ユージンラボ

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第四章 約束




あいつは安心した顔で眠りについた…。それは俺がきっと約束を果たすと信じてくれたからだ。その信頼を裏切らないためにも、この手紙は死んでも届けてやる!


何時間走っただろうか…さすがに黒猫にも疲れが見えてきた。


そして、休憩がてら黒猫が歩いていると、向こうから下校途中の小学生らしき子供が寄ってきた。黒猫が無視して通り過ぎようとすると…


「いてっ!!」


黒猫が驚き後ろを見ると、3人の子供が石を投げつけてきた。


「見ろよ、あの黒猫手紙くわえてるぞ。」


「きっと悪魔の使者だよ。本で読んだもん。」


「やっつけちゃえ!!」


すっかり正義の味方気取りの子供たちは、逃げる黒猫をしつこく追い回した。


「ちくしょう…こんな所で時間をくうわけにはいかねぇんだ!」


黒猫は必死に逃げた。狭い裏路地を縦横無尽に走りぬけ、ようやく子供たちを撒いた頃には、もう日が暮れていた。


「ちっ…えらい足止めくっちまったぜ…。」


黒猫は傷めた足を引きずりながらも、親友の故郷へと向かっていた。


「くそっ!痛ぇ…一刻も早く届けなきゃいけないってのに…。」


すっかり暗くなった夜道を、とぼとぼと歩きながら黒猫はさっきの子供たちの言葉を思い出していた。


「悪魔の使者…か。」


それは聞きなれた言葉…もはや黒猫の代名詞ともなっていた言葉だった。そしてその度に自分の風貌を恨んだのだった。


しかし、今の黒猫にとってその言葉は何の意味も持たなかった。


「ふんっ、別にどうってことねぇや。俺には消えない名前があるんだ。」


-ホーリーナイト-


いつも黒猫というだけで不吉だの悪魔だの言われてきた…。でもあいつだけは違った。こんな俺を聖なる夜と呼んでくれた。優しさも温もりも全て詰め込んで呼んでくれた。


それまでは自分が何で生まれてきたのかわからなかった。生きている意味もわからなかった。でも、今ならわかる。俺は今日のために生まれてきたんだ。あいつとの約束を守るために!忌み嫌われた俺にも意味がある。それをあいつは命がけで教えてくれた。だから、この手紙だけは絶対に届ける!どこまでも走りぬいてやる!


もう何日走り続けただろうか…都会の街並みは消え、静かな山道を黒猫は歩いていた。ここまで必死に歩いてきた黒猫の体は傷だらけだった…。ここまで来る途中、もちろん餌は必要だった。ある時はごみ収集場で他の猫と取り合いになり、ある時は飼い犬の餌を盗み食い…その度に傷ついてきたのだ。空腹で倒れかけたこともあった。しかし、倒れた黒猫を助けてくれるものなどいなかった。むしろ休む間もなく罵声と暴力を浴びせられた。


満身創痍の黒猫は、やっとの思いで親友の故郷へと辿り着いた。恋人の家まではあと数キロメートル…。黒猫はラストスパートをかけた。しかし、今までの道のりで傷ついた黒猫には無理があったのか、倒れこむようにして転んでしまった。


「うぅ…もう少し…後もう少しなんだ…。」


立ち上がろうとする黒猫の強い思いとは裏腹に、体は打ちひしがれていた。体が言うことを聞かない…。段々と意識が遠のいていく。


「やっとここまで来たってのに…情けねぇ…こんな所でくたばっちまうのか…俺…。」


「俺…頑張ったよな…?ここまで…もう十分だろう…?」


黒猫が眼を閉じ、諦めかけたその瞬間青年の最後の顔が浮かんだ。とても温かく、優しい顔だった。


「頼んだよ…ホーリーナイト…。」


黒猫の眼に力強さが戻った。それはさっきまでの疲労など微塵も見えない輝きだった。


「くそっ、死んでたまるか!負けてたまるか!俺はホーリーナイトなんだ!」


黒猫はよろよろと立ち上がった。親友との約束を守るため、今にも千切れんばかりの手足を引きずり、なおも走った。


黒猫の目の前に建つ一軒の家、表札には手紙の宛名と同じ苗字が書いてあった。


「見つけた!この家だ!!」


黒猫はついに恋人の家へと辿り着いた。


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