夜桜亭~月光店~

夜桜亭~月光店~

ワスレチャウノ…?


ワスレチャウノ…?



トールも、いつかボクのこと、忘れちゃうのかな…
トールもママみたいにボクのことを知らない男の子って思うときが来るのかな?
ボクと学校ですれ違っても、知らんぷりして行っちゃうのかな…?
そんなのって…
そんなのって…





「トールっ!」
「ひゃぁあっ!!!」
紅葉は、教室を出た所に透がいることに気が付いた。
そのまま透に近づいて紅葉は自分の帽子を透の頭にかぶせたのだ。
「もっもみじ君!?」
透は、素っ頓狂な声を上げながら自分に帽子で目隠しした人物を確認すると、紅葉の名前を呼んでから、どうなさったんですか?と、聞いてきた。
「んっ?べっつにぃ~?ただトールが見えたから遊んでもらおうと思っただけぇ!!」
透は、頷きながら紅葉の頭に帽子をかぶせた。
その時、透は紅葉のなかに何か不思議なものを感じた、いつもとは違う、
そう、前に透が紅葉の父の会社でバイトをしていたときに母の話をした顔に、にているのだ。
「……」
透は少しばかり考えた。
今、紅葉に話しかけてもいいのだろうか?
邪魔だ、と追い払われないだろうか?
たちいった事を聞いてはいないだろうか?
「あのっ…!紅葉君!」
考えた結果、透はどうしたのか聞くことにしたのだ。
「どーしたのー?トールー?」
「えっと…、どうかなさいましたか?」
聞いた途端、紅葉が目を見開いた。
「…何でそう思うの?」
紅葉は何か、見透かされたような気がし、自然と手に力が入るのがわかった。
「何で…と聞かれましても…うーん…いつもと違う気がします!」
口の中で呟くように、紅葉は言葉を放った。
「トールの…トールのせいだよ……」
「っえ…!?」
透は驚きを隠せないようだが紅葉の顔を見て、叫びあげようと開いた口をゆっくりと閉じた。
「トールはボクのこと…嫌い?」
紅葉は自嘲気味な笑いを浮かべている。
「まっまさか!!そんな、めっそうもないです!!!!」
透は手を振りながら声を上げて否定した。
「じゃぁ…キョーは…?ユキは?他のみんなは?」
「そんな、私なんかが人を嫌いになるなんて!天地がひっくり返ってみたりおそれ多いです!!!」
紅葉がおかしなことを聞くからか、それとも透がもともと変なのか、微妙なところだが日本語がおかしい。
「…ねぇ、トールはなんで草摩と関わったの?」
透とは対照的で声だけ聞いていれば落ち着いて話してるように聞こえるが、顔を見ればとても切羽の詰まった表情をしている。
「ぇっと…その…少しでも、皆さんの助けに…と、」
言った後、思ったのですが…全然ですね…、と付け加えた。
紅葉は透が言った事をあまり聞いていなく、また変な事を言いだした。
「だって草摩と関わったら記憶消されちゃうんだよ…?」
いったん言葉を切って、さらに続けた。
「…忘れても…ボクが、トールの記憶からいなくなっても…かまわないって思ったの…?」
紅葉は手で自分の服をギュッと握っている。
「そんなこと…!!皆さんのことを忘れるってことはどーでも良いことじゃないです!!」
透がそう言ったあと、何が可笑しいのか急に笑い出した。
「クスッ…ハハハハ…!!!」
「ぇっ!?なにが可笑しいのですか?」
透は訳がわからないといった感じであるが、紅葉はさらに何か言いだした。
「トールはいいよね…!」
声を殺して叫んだ紅葉の言葉に「?」マークを浮かべながら必死に理解しようとする透はまたしても不思議なことを言っている。
「えっと…、もっ紅葉君の方が女子用の制服は似合っていていいと思います…けど…」
紅葉はその透の言葉でさらに腹を立てたのか、声を荒げはじめた。
「…いいよねえ、トールはさぁ!!そーやってとぼけてられるんだから!」
「えっ…?」
肩を上げて叫んでいる紅葉に対して、透はキョトンとしてるしかなかった。
「そうだよね!!トールは忘れちゃうんだから!!忘れたら気にしなくていいもんね!記憶にないんだから気にしようがないよね!…でもさぁ、ボクは憶えてるんだよ!?トールの…………!?!」
紅葉の言葉は途中で遮られた。
撥春のビンタによって。
「…ハル…?」
ビンタされた紅葉は痛さのため、頬をおさえる。
「…紅葉の言ってる事はやつあたり。」
「…!?」
撥春に指摘され、紅葉の顔がカァッと赤くなる。
「紅葉君…」
言いながら透は紅葉の肩に手を伸ばそうとする。
「っ!」
紅葉は透の手から逃げるように走り出した。
そしてみるみるうちに紅葉は遠ざかっていく。その背中をおうように、透が声を掛ける。
「紅葉君!!」
「…あれは、多分、本田さんがいつか記憶隠蔽されるんじゃないかと思ったんだと…思う。」
撥春はそう言って透の背中を押した。もう見えなくなった紅葉を追いかけるように。
「紅葉君は私を心配してくれたんですよね!」
透は、ありがとうございます!と言ってから紅葉が行った方向に走りだした。









紅葉はもうとっくに授業が始まった教室の隣を走っていた。
「やつあたり。」
紅葉の頭に、さっきの撥春の言葉がよみがえる。
(わかってるんだ!こんなのただのやつあたりだって!………こんなの、ボクのわがままだって…)
こんな事を考えながら走っていた紅葉は、自分の頬に流れている涙に気づかなかった。




「紅葉君!!!」
それは、紅葉が下駄箱に着いた時だった。
「……トール……?」
紅葉はゆっくりと後ろを振り向き、自分を呼んだのが透であることを確認した。
「…何しに来たの?」
「えっと…」
紅葉の言葉に少し後ずさったがすぐに話し始めた。
「…心配してくださったんですよね?」
透の言葉に対して、紅葉は俯いて答えた。
「…ちがうよ…トール、ただ自分が忘れられるのが嫌だったんだ…」
透が紅葉を見て話し始めた。
「…私も…、私も紅葉君に忘れられたら…とても悲しいです…けれど、」
透が気になるところで切ったので、紅葉は急かすように透の方を見た。
「私は…紅葉君に思い出してほしいですけど、でも、もしも思い出してもらえないなら…新しい本田透として…初めからやり直して…新しい関係を…築いて…いきたいです…!」
紅葉の頬から、一粒の涙をたらした。
そして、先程よりも穏やかな顔で言う。
「…変な言い方…なんかハズカシーよ…」
「えっ!そうでしょうか!?」
紅葉は、涙を拭いてから、笑って言った。
「でも…、すっごい嬉しかったよ!!トール!………もしも、トールがボクのことを忘れたら、…逢いに行くから、友達にしてよ!!!」
「もちろんですっ!!」




もしかしたら、いつか、ボクのことを忘れる日が…来るかもしれない。
そしたらすっごく悲しいけど…
でも、そしたらボクのこと受け入れてね…
最初から仲良くなんて都合のいいことは言わないけれど…
そんな日が来ても透は透だよね……?
でもね、そんなことばかり考えてたら、少しだけ寂しくなっちゃった、

        だから、少し悪戯っぽく笑って、こう言うんだ

      「少しのあいだで良いからさ、ボクのことウサギにしてよ!」




                                  END



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