令021226
カラマーゾフの兄弟 2 (光文社古典新訳文庫、平成18年刊) F. M. Dostoyevsky 著、亀山郁夫 訳
(2部第5篇「プロとコントラ」でイワンが語る大審問官、そして第6篇「ロシアの修道僧」のゾシマ長老の青年一代記は、それだけ独立しても諷刺の絶品たり、人間性の実験たりえて、古典文学の秀作だ。イリューシャの父・スネギリョフ大尉の、願いと尊厳のせめぎあいの瞬間も、心に刺さる。まことに一大文学だ。)
令021211
ミミズと土 (平凡社ライブラリー、平成6年刊) Charles Darwin 著、渡辺弘之 訳
(かのダーウィンが長年にわたり愛情をもってミミズを観察し、逝去の1年前に出版された。有名な進化論も、このような仔細な観察眼、そして科学的な計算法のなせる業だったのだと納得できる。ミミズが物をなでまわすことで形態を把握し、運び方を判断するするちからを持っていることをダーウィンは観てとる。|ちなみに進化論そのものはダーウィンの独創ではなく、19世紀の生物学において既によく知られた異端の説だった由。)
令021125
観察力を磨く 名画読解 (早川書房、平成28年刊) Amy E. Herman (エイミー・E・ハーマン)著、岡本由香子 訳
(原著名Visual Intelligence: Sharpen Your Perception, Change Your Life ものを見るときの盲点や偏り、われ知らず交える思い込み(バイアス)、それらが客観性のない判断を生む。モネやマチスやマグリットの絵も素材にして、いかにわれわれが多くのことを見過ごしているか如実に知らされる。本書を読んだあと美術館に行ってみて、作品の観方が変わったのを実感できた。|≪他人の視点に立つことで、問題解決のヒントが見つかることもある。たとえば、今抱えている問題について、物語の登場人物や有名人になりきって分析するのだ。≫ (168頁)
|「お話があるんですけど」というより「ちょっと教えていただけますか」と言ったほうが、相手は心を開く。|1.全体を捉えつつも、細部をおろそかにしない。2.複雑さを恐れない。結論を急がない。3.疑問を持つことを忘れない。||アート関連の本かと思ったら、うれしいサプライズだった。生き方そのものへの指南書だ。)
令021031
82年生まれ、キム・ジヨン (筑摩書房、平成30年刊) Cho Nam-joo 著、斎藤真理子 訳
(韓国社会と韓国人の民族性のイヤなところがぐいぐい詰め込まれていて、痛々しい。この本のどこが「癒し」につながるのだろう。ひたすら心痛く、ぼくには苦手のジャンルだ。)
令021029
トレードオフ 上質をとるか、手軽をとるか (プレジデント社、平成22年刊) Kevin Maney 著、有賀裕子 訳
(原書副題は Why Some Things Catch On, and Others Don't だが、和訳本副題のほうが本書の本質を伝えている。折しも大塚家具の大塚久美子社長が引責辞任することとなったが、大塚家具の失敗もけっきょく「上質」と「手軽」のあいだでどっちつかずになって、業容をまかなうだけの顧客数を得られなくなったのが原因だ。2009年刊の原著だが、あまり古びてないのは経営の本質をついているからだろう。1990年代にゼネラル・マジックというブラウザ先駆者が一世を風靡したものの、あまりに時代を先取りしすぎていて崩壊。そんな企業もあったんだね。ティファニーが一時期、マスマーケットに媚びて売上高を上げたものの企業価値を下げてしまい方向を戻したという実例がわかりやすい。その一方、COACH はマスマーケットに埋没してしまった。セグウェイが不毛地帯から抜け出せないことも予見している。紙の新聞は若い世代をあきらめ、50代以上の読者に特化せよと。|上質さと手軽さのどちらでライバルを打ち負かせるか。小品やサービスを小さく生むと小回りがきくため、テクノロジーの進歩や競合他社の動きに対応しやすい。上質とは愛されることであり、手軽とは必要とされることである。愛されるか必要とされるか、このどちらかの基準を満たさないかぎり、ビジネスは繁栄しない。輝かしい成功を収める人というのはたいてい、何かの分野をきわめている。)
令021025
The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか (日本経済新聞出版、令和2年刊) David Robson 著、土方奈美 訳
