天の王朝

天の王朝

カストロが愛した女スパイ5


 「どういうルートを取ったのですか?」
 「ルート?」

 「そう。どの都市を通っていったのですか?」
 「タンパ、テキサスです」

 「フロリダのフライパンの柄を通っていったのですね?」
 「フライパンの柄って? 聞いたこともないわ。いいえ」

 「アラバマやミシシッピを通って行った?」
 「はい」

 「ニューオーリンズも通った?」
 「はい」

 「途中、どこかで止まりましたか?」
 「食事のために止まりました。フレンチフライを食べました。私たちは窓からトレイを出してくれるような場所で食べました」

 「ドライブインですね?」
 「ドライブイン。そうです」

 「途中、どこかで一泊しましたか?」
 「いいえ。ずっと運転していました」

 「どうやって? 運転を交替しながらですか?」
 「はい」

 「それぞれの車には、ずっと同じ人間が乗っていたのですか?」
 「はい」

 「あなたは交替しましたか?」
 「私はフランクと話せるよう、彼と同じ車に乗りたかったのです」

 「あなたはずっとフランクと同じ車に乗っていたのですか?」
 「はい」

 「あなたとフランクのほかにだれが乗っていたのですか?」
ロレンツはこのときうわの空で、当時のスタージスがロレンツに対して取った冷たい態度を思い出していた。スタージスはダラスで何か大仕事をやるのでロレンツのことをほとんど構ってくれなかったのだ。

ロレンツが答えないでいたため、部屋に沈黙が走り、委員らの視線がロレンツに向けられると初めて、ロレンツは我に返った。
 「すみません、もう一度言って下さい」とロレンツは聞いた。

 「ほかにだれが、あなたとフランクが乗った車にいたのですか?」
 「フランクとノボ兄弟と私が一台の車に乗り、残りはもう一台の車に乗りました。

 「それでは三人が一台の車に乗っていたのですか?」
 「いいえ、四人です」

 「あなたも運転をしたのですか?」
 「いいえ、私は疲れていてとても運転できませんでした。夜間運転だったのです。私は道もよく知りませんでした。彼らは大変よく道を知っているようでした」

 「その旅はどれだけ時間がかかったのですか?」
 「二日です。目的地には夜遅く着いたのを覚えています」

「どこに着いたのですか?」
 「ダラスです」

 「ダラスではどこかに泊まったのですか?」
 「モーテルに泊まりました」

 「モーテルの名前は何だったんですか?」
 「モーテルの名前は思い出せませんが、モーテルには砂利を敷いた車道が裏手にありました。ダラス郊外のモーテルです」

▼暗殺旅行2
 「車の話に戻りますが、あなたとフランク、そしてノボ兄弟が一台の車に乗りましたね。ではほかの車にはだれが乗っていたのですか?」
 「オーランド・ボッシュ、ジェリー・パトリック・ヘミング、ペドロ・ディアス・ランツ、それにオズィーです。私はオズィーとは一緒に乗りたくありませんでした。私は彼を好きではなかったのです」

 「どうして好きではなかったのですか?」
 「彼には、そういった態度がありました。彼は、何故私たちのグループと一緒にいるのか話しませんでした。私たちはグループ内で信頼し合っていました。だから私には彼は部外者のように思えたのです」

 「あなたは彼と何か話をしたことがありましたか?」
 「私は彼に、ライフルを持ち運べるほど強そうにみえない、と言ったことがあります」

 「もう一度、何と言ったんですか?」とドッドが質問に割り込んだ。
 「私は彼に、ライフルを持ち運べるほど強そうにみえない、と言ったんです。彼は私がそう言ったことで気分を害し、それ以来・・・。それは私が最初に彼に会ったときのことです。彼はそれ以来、私のことを気に入らず、私も彼のことが気に入らなかったのです。彼はそういう態度でした。彼は無愛想でした。ある瞬間、知ったかぶりをしたかと思うと、その次の瞬間には不機嫌になるのです」

 トリプレットが再び質問した。「彼はどんなことを言ったのですか?」
 「彼は世界中を飛び回ったとか何とか言っていました。私だってそうです。私はドイツ語をしゃべれます。彼もいくつかの外国語が話せると言っていました。とにかく私たちは馬が合わなかったんです」

 「何の外国語を彼は話せると言ったのですか?」
 「分かりませんが、スペイン語はあまりうまくありませんでした」

 「あなたは彼がスペイン語を話そうとしたのを聞いたことがあるのですか?」
 「はい」

 「それで、彼はあまりうまくなかった?」
 「うまくありませんでした」

 「スペイン語の理解力はどうでしたか?」
 「ええ。彼は話すときに訛りがありましたが、理解はしているようでした。時々、彼は無口を決め込んでいるのではないかと思うときもありました」

 「どんな訛りだったか説明できますか?」
 「ええ。彼がスペイン語を話すときは、スペイン語を母国語としない、米国人のような訛りでした。彼はいくつかのスペイン語の文章を聞き覚えたような感じでした」

 「ダラスのモーテルに行ったと言いましたね。砂利の車道もあったと。そのモーテルの特徴はほかに何だったか言えますか?」
 「郊外にありました。通りにダラスにようこそという看板が立っていました。“ザ・ブル”というレストランを通り過ぎました。そのとき、私の娘の好きそうなレストランだなと思いました。それから、フランクはモーテルでは隣続きの部屋を取ったのです」

