天の王朝

天の王朝

驚異のガラパゴス(1)



ガラパゴス

特別企画「魅惑のガラパゴス諸島」(上)
◎人を恐れぬ稀少動物の宝庫
  ダーウィンを魅了した島を探索

 巨大なゾウガメ、海に潜るイグアナ、熱帯の海に生息するペンギンやオットセイー。次から次ぎへとそこでしか見られない動物や植物が目に飛び込んでくる。これが、チャールズ・ダーウィンの進化論で一躍有名になったガラパゴス諸島だ。大陸から遠く離れた絶海の孤島群で、南米の赤道直下の国・エクアドル領に属している。160年以上も前にガラパゴスを訪れたダーウィンはここで何を見、何に刺激され「種の起源」を書いたのか。そこに生息する動植物の生態を踏まえながら、“進化の生きた実験室”ともいわれるガラパゴス諸島の魅力を3回にわけて紹介する。

「1日目:サン・クリストバル」
 エクアドルの首都・キトから同国最大の商業都市・グアヤキルを経由し、飛行機で太平洋上を西に進むこと約90分。深く青い大海原が延々と続いたかと思うと、忽然と、雲の切れ目から薄い茶色がかった陸地が見えてきた。ガラパゴス諸島(メモ1参照)の東玄関となるサン・クリストバル島だ。島の人口は約4000人。飛行機は島を半周ほど旋回すると、島の南西にある空港に着陸した。空港といっても平屋の建物と少し離れたところに管制塔があるだけ。管制塔は赤味がかったオレンジ色の花を咲かせたアカシアの木に囲まれている。空港で、簡単な審査とガラパゴス入島税100(US)ドル(99年1月現在)の支払いを済ますと、バスで、港のあるプエルト・バケリーソ・モレノに向かった。港は空港からわずか5分程の近さ。この港町はガラパゴス諸島の政庁所在地でもある。そこから船に乗り、船中3泊4日のガラパゴス・ツアー(メモ2参照)が始まるのだ。

▽シーライオンが港で出迎え
 港でまず出迎えてくれるのは、シーライオン(アシカの一種)だ。船を陸から海に入れる時に使う、コンクリートでできた入水路の斜面の上で、5,6匹のシーライオンが昼寝を決め込んでいた。観光客に気付くと、時々首をもたげ、こちらをうかがうが、すぐにまた、目を閉じて寝入ってしまう。その鼻先を無数のカニが横這いになって移動していた。
 ところで、シーライオンを含むアシカの仲間の見分け方(メモ3参照)は、簡単にいえば、外側に耳のようなもの(耳介)がついているのがシーライオンやオットセイで、耳がないのがアザラシだと覚えておけばいいだろう。シーライオンとオットセイの違いは、オットセイがより厚い毛で覆われていることだ。
 シーライオンの昼寝を横目に、我々一行はモーター付きのゴムボートに乗り込み、これから4日間を過ごす「コリンシアン」という大型船に向かった。この船は、乗客48人(客室24)を乗せることができ、3人のナチュラリスト・ガイドを含む28人の乗組員が乗り込んでいる。全長約60メートル、幅12メートルで、15ノット(時速約28キロ)で航行できる。客室はトイレ、シャワー付きで、レストランやちょっとした図書館のあるラウンジのほかに、上甲板には、バーやジャクージーもある。もちろん、リクライニング・チェアーは至る所に並べてあり、昼寝、日光浴、読書などのスペースに事欠かない。結構、快適な船上生活(メモ4参照)を送ることができる。

