●貧窮問答歌
風まじり 雨降る夜の 雨まじり 雪降る夜は 術もなく 寒くしあれば 堅塩
を 取りつづしろひ 糟湯酒
うちすすろひて しはぶかひ 鼻びしびしに しかとあらぬ ひげかき撫でて 吾
を 除
きて 人は在らじと 誇
ろへど 寒くしあれば 麻ぶすま 引き 被
り 布肩衣
有りのことごと 着襲
へども 寒き夜すらを 吾
よりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ寒からむ 妻子
どもは 乞ひて泣くらむ この時は いかにしつつか 汝
が世は渡る
天地 は 広しといへど 吾 がためは 狭 くやなりぬる 日月 は 明 しといへど 吾 がためは 照りや給はぬ 人皆か 吾 のみや 然 る わくらばに 人とはあるを 人並に 吾 も 作 れるを 綿もなき 布肩衣 の 海松 のごと わわけさがれる かかふのみ 肩に打ち懸け 伏 いほの 曲 いほの内に 直土 に 藁解き敷きて 父母は 枕の 方 に 妻子 どもは 足 の方に 囲 みゐて 憂へ 吟 ひ かまどには 火気 ふき立てず こしきには 蜘蛛の巣かきて 飯 炊 く 事も忘れて 奴延鳥 の のどよひをるに いとのきて 短き物を 端 きると いへるがごとく しもと取る 里長 が声は 寝屋處 まで 来 立ち呼ばひぬ かくばかり 術 無きものか 世間 の道 (巻5-892)
<風に交じって雨の降る夜、雨に交じって雪の降る夜は、どうしようもないほど寒くてたまらないので、焼き固めた堅い塩をちびちび食べては、湯に溶いた酒粕をすすりすすり、何度も咳き込み、びしびしと鼻汁を啜りながら、ろくに生えてもいない髭をかき撫でて、俺以外に人はあるまいと威張ってはみるものの、寒くてたまらないので、麻の夜具を引きかぶり、布製の丈の短い袖なしをあるだけ全部重ね着ても、なお寒い夜でさえあるのに、私よりも貧しい人の父母は飢え凍えているだろう、妻子たちは食べ物をせがんで泣いているだろう、こんな時はどのようにしてあなたは世を渡っているのだろうか。
天地は広いというが、私に対しては狭くなったのか、日月は明るいというが、私の為にはてってくださらないのか、人みながこうなのか、私だけこうなのか、たまたま人として生まれたのに、また人並みに生まれついたのに、綿もない粗末な肩衣の、海松 (みる) のように裂けて垂れ下がったぼろ切れだけを肩に掛け、屋根を伏せ覆った庵の、傾いた庵の内に、地面直接に藁を解き敷いて、父母は私の枕元に、妻子たちは足の方に、互いに身を寄せ合って悲しみ呻き、竈 (かまど) には煙も吹き立てず、甑 (こしき) には蜘蛛が巣を掛け、飯を炊くことも忘れ、トラツグミのように細々と力ない声で呻吟している時に、とりわけ短い物を更に端を切り詰めるというかの如く、鞭を手にした里長の声は、寝床まで来てわめき立てる。こんなにもやるせないものであるのか世の中の道理というのは。>
反歌
世間
を 憂しとやさしと 思へども
飛び立ちかねつ 鳥にしあらねば (巻5-893)
<世の中を厭わしい、生きているのも恥ずかしいと思っても、飛んで行くこともできない、鳥ではないので。>
●日本挽歌1首 (柩を挽く者が詠うという意の「挽歌」を日本語で詠ったもの)
大君 の 遠 の 朝廷 と しらぬひの 筑紫 の国に 泣く子なす 慕 ひ来まして 息 だにも いまだ 休 めず 年月 も いまだあらねば 心ゆも 思 はぬ 間 に うちなびき 臥 やしぬれ 言はむすべ せむすべ知らに 石木 をも 問ひ 放 け知らず 家ならば かたちはあらむを 恨 めしき 妹 の 命 の 我 をばも いかにせよとか にほ鳥の 二人 並び 居 語らひし 心そむきて 家離 りいます( 巻 5-794 )反歌5首
家に行きて いかにか 我
がせむ 枕づく
つま屋さぶしく 思ほゆべしも
(巻 5-795
)
<家に帰って、私はどうすればよいのか。(枕づく)つま屋は寂しく思われるに違いない。>
はしきよし かくのみからに 慕ひ 来
し
妹が心の すべもすべなさ(巻5-796)
<ああ、いとしいことだ。こんなことになるだけだったのに、私を慕ってやって来た妻の心がやるせない。>
悔しかも かく知らませば あをによし
国内
