エジプト生活 6





ある日、仕事場でめずらしく真面目に研修資料なんぞを作っていると、いきなり部屋に二人のおばちゃんがテレビをエッホエッホと運びこんできた。そうしておもむろにわしの前にテレビを置くと、ニッコリ笑って「ああ、よかった。ここに日本人のエンジニアがいると聞いて、我が家のテレビを直してもらおうとはるばるやってきたのだ」と言った。
ちょっと待っておくれ。え?話がよくわからないんですけど。
「このテレビはTOSHIBA、日本製よ」
はい。それはわかりますけど・・・。おいらコンピューターエンジニアなんですけど・・・。
しかし、おばちゃん達のヒタイから流れ落ちる玉のような汗、期待に満ちた目、そして漂う安堵感。やめて!そんな目で見ないで!。

ここでエジプトのテレビ事情を説明せねばなるまい。
おいらの部屋にも最初、テレビがあった。前任者が買ったものをそのまま貰ったものだ。しかし見ても全然言葉がわからないし、CMぐらいしか楽しめなかった。
前任者が「任期が終わったらテレビはラガップさん(友人)にあげてね」って言われていたのだが、わしの当時の感覚ではセカンドテレビとしてあげる、と勝手に思い込んでいたのだ。
初めてラガップさんの所に遊びに行ってびっくり。テレビ無いじゃない。寝たきりの両親が「 おしん 」(←当時エジプトで放送され大流行。子供に おしん って名前をつける人もいたとか)を見たいのでテレビが貰える日を楽しみにまっている、と聞いてまたびっくり。で、すぐに「わし見てないから持ってっていいよ」とあげたのであった。
聞いたところでは、テレビはエジプトではまだまだ高価で、みな「サウジアラビア」に出稼ぎに行ってテレビを買って帰ってくるのだそうで、いわばテレビは一家の家宝。
で、それが壊れたといって、町の電気屋さんに持っていっても高額な修理代を取られる上、まず直らない、らしい。

で、今目の前に来ている二人は、どこから聞いたか知らないが「日本のエンジニアがいる」という情報を頼りに、はるばるテレビを運んできたってわけなのだ。

うーむ、困った。
つうか、一応ココ、国の機関でしょ?なんでテレビを抱えた一般市民がオフィスまで入ってきてるの?誰か止めようよ。

しかたなく、ドライバーを取り出し、とりあえずテレビのカバーを開ける。じっと期待全開の目で見守るおばちゃん達。
すまぬ。100%直せないオイラだ。ゆるせ。

一通り見て、「やはり買ったお店に修理を頼んでね。部品が無いと直せないのだよ」と言った時のおばちゃん達の悲しい顔。
すまぬ。
しかしもう一度言わせておくれ。
「わしゃコンピューターエンジニアぢゃ!」


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