▽潮を吹く海イグアナ
 荷物を船室に運び、船で昼食を取った後、再びゴムボートでサン・クリストバルに上陸。そこからバスに乗り、島の南に位置するロベリアという海岸を目指した。その途中、ガラパゴス・コットンという綿の木があちこちで黄色い花を咲かせていた。花の中心はやや紫がかっており、ところどころに白い綿がなっている。種は防水で水に浮くことから、海を渡ってたどり着いたとみられている。綿くずは、フィンチ(あとり科の小鳥)などの巣に使われる。
 ロベリアの浜辺では、ビーチ・モーニング・グローリーというツル植物が群生していた。多年生で茎は10メートルまで伸びる。薄い青みがかった、じょうごのような花を咲かせる。この植物の向こう側は、海辺までずっと岩場が続いており、そこにお目当ての海イグアナが何匹もひなたぼっこをしていた。なにしろ、海で泳いだり、潜ったりするイグアナというのは、世界でも、ここガラパゴスにしかいないのだ。エサとなる藻が海中にあるため、潜水の能力を身に付けた。ダーウィンの進化論の生きた証明でもある。
 海イグアナのひなたぼっこには意味がある。海で泳いだ後などで、体温が下がった体を温める必要があるからだ。近づいてよく見ると、完全に突っ伏しているものから、やや上体を起こしているものまで様々であることが分かる。これは、それぞれが自分の体温を自分に合ったようにコントロールしているからだ(メモ5参照)。
 雄の海イグアナは雌に比べて数段大きい。大きいものは体長1・5メートル近い。色は大抵は黒っぽく、少しだけ緑色や灰色が混ざっている。エスパニヨーラ島の項目で詳しく説明するが、繁殖期には色が変わる。変わり具合も島によって違うのが、面白い。
 さらに近くに寄って、海イグアナを観察していると、そのうちの一匹がいきなり潮を噴き、顔にかかりそうになった。まるで近づいて観察している我々が気にくわず唾をはいたかのようだったので、何故潮を吹くのか、ガイドに聞いてみた。そうしたら何のことはない、取り過ぎた塩分を吐き出しているのだ。海イグアナの主食は藻だが、塩分を強く含んでいる。海イグアナには、塩を排泄するための特別な分泌線が目の上のところについている。分泌線は鼻孔ともつながっており、くしゃみをするような形で分泌線から塩を吐き出しているのだ。注意して見れば、頭のところに吐き出された塩がたい積した海イグアナを見つけることができるだろう。

▽シーライオンのハーレムに潜入
 海イグアナの岩場を抜けると、入り江になったところに広い砂浜が開けてくる。実はここは“一夫多妻制”をとるシーライオンのハーレムなのだ。一匹の雄は、多い場合30匹近い雌を従えることもある。もっとも厳密にいうと、ハーレムではない。何故なら、雌は一つのコロニーから別のコロニーへと自由に移動できるからだ。
 この砂浜には、雌4匹と子供2匹のシーライオンが寝転がっていた。雄はどこにいるかというと、海の中で泳いでいるのが見えた。イグアナ同様、シーライオンも雄の方がはるかに大きい。また、雄は額がこぶのように盛り上がっている。雄のシーライオンは時折、その巨体を横向きにして、片方の前ヒレを上方に大きく上げたりしながら、悠々と泳いでいた。自分の縄張りの水域に他の雄が入ってこないよう見回っているのだ。雄は縄張りの端から端まで定期的に泳ぎ回る。そして時々、水面から顔を出して、威嚇するように吠える。こうやって領有権を主張するわけだ(メモ6参照)。
 やがて見回りを終えた雄のシーライオンが、雌が寝ている砂浜に戻ってきた。雄は雌のそばまで来て、自分が戻ってきたことをしきりに訴えているようだったが、雌たちはちょっと上体を持ち上げて、確認するだけで、再び寝込んでしまう。雄は仕方なし、雌のそばでゴロンと横になる。泳いできたばかりでぬれているので、あっという間に全身砂まみれだ。近くの雌が、雄の巨体で日陰ができたのが気にくわないみたいで、顔を改めて太陽の方に向け寝返りをうつ。やがて家族全員が眠りにつき、静かになる。30分から1時間ぐらいすると、再び雄が見回りに海に出ていく。シーライオンはこんなことを昼の間中繰り返すのだ。
 ハーレムを後にして我々一行は、船に戻った。既に7時近かった。ほどなく、夕日が同じ港に係留されているヨットの向こう、はるか遠くの水平線に沈んでいった。空には、フリゲイト・バード(グンカンドリ)が赤みがかった空を背景に、4羽、5羽と優雅に飛び回っている。こうしてガラパゴスでの第一日が過ぎていった。

「2日目:エスパニョーラ」
 コリンシアンは、まだ夜の明けぬ午前4時半に、次の目的地であるエスパニョーラに向け、サン・クリストバルの港を出港した。エスパニョーラは、サン・クリストバルから南に約50キロ離れた、現在のガラパゴス諸島の中で最も南に位置し、しかも最も古いとされる島だ。人は住んでいない。南側の崖を除けば、比較的平らな島で、真水がほとんどないため、陸上で生活する動物には厳しい環境になっている。反面、海鳥にとっては、陸上の天敵が少ない安息所で、ブービー(カツオドリ)などの巨大コロニーが展開する。

