WEB妄想部!

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TwiN 第4章



神に祈ったことはあるか?

その願いを叶えてもらったことは?

なら、神はどんな願いを叶えてくれると思う? どんな願いなら叶えられると思う?

答えは簡単だ。

歪小な人間の望みを崇高なる神が叶えることは決してない。

しかし、ただ一つだけ例外が有るとするならそれは生きている時の望みではなく、死んだ後の……

そして人は言う。「信ずる者は救われる!」と……


「はぁ、神器ですか?」
部屋の壁画は段々と大きくなっていた。それは絵自体が巨大化している訳ではなかった。ただ単に部屋が縮んでいる。それが原因だった。
「そうだ。それが私と颯矢の追っている代物だ。まぁ颯矢は追っていた、と言うべきかも知れんが。しかし何が目的かも知らされていないとは…やはり私の元へ来ないか?奴の下に就いているとハズレくじばかり引く羽目になるぞ」
二人は部屋の異変を気付いていないかのように振る舞う。いや、実際、部屋の変化はじっと観察していなければ気付かないほどに小さい。けれど確実に進行している。気付いたときには手遅れになってしまうだろう。気付いたところで脱出方が無ければ同じ事ではあるが……
「当たりだけのくじはつまらないですよ」
司郎は自分の為にトラップを全て粉砕した颯矢を思い起こしながら言う。
「あいつが生きている保障は無い。いや…ほぼ間違いなく死んでいるだろう」
恐らくはジョージの言う通りだが、司郎には納得が出来なかった。
「じゃあ、あの人が死んでいるのが分かったら貴方に従いますよ」
「確認する手段は無いと思うがな。仮に我々も死んだとしても奴は極楽には行けまい。あの世で確かめるのさえ不可能だ」
司郎は自分が行くのも地獄だと内心思っていた。あの世なら確認はとれる。けれど自分が死ぬ気も颯矢が死んでいる気もしなかった。
「……」
「とにかく協力してこの城から脱出した方がいいだろう。無事出ることが出来たら外で颯矢を待つ。数日起っても姿を見せなければ死んでいるとみなす」
「ちょっと待ってください! 宝を……その神器とやらを諦めて外に出るんですか?」
「そうだ。」
ジョージは決定事項だと簡潔に答える。
「貴方は宝を手にしている自分が見えるとか言っていたじゃないですか!」
「あれはハッタリだ。颯矢は私に予知能力がある事を知っているからだ。それに私には見たい未来……誰の何時の未来か特定するようなモノは見れない。更に言うなら、それは断片的にやって来て、意味の分からないうちに終了するただのヴィジョンがほとんどだ。」
「そんなのって」
「閉じ込められるのが分かっていればこんな所に入ったりはしないさ。予知能力は私の力じゃ無いんだ」
「……はい?」
「この刀さ。この刀が私にヴィジョンを見せる。それを私は使いこなせていないんだよ」
「そんな刀がある訳が」
「そう、これも神器の一つだ」
「信じられません」
「なら試してみたらいい」
そう言ってジョージは刀を差し出す。
「これに触れたら未来が見えるんですか?」
「いや、見えない。しかし君には絶対にこの刀は抜けない」
司郎は不信感を募らせながら、刀に触れた。何も影響は無い。柄を握り引っ張るがぴくりとも動かない。
「抜くのに腕力が必要なだけでしょ?」
「いや……」
ジョージは刀の鞘を持ち、下に傾ける。刀は自身の重みで滑るように刃を現した。
「そんな馬鹿な! イカサマだ!」
刀身が見えている刀をそっと置き、ジョージは手を離した。
「気が済むまで確かめたらいい」
司郎が手を伸ばし、刀に触れた瞬間、バチンと刀は音を立てて鞘に納まった。