 「何部屋取ったのですか?」
 「えっ、何ですか?」

 「何部屋取ったのですか?」
 「部屋ですか?二部屋です。二つの部屋の真ん中はドアで仕切られていて、それぞれの部屋にはダブルベッドが二つずつありました。モーテルに着くやいなや、私たちは新聞も電話も駄目だと言われました。外出もしませんでした。食事は部屋に運ばれてきました。ライフルも部屋の中に持ち込みました」

 「ちょっと待って下さい。だれが新聞も駄目だと言ったのですか?」
 「フランクです」

 「フランクが責任者だったのですか?」
 「彼が責任者でした」

 「ほかにだれか命令する人はいなかったのですか?」
 「いいえ」

▼暗殺旅行3
(前回までのあらすじ)
ケネディ暗殺調査委員会の質疑の中心は、ケネディ暗殺事件前に反カストロのキューバ人らのグループが開いた秘密の会合に移った。たまたまその秘密会合に居合わせたロレンツは、スタージスの策略で暗殺集団オペレーション40のメンバーとともにテキサス州ダラスに向かい、ダラス近郊のモーテルに宿泊した。ケネディ暗殺事件の数日前のことだった。何か「大きな仕事」を暗殺集団がやろうとしていたのは、明白だった。

 「フランクはあなたたちに何故新聞を読んではいけないか説明しましたか?」
 「いいえ。私は“一体全体、この秘密主義は何なの?”と聞きました。答えは同じでした。フランクは“黙っていろ”と言うだけです。私たちは従うだけでした」

ロレンツは今でもその一種異様な雰囲気を思い出す。このダラスでの仕事に関しては、仲間の間で冗談が全く通じないような、何か重苦しい雰囲気が支配していた。ロレンツはスタージスに「今回の仕事は何でそう特別なの?」と聞いたことがあった。スタージスはただ「気にするな。座って次の命令を待て」としか答えなかった。そこでロレンツは冗談めかして「一体だれを殺すのよ?」と聞いたら、皆が黙り込み、その場にシラーとした気が充満したこともあった。皆の神経に障ったのは明らかだった。スタージスが「黙れ、ロレンツ」と普段よりも厳しくロレンツをたしなめたことも鮮明に覚えていた。

 「部屋の中で、何か武器を見ましたか?」とトリプレットが質問した。
 「一度、車のトランクを開け、ライフルを部屋に持ち込みました」

 「だれが持ち込んだのですか?」
 「フランクとオーランドです。私は、“何故ライフルを持ち込むの?”と聞きました。ライフルは緑の防水紙にくるまれていました。その上に毛布が巻かれていました。ライフルはベッドと望遠鏡の間に置かれました」

 「ライフルは何丁ありましたか?」
 「三、四丁です」

 「どんな種類のライフルですか?」 
 「自動式のやつです」

 「もっと具体的に描写できませんか?」
「いいえ。何故なら包まれていましたから。みんなライフルに躓きました。私は素早くライフルを見ました。自動式のライフルで別の毛布には望遠鏡がくるまれていました」

 「望遠鏡はライフルとは分けられていたのですね?」
 「はい」

 「どんな種類の望遠鏡でしたか?」 
 「ライフルに取り付けることができるやつです」

 「私が質問したのは商標の意味です」
 「商標は見ませんでした」

 「あなたはエバーグレイズ(フロリダ州南部の大沼沢地)で、あらゆる種類の武器の訓練を受けたと言いましたね」
 「M-1、三八口径、四五口径」

 「それらはM-1ではなかったですか?」
 「明確には言えません。そうかもしれませんが、確信はありません。見慣れたタイプでした。もし、違うのだったら・・・」

 「つり帯はついていましたか?」
 「つり帯?」

 「そうです。銃をつる革帯です」
 「いいえ、ありませんでした。訓練でつかったようなタイプではなかったです」

 「だれかこれらのライフルの手入れをしなかったのですか」
 「しませんでした。彼らはただ、ベッドの間に隠したままにしていました」

 「だれかそのライフルを取り出し、打ち金を起こし、引き金を引き、試し撃ったりしなかったのですか?」
 「しませんでした。そこに置いてあっただけです。歩くのに邪魔にならないよう脇の方へ押しやられていまし」。

▼暗殺旅行4
 「あなた自身は、どれだけそのモーテルに泊まったのですか?」
 「よく覚えていません。一泊かも。私は邪魔者扱いでした。そう感じたのです。エバーグレイズで寝袋の中で寝るのとは訳が違いました。私たちはホテルの部屋にいて、私だけが女性でした。一部屋には、二人の男が寝ることができるベッドが二つあっただけです。彼らも居心地は良くなかったし、私もどちらかというと居心地が悪かったんです。それで彼に言いました。“一体どうなっているの?”と」

 「だれに言ったのですか?」
 「フランク(スタージス)です。私は以前にもおとりとして使われたり、参加したりしていました。私はおとりとして武器庫を襲撃する際、大いにフランクの役に立ったのです。私はいつもおとりでした。その時も私の役目はおとりだと思っていたのです。だから“一体どうなっているの?”と聞いたのです」

ロレンツの自伝には、武器庫襲撃の際、ロレンツは守衛や見回り兵の注意を惹き付ける「おとり」の役をやっていたと書かれている。

 「その時のフランクの説明は何だったのですか?」
 「彼は聞かれる度に、“後で教えてやる”と答えるだけでした。彼はせわしなく動き回っていました。彼は何本か電話をしたり、食料の買い出しに行ったりしなければなりませんでした。フランク以外は外に出かけませんでした」

