WEB妄想部!

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TwiN 第6章



それは神器でありながらそれらを統べる存在。
持つ者に富や名声、権力を約束し全ての欲望を満たす…という伝説のある代物。
全てのトレジャーハンターの夢。
いや、全ての人類の夢だと長年に渡って信じてこられた。
しかし、それを持った少年は拒み、捨て去る事を願っていた。けれども『聖杯』を捨てる事は命を捨て去るのと全くの同意義だった。

颯矢は最も遠い円刀まで回り込んだ。そしてそれを拾い上げる。残りは四つ。後は天井が下がりきって通り道が無くなる前に、神器を拾い集めながら出口を目指すだけだ。天井が下がってきているなら拾いながら腰を落として潜れる分、拾ってからUターンするよりも効率的に思えた。
しかし、出口を目指す為、振り返った颯矢の前には、遮るように肥大化した壁のように通路を塞ぐ天井が広がっていた。もはや通り道はわずかな隙間しかない。
迷ったり躊躇している暇は無い。
颯矢は足の裏に充分なタメを作り、地を蹴った。滑るように俊敏な走り、一つ二つと円刀は颯矢に拾われ、落とした5つの内4つが瞬時に手中に収まる。残り一つ。疾風の如きスピードはもはや常人離れしていた。最後の一つを手にすると足から捩込むように隙間にダイブした。それと同時に円刀を勢いよく三つ投げた。身体一つ分の隙間を通り、円刀は出口側の地面に突き刺さった。颯矢は残りの二つを両手に持ち、それを『使った』
両手の円刀から3本づつ投げた円刀へと光の糸が…エネルギーの可視物が顕現し、颯矢の体を水上スキーのように力強く引っ張った。颯矢の体は天井と床のわずかな隙間を抜け、宙に放り出された。そしてその勢いを殺せぬまま、壁に激突した。

司郎とジョージ、そして犬のリオンは落下し続けた後、何やら粘性の高いクッションのような所に着地した。
薄暗いその場所はとても居心地が悪かった。そしてクッションになった材質に体が埋まり身動きが取れずあわや窒息する寸前だった。ジョージが落下する寸前に手にした刀でこれを突き貫いた。垂れ下がった天井から刀が一本突き出し、真下を通過した人間を串刺しにするスレスレで通過した。
城の崩壊に伴い、弱体化した天井に開いた穴は生き物三体分の重りでみるみる広がり、その三体を吐き出した。弛ませていた重りを失い、天井はゆっくりと収縮するように元の位置に戻り、小さな刀傷だけがそこに残った。
司郎は尻餅をつき、リオンは頭から落ち、ジョージは服をたなびかせながらふわりと着地した。
そして地に刺さった円刀から伸びる光糸とそれを操る颯矢が目に飛び込み、驚愕した。颯矢は壁に足から激突したが、その衝撃を殺し、壁面で一瞬静止した。そして背後の異変に気付き、振り向きながら着地した。
「神凪颯矢ァ!!」
ジョージは颯矢のフルネームを叫んだ。颯矢は既にジョージを黙視していた。そしてジョージの持つ刀が司郎の首筋に突き付けられていた。空いた手は後ろから後ろ襟を掴んでいた。
司郎はほとんど抵抗する事なく静かにしていたが、今の状況がうまく飲み込めないでいた。彼の顔には恐怖よりも驚愕が張り付いていた。
しかし、クレアの困惑を写す顔に比べれば軽いものだった。颯矢より早くジョージが口を開いた。
「生きていたとはな?」
颯矢が答える。
「お生憎だな。こう見えて俺は不死身なんだ。知らなかったか?」
ジョージは呆れた笑いを混ぜながら言う
「それは知らなかったな。内心死んだとばかり思っていたぞ」
「それはお互い様ってやつだ。ついでに使えない部下が巻き添えになってくれれば、給料を払わずに済んでラッキーだったんだがな? いや、どうやらそのチャンスはまだ生きているらしいな?」
颯矢は片方の眉を吊り上げて人質に価値は無いかのように皮肉を口にする。
「そうか……なら望み通りにしてやろうか?」
ジョージはその言葉と共に刀を動かし、司郎の首に細い血の線が刻まれ、刀から一滴だけ伝って落ちた。颯矢の吊り上がっていた眉が定位置に戻ってからピクリと動き、眼光が鋭くなった。
「ッッッ!!?」
クレアの言葉にならない叫びが飛ぶ。切り付けられている本人は、一応の平静を装おうとしていたが、手が小刻みに震えていた。
「……冗談だ。しかし本当に望むなら叶えてやらんことも無いぞ?」

