灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

第十二話


「あたしはジェリー!」
そう言って十勝の枝豆のようにはじけて飛び出してきた2匹の猫。
あたしの前でもまだ仲良くケンカ中。
ふと「トム」と名乗った灰色猫があたしに向き直った。
「羽衣音お母さんは元気?」
「あたしたち、羽衣音お母さんに育てられたのよ。」
あたしと同じ茶色い「ジェリー」も負けずに言った。
羽衣音農場のあの古い家で、あたしの何年も前にこの2匹も生まれたらしい。

あたしたちは最初は5匹だったけれど、本当のお母さんが育児放棄して、結局残ったのはあたしたち2匹だけだったの。
そっと見守ってくれていた羽衣音お母さんは慌てたたけど、僕たちもまだ目もよく見えないころで、お母さん猫をあたしたちのいる箱の中に入れてコンテナをかぶせて閉じこめ、無理矢理授乳させたりしたっけ。
その内に離乳食が食べられる様になって、羽衣音お母さんがお世話してくれたの。
「トム」と「ジェリー」って名前も羽衣音お母さんが付けてくれたのよ。
あたしたちも少し大きくなって、箱を出て、古い家の中を駆け回るようになったある日のこと。
羽衣音お母さんは僕たちのために、物置同然に散らかっていたその場所を片付けてくれたの。
あたしたちは箸が転がってもおかしい年頃で、ちょろちょろ動く羽衣音お母さんの足にじゃれつきたかったけれど、羽衣音お母さんがあたしたちのためにやっていることが判ってたから、邪魔にならないようにじいっと見ていたの。
羽衣音お母さんは汗ばみながら本当に一生懸命やっていたから、僕たちも何か出来ることはないかと思って話しかけてみたんだ。
「ねえ、何してるの。僕たちも手伝うよ。
それ終わったら遊んでくれるよね。
ねえ、お母さん。」
羽衣音お母さんの足下にきちんとお座りして、足を揃えて少し小首を傾げて。
羽衣音お母さんが言ってくれたら、あたしたちお手伝いするのよ。
そう思った僕たちに、羽衣音お母さんは一瞬とても驚いた表情をして、そして笑ってくれた。
笑ってあたしたちを抱き締めてくれた。

その後、僕たちはちょっとした冒険のつもりが思わぬ家出に発展してしまい、近所の農家の庭先でうずくまっているところを発見され、その家から里子に出されたんだ。
それぞれの家であたしたち、可愛がられて幸せよ。
だからどうか羽衣音お母さんに伝えて。
あたしたちを育ててくれてありがとう、って。



ぐれちゃおうかなぁ.jpg


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