『やよいの森』

『やよいの森』

森の夜


    森の夜

 その夜も、とても静かだった。

 カウンターにはいつからか、男が一人腰をかけていた。

 カンガルーは男の前にカクテルを差し出した。

 カクテルは、深い森の夜空の色をしている。

 男は、グラスに刺してある月の破片を取った。

 絞ると、カクテルの表面が金色に輝いて消えた。

 スティックでかき混ぜると、星の泡が無数に浮かび上がった。

 男はカクテルを一気に飲み干した。

 「コトン」

 グラスを置いた瞬間、横に飾られた花ビラが蝶になって舞った。

 花の実が一粒転がる。

 カンガルーはその実を拾うと男の前に差し出した。

 男は首を横に振る。

 カンガルーは後ろにあったガラスの瓶を取ると、そっと入れた。

 真珠になった実が、白く淡く輝いていた。

カクテル


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