JPG
※この写真は 2008年10月21日の記事 に掲載の写真の再掲載です。

<参考>凡鬼さんから頂戴した「蕪村略年譜」も掲載して置きます。
1716年(正徳6年 6月に享保に改元) 蕪村誕生。生まれた月日は不明
             生地は摂津国東成郡毛馬村。一説には丹後与謝、摂津
             天王寺生まれとも。両親については文献上は不明。
1735年(享保20年)20歳 この頃江戸へ下る。早野巴人(宗阿のち宋阿)の夜半
             亭の内弟子となる。
             蕪村は初号の「宰町」から「宰鳥」と号す。
1742年(寛保2年) 27歳  6月に師匠の巴人逝去。
1744年(延享元年)29歳 浄土宗の僧侶姿で関東各地をめぐる。
             「宰鳥」改め「蕪村」の号を名乗る。
1751年(宝暦元年)36歳 京都へ上る。炭太祇が京都に来る。
1754年(宝暦4年) 39歳 この頃丹後宮津の浄土宗寺で画業に励む。画業では
             めざましい発展。屏風絵も多く残す。
1760年(宝暦10年)45歳 亡母33回忌の年と思われる。この頃還俗して与謝姓を
             名乗る。この頃妻「とも」を娶る。この後娘「くの」
             も生まれる。
1763年(宝暦13年)48歳 「山水図屏風」を画く。画家として腕をふるう。
1766年(明和3年) 51歳 「三菓社中句会」ひらく。炭太祇、黒柳召波も参加。
1768年(明和5年) 53歳 この頃は熱心に句会を続ける。
1770年(明和7年) 55歳 夜半亭を継承し二世となる。「三菓社」を「夜半亭社
             中」句会と改称。高井几董入門。
1771年(明和8年) 56歳 池大雅と「十便十宜図」を画く。
             親友太祇没(63歳)。
             「十便帖」は大雅、「十宜図」は蕪村。国宝。
1773年(安永2年) 58歳 松村月渓(呉春)句会に出席。几董の選著「あけ烏」
             成る。
1776年(安永5年) 61歳 友人上田秋成の「雨月物語」が刊行される。
             娘「くの」が嫁ぐも翌年離婚。
1778年(安永7年) 63歳 この2,3年で「野ざらし紀行図屏風」「夜色楼台図」
             などを描いたと思われる。「謝寅」の画号を用いる。
1781年(天明元年)66歳 金福寺の芭蕉庵が落成。
1782年(天明2年) 67歳 吉野へ花見。10月金福寺で芭蕉忌営む。
1783年(天明3年) 68歳 浅間山噴火。冷害による大飢饉。
             3月 芭蕉百回忌取越し追善俳諧興行に出座。
                ※1793年になる処、10年繰り上げて実施。
             8月 太祇13回忌追善俳諧に参加。
             9月 宇治田原に家族一門と遊ぶ。帰宅して病臥。
             12月25日(太陽暦では1784年1月17日)未明自宅で
                没。






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最終更新日  2017.09.23 09:59:05
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