▽海イグアナがゴロゴロ
 我々一行は午前8時半、ゴムボートに乗り、浅瀬の岩を避けながら、島の西にあるプンタ・スアレスの岩場から上陸した。上陸してすぐ驚かされるのは、海イグアナが足下にゴロゴロしていること。中途半端な数ではない。注意して歩かないと踏んでしまいそうだ。ここの海イグアナは、他の島のとは異なる。サイズが他より大きい上、赤や水色が混ざった鮮やかな色をしているからだ(メモ7参照)。
 岩場と岩場の間には砂浜があり、そこは言わずと知れたシーライオンのハーレムだ。ここでも、雌のシーライオン5,6匹が朝から昼寝。岩の日陰になったところには、ファー・シール(オットセイ)も寝転がっている。子供のシーライオンだけは、海の中で水しぶきを上げながら、元気にはしゃぎ回っている。
 この島では、ラーバ・リザード(溶岩トカゲ)とモッキングバード(マネシツグミ)も、観光客の目の前に頻繁に現れる“常連”の仲間入り。
 この島のラーバ・リザードは、ガラパゴスで一番大きく、30センチ位まで成長する。比較的短くて太い尻尾を持つのも特徴の一つだ。雌は顎から腹にかけて赤く、雄は黒や緑の斑点がある。海イグアナのいる岩場で、日光浴をしている場合もあれば、虫などを追って溶岩から溶岩へと走り回っていることもある(メモ8参照)。
 ガラパゴスのモッキングバードは、北米産のモッキングバードと違い、他の鳥のまねをして鳴くことはない。ただ、いろいろな鳴き方はする。大抵は甲高い。4種類いて、エスパニョーラのはフード・モッキングバードと呼ばれる(メモ9参照)。非常に人なつっこく、すぐ足下に来たり、リュックサックにとまったりする。といっても人間が好きなのではなく、食べ物を探しているだけだ。特に真水が少ないことから、水を求めて海イグアナやシーライオンの背中に乗ったりもする。
 シーライオンのハーレムでは、真っ赤な甲羅に水色の混ざった色鮮やかなカニ、サリー・ライトフット・クラブ(またの名を溶岩赤ガニ)も観察できた。ライトフットは軽い足取りの意味で、水面を軽やかにスキップすることから名付けられた。動いているものには警戒するが、寝ている海イグアナなど動かないものの上なら平気で歩く。休息を邪魔されたりすれば、時々、水鉄砲のように水を飛ばしたりする。このほか、水辺の岩にはイエロー・ウォーブラー(黄色ナキドリ)がエサとなる羽虫を追って岩の回りをせわしく飛び回っていた。

▽雛を間近に観察
 砂浜を離れ、さらに島の奥に向かって進むと、ブービー(カツオドリ)のコロニーに行き当たる(メモ10参照)。最初は、マスクト・ブービー(白カツオドリ)のコロニーだ。岩のゴロゴロした崖の上にある。ブービーの中で一番大きく、羽を広げると1・5メートルに達する。翼の一部が黒っぽい茶色である以外はほぼ真っ白。くちばしは黄色がかったオレンジで、目のところは黒いマスクをしたようになっている。
 観光客が通る道から1メートルも離れていない岩と茂みの間に、一羽の雛にエサをやるマスクト・ブービーのつがいを見つけた。雛は綿のようなフワフワした白いクリーム色の毛にまとわれている。しきりに親にエサをねだっているようだ。
 一見微笑ましい光景だが、その裏には、やはり厳しい生存競争がある。マスクト・ブービーは卵を二個生み、大抵は二個ともふ化するが、どちらか一方だけが、生き残れるのだ。兄弟愛など存在しない、厳しい掟ー。相手をやつけないと、自分が巣から追い出されてしまう。巣から追い出された雛は、飢えで死ぬか、夜の寒さで死ぬか、あるいは天敵にやられるか、のいずれかで、生存の望みは絶たれる。その代わり、残った雛は暖かい巣で、親鳥の愛情(つまりエサのこと)を独り占めできるのだ。卵を2個も生む必要はないではないか、と思ってしまうが、自然の摂理で、2個生んだ方が、雛が育つ確率が高くなるのも事実。余計に生む一個は親鳥にとっては保険のようなものだ。ただ、親には2羽を育てるだけの余裕はない。