(脳科学の衣をまとった経営論の書。≪インテリジェンス・トラップは、自らの予想を超えたところに何があるのか、思いをめぐらせる能力の欠如から生まれることが多い。≫ 世界を別の視点から眺めて、自分が正しいと思った判断がじつは誤りだったという世界を想定してみることができるかできないかだ。高い専門性を養って効率よく直感的判断を下すとき、そこに直感ゆえのバイアスが混じることに気づかない。そして、自らの立場と矛盾する証拠を否定するために優れた知性を浪費してしまう。|学習時間の分散化は集中化にまさる。その理由は、学習時間をコマ切れにすると「いったん忘れて学習しなおす」ことが頻繁に起こり、結果的に長期記憶が促される。問題集を解く意味は、答えを思い出そうとする努力の時間を自分に与えることにより記憶を鍛えること。)
令020828
耳が喜ぶスペイン語 リスニング体得トレーニング (三修社、平成31年刊) Julio Villoria Aparicio 著
(多読教材として好適。多言語でも出してほしい。いっぽう「口が覚えるスペイン語」という単文主体の姉妹篇もある由。)
令020826
ネイティブに伝わる「シンプル英作文」 (ちくまプリマー新書、平成25年刊) David Thayne・森田 修 著
(デイビッド・セイン本のエッセンスをまとめた本。取っつきやすいので、基礎固めの教材として銀座gym の受講生にもすすめている。)
令020822
美術館って、おもしろい! (河出書房新社、令和2年刊) Ondrej Chrobak ほか著、阿部健一ほか訳
(原題「ギャラリーはどのようにしてできあがるか Jak se dela galerie」。美術館という公的空間が、じつは近世になってようやく出現したものであること、あらためて気づかされた。1911年のモナ・リザ盗難は、有名な絵画を祖国に帰したかったイタリア人塗装業者で、盗難の2年後にウフィーツィの館長に売却を打診して、逮捕!)
令020812
ルトワックの日本改造論 (飛鳥新社、令和元年刊) Edward N. Luttwak 著、奥山真司 訳
(知見と冷徹を兼ね備えた著者へのインタビュー集。国際政治論はこのひとの大脳から枝を広げよ。|非核化された統一朝鮮は米軍が駐留せぬかぎり中国に取り込まれる公算高しと。中東やアフリカの些事に目を奪われていた米軍ロビーは、今や中国に集中し始めている。米国人は蹴られても悪口を言われても我慢できるところはするが、嘘をつかれたり約束を破られることは許せない。日本に空母は不要で、代わりに必要なのは中古の超大型ハイテクジャンボ機を改造して空対艦ミサイルや空対地ミサイルを積みミサイル航空機にしてしまうこと。韓国は、自由で開かれたインド太平洋戦略の反中同盟に参加せず中国側につくことは確実と。核抑止力は、分別のある者に対してだけ働くが、北朝鮮はそういう相手ではないと。)
令020621
読まずにいられぬ名短篇 (ちくま文庫、平成26年刊) 北村 薫・宮部みゆき 編
(全篇、文句なしの珠玉ぞろい。高い評判だけ聞いていた松本清張の「張込み」と、それを時代劇に仕立てた倉本聰の「武州糸くり唄」。中村敦のパラオ篇たる「南島譚」の2篇。人間の意外な脆弱さをあぶりだした Henry Slesar の The Day of the Execution など。山本周五郎の「その木戸を通って」の味わい深さと品のよさ。|あと、未読の名短篇シリーズは、「教えたくなる」「とっておき」「ほりだしもの」とある。)
令020711
How to Learn Any Language in A Few Months While Enjoying Yourself 45 Proven Tips for Language Learners (自費出版) Nate Nicholson 著
(ネットを駆使して Day 1 からネイティブと会話せよと説くが、1日2時間の学習を毎日続けろ 時間は作れる、としっかり書いてある。ポーランド語で次の踏み出しに若干躊躇しているぼくには、ちょっと痛い指摘でもある。)
令020708
21 Lessons for the 21st Century (Jonathan Cape, Penguin Random House 平成30年刊) Yuval Noah Harari 著
(各章の考察は例示に富み説得力あり。「自由意志」への懐疑すら然り。宗教、わけても一神教がいかに人類を誤り導いてきたことか。著者の唱道する、あるべき secularism に共鳴する。)
令020518 A Series of Unfortunate Events