 「あなたはほかのだれかと話をしなかったのですか?」
 「私は部屋の中のだれとでも気さくに話をしました」

 「ヘミングは何と言っていたのですか?」
 「彼は自分だけのベッドが欲しいと言っていました。彼は太っていましたから」

 「彼は、ほかに問題がありましたか?」
「彼はお腹をすかし、疲れていました。といっても、みんな大変疲れていましたけれど」

 「彼はそのときやろうとしていた作戦について何かしゃべりませんでしたか?」
 「いいえ」

 「ペドロ・ディアス・ランツはどうですか。彼は何か話しましたか?」
 「彼は別の部屋にいました」

 「ドアは開いていたわけですから、部屋を行ったり来たりしなかったのですか?」
 「私は同じ部屋にずっといました。私は部屋の床に座り込み、サンドイッチをつくったりしていました」

 「ノボ兄弟はどうですか。彼らは何と言っていたのです?」
 「彼らはペドロと同じ部屋でした」

 「彼らがこちらの部屋に来て話すことはなかったのですか?」
 「ありませんでした。彼らはいつもフランクと話すときは、外でこっそりと話していましたから。だから私はのけ者だと感じたのです」

 「三、四丁のライフルの件ですが、それらはみんな、あなたがいた部屋に置いてあったのですか?」
 「はい、私がいた部屋にありました」

 「あなたの知っている限りでは、別の部屋には武器はなかったのですか?」
 「分かりません。ちょっと盗み見したことはありましたが、ベッドとベッドの間には何も見えませんでした」

 「別の部屋には何も見なかったと?」
 「分かりません。だってダブルベッドとベッドの間に隠してしまうから」

 「オーランド・ボッシュはどうでしたか。あなたはそのとき、彼と何か話をしましたか?」
 「私が昔撃たれたとき、安っぽい手術をしてくれたわね、ぐらいのことは彼に言いました」

 「その程度の話しかしなかったのですか?」
 「なに気ない会話ばかりでした。私は多かれ少なかれ待機させられていましたから。私は何かするよう言われるのを待つのに慣れていました。私たちは疲れることのないよう普段着の服を着るよう言われました。電話も、新聞も禁止です。私はただ自分の番が来るのを待ったのです。結果は待っていれば来るということです。フランクは“待て、ただ待て”と言っていました。私は待ちました。そのとき、だれかがドアのところにやって来たのです。私はその時、床の上でサンドイッチをつくっていました」

▼暗殺旅行5
 「だれが来たのです?」
 「中年のずんぐりした男です。白い靴下に、黒っぽいジャケットとズボンをはいていました。彼は丸ぽちゃでした」

 「その後、その男がだれであるか知る機会がありましたか?」
 「はい。後に私はテレビでその男を見ました」

 「だれだったんですか?」
 「ジャック・ルビーです」

だれがあの男を見間違えることがあろうか。一目見ただけでちんぴらと分かるような派手な出で立ち。帽子をかぶり、中肉中背というより幾分太ったその中年男は、後にオズワルドを射殺するジャック・ルビーにほかならなかった。

 「確かにジャック・ルビーがドアのところまで来たのですね?」
 「はい」

 「だれが彼と話したのですか?」
 「フランク(スタージス)です」

 「その会話を耳にしましたか?」
 「いいえ。でもその男はフランクに“あの女は一体全体何者だ?”と聞いていました」

 「フランク・スタージスは何と答えたのですか?」
 「“まあ、いいじゃないか”とか、そういう感じのことを言いました。私は私で“やつは何者よ?”と聞き返しました。こんな風に出会ったのです。それはそれで終わり、フランクはその男にもうしゃべるなと言いました」

 「あなたがジャック・ルビーだと認めた男は何か運んできたのですか?」
 「いいえ。彼はフランクに会いに来たのです。中で話そうとしませんでした。彼は玄関口のところに立っていて、その後立ち去りました。砂利道を歩く彼らの足音が聞こえました」

 「どれだけ長い時間、彼らは話していたのですか?」
 「十五分とか、二十分」

 「その間中、モーテルでオズィーは何をしていたのですか?」
 「何も。服の入った、バズーカ砲が入るほど大きな鞄からものを出していました」

 「彼は何か武器の性能をチェックしたりしていましたか?」
 「いいえ」

 「彼はあなたの前で何か言いましたか?」
 「彼は私にサンドイッチを渡してくれました。マヨネーズなしの、あれやこれや。彼は航空会社のバッグから服を取り出していました」

 「そうした男たちとモーテルに滞在している間中、あなたは、だれかがそこでの目的について話しているのを聞きましたか?」
 「いいえ。私はその時はまだ、武器庫を襲撃するのだと思っていましたから。特にやりたくはなかったのですが、参加するのだと思っていました。本当は娘に会いたかったし、家に帰りたかった」

▼暗殺旅行6
 「結局、家に帰れたのですか?」
 「はい。フランク(スタージス)が私を家に送り返しました。フランクはこう言いました。“俺は判断を誤った。やつらは女が関係するのをいやがっている”
 私はこう言いました。“どういうことよ? 私は以前もこれと同じように働いたわ”
 フランクはこう言いました。“今回のは特別だ。お前は戻れ”
 私はこう言いました。“でも、私ははるばるやって来たのよ。アレックス(ローク)はどこ?”
 フランクはこう言いました。“気にするな。彼は忙しいんだ”
 私はこう言いました。“アレックスと話をしたい。アレックスはどこ?”
 フランクはこう言いました。“アレックスは死んだ”
 私は“何ですって?”と聞き返しました。
 フランクは繰り返しこう言いました。“アレックスは死んだ”
 ああ、何て言うことでしょう。もうアレックスを見つけることはできなかったのです」