▽天に向き歌うブービー
 次に現れたのは、ブルーフッテド・ブービー(青足カツオドリ)のコロニーだ。岩のゴツゴツした平地にある。この鳥は、名前の通り、足が青い。この青さは、くすんだ灰色の岩ばかりが続く風景の中でひと際目立つ。雌は雄よりも大きく、かつ瞳が大きい。それでも分からないときは、鳴き声を聞けばすぐ分かる。雄は、「ヒュー」と口笛のような声を長く出すのに対して、雌は鼻にかかった警笛のような声を出すからだ。求愛の時には、空にくちばしを向け、お互い掛け合うように歌い出す(メモ11参照)。
 道端で卵を暖めているブルーフッテドにも出くわした。この鳥は、1-3個の卵を地べたに産み付け、夫婦で40日にわたり温める。ただ、いっぺんに3個の卵を生むのでなく、3-5日の時間差がある。このためふ化する日もそれぞれ違ってくる。時期がよければ、3羽とも巣立ちができるまですくすく育つが、厳しい環境のときは、最初に生まれた雛だけが育つことが多い。親はより大きな雛に最初にエサをやるからだ。エサが少なければ、後から生まれた小さな雛はエサがもらえず、飢え死にする。それでも1羽だけはエサが少ない時期でも生き延びるわけで、3羽とも死ぬよりはましだ。

▽イグアナがクネクネと泳ぐ
 ブルーフッテドのコロニーを抜けると、高さ30-50メートルの見晴らしのいい崖の上に出る。崖は島の南側に位置し、東西につづら折りのように伸びている。断層によってできた崖で、場所によっては高さ100メートルを超す所もある。
 この崖の上から、いろいろなものを見ることができた。まず、海岸の岩の割れ目から潮が吹き上がるブローホール。沖の方から大きな波が来ると、波は岩の下に入り込み、唯一の出口である裂け目から上方に向かって吹き出るのだ。最大で30メートルも吹き上がる。海イグアナなどが吹き飛ばされることもあるという。
 次に、やや遠くの外海で泳ぐシーライオン3匹を見つけた。岩のそばで魚を追っているのか、時々波間から姿を消す。波はかなりうねり、岩に当たって砕け散っているが、シーライオンにはそれほど大変なことではないのだろう。さらに目を崖の真下に向けると、岩に囲まれた大きなプールのようになった場所が見えた。そこで泳いでいる魚も見える。その時、岩陰からすーと、水に飛び込んだ生き物が見えた。あの海イグアナだ。海イグアナは、クネクネと体を左右に振りながら泳ぐ。米国版の映画「ゴジラ」を見た人なら「ああ、あのゴジラの泳ぎ方か」と、分かるはずだ。通常、1-5メートルの深さの海中で5-10分ぐらい潜り、エサの藻を食べる。時々、10メートルの深さまで潜ることもある。
 崖から離れてすぐの所に、有名なアルバトロス(アホウドリ)のコロニーもある。ウェイヴドゥ・アルバトロスという、ごく一部の例外を除き、エスパニョーラにしか住まないという珍種だ。1万2000ものつがいがここに住んでいる。しかし、残念ながら、我々が訪れた1月は、ちょうどコロニーを留守にする時期で、見ることができなかった。通常、1月から3月までは、フンボルト海流が流れる冷たい水域を求めて、ペルーやエクアドル沖をふらついている。早いものは3月末にはこの島に戻ってきて、12月まで滞在、コロニーはアルバトロス一色になる、という。
 次回はエスパニョーラ島の後半と、スノーケリングで見たガラパゴスの海の世界、フロレアーナ島にまつわるミステリーなどを紹介する。

(メモ1=ガラパゴスの概要)
▽ゾウガメの甲羅が由来
 13の大きな島(面積10平方キロ以上)と、6つの比較的小さな島、それに40以上もの小島からなる。赤道直下、エクアドルの海岸から西に960キロの太平洋上に浮かぶ。約7-9百万年前に海底から隆起し誕生したとみられており、フェルナンディーナやイザベラといった比較的新しい西の方の島では、今でも火山活動が活発だ。ガラパゴスの名前は、スペイン語で鞍の意味のガラパーゴに由来する。ゾウガメの甲羅が馬の鞍のような形をしていることにちなんだのだ。