「……!?」
司郎は絶句し、ジョージは口の端を若干歪める。天井は入って来た時に比べ、数十センチ低くなっていた。不覚にも意識を失っていた。数秒…数分…数時間?どれほど時が起っているのかは時計を見れば分かった。
颯矢は左の腕時計を無意識に確認する。壁に飲み込まれて20分も起っていない。
最後に時計を見たのが部屋に入る前だったので正確には分からないがとりあえず長い時間ではなかったようだ。颯矢は続いて首から下げた懐中時計も確認して、胸を撫で下ろす。
別に腕の時計がズレている事を疑っている訳じゃ無くそれは車の燃料を確認するのと同じような動作だった。懐中時計の針は短針のみで、今は『六』を示していた。
今、颯矢はあぐらをかいて座っている。目が覚めたときは床に横たわっていた。新たな部屋の中心に。
部屋の全体を見渡すと、天井には幾何学的な模様に切り取られた穴があり、そこから光りがさす。山中な事を考えるとそれは太陽光とは考えにくいが否定も出来ない。一辺が等しい立方体の部屋…まるでサイコロの中に閉じ込められたかのようだ。そして天井と床を繋ぐ柱が颯矢を囲むように円形に11本配置されている。床には細かいタイルのような物が隙間無く敷き詰められている。動く際に滑ったりはしなさそうだが、転んで叩き付けられたらかなり痛いだろう。つまり痛みや外傷が無い颯矢は天井から降って来た訳ではなさそうだ。とすれば他に入口があるのか?ここに運んで来た人間がいるのか?
壁面に居たのに寝相が悪くて転がって来たとは考えられなくもないが、考えたくはなかった。颯矢は立ち上がり、出入口を探す。壁に向かって歩くと、靴とタイルが静かな部屋に定期的に音を奏でる。進むに連れ、柱の間から扉が見える。その扉は四方の壁全てにあり、さっきとは逆に選択肢が生まれた。
しかし、それは同時に迷い込む危険も生んだ。いや、現在地と出口すら分かっていない颯矢は既に迷宮に捕われていると言っていい。じっとしていてもどうにもならない事を知っている颯矢は、とりあえず扉に手をかけ押してみた。そして扉が開く音が室内に響き渡り、颯矢の緊張を高めさせた。
音を発し開いた扉は颯矢が押した正反対の扉だった。二枚組の扉は中心から割れ、内側に開いていた。その向こうには、ほとんどこちら側と変わらぬ部屋と修道服を着た女性が立っていた。
「……」
颯矢は口を閉ざし、相手の出方をうかがう。
修道服の女はタイルを鳴らしながら歩いてくる。靴は無地の黒で紺地に白い紋様の修道服に、頭まですっぽり覆われ、顔だけが切り取ったかのようにそこにあった。肌はうっすらと黒さを持っていた。黄色人種が肌をこんがり小麦色に焼いたような健康的な色。この国ではその肌の色は異質で異国の血を感じさせる。
しかし、颯矢にとって、そんな事はどうでもよかった。いま重要なのは相手に敵意があるか無いかだった。こちらが敵意を剥き出しにすればどんな相手でも反感を持つ。それでも持たないのは……敵意を持っていなように見せるのは相手を油断させようとしている敵くらいのものだ。
敵でない者まで敵にする愚は大好きだが、流石にシスターに喧嘩を売る度胸は無いのか、颯矢は殺気だけは内に押し止めた。靴がタイルを叩く音が止む。
「どちら様ですか?」
颯矢が想像していたよりも明るく澄んだ声が室内に響いた。颯矢はそれを聞きシスターに近づいた。扉の前で戦闘になれば下手すると逃げ場が無いし重そうな扉を開く隙が出来るとも思えない。柱を盾にする考えもあったが、相手が飛び道具を使ったら盾は便利でもこちらに攻撃手段が無い。女性は力が無い分飛び道具を多用する傾向がある。などと考え、間合いを詰める。そして恭しく頭を垂れて一礼をした。
「こんちはシスター」
「……こんにちは。どちら様ですか?」
自らの問いに答えではなく挨拶が返って来たので、シスターは再度問い質す。
「神凪颯矢。貴女は?」
「クレア。……何の用でここに?」
シスタークレアは少し苛立ちを覚えるが顔には出さずに接する。そして付け加える。
「此処は赦された人間以外入ってはいけない場所です。すぐに出てってください」
「出口もわからんし、何より出る気は無いんだわ。ここまで来た人間は初めてか? シスタークレア? 俺はトレジャーハンター。平たく言ったら……強盗だ」
あまり表情を変えずに、颯矢は自身の意思と目的を口にする。コンビニの店員に拳銃を突き付けているような、殺気と危うさが歯止めを失って外に出た。敵意を丸出しにし、邪魔になるなら殺すことさえ考えている。
「出来ればお宝の所に案内してくれないか?」
「なら強盗さん。一つお願いがあるんだけど」
「……死んでくれってのと宝を諦めろっての以外なら努力するよ」
「わたしを此処から……この城から連れ出してください」
「……」
「……宝の場所と出口までの道を教えてくれるのなら喜んで」
予想に反した願いだったが颯矢は深く考えずただ承諾した。

