朱夏の海

幸せのために  3



 詩の受験も、無事、春が訪れ、桜の花が色ずく頃。

 ふらりと姉が、家にやってきた。

 悠は春休みで、両親の所に行っているはずだ。

「ミキのとこに行ったら、店休みで・・家に居るかな~って思って。」

 姉はどことなく元気が無く、ダラダラと家に上がってきた。
 酔っている風でもない。
 いつも明るい姉が静かだと、なんだか怖い。

「ミキ、海外旅行に行ってて、10日間臨時休業なの。
 独身は気楽でいいね~。」

あたしは、不安を隠すように、わざと明るく言った。

「何か飲む?」

 姉はぼんやりと遠くを見つめ、

「酒。」

っと、小さく答えた。

 ずいぶん前に買った焼酎を探し出し、飲めるか不安だったので、
 味をごまかすために、紅茶で割って姉に出した。

「ありがとう。紅茶割りもいけるじゃん。」

 ほっとしながら、あたしも同じものを作った。

 ――紅茶の味しかしない・・・次からは、焼酎を入れないでおこう。

 姉は酔うと絡むのだ。 嫌な予感がする・・・

 一杯目の紅茶割と、三杯の紅茶を飲んだ後、姉は口を開いた。

「結婚するの、止めた。」

「えっ、なんで?」

 色々な事が一瞬で、頭の中に浮かんでは消えた。
 振ったのか、振られたのか・・・

 ドキドキしながら、姉の返事を待った。

 姉はしばらくうつむいていたが、すっと立ち上がり、
 台所から、焼酎を持ってきて、濃い紅茶割をつくった。

「酔わないのよね~。」

っと、グラスを両手で持ち、一気に飲んだ。

 当たり前だ。ただの紅茶だもの・・・
 あたしは、からまれる覚悟をした。

 姉はもう一度、濃い紅茶割を作って、今度はチビチビ飲み始めた。

 あたしは紅茶だけを、自分のグラスに注ぎ足した。


「出来なかったの。」

突然、姉がつぶやいた。

「何が?」

「SEX出来なかったのよっ!!」

姉は叫んだ。

あたしは、あっけにとられたが、少し笑ってしまった。
しかし、すぐに思いなおして、

「しーっ。思春期の娘が居るのよ!!」

っと言った。

姉は今度は、顔を近付け声をひそめて、

「SEX出来なかったの。」

っと、もう一度言った。

「起たなかったって事?}

「ちがう・・・あたしが出来なかった。
  気持ち悪くて、逃げ出してきた・・・」

 はぁぁぁぁぁぁ?

 それはちょっと、まずいんじゃないかっ?
 気持ち悪くて、我慢できないぐらい、好きじゃないって事か?
 逃げ出すぐらい気持ち悪い人と、姉は結婚しようとしてたのか?

 黙りこんだあたしを見て、姉は大きく息を吸い、
『長い話になるから、覚悟して聞いて。』っと言った。

 ――もう、からまれるのか・・・っと思ったが、

 話の内容にあたしは、しばらく立ち直れないほどの、衝撃を受けた。



             4へ・・・・


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