エジプト生活 23








エジプト生活も終わりに近づいてまいりました。
滞在期間が残り一ヶ月を切り、借りていたフラットを出てホテルに移ることにしたのであります。

フラットを引き払うにあたり、避けられないのがマダム・ホダとの対決。
マダム・ホダとは、そのフラットのオーナー。
すなわち大家さんなのですな。
このババァ(失礼)が実にやっかいなのだ。
それまで、何度も突然たずねてきては
「息子が大学に合格した。お祝いのお金が欲しい」だの、
「母親が入院した。入院費を少し負担してほしい」だの、
俺、全然関係ないぢゃん! 的な金の請求をするババァ(失礼)だったのだ。
その際、わしは玄関で靴を脱ぎ、裸足で生活するっていう日本スタイルで暮らしているにもかかわらず土足でづかづか入ってくるわ、タバコ吸って灰は床に全部落とすわと、やりたい放題。
さらには、自宅で不要となったでっかい家具を、「この部屋に置くことにした」
と何の連絡も無く運び込んできた事もあった。
わしは、いずれもキッパリ断り続けてきたのである。
その為、わしとマダム・ホダの間には一触即発の緊張感ある関係が構築されていたのである。

荷物をすべてホテルに移し、いよいよフラットの確認日がやってきた。
マダム・ホダが法外な修繕費を請求してくるであろうことは容易に想像できたので、対抗策として、おいらは友人に来てもらっていた。

マダム・ホダは、子分一人を引き連れやってきた。
(「 千と千尋の神隠し 」を見たことがある人は、「湯ばーば」を思い出して下さい。
あんな感じのババァ(失礼)なのです。)
yuba-ba

そのババァ(失礼)、挨拶もナシにずかずかと部屋に入ってくると、すばやくスルドイ眼光を部屋の四方にそそぐ。
そうしてスッと息を吸い込むと、マシンガンのように言葉を乱射し始めた。
「ハイ、壁紙は全部張り替え!」
「家具にキズがついている。買い替え!」
「カーテンが汚れている!取替え!」
「ソファがやぶけている!買い替え!」

わしと友人は最後まで黙って聞く。そうしてはじき出された請求額はなんと
日本円にして50万円近く。
冗談ではない。本気でいっているのだ。このババァ(失礼)は!

さて、こちらの番である。

「わしは前任者から部屋を引き継いだが、前任者からそのような修繕の義務があるとは聞いていない。契約書があるなら見せて頂こう。」

マダム・ホダの顔が鬼の形相になる。
「契約書なんてない!!!!。とにかく払え!」と怒鳴るように言う。

実にむかつくババァ(失礼)だが、カッっとしたら負けだ。冷静に。冷静に。

「契約書がないのであれば、それを払う義務は無い。そもそも、汚れにせよキズにせよ、わしが作ったものではない。最初からそうだったのだ。」

マダム・ホダはとうとうガターンと椅子から立ち上がり、怒鳴りだした。
「払わないつもり!?払わないとどうゆうことになるかわかっているの!?私の夫は警察所のトップなのよ!!!!」

わしは言う。「OK。それならば警察にきてもらうべきだろう。ラガップさん(友人)、警察を呼んでおくれ」

そうしてラガップさんが電話を手にした時、マダム・ホダの表情がこわばった。
「・・・・・・ノー。警察に電話はしないで・・・」
ニヤリ。この勝負、勝った!

マダム・ホダはうつむいて、搾り出すようにつぶやいた。
「わかった。払わなくていい・・・・・。そのまま出て行っておくれ」

わしは少し気の毒になり、修繕費として妥当と思われる日本円にして1万円相当くらいのお金を置いて、フラットを後にしたのだ。

実は、友人との事前に作戦会議を行ったのだ。
友人が言うには「エジプトでは外国人に部屋を貸す場合、役所に届けなければならない。
しかし、そうすると税金(だったかな?)をたっぷりとられるので、マダム・ホダは届出をしていない。
だから、最悪警察に届けると言えば折れるはずだ」との事だったのだ。

作戦通り、勝った!
ホテルに入り、友人とがっちり握手。
ビールで祝杯をあげたおいらであったのだよ。
さらばマダム・ホダよ。
呪いの魔法をかけられなかったかだけが心配。


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