部屋は一回り狭くなっていた。これで気付いていなければ明らかにおかしい。
「その刀が凄いのは充分に解りましたよ。それで…結局のところ神器って何ですか?」
それでも司郎とジョージは会話を続けていた。
「一言で説明することは出来ないが、その名の通り神の器。曰く、神が形を持った物。曰く、神がこの世に降臨する際の依代。曰く、古代文明の遺産。等々、何が本当かは分からないと言っていいだろう。しかしそのメカニズムは大体分かっている。と言われている」
ジョージは曖昧な言葉や断定しない発言を繰り返す。
「……」
司郎は無言でそれを聞く。
「神……というのはどういうモノか分かるか?」
「絶対的で神聖なモノですかね」
「違うな。神とは崇められる対象の事だ。それ以外の定義は様々だし、今はどうでもいい事だ。人は弱い。だから絶対的な真理や神というモノを信じ敬い崇める。絶対的なモノに従えば間違いを犯さないし死後も安らかでいられると信じることが出来る」
ジョージは回りくどい言い回しを使いながら続けた。
「そして人は神を求め、必然的に神が生まれた。抽象的な絶対存在を作り出したと言ってもいいかもしれん。人はソレに祈りを捧げた。時には頭の中や心の中の存在でなく、実在の像や法具に」
「それが」
「そう、神器になりうるモノだ。想いの力や願の力は実際、絶大なマナを秘めている。それを無条件で幾万幾億の人間がソレ一つに譲渡する訳だから特別な力を持っても何ら不思議は無いのだ」
「これは私の持論だが、神などというものはまやかしに過ぎない」
「それでも、例えまやかしだとしても人は神様を信じずにはいられないって事ですか……」
ジョージの話を聞き終わった司郎は誰にでもなく言う。人間が二人と犬が一匹の居るその部屋は、並んで寝るのが精一杯な広さになっていた。八ツ首の竜が口を開き、今にも二人と一匹を飲み込もうとしていた。

