ユージンラボ

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第一章 出会い




その体はまだ薄暗い闇に溶け、どことなく悪魔の使者を思わせたが、そう言うには弱々しい体だった。


人足も少なくなってきたその道を酔っ払ったサラリーマンやOLが帰路へとついている。そして、その人たちの猫に対する嫌悪感は皆同じだった…。


「きゃっ、黒猫!!気味悪~い。」


「縁起悪ぃんだよ!こいつめ、あっちへ行け!!」


そう罵声をあびせると、闇に溶けるその体めがけて石を投げつけた…。


右足を不自然に引きずりながら黒猫は路地裏を歩いていた。


「ちっきしょう、痛ぇな。ま、いつものことだけどよ…。」


黒猫はそうぼやきながら、傷ついた前足を舐めた。


黒猫は物覚えがついた時から孤独だった。しかし、黒猫にとっては都合がよかった…。孤独など慣れてしまえば、誰かを思いやることもない。煩わしい思いをすることもない…。むしろ、黒猫は孤独を望んでいた…。


「人間ほど自分勝手な生き物はいない、時々同情の目を向けてくる奴もいるが、そんなものは偽善だ…。同情しているように見えて優しい自分に酔っているだけだ。その証拠に誰一人として拾ってくれたり、助けてくれた人間なんていなかった…。」


一通り血を舐め終わると今日のねぐらを探しに黒猫は歩き出そうとした。だがその瞬間、黒猫の体が突如宙に浮いた。


「?!」


黒猫は驚いて辺りを見回した。すると、よれた服を着た青年が黒猫の体を抱き上げていた。


「うわぁ、お前足怪我してるじゃないか。酷い事をする奴もいるもんだ。」


黒猫はあまりに突然なことと、慣れない優しい言動に戸惑っていたが何か温かいものを感じていた。


「こんばんは、素敵なおチビさん。」


にこっと青年は微笑む。黒猫はただ呆然と青年の顔を見つめていた。


優しい…眼だった…。まるで、吸い込まれそうな綺麗な眼だった…。


「お前には悪いかもしれないけれど、僕とお前はよく似てる気がするな。」


はっ!と我に返った黒猫は青年の腕から逃れようと必死でもがき、爪をたて引っかいた。


「痛っ!!」


思わず手を離す青年。そしてすたっと地面に着地した黒猫は一目散に駆け出した。怪我の痛みも忘れ、ただ無我夢中で走っていた…。黒猫は、生まれて初めての優しさやぬくもりがまだ信じ切れなかった…。


「あいつも同じ人間だ!あんなこと言っていたって一時的な感情に過ぎないんだ!誰が騙されるもんか!」


そう思いながら公園へと走りこんだ。


黒猫は公園へつくと疲れ果て、へたれこんでしまった…。


「俺は…絶対に信じないぞ…」


そう心に言い聞かせ眼を閉じた瞬間、また黒猫の体が宙へ浮いた。


「?!」


驚いて眼を開くと、息をぜぇぜぇと切らしながら青年が黒猫を抱いていた。


「はぁ…はぁ…お前、本当に…ぜぇ…足怪我してるのかぁ?凄い速さだったぞ…」


ふぅ…と一息つくと、青年は自分がしていたマフラーで黒猫を包んでやった。じわっと前足の血が滲む…。


「何だこいつは?!何で俺なんかのためにここまでするんだ?」


黒猫は半ばパニックになっていた。


「まぁ、でも一応ちゃんと手当てしないとね。さぁ、早く家に帰ろう。」


そう言うと青年は荷物を背負った。画用紙に筆入れ等の画材道具…どうやら彼は絵描きのようだった。


「ふん、人間なんて気紛れなんだ…。きっとこいつだって同じさ…。」


もはや逃げる気力もなくなった黒猫はゆっくりと目を閉じた…。


「でも………何かあったかいや………」


黒猫はマフラーによる温もり以外の温かさを確かに感じていた…。



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