朱夏の海

幸せのために  4





「あたしが17歳の時。

すごく好きな人がいた。3歳年上の人だった。

背が高くて、細くて、頭が良くて。ホントに素敵な人だった。

あたしたちは、1年半の付き合いの後、結婚した。

若かったから、多少の反対もあったけど、二人の熱意が伝わって、

ささやかな結婚式もあげて、とても幸せだった。

新婚旅行には、国内の温泉に二泊三日で行った。

夜になって、ドキドキしながら布団に入ると、

彼はやさしくキスをして、『おやすみ』っと言った。

そして、そのまま朝になった。

‘疲れてたから・・・’

っと、その時は気にせず、二人で旅行を楽しんだ。

その夜も、キスをして、布団に入り寝た。

結局、新婚旅行から帰っても、あたしは処女のままだった。


一週間たっても何もなかった。

 さすがに悩んだ。

 あたしに魅力がないにだろうかと・・・

 でも、誰にも相談できなかった。

 自分から・・・なんて絶対無理だと思った。


一ヶ月たった。

 何がなんだか、分からなかった。

 彼はとてもやさしい。結婚する前より大切にしてくれる。

 あたしの事が嫌いなわけじゃないのはわかる。

 でも、なぜ、何もしないのだろう。

 誰に相談したらいいのか、分からない。

 結婚してる、友人もいない。

 恥ずかしくて、親になんて言えない。


三ヶ月たった。

 親友に相談した。

 数人の男と経験のある彼女は、あたしよりは男心が分かると思った。

 『絶対におかしい。』っと、彼女は言った。

 でも、どうしたらいいかっという答えは出なかった。

 彼は、相変わらず、とてもやさしい。


半年たった。

 両親が、『子供はまだか』っと言い出した。

 親友はとても心配している。

 あたしははじめて、彼に聞いた。

『SEXしないの?』

 彼は、あたしの前に座り、あたしの手を握り、あたしの眼を見て、

『僕は、性交不能者なんだ』

 っと言った。

 やっぱり、っと思った。そうじゃないかな、って思ってた。

 それでもいい、っと思った。彼の事が大好きだから。

 『そう。』っとだけ答えて、今までと同じ生活を続けた。

 彼もあたしも、その事には触れずにすごした。


八ヶ月たった。

 親友が心配して、何度も電話をしてくるので、

『彼は出来ない人なの』っと言った。

 彼女は驚いて、色んな事を言った。なぜか怒って電話をきった。

 あたしたちは、とても平和で幸せだった。


十ヶ月たった。

 両親が騒ぎ出した。親友がしゃべってしまったらしい。

 あたしは嘘をついた。

『ちゃんとSEXしてる。とても幸せだ。』っと。

 親友とは絶交した。


一年たった。

 あたしの両親と、彼の両親が家に来て、彼を責めた。

 彼の両親は泣いて、頭をさげたままだ。

『騙された。傷物にされた。』

 遠いところで、話してるように思った。

 あたしの関係ないことのように、感じていた。

 彼は握った手を膝に置いたまま、顔を上げない。

 あたしは無理矢理、連れ出されようとしていた。

 彼は顔を上げない。

 止めてくれない。

 あたしを見ようとしない。


 悲しかった。 もうダメだと思った。

 あのままで、良かったのに・・・

 一緒にいれるだけで、よかったのに・・・」


姉は濃い目の紅茶割をつくり、少し笑って言った。

「あたしは、処女のまま、バツイチになったって訳。」


初めて知った姉の過去に、何を言っていいのかわからなかった。

あたしは高校生だった。今の詩と同じ歳だ。

姉も両親も、あたしに聞かせないようにしていたのだろう。

あたし、ひとり、仲もハズレにされていた様な気持ちになった。

でも、娘を産んで母になった今のあたしなら、聞かせたくなかった、両親の気持ちが分かる。

複雑な気持ちだけど、続きが聞きたくて、姉に言った。

「じゃ、二度目の結婚が、はじめてだったの?」

「ううん。ちがうの・・・」


「無理矢理、離婚させられて、その後彼とは、一度も会ってない。

 彼のお母さんからは、手紙が来た。

『私たちも、全然知らなかった。ごめんなさい。息子をゆるして・・・』

 許すも、許さないも・・・一緒に居れるだけでよかったのに。

 SEXなんて、どうでもよかったのに。

 好きだったから、あたしはあのままでも、十分幸せだった。

 きっと、自暴自棄になってたのね。

 両親の顔は見たくなかった。親友の事も恨んでた。

 一人で出歩く毎日だった。