綺麗に敷き詰められたタイルを靴が鳴らす。二人分の音が室内にこだまする。軽く弾くような音と静かに踏み締める音。軽い音にの後に静かな音が続く。その音に混じって会話が聞こえる。
「わたし、幼い頃は街で育ったの。お母さんと二人で暮らしてた。お父さんはこの国の人じゃないんだって。それで肌の色が違っちゃったのかな? それで何年か前にこのお城に預けられて……なんでかな、それからずっとここに居るの。お母さん迎えに来てくれないし、わたし捨てられちゃったのかな?」
「……そう思ってんの?」
「思いたくないけど、思わずにはいられないよ。巫女って人が死んじゃってその継ぎ目に私がなったの。教会の人とかがたまに来るけど、それだけ。仲良くなったりはしなかった。その人とか参拝する人達の貢ぎ物とかで食べてはいけるけど……ここに来てから一度も外に出たことなんか無い。外に出たら巫女は死んじゃうんだってさ神様が天罰を下して……」
「連れ出したら死ぬ? 死を覚悟して出たいって言ったのかよ?」
「死んじゃったらお城から出られても意味無いよ。巫女が城から出る方法が一つだけあるの」
「……」
「ここに収められている聖剣を抜いて神の象徴である宝玉を切り裂くの」
「聖剣? 宝玉?」
「貴方が欲しているのが宝玉でないことを祈りたいけれど……」
「お目当ては聖剣だ。玉はどうでもいい」
「そう……良かった。私にはそれを抜くことは出来ないし、神様に刃を向けたら殺されるかもしれない」
「いいさ。面白そうだ。やるよ」
「ありがとう。この次の部屋に聖剣があるの」
「あ、そうだ。出来れば俺の連れを二人ついでに助けたいんだが? 壁画の部屋に閉じ込められててさ」
「任せて。あの部屋に出入りする鍵は私が持ってるから。着いたわ。この部屋よ」
同じ造りの部屋を2、3越え辿り着いた部屋の扉をクレアは両手で押し開ける。相当な重量がありそうな扉を女性の細腕が軽々と移動させ、人が二人通れる隙間を作り、二人が扉をくぐるとそれはけたたましい音を立て閉じた。
「あれよ」
クレアが指を指す先。さっきまでより大きめの部屋の中心には床に刺さった抜き身の剣が銀色の光りを放っていた。その向こうには颯矢の頭の高さくらいの位置に、色が流動的に渦巻く水晶玉のような物が台座の上にあった。
「うっは♪」
それを見るなり颯矢は喜色満面で剣に向かって走りだし、柄に手をかける。
「……」
クレアは右の口の端を歪め、含みのある笑みを見せながらそれを見守る。少女が監禁の呪縛から解かれる笑みとは掛け離れた表情だった。
「んじゃ抜くぞー! ……フッ!!」
気の抜けるような確認の後、真剣になった顔と全身に力を入れ今にも引き抜かんとする颯矢を見てクレアの笑みが曇る。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
中々引き抜けない剣に苦戦する颯矢。クレアが不意に動くが颯矢の死角に居る為、それが気付かれる事は無い。
「抜けろっつの! このッ!!」
颯矢の指先が赤黒くなるが剣はビクともしない。
ぱさ……だん!!
そして、颯矢は背後で布が床に落ちる音。続いてタイルに靴で踏み込む音がしたのを聞き逃さなかった。
振り向くより先に体をねじり上体を反らす。足の爪先で剣の腹を蹴り、体重をかけ…
バギン!
へし折った。
ヒュン!がっしゃあ!!
その刹那、飛行音がして一瞬前まで頭があった所を通過し、その先の宝玉を真っ二つに両断し、台座から落ちて粉々に。破片が辺り一面にばらまかれる。
颯矢は片手に刃が不完全な剣を持ち、宝玉を両断した何かを放ったクレアを見る。修道服は脱ぎ捨てられ身軽になり露出が目立つ。髪を覆うフードのような物も取り払われ美しい銀色のブロンドの髪が後ろで一つに束ねられ揺れている。ミニスカートにへそを出すような服。そして二の腕、肩、腿、腰、そのそれぞれに二つずつベルトと円形に近い刃物が備えられていた。
まるで修道服はこれを隠すベールだったかのようにクレアは戦闘形態になった。右腕の刃物だけベルトに納まっておらず、そこから糸のような細い光が伸びている。糸は宝玉があった台座の上部に刺さった刃物に繋がっていた。クレアは健康的な小麦色の肌と変わらぬ表情で、殺す為に打ち出した刃を腕に引っ張り戻した後に口を開く。
「ごめんね。……ごめんなさい。全部嘘なの」
クレアの持つ八つの刃が鈍く光る。
「……知ってたさ」
颯矢は足を半歩踏み出し、それに体重を乗せ後ろ脚で地を蹴り走りだした。
「なら何で付いて来たの!?」
両腕の刃を打ち出し、声に力が篭る。
「ここから連れ出してくれって貴女が言ったから。だからっ!」
重心を低くし速度を上げ、一つ目をかわす。
緩いカーブを描きながら接近してくる二つ目を剣で弾き返そうとしたが、熱した鉄線が発泡スチロールを裁断するように剣は脆く、鮮やかに斬り取られた。身に迫る刃をフットワークとボディコントロールでなんとかかわす。刃はカーブの軌道のまま颯矢の左下に突き刺さった。
左頬と肩に赤い線が入り、そこからうっすらと血が流れ出し白いTシャツを染めていく。
傷を負っている事に気付いていないかのように颯矢は足を止めずに右側から弧を描くように突進する。
「連れ出してって言ったのも……嘘!!」