ロレンツはアレックス・ロークが死んだと知らされたときの衝撃と悲しみを思い出していた。ロークは、苦しいときはいつもロレンツの心の支えだった。カストロ暗殺計画に携わったとき、本当にロレンツの身を案じてくれたのもロークだった。暗殺集団とのかかわりの中で唯一ロークだけが、ロレンツのことを人間性の観点から忠告してくれたのだ。ほかの連中は、非情な殺しのプロだった。仕事をするに当たって人間性のひとかけらも見せないような連中ばかりだった。ロレンツは当時、自分の苦境を脱出するためスタージスに自分の保護を求めると同時に、ロークにも助けを求めようとしていた。そのロークは死んでしまった。ロークの死には、ロークのことを快く思っていなかったスタージスが絡んでいたと、ロレンツは後に知らされる。ロークは「始末」されたのだ。

 「フランクはアレックスが死んだのをどうやって知ったのか説明しましたか?」
 「いいえ。彼はただ、慌ててそう言い切ると、私に黙るように言ったのです」

 「ほかにだれか、あなたがその場所にいるべきではないという事実を伝えた人はいましたか?」
 「いいえ。フランクがボスでしたから。私たちはフランクの言うことを聞きました。というより聞かなければならなかったのです」

 「それであなたはその場を離れた?」
 「はい」

 「どうやってその場を離れたのですか?」
 「私は飛行機でマイアミに戻り、娘を引き取りました」

 「それはいつだったか覚えていますか?」
 「十一月の十九日か二十日だと思います」

 「一九六三年の?」
 「そうです」

 「どれだけマイアミには滞在したのですか?」
 「二、三日か、一泊だけです。私はベビーシッターのウィリー・メイ・テイラーのところへ娘を引き取りに行かねばなりませんでした」

 「六三年の十一月二十二日はどこにいたのですか?」
 「私は娘とイースタン航空の飛行機の中にいました。マイアミから、当時は大した空港ではありませんでしたが、現在のケネディ空港(ニューヨーク)に向かっていました。飛行機はニューアーク空港へと航路を変更しました。というのも、副操縦士が出てきて、こう言ったのです。“みなさん、大統領が撃たれました”」

 「後にフランク・スタージスと、このことについて話をしましたか?」
 「はい」

 「それはいつでしたか?」
 「七六年か七七年に」

 「彼は暗殺に何らかの形でかかわっていたことを認めましたか?」
 ここで議長が口を挟んだ。「トリプレットさん。先に進む前に、委員会の他のメンバーに質問があるようです」
 「どうぞ質問をさせてあげて下さい。議長」とトリプレットは答えた。

▼武器庫襲撃とドッドの愚問
 スタージスが暗殺に関与していたのか、というトリプレットのせっかくの面白い質問がここでドッドからの質問で遮られてしまった。これこそが今回のロレンツ証言のクライマックスといってよかったにもかかわらずだ。このトリプレットの質問は後に再び繰り返されることはなかった。

 質問を替わったドッドは、ケネディ暗殺事件とはあまり関係のない武器庫襲撃に固執しており、質問の内容もロレンツに対して攻撃的だ。おそらくドッドは最初からロレンツのことを信用していなかったと推測される。別に疑り深いことは問題ないが、あまりにも挑戦的なのでロレンツが怒り出す場面もある。このドッドの態度は最後まで変わることはなかった。

 議長がドッドに質問するよう促した。
 ドッドは「ありがとう、議長」と言って、質問を始めた。

 「ロレンツさん。あなたは過去に何回か、武器庫の襲撃を手伝ったことがあると言いましたね?」
 「はい」

 「そして、あなたの役割はおとりであると?」
 「はい」

 「襲撃の際のあなたの役割について、少し簡潔に教えてもらえませんか? どんなことをやったのですか?」
 「みんな黒ずくめで車に乗り込むんです。私はいつも助手席に座るんです。だれかそばを通ったら、私がボーイフレンドとデートしているように見えるようにです。黒い服を着た二人が外に出て、見張り番に気を付けながら、武器庫に忍び込み、武器を盗んでくるのです。私たちはだれか近付いて来る人の注意をそらしたり、シグナルを送って、警戒を促したりしていました。武器を積み込むために後ろにもう一台車を用意していました。私はただそこにいて、だれか来たら、フランクや彼のグループからその人の注意をそらす役目をしていました」

 「基本的に、いつも同じグループと行動していたのですか?」
 「はい」

 「同じ人間、一つのチームとして同じメンバーでしたか?」
 「はい」

 「あなたがグループとかかわっていた間、何回、武器庫から武器を強奪しようとしたのですか?」
 「何回か正確に覚えていません」

 「五回?」
 「何ですって?」

 「五回、十回、二十回、五十回?」
 「いいえ。十回か、十回以上」

 「それらは基本的に同じ地域でやったのですか?すべてフロリダ州でしたか?」
 「いいえ。ノース・カロライナ州、サウス・カロライナ州、アラバマ州、ルイジアナ州も」

▼武器庫襲撃2
 「ロレンツさん、これから二、三分、あなたの思い出せる範囲でそうした武器の強奪について、答えていただきたいのです。あなたは十回ほど、そうした強奪をやったと言いましたね?」
 「もっとかもしれません」