ある日。

 夜中に一人でドライブしてると、暴走族にあった。

 十数台の単車と車。

 女、一人。

 人気のない山の中。

 何があったか、わかるでしょ。」


あたしは,息を吸い込んで、そっと吐いた。


「あたしの、初体験は、数人の暴走族に、無理矢理犯されたの。

 誰にも、言わなかった。両親にも。警察にも。

 悲しくなかった。

 SEXってこんなものか。なんだ、こんな事なのかっって。

 別に、どうって事ないじゃん。 バカみたい・・・・

 それで、どうでもよくなって、なんでだかアルバイトでもしようって思った。
 一生懸命働こうって。

 バイト先で、愛のお父さんと知り合った。

 寝たきりの両親と子供が二人いて、可哀想になって結婚したの。

 二回目のSEXで愛が出来た。

 愛が生まれた時、涙が出た。

 こんな事のために、あたしは、あんなにつらい思いをしたのかって。

 すごく簡単で、普通のことじゃんって。

 愛はすごく、かわいかった。両親や子供達ともうまく行ってた。

 でも、SEXはイヤだった。 我慢して、SEXした。

 同じ部屋で寝るのがイヤだった。夫のことは嫌いじゃなかったのに・・・

 だから、必死で働いた。クタクタになるまで。

 色んな理由を使った。

 疲れてるからって、断った。

 愛をつねって、起こしたりもした。

 両親が相次いで亡くなり、子供達が学校を卒業したら、理由がなくなった。

 愛も気付き出した。

『なんで、夜中に、つねって起こすの?』

 うまく行くはずないよね。そんなんで。

 離婚してって言ったら、夫はすごく怒った。

『十年間で、7回しかSEXさせてくれなかったんだぞ!!』

“数えてたんだ。すごい” って思った。

 そんなに大事な事なのか?SEXは?

 三回目の結婚は、良く知ってると思うけど、

 知人の保証人になって、借金まみれで、可哀想になって結婚した。

 悠のお父さん。

 今、考えると、あたしは、あたしの場所を探してたんだと思う。

 あたしのいる場所。

 あたしのいる意味。

 必要としてくれる人。

 三度目の夫とは、努力してSEXした。

 SEXは我慢するもんだって、思ってたから。

 でも、だんだん耐えられなくなってきた。

 悠を産んだら、出来なくなった。

 借金が少なくなって、余裕が出来たら、夫に女が出来た。

 ラッキーって思った。

 借金もなくなったし、別れたの。 円満に。」


あたしはなんだか、映画をみてるような気分になった。

しかし、この話は、目の前の姉に起こった、現実の話だ。


 姉がとても、いとおしく感じた。

 いつも明るく、バカな事ばっかりしてる姉を、とてもいとおしく思った。

 涙が出そうになった。抱きしめてあげたかった。

 でも、それは、姉に失礼な気がして、平気な顔を装っていた。



 夜もずいぶん更けてきた。

 紙パックの焼酎も底をついた。

あたしは奥から、とっておきのブランディを出してきた。

「あら~。いいのがあるじゃない。飲んじゃっていいのー?」

 姉はうれしそうに、冷蔵庫から、氷と水をかかえてきた。

 あたしと、自分の水割りを薄くつくり、ゆっくりと語りだした。


「吉岡さんは、初めの夫に少し似てる。

 一年ぐらい前から、SEXする関係になったの。

 びっくりした。 イヤじゃなかった。気持ち良いの。 

 そのうち、イヤになるんじゃないかって思ったけど、今のところまだ大丈夫。

 でも、怖くなってきた。

 イヤになるんじゃないかって。

 ずっと一緒にいたらイヤになるんじゃないかって。

 だから、逃げたの。 イヤになる前に。

 吉岡さんの事が好きだからじゃなく、あたしの体質が変わったから、

 SEX出来るようになったんじゃないかって思った。

 でも、宮本さんとは、出来なかった。

 絶対にイヤだった。

 やっぱり、吉岡さんのことが好きだってきずいた。

 今更おそいけど・・・

 吉岡さんに、『他の男に走ります。』って言っちゃった。

 バカだなぁ。あたしって・・・

 もう、とりかえし、つかないけど・・・」


 姉は少し、泣いた。 声を出さずに。 静かに。

 そして、そのまま、眠ってしまった。

 姉の体は、小さく、細く、とても弱弱しく見えた。




           5へ・・・・


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