クレアは舞うように残りの腿、肩、腰の六つの刃を順に放つ、その全てが回り込むように外側から颯矢に迫る。
「だとしても!約束は破らない!」
恐怖心が欠如しているかのように真っ直ぐクレアに向かって走る颯矢。その横を剣をも斬り落とす刃がかすめる。それでも颯矢は怯む事なく足を前に出す。
「ッ……!」
クレアは両腕を引き、始めに放った二個が颯矢の背後から迫る。颯矢とクレアの距離はおよそ3m…手を伸ばせば届く距離だった。そして颯矢の周りには八本の糸…刃とクレアを繋ぐ光の糸が広がっている。
糸と刃が触れるギリギリの位置で颯矢は足を止めた。あと数センチ進めば糸で身体をバラバラにされるだろう。刃よりもその糸の方が数段切れ味のある形態だと直感的に判断できる。
「サヨ……ナラ!」
クレアは右側面へ身体をねじる。それに呼応し糸は鞭のようにしなった。
颯矢の右から糸が迫る。糸によって作られた牢獄は逃げ場が無いかのように見えた。
「上だ!」
その声と共に跳んだ物体にクレアは目を奪われた。その一瞬の隙をつき、颯矢は迫る糸に生まれた僅かなスペースにスライディングした。
ヂッ!
掠ったバックが嫌な音を立てるが何とか身体に外傷は無い。靴とタイルが擦れ、熱を発する。
「隙あり!」
低姿勢から左手を上に掃うように振り、スカートを舞い上げた。
「ッッぅわぁ!……このヘンタ!…ぃ」
クレアは咄嗟の事に慌て、スカートを手で抑える。そして振り返ろうとした間際、首筋に切断されて短くなった剣が突き付けられた。
「降参…した方がいいと思うけど?」
「……っ」
クレアは息を呑んだ。武器や戦い方を知っていても実際に人を殺した事の無い彼女では経験の差で颯矢に遠く及ばない。
クレアがくずおれ、放たれた刃を繋いでいた光糸がスイッチを切ったように消え、刃が地に刺さる。手元に戻ろうとしていた二枚がカラカラと音を立てて転がった。
「降参なんてできないっ!!」
クレアは目に涙を浮かべ、転がって来た刃に飛び付いた。刃は瞬間的に光を宿し光糸を収束させて剣となった。重さがほとんど無く長さも自在な剣は振るだけで絶対的な凶器になりえた。横一文字に間合いを無視した光剣の一閃が走る。
颯矢は奇襲を予想していなかったわけではなかった。しかし、その攻撃の間合いの長さが回避を1テンポ遅らせた。馬鹿正直に後ろに退けば間違いなく真っ二つになる攻撃だと理解できたからだ。
短剣のように素早い振りは颯矢に避ける方法を選ばせず、ただ身を屈めただけだった。
その頭の上を光剣がかすめた。
ドスッ!
それは突然だった。皮膚を突き破る音が身体の内側から響き、鼓膜に届く。二本目の剣が颯矢の胸に深々と突き刺さっていた。一本目から間髪いれずに突いて来た剣を颯矢はかわす事が出来なかった。
タイミング、そして体勢、その両者が致命的なミスを生んだ。反射的に出した左手が胸との間に串刺しにされ、薄皮一枚で繋がっているようなものだった。クレアは颯矢の死を確信した。
それは仕方が無い事だった。
クレアにはどうしようも無い事だった。
聖域に侵入した者は罰を受け神の糧となる事が掟であり、それを捩曲げることは出来ない。してはならなかった。
神を護り、神にその身を捧げ、神の為に戦い、殺し、魂を贄にする事がクレアの仕事だった。実際に殺したのは彼が初めてだった。
クレアはせめて彼が神の元で安らかに眠る事を祈った。クレアはいつも祈ることしか出来ない。ただ神に生かされている者であったから。けれどクレアはその存在や力を目の当たりにしていても、神という存在を信じてはいなかった……いや、正確には慕っていなかった。祈ると同時に呪ってもいた。枷を…架を背負わせ…苦しめる神を…憎み、何も出来ない自分を呪っていた。
そして自分を解き放ってくれると約束した人間をその手で殺した。
小麦色の頬を一粒の雫が流れた。
「泣くくらいなら刺すなよ」
「ッ!?」
光剣は確かに刺さっていたが背中から突き出てはいなかった。颯矢は空いている右手で首から吊っていた懐中時計の竜頭を回した。カチリと音がして時計が首のチェーンから外れ、その中から鉱石のカケラが姿を現す。
銀色に輝いていたカケラと時計が離れた瞬間、その二つは真っ黒に染まった。光も喰らう黒なのに銀色よりもなお輝いていた。颯矢の右手から時計が滑り落ち、カケラは胸の前で揺れた。傷口からは血も漏れず暗いモノが溢れ出した。光剣はその先から光を失い闇に喰われていく。
颯矢の左手は剣の刃を這うようにクレアに進む。光刃は黒い靄のように霧散し黒く残った颯矢の胸の傷に吸い込まれて行く。颯矢の左手の指先がクレアの持つ円刃に触れた。
力を失ったように円刃の光は消えた。
颯矢はゆっくりとクレアに顔を近づけた。漆黒に光を宿した瞳は光沢のある宝石等よりもひときわ美しい。クレアはその双眸に魅入った。ピリピリと肌を刺激する感覚がした。
身体は危険を訴えていたが、何故だか精神は落ち着いていた。心地よささえあった。颯矢はクレアの耳元で囁いた。
「この世に神なんていない。そこにあるのは人の弱さだけだ」
地鳴りがした。とても大きな。城全体が揺れ倒壊を予想させる程だった。


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