 「もっと?」
 「分かりません」

 「一体いつ頃だったか、何年のことだか分かりますか?」
 「六〇年、六一年」

 「六〇年、六一年?」
 「はい」

 「すべてがその時期に起きたのですか?」
 「ピッグズ湾事件の前です。武器の供給が足りなくなると、陸、海軍の倉庫とかを襲いました。私たちのグループは急速に拡大していたのです」

 「少しだけ、ここで武器庫襲撃についてのみ、質問していきたいのですが。武器庫を襲撃した具体的なケースを挙げてもらえませんか?」
 「どこでやったか、それに全部ですか?」

 「そうです」
 「正確にはどこだか分かりません。ずっと昔のことですから。フェンスで覆われていました。それに・・・」

 「では、ノース・カロライナ州の件にしましょう。ノース・カロライナのどの辺ですか?」
 「どこだかは分かりません。フランクがこういったことをすべて知っていました。彼が運転して私たちを連れて行ったのです。それに夜でした」

 「ノース・カロライナ州で夜であったこと以外に何も思い出せないのですか?」
 「夜でした。私は武器を車に積み込む手伝いをしました。すべて夜のことです」

 「ノース・カロライナ州ではどれだけの武器を盗んだのですか?」
 「何箱もです。箱の中にいくつ入っていたのか覚えていません」

 「何箱ですか?」
 「十箱」

 「十箱?」
 「大体そんなところです。車に載せられるだけの数です」

 「アラバマ州はどうですか?」
 「同じことです。車に積み込めるだけ積み込みました。後ろの席全部と、床とトランクに」

 「同じことと言うと、どこだかは分からないのですか?」
 「正確にどこかは分かりません」

 「大体でいいのですが?たとえば、モービルのそばだとか?」
 「分かりません。いつも夜でしたから。それにそれはフランクの仕事です。彼が知っていたのです。彼ならそうした場所を正確に示すことができました」

▼武器庫襲撃3
 「いつもマイアミから出かけたのですか?」
 「大抵はそうです」

 「アラバマ州に出かけたときは、昼間運転し、夜になるのを待ったということですか?」
 「夜になるまで待ちました」

 「それでもアラバマ州のどこにいたのか、分からないのですか? ノース・カロライナ州でもどこにいたのか、分からない?」
 「分かりません」

 何とくどい質問だろう。そんな十六、七年前の話をどうして克明に覚えているはずがあろうか。武器庫襲撃など日常茶飯事だった。スタージスがすべて計画を練り、ロレンツらはそれに従うだけだった。場所がどこだかは問題ではなかったのだ。もちろんドッドの思惑は明白だ。ロレンツ発言の信憑性を探るために、ロレンツの発言内容が実際の起きた武器庫襲撃事件と一致するかどうかを確かめたかったのである。ただし、当時の記録が残っているか、あるいは盗まれても報告されているかどうかは別問題だ。

 ドッドは質問を続けた。「マイアミからノース・カロライナまで運転するとどれだけか
かったのですか?」
 「一日ぐらい、ハイウェーを飛ばして。二日かも」

 「それでも、どこにいたか分からないのですか?」
 「正確にどこだったか分かりません」

 「フロリダはどうですか?」
 「フロリダに行きました」

 「フロリダのどこでしたか?」
 「正確には分かりません」

 「ほかの州は?」
 「ジョージア、サウス・カロライナ」

 「ジョージアとサウス・カロライナ?」
 「はい」

 「それで、あなたの答えはいつも同じなのですね。どこにいたのか分からない?」
 「私は自分の言われた役目をやっただけです。武器を積み込むことです。それに大昔のことですから。正確な位置は分かりません。フランクだったら答えられるでしょう」

 そのとき、ロレンツの弁護士クリーガーがロレンツの耳元で話しかけるのを目ざとく見つけたドッドは、クリーガーにすかさずこう言った。「ちょっと待って下さい。あなたが答えたいのなら、答えることができます。証人と話したいのなら、それもできるでしょう。小休止を取りなさい。しかし、私は証人自身から話を聞きたいのです」

 クリーガーはロレンツから少し遠ざかるようにし、姿勢を正した。クリーガーは昔の話なので覚えていないと言うようロレンツに忠告したかっただけだった。

ロレンツは答えた。「大昔の話です。正確にはわかりません。道中どこかで、私たちは陸、海軍倉庫を襲ったのです。フランクが椅子を投げ、後ろの窓を壊しました。そして車に詰め込めるだけ積み込んだのです。それでマイアミに戻りました。私たちは寝ないで待つのが常でした」

▼武器庫襲撃4
 ドッドは質問した。「私は陸、海軍の倉庫の話をしているのではありません。私は武器店の倉庫の話をしているのです。あなたたちが襲撃した武器庫で、守衛や見張りを縛り上げ、動きがとれないようにしたケースもありましたか?」
 「それは私の仕事ではありません」

 「あなたの仕事ではないことは知っていますが、そういう場合が多かったのですか? そうしなければならなかった?」
 「大抵はそうです」

 「あなたたちはトラックを使ったのですか、それともいつも車だったのですか?」
 「ステーション・ワゴンも使いました」

 「ステーション・ワゴン?」
 「フランクが一時期持っていた緑のステーション・ワゴンです」

 「もう一度たずねます。その強盗に関してもっと明確な情報が得たいから、詳しい説明を求めているんです。あなたはそれらの強盗に関連した都市や町の名前、明確な日付も思い出せないんですか?」
 「思い出せません。私たちは銃の運搬をやっていたのです。正確な日付を知るなんてとても無理です。私はおそらく、弁護士には正確な場所を言うことができるかもしれません。あえて場所を見つけようとしたことはなかったものですから。私はただのおとりだったのです」

