“やおっち”的電脳広場

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第二部第11話



彼は、受話器を取りました。

彼「もしもし」

彼女「・・・もしもし」

受話器の向こうからは、彼女の懐かしい声が聞こえてきました。

彼「久しぶり」

彼女「ホント、久しぶりだね。元気?」

彼はちょっとしたからかいと、皮肉を込めて言ってみました。
ただし、口調はできるだけ優しく。

彼「全然元気じゃないよ。」

彼女の様子がちょっと変化しました。

彼女「ごめんね。いきなり電話できなくて。怒ってる?やっぱり怒ってるよね?あんなことして・・・」

彼「もういいよ。過ぎたことは」

彼女「ううん、あなたは悪くないの。私が悪いの。私って最低よね。だからいつまでも一人なんだよね。こんなことしてるから・・・」

彼「だから、もういいって」

彼女「ううん、良くない。あなたにあんなことしたし、それはそれで悪いと思ってる。でも、どうしても一人でいろいろ考えたかったの。でも、悪いのは私なんだよね。こんなことしてるから・・・」

「このままでは堂々巡りになる」と思った彼は、腹の底からわき出しそうになる怒りを抑えながら言いました。

彼「ところで、どうしたの?」

彼女「うん。なんか急に電話したくなって。でも、携帯だとあんなことしたからかけづらかったし、メールもなんか形だけみたいだからイヤだし、それなら家の電話ならいなくても安心かな、と思って。」

彼「そんな事に気を使うなんて、疲れるだけだよ」

彼女「いいの。私がそう思ったんだから」

そして、彼女は改めてしばらく連絡しなかった理由を語り始めました。

彼女「本当にごめんなさい。電話やメール知ってたけど、出たくなかったの。なんか一人になりたかったの。一人になって自分のこといろいろ考えて、どうしようか、って思ってたの。本当にゴメンね。イヤな女、って思わなかった?」

彼は半ばあきれながらも言いました。

彼「もういいって。やっちゃったもんは仕方ないだろう。終わった話だからもう気にするなって。」

彼女は受話器の向こうで喜びながら言いました。

彼女「ありがとう。やっぱりあなたは優しい、いい人だね。」

それから、二人は途切れた時間を取り戻すかのように話し続けました。
そして、それからどのくらい時間が過ぎたでしょうか?

彼女「あ!もうこんな時間!明日仕事だよね。遅くまで話しててゴメンね。」

彼「なぁに、いいよ。こっちこそ久々に話せてよかったよ。

彼女「ありがとう。そういってくれて嬉しい。やっぱり優しいね。」

そして彼女はこう言いました。

彼女「また、前みたいに電話とか、メールしていい?」

彼はあまり考えることなく言いました。

彼「ああ、いいよ。」

彼女「やった~。ありがとう。じゃぁ、またメールか電話するね。今日は本当に電話して良かった。ありがとう。お仕事頑張ってね。じゃぁ、おやすみ」

彼「おやすみ」

二人は電話を切りました。

彼は電話の後、いろいろ思い起こしました。
今日の会話のこと、そして、彼女が電話に出なかった理由を

彼「大丈夫かな?」

確かに、久しぶりに話が出来たのは良かったけど、今回彼女の別の一面を見ることもできた。そしてそれまでのいきさつから彼女の心の中も見ている。
さらに、しばらく連絡が出来なかったことが、彼の中で彼女に対する思いをとどまらせようとしていたのです。

彼「ちょっと考えるか」

と、頭の中を整理しようとしました。が、それも一通のメールがそれを中断させたのです。

彼女からのメールでした。

「今日はありがとう。本当に話せて良かった。明日からのお仕事頑張ろうね。おやすみ。また、メールするね」

彼「ま、いいか、とりあえずはしばらく様子見だ」

と、とりあえずその場はそう結論づけて、彼は寝ることにしました。

しかし、その場での彼の判断が、後に思いもしない結果となって彼に振るかかってくることを、今の時点では彼自身、知るよしもありませんでした。

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