The Bad Beginning (Egmont UK Limited 平成11年刊) Lemony Snicket 著、Brett Helquist 画
(全13巻のうちの第1巻。英米独特の都市のダークさ。なるほどとことん不運つづきなのに、絶妙にかすかな光を差し込ませる力量。読者の心理を存分に計算しつくしている。残りの12巻、読みたくないでもないが、読むならそろそろようやく Harry Potter だろう。)
令020514
Fly Already (Granta Publications, London 令和元年刊) Etgar Keret 著、Sondra Silverston et al. 訳
(Etgar Keret のストーリーを読んでいると、次元のちがう人生を歩ける気がしてくる。)
令020504
英文法の鬼100則 英文が表す「気持ち」を捉える (明日香出版社、令和元年刊) 時吉秀弥 (ときよし・ひでや)
著 (英文法を暗記科目にしがちな日本の英語教育へのアンチテーゼとして、個々の言語現象にはそれぞれきちんとした理由があると説く。学びとは何か、何のために学ぶのかという問いがつねに原点にある。切り口よし。|現在形は「いつもそうだ」形、過去形は「今は違うんだよ」形(64頁)・ 進行形は「未完了形」(81頁)・ 「動作動詞」の定義:「動作の<始め、途中、終わり>という3つの相を持ち、動作を行うことによって「変化」が起きる動詞(96頁)・ 進行形は「一時的な状態」(104~107頁)・ 「驚く」「退屈する」は、自分から自主的に持つことができず、外的な原因がないと成立しない感情。ゆえにヨーロッパ語の感覚から言えば、原因があなたを「~させる」となる(152~155頁)【ただし I was panicking. を誤りと言ったは勇み足(155頁)。panic は自・他ともにあり】・ 「仮定法現在」の説明よし(212~215頁)・ × John is tough to be pleased. 〇 John is tough to please. を tough構文と名付けて説明(186~189頁)・助動詞の「力の用法」「判断の用法」(227~229頁)・ there is/are のあとに the+名詞もありうる: "We are done for today, aren't we?" "No, there is still the issue of pricing." なぜなら the issue of pricing はここでは新情報だから(311頁)・ at は「移動するさいちゅうの点を指す」(340~343頁)|| 英語を習う目標を、漠然たる「日常会話」ではなく、「プレゼンテーション+ライティング/交渉力」と措定する → まさに銀座ビジネス英語gymでやってること!! ・ 日本語の会話は「同調」を基本とするが、英語の会話は why? を基本とするから、それに対応するべく理由の列挙と深掘りで説得につなげる(408~411頁)。)
令020503
Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World ― And Why Things Are Better Than You Think (Sceptre, Hodder & Stoughton, London 平成30年刊) Hans Rosling・Ola Rosling・Anna Rosling Roennlund 著
(いまごろようやく読み終えたとは、いささか恥ずかしい。武漢肺炎禍への小役人らの対応に the Blame Instinct が刺激されていた矢先で、適切なる自戒を得た。やはり社会システムそのものに目を向けていく必要がある。この本が生まれるに至る死期ちかき Hans Rosling 氏と息子・娘の壮絶な日々を語るページにも うたれた。)
令020408
Suddenly, a Knock on the Door (Chatto & Windus, London 平成24年刊) Etgar Keret 著、 Miriam Shlesinger ほか訳
(星新一の『ノックの音がした』みたいなタイトルだ。短篇集。人間を造った God が、じつはとても不幸で、そういう自分にかたどって人間を造ったのだと、不幸を嘆くひとに告白する Pick a Colour. キャラの描き分けがもっとも鮮明なのは Surprise Party. )