 「季節は覚えていませんか?春なのか、夏なのか?こうしたことで明確に覚えていることは?」
 「いつでもです。武器が不足したときはいつでも。こうした銃を運搬することも私の仕事でしたから」

 「何ですって?」
 「盗んだ銃の運搬です」

武器の運搬はロレンツの得意とするところだった。武器は通常、船で反カストロ分子のいる拠点に運ばれた。ロレンツは船長である父親から船の操船技術を習っていたため、部隊のだれよりも航海術がうまかった。グアテマラやバハマに運んだこともあった。運搬に使う船は部隊が盗んで調達、武器を運搬しやすいように船を改造し、形や色を変えて使用した。何回か使った後は沈めて証拠を隠したりもした。

 「すみませんが、よく聞こえません。運搬があなたの仕事ですって?」
 「武器を船に乗せたり、箱から出したり、ケースに入れた上で何が入っているか印を付けたりしました。武器は別々のケースに入れられ、船に保管されました。それが主に私の仕事だったのです。私は船かボートに武器を詰め込み、ある時点で目的地に運ぶ仕事をしていたのです」

 「ボートはどこに停泊させていたのですか?」
 「マイアミ川、フロリダ州の小島、マラソン、名前もない小島とかです」

▼再びダラス暗殺行
 武器庫襲撃の話はここでやっと終わった。ドッドの質問は次にロレンツがオズワルドらと車に乗ってマイアミからダラスに出かけたという旅行の話に再び移った。

 「六三年十一月のマイアミからダラスへの旅行の話に戻らせて下さい。あなたの証言では、十一月二十二日の約二週間前にダラスに出かけたことになっています」
 「違います」とロレンツはきっぱりと否定した。ロレンツは先ほど「約一週間前」と言ったのだ。ドッドはさっき何を聞いていたのか。無理解な質問を続けるドッドに対して、ロレンツはちょっとむっとした。

 「二週間前ではなかったと?」
 「そうです」

 「それより早かったのですか、遅かったのですか?」
 「十六日です。それというのも、その日が、私にお金がなくて、私がやっと見つけたベビーシッターのウィリー・メイ・テイラーが娘を預かってくれることのできた唯一の日だからです。そのベビーシッターは娘のことをかわいがってくれて助かりました」

 「十一月十六日だったのですか?」
 「はい、その日です」

 「それがその旅行の日にちだと?」
 「はい」とロレンツは答えたものの、本当は確信があったわけではなかった。多分十六日で間違いないとは思っていた。

 「オーケー。あなたたちは二台の車に分乗して出かけた?」
 「はい」

 「そして、私が数えたところあなたたちは全部で八人だった。ノボ兄弟で二人、ペドロ・ディアス・ランツを入れて、これで三人。ヘミングで四人。スタージスで五人。オーランドもあなたたちと一緒でしたね?」
 「はい」

 「それで六人。オズィーが七人目で、あなたを入れて八人」
 「はい」

 「その旅行には八人がいた?」
 「はい」

 「そして、あなたの乗った車にはスタージスがいた?」
 「その通りです」

 「二人のノボ兄弟もあなたの車だった?」
 「はい」

 「それは約二日の旅程だった?」
 「はい、ずっと運転してです」

 「スタージスとノボ兄弟に関して、ダラス行きの目的という観点から、もうちょっと明確にしてもらえませんか?」
 「それはできません。だれも何も聞いてはいけなかったのです。私たちは命令を受けました。私たちはフランクが"お前の意見は何だ?"と、聞いたときだけ、話すことができたのです。彼はその時は、何も聞きませんでした」

▼ダラス暗殺行2
 「あなたの証言によると、あなたは武器庫襲撃をまたやるのだなと思いながら、旅行をしていた」
 「はい」

 「その旅の間中、スタージス氏からダラス訪問の目的が一体全体何なのかという指示はなかったのですか?」
「武器庫襲撃だと思ったのは、彼が"やつらは俺たちを厳重に取り締まっていやがる"と言ったからです。私は州境の警備隊とか、移民局の役人とか、そういった類の人のことを言っているのだと思いました」

 「だれがモーテルのチェックインをしたのですか?」
 「フランクです」

 「彼は八人全員のチェックインをしたのですか?」
 「隣続きの部屋を取ったのだと思います。彼がチェックインをしているときには、一緒にいませんでしたから。彼がチェックインしたのです。手はずは彼がやりました。だれも何も話してはいけないことになっていました。電話も駄目です」

 「だれが外出して、食料を買ってきたのですか?」
 「フランクです」

 「ダラスに着いたのは何曜日だったか、覚えていますか?週末だったのか、平日だったのか?」
 「週末の夜、日曜の夜です。そこに着くのに2日かかったのですから。それにベビーシッターが娘を預かってくれていましたから」