▽気候
 赤道直下にありながら、ガラパゴスは暑くもなければ、湿気もない。南極からの冷たいフンボルト海流の影響で、大気が冷やされているからだ。1月から5月までの比較的暑いときでも、日中の平均気温は27度。8月には平均最高気温は22度まで下がる。海水の温度は20度前後。3月を中心に雨期があるが、短い。浸透性の高い溶岩質の土壌はすぐ乾いてしまう。低地は非常に乾燥しているが、高地は霧などの水分で幾分湿っている。高地と低地の間は、多くて7つの植物帯に分けることができる。

▽交通
 グアヤキルなどの港から船で行くこともできるが、片道だけで3,4日かかり時間の無駄に終わるだろう。そのため、ほとんどの旅行客は飛行機でガラパゴスに向かう。飛行場は、サン・クリストバルと、サンタ・クルースに隣接するバルトラの2カ所。バルトラに降りた場合、そこから直接ボートでピックアップしてくれるツアーと、フェリーとバスを乗り継ぎ、サンタ・クルースの港町プエルト・アヨラまで行き、そこからボートに乗るツアーの2種類がある。

▽歴史
 インカ帝国時代にペルー北方から来た船乗りがガラパゴス諸島を訪れていたとみられる記述が残っているが、公式には、1535年にスペインの司教、フレイ・トマスが発見した。トマスは、紛争調停者としてパナマからペルーに船で向かう途中、海流に流され、現在のガラパゴス諸島に漂着した。1570年には「ゾウガメの島」「魔法にかけられた島」などとして世界地図にも登場。その後、海賊の隠れ場所や捕鯨船の基地として使われた。
 1832年、エクアドルが公式に領有権を宣言。チャールズ・ダーウィンが1835年にこの地を訪れ、後に「種の起源」を出版。しかし、その頃、クジラやオットセイの乱獲に加え、食用として大量にゾウガメを捕獲したことや、船乗りが犬や山羊を島に持ち込んだことから、いくつかの種類は絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕した。多くの科学者がガラパゴスの動植物の研究に乗り出し、1934年には、ガラパゴスの動物を保護する最初の法律が成立。政府は1959年、ガラパゴス諸島全体を国立公園に指定。1978年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産と認められた。

(メモ2=ガラパゴス・ツアー)
 ガラパゴス・ツアーには、陸を基地にするツアーと船を基地にするツアーの2通りあるが、大抵の観光客は船を基地にするクルーズを選ぶ。その方が、寝ている間に次の島へと移動できるなど効率的だからだ。ただ、船は停泊していても結構揺れるので、船酔いが激しい人はどこか一つの島に留まって、じっくり島を見物するのもいいかもしれない。ただ、サン・クリストバルやサンタ・クルース、イサベラには宿泊施設があるが、宿泊施設のない島がほとんどで、いろいろな島を見るには、船で行くしかない。
 クルーズには、4日間の一番短いコースから、2週間に及ぶコースまで様々。船も小さなヨットから大型船まで好みに応じて選ぶことができる。料金は、安いツアーが一週間600ドル前後で、高いツアーは同1000ー2000ドル。一般的にいって、安いツアーは、船足が遅く、混んでいる場合が多い。

(メモ3=アシカ類の見分け方)
 アシカの仲間には、トド、アシカ、オットセイ、アザラシなどいくつかの種類がある。その中でトドが最大で、雄は体長3・5メートル、雌は2.5メートル程度に成長する。英語では、ステラーズ・シーライオン。ガラパゴスのシーライオンは、トドよりずっと小さい。カリフォルニア・シーライオン(いわゆるアシカ)の亜種に当たるが、そのカリフォルニア・シーライオンよりも小さい。体長は雄で2メートル前後、雌で1-1.5メートル程度だ。次にオットセイは、全身ビロード状の黒褐色の毛で覆われているのが特徴。英語ではファー・シール。ガラパゴスのファー・シールは、熱帯の海にいる唯一のオットセイで、南半球では最も小さい。他のオットセイのように海中にいる時間が長くないのが特徴。アザラシは、いわゆる英語で一般にいうシールで、シーライオンやファー・シールと違って、外耳(耳殻)がない。また、シーライオンやファー・シールが前ヒレが発達し、陸では上半身を支える力を持っているのに対し、オットセイは後ろのヒレが推進力の役割を果たし、陸では前ヒレがあまり推進力としては役に立たないという違いもある。この点からも、ファー・シールはシールというより、むしろシーライオンに近いのだ。

