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第三章 突然の別れ
最初は青年を毛嫌いしていた黒猫も、青年の優しさに触れるにつれ、段々と心を開いていった。
青年は黒猫をたんなるペットとしてではなく、本当の友達のように、親友のように接してくれた。
逆に青年が風邪をひけば、黒猫はずっと青年を見守っていた。何もできない自分が歯がゆかった。
黒猫が縄張り争いで怪我をして帰ってきては治療をし、バイトから帰れば黒猫の絵を描き、一緒に遊んでやった。
不吉な黒猫の絵は売れ行きが悪かった。それでも青年は黒猫を描き続けた。
そんな何気ない日々が黒猫にとっては何よりも変え難い宝物になっていった。
「ずっと、このままでいたい…。」
黒猫はいつしか、そう願うようになっていた。
しかし、それは長くは続かなかった…。
黒猫と青年が一緒に暮らし始めて2度目の冬。その日は雪が降りこの冬一番の冷え込みだった。
黒猫は暖かい部屋の中で、雪の降る外を窓から眺めていた。
「寒そうだな…あいつに出会う前は公園の遊具の中や、廃ビルの中で震えていたっけ…。」
そんな思い出にふけりながら、黒猫は青年の帰りを待った。
「今日は絵ぇ売れたのかな。最近あいつバイトづくめで大変そうだし…そういえば、出かける時も元気無かったっけ…。」
黒猫が心配していると、廊下から階段を上がる音が聞こえてきた。
「あ、帰ってきた!!」
二年も一緒に住んでいると、足音だけでわかるようになっていた。黒猫は急いで玄関へと走っていった。
ガチャ…とドアが開き、青年が帰ってきた。いつもは「ただいま~。」と黒猫を抱き上げてくれるのに、その日は疲れていたのか、ため息混じりの頼りない笑顔で「ただいま…。」と言っただけだった。
黒猫が心配そうに近寄ると
「大丈夫、ちょっと疲れてるだけさ。心配しなくていいよ…。」
そう言いながら、黒猫の頭をなでた。
大丈夫とは言いながらも、外見を見ればそうでないことは一目瞭然だった。
青年は黒猫の夕食を作ると
「ごめん、今日は疲れたから先に寝るね。」
と言い、深い眠りへと落ちていった。
いつもは夕食にがっつく黒猫も、心配のあまり飯が喉を通らなかった。
寝息を立てる青年を眺めながら、黒猫は一人物思いにふけっていた。
「やっぱり、生活苦しいのかな…。」
「そりゃそうだよな…絵も売れてない上に俺まで養ってるんだから…。」
「バイトも掛け持ちしてるみたいだし…俺がいたら迷惑なのかも…。」
「でも…俺はお前と離れたくないんだ…。」
横から見たらきっと黒猫は泣きそうな顔をしていただろう。幸い、そこには誰も傍観者はいなかった。
少しやつれた青年の顔を眺めながら、黒猫もまた深い眠りへと落ちていった。
次の日の朝、目が覚めると青年はもう部屋にはいなかった。新聞配達のバイトにいったのだろう。ちらっと、時計を見た。
「そろそろ帰ってくる頃だな…。」
眠い目をこすりながら黒猫は青年の帰りを待った。
窓の外を見ると、夕べの雪が積もっていて一面銀世界だった。
「綺麗だな…。」
黒猫は猫にもかかわらず、雪が大好きだった。
「俺もあんな風に綺麗だったらな…。」
以前はそう思っていた。だが、青年と出会った今、自分の姿を悲観することは無くなった。青年は今の自分を受け入れてくれた。
そんなことを思っているうちに青年が帰ってきた。
いつものように黒猫が出迎える。
「すぐに朝飯作ってやるからな…。」
そう言いながら、台所へと入っていく。
黒猫が楽しみに待っていると、台所の方からバタン!と何かが倒れる音がした。
「?!!」
黒猫が驚いて台所に駆け込むと、青年がうつ伏せに倒れていた。
「おい!どうした?!大丈夫か?!」
青年はよろよろと上半身を起こしながら
「大丈夫…少し横になれば良くなるさ…。」
そう言うと、青年は黒猫の朝食の準備に戻った。
「飯なんかどうでもいい!いいから休んでろ!!」
しかし、もちろん言葉は通じない。黒猫があれこれ叫んでいるうちに、青年は何とか朝食を作り終えた。
黒猫はご飯をそっちのけで、寝ている青年を心配そうに見ていた。
「大丈夫だから…ご飯食べてなよ。」
か細い声で青年が言う。
「馬鹿野郎!こんな時にのんきに飯なんて食えるか!!」
泣きながら青年に擦り寄る黒猫。
青年は優しく黒猫の頭を撫でながら
「ごめんね…ホーリーナイト…やっぱり僕には無理だったみたいだ…。」
「有名な画家になるって決めて…故郷から出てきたのに…。」
青年の瞳から一筋の涙が流れる。
「もういい!喋らないで寝てるんだ!」
黒猫は必死に叫びつづけた。
「ホーリーナイト…お願いがあるんだ。」
そう言うと、青年は手を伸ばし、引出しから一通の手紙を取り出した。
「これを届けて欲しいんだ、僕の大切な人に…。馬鹿な夢を見て…勝手に飛び出した僕の帰りを待つ恋人へ…。」
「こっちへ来て、辛い事ばかりだった…。慣れない都会で…何度も故郷に帰ろうとした。」
遠い目で天井を見つめながら青年は言う。
「でも、お前に会ってからの2年はすごく楽しかったよ。お前にはすごく感謝してる。お前がいなければ、ここまで頑張れなかっただろうからね…。」
「お前は…俺の一番の親友だ。」
満面の笑みを浮かべながら、青年は黒猫の頭に手をおき、そう言った…。
そしてまた青年は、深い眠りへと落ちていった。今度は永遠に覚めることの無い眠りへと…。その寝顔はとても安らかだった。
黒猫は一日中泣き続けた。段々と冷たくなる青年の体にしがみつきながら泣き通した。
「俺の…俺のせいだ!俺がいなければあいつは…。」
黒猫は自分を責め続けた。何もしてやれなかった自分を恨んだ。
そうして、黒猫は泣き疲れ…いつしか眠ってしまった。
その横には青年の残した手紙だけがぽつんと置いてあった。
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