 「週末だったと?」
 「はい、週末です」

 「確信がありますか?」
 「はい、かなり確信があります」
 ロレンツは週末を挟んでいたことには自信があった。ただ日にちはよく覚えていなかった。

 「マイアミに戻ることが決まったとき、だれが空港まで運転してくれたのですか?」
 「フランクです」

 「航空会社は何を利用しましたか?」
 「正確には覚えていません。おそらく実名も使っていません」

 ドッドはここで再びロレンツの弁護士クリーガーがロレンツの耳元で何かささやくのを見た。クリーガーは偽名で飛行機に乗ったことを言う必要がないと注意しただけだった。しかし、ドッドは先ほどの警告を無視されたと感じ、怒鳴るように言った。

「弁護人、私は証人に質問をしているのです。あなたがそこにいる権利を尊重するのはやぶさかではないが、こうして証人に私が質問をしているのに、あなたから質問の答えをちょうだいするのはいただけませんな」
 クリーガーが反論した。「私はあなたの質問に答えるようなことはしていません」

 「そう、あなたは証人にどう答えるべきかを教えている」とドッドも負けてはいない。
 「いいえ、違います。そんなことは全くありません」

 「あなたが何を言っているか聞こえますよ。私は耳が不自由ではありませんから」
 「私は彼女に何を言うべきかなどと教えていません」

 「あなたの依頼人と話をしたいのなら、休憩しましょう。私は証人から答えを聞こうとしているのですから」
 「それは私の望むところです」

 「よろしい。それでは少し休み、休憩をとって、あなたの依頼人と話をしたいですか?」
 「あなたが正当な質問をすれば、問題は生じないのです」
筆者もクリーガーに同意見である。ドッドの質問はロレンツに対する不信感と悪意に満ちているように思える。

 ドッドは再度、反論する。「私はその質問について心配しているのです。私は証人から質問の答えを得ようとしているのであって、あなたからではない」
 「あなたは私から答えを得ることはないはずだ。私はその場所にいなかったのだから」

 「では私が証人に質問している間は黙っていてもらおう」。ドッドはそう言い放つと、クリーガーを半ば無視して、今度はロレンツに向き直り、質問した。「それであなたは、航空会社名は覚えていないのですね?」
 「覚えていません」

 「何時頃出かけたか覚えていますか?朝でしたか?」
 「昼間でした」

 「昼間の便だったのですか?」
 「はい」

 「途中、どこか止まりましたか?直行便だったのですか?ニューオーリンズには止まりましたか?」
 「直行便だったと思います。直行便です。私はどの名前を使ったか覚えていませんけど」

 「実名を使わなかったのですか?」
 「使ったとは思えません。というのもマイアミで私の名前が以前、報道されていたからです」

 「あなたの先の証言によると、マイアミを出発したとき、あなたは将軍の弁護士のせいで自分の身の上を心配していたということですが」
 「その通りです」

 「当時、あなたの子供たちの身の上も心配していたのですか?」
 「子供たちではなく、娘一人です」

 「モニカのことですか?」
 「そうです。心配していました」

 「だれか、あなたが娘をどこに預けたか知っていた人はいますか?」
 「いいえ。ベビーシッター以外は知りませんでした。将軍はベビーシッターのことを知っていましたが、そのときには将軍は国外でしたから」

 「私の質問は当面、これで終わります、議長」
 ドッドの質問が終わった。

(これまでのあらすじ)
下院ケネディ暗殺調査特別委員会で証言を続けるマリタ・ロレンツ。ケネディ暗殺事件直前に、反カストロ暗殺集団「オペレーション40」のメンバーとマイアミからダラスへ移動したことを明らかにした。リーダーのフランク・スタージスはダラスでどのような任務が待ち受けているかロレンツに明かすことはなかったが、殺人を含む「大きな仕事」をしようとしていることは明白であった。その仕事には、CIAのハワード・ハントやマフィアのジャック・ルビーも関係していた、とロレンツは証言した。

▼オズワルドの謎1
 ドッドに替わって議長の質問が始まった。議長は淡々と事実関係の確認を進めるが、オズワルドの話になった辺りから、自分たちの知っているオズワルドとロレンツの知っているオズワルドの間に微妙な違いがあることに気付く。最初はオズワルドの職業の件だ。ロレンツはオズワルドが失業中だったと主張するが、一般に知られているオズワルドはケネディ暗殺の少なくとも二週間前にはテキサス学校教科書倉庫に就職していた。

 議長がロレンツに聞いた。「今度は私が質問したいと思います。オズワルドは旅の間中、グループと一緒にいたのですか?」
 「はい」

 「フロリダからダラスまでずっと?」
 「はい」

「それで何日にダラスに着いたのですか?」
 「十六日です」と、ロレンツはダラスに向けて出発した日にちと勘違いして言った。

 「十六日?それでは、逆戻りしてみましょう。いつフロリダを発ったのですか?」
 「十六日です」

 「十六日」
 「はい」

 「それでは旅行には二日かかったわけですから、ダラスには十八日ごろ着いたのです
か?」
 「はい」

 「ではいつダラスを発ったのですか、十九日ですか?ダラスには一日、一泊滞在したの
ですか?」
 「はい、一泊です」

 「それで飛行機で戻った・・・」
 「マイアミへ戻りました」

 「マイアミへ。するとマイアミへ戻ったのは二十日ごろですか?」
 「はい」

 「そして、ニューアークへ飛んだのは二十二日ですか?」
 「はい」

 「あなたがその日付を覚えているのは、ケネディ暗殺があった日だからですね?」
 「はい」

 「そのニューアーク行きの前は、何日フロリダに滞在したのですか?」
 「二、三日です。私はただ戻って、娘をもらい受けたかっただけですから」

 「ダラスに発つ前、フロリダでは、フランク・スタージスやオズワルドといったグルー
プの人間とは、何回も会ったことがあったのですか?」
 「ダラスに向け発つ前、私は一度フランクに会いました。それからもう一度その家で。
その時に私たちは集合して出発したのです」