「あんたの望みは何だい? 俺も叶えられるように努力してもいい」
「とりあえず質問に答えてもらおうか……さっき使っていたのは何だ?」
「言わずとも分かっているだろ?」
「あぁ。だが答えろ」
「神器だ」
「それはお前が持っていた物か? それともこの城で手に入れた物か?」
「元から持っていたやつさ。その辺に落ちてる物を説明書も無しに使いこなせる程、俺は器用じゃないからな」
「後ろの女は何だ?」
「この城の管理人さ。道に迷ってね。案内を頼んだんだ」
「ほう。それはそれは……ところで宝物は見つかったか?」
「残念ながら見つかっちまったんだよ。だけどあんたには渡せない」
「この小僧が死んでもいい、そう言いたいのか?」
「……待てよ。仕方がないだろう。すげー不安定な台座に乗ってて、ちょっとした拍子に粉々だよ。参ったねこりゃ」
司郎の手の震えが若干激しくなった。
「何の事だ? 粉々?」
ジョージは困惑しながら問う。
「神器がそう簡単に砕けるはずは無いだろうが!」
激高して問い詰める。
「神器? 宝物は玉だった。あと剣」
「そちらか……」
「まぁそれもボロくて壊れたけどな。要するにこの城には神器は無かった」
「嘘をつくな」
司郎は耐えられず膝も笑っていた。
「本当だ。あんたの探してるモノはここには無い。ここに転がっているのを除いてな」
「……」
ジョージは沈黙する。その決断をするか否かで。
「颯矢、貴様とて知らぬ訳ではあるまい? 神器を手放す事がどういう事か? そして他の者がそれを継承するのに何が必要であるか」
「あぁ…勿論知ってる」
颯矢は答え、その後ろのクレアはそれが自分にも無関係な話ではないと分かり、固唾を飲んで会話の行く先を見守る。
「神器を有する者は他の神器を多少なりとも扱えるが…真に使いこなすには前の所有者をその手で殺し、魂を捧げなければならないそうすることでのみその力を継承することが出来るのだからな」

クレアは絶句する。となればクレアの神器を手に入れた颯矢がそれを真に得る為にクレアを殺す算段だったのでは?という疑惑が芽生えた。ここまで生かされていたのは道案内……ただそれだけの為だった? 利用されていた? 甘い言葉を囁いて脱出したら殺す気だったんだ。
クレアの疑念は次々に浮かんで行く。それを問い詰めようと颯矢に向き直った。その時、あまりにも鋭利な視線を向けられ身動きが取れなかった。口が開かない。私は騙されたんだ……
クレアは確信した。
けれど何故、あれが颯矢自身の物であると言ったのか…自分の命すら危うくなるというのに……
クレアは少し考え込む…庇ってくれたのか?そう考えたかったが、実は人質を取っている男に神器の所有権をみすみす与えない為だと思い立った。自身の命を標的にすれば逃れるのは守る事よりもたやすいはずだ。クレアはひざまづき、俯いた。