ことごと 見せましものを(巻5-797)
<後悔するばかりだ。こんなことになると知っていたら(あをによし)国中ことごとく見せておくのだった。>
妹が見し 楝
の花は 散りぬべし
我
が泣く涙 いまだ 干
なくに(巻5-798)
<妻が見た楝の花は散ってしまうだろう。私の流す涙が未だ乾かないのに。>
大野山
霧立ちわたる 我
が嘆く おきその風に 霧立ちわたる(巻 5-799
)
<大野山に霧が立ち込めている。私が嘆くため息の風によって霧が立ち込めているのだ。>
●
瓜
食
めば
子等
おも
ほゆ 栗食めば ましてしのはゆ いづくより 来たりしものぞ
まなかひに もとな懸りて
安眠
し
寐
さぬ(巻
5-802
)
<瓜を食べると子どものことが思われる。栗を食べるとまして偲ばれる。いったい何処からやって来たのか、面影が目の前にちらついて、安らかに眠らせてくれない。>
●
銀
も
金
も玉も 何せむに まされる宝 子に
如
かめやも(巻5-803)
<銀も金も珠玉も何であると言うのか。素晴らしい宝である子どもに及ぶだろうか。>
●
春されば まづ咲く宿の 梅の花
ひとり見つつや 春日暮らさむ
(巻 5-818
)
<春になるとまず咲く庭の梅の花をひとり眺めて春の日を過ごそうというのか。>
●
いざ子ども はやく
日本
へ
大伴の
御
津
の浜松 待ち恋ひぬらむ(巻1-63)
<さあ皆の者、はやく大和の国に帰ろう。大伴の御津の浜松が待ちわびているだろう。>
●憶良らは 今は 罷
らむ 子泣くらむ
それ 彼
の母も 吾
を待つらむそ(巻3-337)
<憶良めはここで失礼いたしましょう。子供が泣いているでしょう。その母親も私をまっていることでしょう。>
●松浦佐用姫の歌
海原
の 沖行く船を 帰れとか 領巾
振らしけむ 松浦佐用姫
(巻5-874)
<海原の沖を行く船に向かって、帰って来てと、領巾をお振りになったのか、松浦佐用姫は。>
行く船を 振り留みかね いかばかり 恋しくありけむ 松浦佐用姫(巻5-875)
<行く船を、領巾を振っても留めることができず、どれほど恋しかったであろうか、松浦佐用姫は。>
●秋の七種の花の歌
秋の野に 咲きたる花を 指折りて かき数ふれば
七種
の花
(巻 8-1537
)
萩の花 尾花葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝がほの花 (巻 8-1538 )
●七夕の歌
彦星
し 妻迎へ船 漕ぎ 出
らし 天の川原に 霧の立てるは(巻 8-1527
)
<彦星が妻を迎える舟を出したらしい。天の川の川原に霧が立っているのは。>
<参考>
織女
し 船乗りすらし まそ鏡
清き 月夜
に 雲立ち渡る(巻17-3900
大伴家持)
天の川 梶の 音
聞こゆ 彦星と
織女
と 今夜
逢ふらしも
(巻10-2029
柿本人麻呂歌集)
●
士
やも 空しかるべき
万代
に 語り継ぐべき 名は立てずして(巻6-978)
<男と生まれた身として無為に終わってよいものだろうか。後世に語り継がれるに足る名声をうち立てることもなく。>
(若草ホール前から高安山遠望)
お昼は出前の寿司と恒郎女さんがご用意くださったお味噌汁で昼食。
第二部は歌留多会。
百人一首の部は、
恒郎女さん
が優勝で、偐家持賞が
凡鬼さん
。
坊主めくりの部は、小万知さんが優勝、偐家持賞は恒郎女さん。
第三部は喫茶「若草」。
珈琲、クリームソーダ、お菓子などで、暫しの歓談。
最後に、今回ご欠席の和郎女さんが、前以って若草ホール宛てに送っていただいた多数の押絵作品
(その一部については写真撮影しましたので、後日紹介させていただきます。)
を希望者が頂戴して帰ることに。
なお、席上、二日後に誕生日を迎えるヤカモチは小万知さんが手配下さった花束とハッピーバースデイの歌を頂戴し感謝でありました。
<参考>過去の若草読書会関連記事は
コチラ
。
若草読書会・二十四節季と七十二候の季語 2025.09.27 コメント(4)
自宅療養記・いざ若草ホールへ 2025.09.15 コメント(8)
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