▽熊の頭に似たオットセイ
 ガラパゴスでは、シーライオンとファー・シールはほぼ同数(シーライオンが推計1万5000ー5万頭、ファー・シールが同3万ー4万頭)いるとされているが、一般の観光客の目に触れるのは、シーライオンの方がはるかに多い。これは、ファー・シールが、暑さを避け、観光客が行きづらいような険しい岩場や崖の岩陰に隠れている場合が多いからだ。ファー・シールの毛皮は、毛皮商人の格好の標的になり、1800年代には乱獲され、一時は絶滅の危機に瀕したこともある。毛の濃さ以外の区別は、ファー・シールの方が全体的にやや小さめで、顔が広く、短い上、鼻もやや尖っている。ファー・シールの頭部は、よく見ると、熊に似ているということで、分類学上の名前は、アルクト(熊)ーセファルス(頭)と呼ばれる。

(メモ4=船上生活)
 船上生活での朝は早い(少なくとも私にとっては)。7時には船内放送で全員が起こされ、7時半には、朝食だ。7時といっても、実際はガラパゴス時間の6時。ちょうど太陽が昇り始めるころだ。日の光を最大限有効に利用するため、わざと船の上では、1時間進んでいるエクアドル本土の時間を採用している。食事は、3食ともすべて船内でとり、夕食以外はビュフェ形式。デザートは、パパイヤやパッション・フルーツなどの果物。コリンシアンの場合、食事の質はなかなかよかった。ラウンジには、常にコーヒーや紅茶が用意されている。
 朝食の後、8時15分にはゴムボートに乗って、島に上陸。正午ごろ再び船に戻り、12時半から昼食。その後、スペインのようにシエスタが始まる。上甲板でシーライオンのように昼寝をすることもできるし、ぼんやりグンカンドリが飛び交う青い空見ていることもできる。その間に船は次の目的地に移動するはずだ。3時に次のポイントに上陸。6時には船に戻り、7時半から夕食が始まる。夕食が終わる8時半頃、翌日のスケジュールのブリーフィングがあり、9時からは上甲板でバーがオープンする。

(メモ5=海イグアナの体温)
 海イグアナも、他のヘビやトカゲといったは虫類と同様、変温動物であるため、いろいろな行動をとり、自分の体温をコントロールする必要がある。まず日の出とともに、伏して腹這いになる。よりたくさんの光線を体に当てることで体温を高めるためだ。体温が35・5度に達すると、今度は加熱しすぎることを避け、頭を太陽に向け上体をやや起こしたポーズをとる。そうすれば風通しがよくなるわけだ。海イグアナを含むは虫類は汗をかかないが、海イグアナの体温が40度に達した場合、あえぎ出すことが知られている。
 さて、十分に体温が高まったら、いよいよ動き回ったり、泳いだりする番だ。海で泳いだ後の体温は実に、10度近く下がる。そのため、泳いだらすぐに、腹這いになり、太陽光線をできるだけ浴びる体勢をとる。前後の足を思いっきり広げ、ペシャンコになった海イグアナはなんだか滑稽に見える。しかし、彼らにとっては体温を上げようと必死なのだ。また、酸欠状態からも脱しなければならない。
 日が暮れると、今度はなるべく多くが集まって、重なり合い、暖を取ろうとする。群れないものもいるが、そういう海イグアナでも、岩の裂け目や植物の下に身を寄せ、体温をできるだけ保とうとするはずだ。

(メモ6=シーライオンの縄張り争い)
 雄同士の領土争いは頻繁に起こる。お互い、上半身を持ち上げて対決の姿勢を取ったり、吠えたりすることで相手を威嚇する。それでも引き下がらないときは、押し合いをしたり、首をかんだりするなどエスカレート。陸上で首から血が出るほどのけんかになることや、水の中で水しぶきを上げながら壮絶な戦いをすることもある。負けた方は、勝った雄に追い立てられ、すごすごと退散する。

▽敗者復活戦も可能
 縄張り争いは激しく、雄のすべてがハーレムを持てるわけではない。勝負の世界は厳しく、負けた雄は雌にも近づけないのだ。こうしてあぶれた雄というのは、時としてあぶれたもの同士でコロニーをつくることがある。いわゆる“独身男性”のコロニーだ。しかし、そうしたコロニーは岩だらけのあまり居心地の良さそうでないところとか、崖の上などが多い。そんな雄シーライオンでも名誉挽回のチャンスは来る。ハーレムの雄が領土を守っている間は、食事をすることもままならないからだ。つまり、ハーレムのボスも、やがては縄張り争いに疲れたり、弱ったりする。そうなれば、若くて力のある次の雄に領土を引き渡さねばならなくなる。一匹の雄によるハーレムの支配は短くて2ー3日、長くても3ヶ月。やがて敗者復活戦に勝てば、晴れてハーレムの長になれるのだ。