ジョージはその動作を気にせず続ける。颯矢が司郎を助ける為に命を捨てるという決意の眼差しを受け悲嘆にくれた、とでも思ったのだろう。
「命を捨ててでもこの少年を救いたいか? ……なら交換といこう。全ての神器を置いて円を画くようにこちら側に来い」
「……わかった」
颯矢は頷き、神器を捨てた。床には4つの円刀が並ぶ。対峙する颯矢とジョージ、司郎は一歩づつ互いの中心を基準に円を画きながら場所を移していく。そして完全に位置を交換したときジョージは確認の為、床の神器に目を落とした。それと同時に司郎は颯矢を見た。颯矢も視線を返し、二人は目が合う。
今日会ったばかりの二人に信頼関係や友情なんてものは無い。けれども、彼等は互いに協力し合わなければ状況を打破できない事を直感的に理解していた。司郎は首をのけ反らせた。それは自ら刀に首を斬らせるリスクがある程の無謀だったが、司郎は決して人質である自分が死んで、颯矢にいらぬ気遣いを無くそうとした訳ではない。
自分が助かること。それ以外に求めるところなどない。ジョージは異変に気付き、そしてまさに自己犠牲を行おうと思ったのだろう。刃を咄嗟に離した。
しかし、司郎の狙いはそんな一瞬の隙ではなかった。後ろ襟を掴んでいる左手…それに触れることが狙いだった。肌と肌による直接接触。それが条件だ。
そして条件はクリアされた。
司郎は告げる。
「今度から人質を取る前に相手をよく選んでから取りなよ!」
ジョージの左手は司郎の後ろ襟を離した。そしてそのまま司郎を突き飛ばす。その現象にジョージは目を丸くした。それも当然だ。何故なら突き飛ばしている光景が目に入っている今も彼の腕には司郎を掴んでいる感覚が鮮明にあるからだった。ジョージは刀を振り上げ司郎に振り下ろした。そんなつもりは無かったが、突然の出来事に動転した行動だった。
しかし、振り下ろされた刀は司郎に達する前に止まっていた。またしても自身の手でないかのように左手が勝手に右腕を掴み、刀を止めていたのだ。ジョージは恐怖の瞳を左手に向ける。痛いほどに左手は右手を絞めるように掴み続ける。右手の握力が弱くなる。その瞬間、光り輝く糸が目に入った。
危険を察知するより先にジョージの顔面にはもろに颯矢のドロップキックが炸裂した。颯矢の手には隠し持っていた神器が握られていた。それから光糸が床に落ちている円刀へと続く。ジョージは床の神器を飛び越えて壁に激突した。颯矢のように足からではなく背中からぶつかり肺の空気が衝撃で口から漏れる。そしてジョージは自身の武器である刀をその手に持っていなかった。手放されたそれは着地した颯矢の足元に不自然に突き刺さっていた。そして颯矢は司郎を指差して言う。
「上出来! んでもって給料アップ!!」
「使えない部下っていう汚名は返上ですかね?」
司郎も屈託のない笑顔で皮肉を言う。その司郎の腹に不意に蹴りが入る。司郎は我が目を疑った。颯矢の褒めた直後の蹴りの真意が不明だったからたが…直後、鮮血が舞った。
颯矢が足を伸ばし、司郎を退けた場所を光糸を纏った円刀が颯矢の脚を斬りながら通過していったのだ。そしてそれが飛んで来た方向には幽鬼のようにゆらりと佇んでいる男の姿が在った。その手には円刀が握られ、それまでに見たことの無い幻想的な紫の光が灯っていた。
しかし、それは今までのジョージとは雰囲気や物腰が明らかに異なっていた。『魔剣』に取り憑かれ、その内なるモノに魂を暴食された『愚かなる者』と同じ末路への道を踏み出していた。
『適格者』でなく神器に魂を捧げ身体を明け渡した者はその魂の灯が消え失せるその時まで神器の力を使役することが可能になる。しかし灯が消えたその時は、後には何も遺らない。死体も残骸も生きた証は何一つ遺らず神器に食い尽くされる。
それが『不当契約』
これから逃れる術は颯矢が知る限り無い。
一つの方法を除いて。
そう殺す以外には……
神器に宿る神を殺す以外には……


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