 「発つ前に二度、彼らに会った・・・」
 「一度はボッシュの家で。それから私はもう一度彼に会いました。そのとき、彼は出か
ける準備ができたと言ったのです」

 「出発する前は、何日間あったのですか、その最初の会合は?」
 「分かりません。出発の二週間前かしら」

 「二週間前?」
 「はい」

 「その会合にはオズワルドはいたのですか?」
 「最初の会合にはいました」

 「それからまた会ったのですか?」
 「はい」

 「出発する前のどのくらいの期間でしたか?」
 「隠れ家ででした。正確には分かりません。分からないのです」

 「オズワルドはそうした会合にはいたのですか?」
 「はい、いました」

▼オズワルドの謎2
 「ということは、推論すると、オズワルドは十一月十六日の前、二週間ばかりフロリダ
にいて、さらに十六日から二十二日まであなたたちと一緒だったということになります。
オズワルドは仕事があるとか、働かなければならないとか、言っていませんでしたか?」
 「彼は失業中でした」

 「どこかで働いていませんでしたか?」
 「彼は失業中でした。彼はわたしたちと一緒にいたのです」

 「職がなかったのですか?」
 「無職です。彼はいつでも何についても多くを語りませんでした」

 「ちょっと戻りますが、あなたは隠れ家で初めてオズワルドに会った。スタージス、パ
トリック・ヘミング、ランツ、ボッシュらもいた。そしてあなたはオペレーション40の
グループとも会ったと証言した。さらにフロリダ州の小島であなたが受けた訓練の話もし
た。そうですね?」
 「そうです」

「そのときやっていた訓練というのは、どのくらいの期間やっていたのですか?」
 「併せて六一年から一年半ぐらいです」
 「それでは、おそらくこういう風に聞いた方がいいでしょう。どのくらいの期間、オズ
ワルドは訓練・演習に参加していたのですか?彼はその場にいたのですか?」
 「私たちは訓練を受けていました。ときどき一ヶ月ほど、物資を求めてマイアミに戻らなければならなかったのです。私たちは行ったり来たりしました。私たちはエバーグレーズの小島で訓練を受けていました。彼(オズワルド)は私たちと一緒にキャンプにいるか、あるいは隠れ家にいました」

 「すると彼は一度に一カ月もいないときがあったのですね?」
 「毎日はいませんでした。私は彼を毎日は見ませんでした。時々しか見なかったのです。
フランクには百人以上の部下がいました。彼が責任者だったのです」

 「ダラスではジャック・ルビーがドアのところに現れたと言いましたね? あなたについて書かれた新聞記事には、ルビーのことは書かれていません。それなのに、この陳述書の証言ではルビーのことに言及していますね。先ほどあなたに提示された、この陳述書はいつ書かれたのですか?」
 「この陳述書はまず、完成していません。移民局のスティーブ・ズカスの指示の下で私
はそれを書きました。彼はシークレット・サービスと関係があったのです」

 「いつか書かれたのですか?」
 「昨年(77年)の六月か七月です。私は保護管理下にありました」

▼ハントの存在
 「ハワード・ハントはモーテルに現れたのですか?」
 「何ですって?」とロレンツは聞き返した。いきなりハントの話になったからだ。

 「ダラスのモーテルにあなた方がいたとき、ハワード・ハント、またの名をエドゥアル
ドがいつの時点かで、現れたのですか?」
 「いいえ。私はそこでは彼を見ませんでした」

 「全く現れなかったのですか?」
 「来ませんでした」

 「陳述書の中では、彼が現れたと書いていましたよ?」
 ロレンツはドキッとした。ハントのことを証言で明確に話すことはロレンツの身が危うくなることを意味していたからだ。何故ならハントはオペレーション40によるケネディ暗殺計画とCIAを結びつける重要人物にほかならなかったからだ。ここで本当のことを言ってもいいのだろうか。ケネディ暗殺の直前にCIA情報部員が暗殺団と打ち合わせをしていたことをばらしたらどういうことになるのか。委員会はロレンツの安全を保証してくれるのか。もしハントがケネディ暗殺の背後にいると証言したら、それこそCIAが黙っていないだろう。とっさにロレンツは、曖昧な答えをしてごまかそうとした。

「エドゥアルドがそこに来ると聞かされたのです。フランクが言っていたことを思い出せる限りにおいて、エドゥアルドがそこに来ることになっていたのです。しかし、私は見ませんでした」

 もちろんこれは正しい回答ではなかった。とっさについたウソだった。ロレンツははっ
きりとハントをダラスで見ていた。ハントはダラスのロレンツらが泊まったモーテルに来
て、報酬の入った封筒を手渡し、約一時間にわたってスタージスと話をしていた。それは、後にロレンツが書いた自伝でも明らかにされている。

 「それでは、滞在中いかなるときも、彼には会わなかったと・・・」
 「ダラスではありません」

 ダラスの件とハントを結びつけるのはまずい。ロレンツは何度も自分に言い聞かせた。

 「知っている限りでは、彼はダラスには現れなかったということですか?」と、議長は続けざまに念を押した。
 「私はフランクから彼がそこに来るだろうと聞いたのです。私はフランクを信じて・・・」
 ロレンツはたじろぐばかりだった。



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