(メモ7=海イグアナの色)
 繁殖期になると、雄の色はより鮮やかになる。普段は灰色や緑が混ざった黒っぽい色の雄の皮膚は、赤、オレンジ、緑などの斑点が目立つようになる。同時に自分の縄張りを守ろうと攻撃的になる。雄は、自分の姿が大きく見えるように、自分の縄張りの一番高い所に陣取る。時々、頭を上下に激しく揺すり、威嚇するよな仕草もとる。実際に雄同士で縄張り争いをするときは、頭突きや押し合いをして相手を負かそうとする。しかし、繁殖期が終わると、色も元に戻り、攻撃的な行動は収まる。

(メモ8=ラーバ・リザードの一日)
 海イグアナと同様、夜明けとともに日の当たる岩場で体温を上げる。十分暖まったら、活動開始。昼頃、気温が上昇すると、今度は日陰で一休み。日中、岩や砂の温度が暑くなりすぎると、つま先を地面から離して、熱を遮断しようとするリザードの姿が見られるはずだ。その後涼しくなると、活動を再開。夜は、葉の陰にかくれたり、砂の隙間などに身を寄せ、暖をとる。ガ、ハエ、バッタなどを食べる。逆にタカ、ヘビ、モッキングバードなどの餌食になる。

(メモ9=モッキングバードの縄張り争い)
 ガラパゴスのモッキングバードは、エスパニョーラとその周辺のフード・モッキングバード、フロレアーナ周辺に住むチャールズ・モッキングバードなど4種類いる。そのうちエスパニョーラのフード・モッキングバードは、変わった縄張り争いをする。繁殖期には、つがいとその子供が自分たちの領域を守るだけだが、繁殖期以外は、40羽近いモッキングバードが共同体を形成し、より広い領域を守る。その領域と領域の目に見えない国境線の辺りでは、よくお互いのグループ同士が集まり、前線基地をつくり、にらみ合うことがある。お互いキーキー鳴き合ったり、尻尾を振って威嚇したりする。実際に血気盛んな若ドリが敵陣地に切れ込み、攻撃を仕掛け、戦争になる場合もある、という。

(メモ10=ブービーの種類)
 ガラパゴスには、3種類のブービーが生息する。ブルーフッテド、マスクト(ホワイト)、それに赤い足のレッドフッテド・ブービだ。唯一レッドフッテドだけが、木や茂みに巣をつくる。ほかの2種類は地面に巣をつくる。レッドフッテドは、他の2種類より小さく、数も多い。観光客の目に触れることがずっと少ないのは、ガラパゴス諸島の辺境の地にコロニーがあるため。ただし、ゲノベサ島まで行けば、見ることができる。ブービー(間抜け)の名前の由来は明らかではないが、簡単に捕まえることができるので間抜けに見えるからだ、と一般に言われている。

(メモ11=ブルーフッテド・ブービーの求愛行動)
 求愛の仕方は変わっていて面白い。まず、雄が場所を選び、くちばしを空に向けるポーズ(スカイ・ポインティング)をとる。時折、ヒューと鳴き、雌にアピールする。雄が雌を射止めることに成功すると、カップルは、仲良く並んで、よちよちと行進する。特に雄は尻尾をピンと立てて、片方の足を交互に上げながら、おどけたように歩く。行進している間、カップルは交互に知らんぷりをするようなポーズをとる。さらに求愛が進むと、空を向くスカイ・ポインティングを交互にするようになる。枝や石をくわえ、それを架空の巣に置く仕草や、枝をくわえながらくちばしをお互いが触れるような仕草もする。これらの“儀式”は皆、カップルの絆を強める効果があるのだ、という。

(参考文献)
Boyce, Barry. A Traveler's Guide to the Galapagos Island, Galapagos Travel, 1990
Jackson, Michael H. Galapagos: A Natural History, University of Calgary Press, 1993
Rachowiecki, Rob. Ecuador & the Galapagos Islands, Lonely Planet Publications, 1997
Stephenson, Marylee. The Galapagos Island, the Mountaineers, 1989


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