灰色猫のはいねの生活

王様のさがしもの

元気にしていたかね。
ご飯はたくさん食べたかね。
今日は何をして遊ぼうか。
ええ？
何故私が子供達のことを光と呼ぶのかって。
じゃあ、今日はそのお話をしてあげようか。

昔々、まだ私のひげが黒くぴんとはねていたころの話じゃよ。
私の国は青い海と山に囲まれたそうれはもう美しい国じゃった。
私はきれいな物が大好きで、毎日きらきらの金貨を数えたり、ぎらぎらの銀のスプーンをみがいたり、ぴかぴかの宝石をながめたりして上機嫌じゃった。
その日も朝から金貨を１枚ずつお日さまにかざしながら数えっておった。
ほら、見てごらん。
お日さまに反射して、金貨はきれいに光り輝くだろう。
ところが、この金貨を袋に入れるととたんに光は消えてしまう。
ろうそくに炎を灯して銀のスプーンをみがいても、その時はきれいに光り輝いているが、戸棚の引き出しにしまうととたんに光は消えてしまう。
夜のお月さまに宝石をかざすと冷たく光り輝いているのに、宝石箱の中に置くととたんに光は消えてしまう。
いったい光とは何だろうと私は思ったのじゃ。
本当にきれいな物は金貨でも銀のスプーンでも宝石でもなく、光そのものではないかとな。
そうして私は光そのものが欲しくなったのじゃ。
ところが、どんなにたくさんの金貨でも光は買えるものではない。
どこにも売ってはおらんからな。
そもそも光とは何なのか、私自身にもわからない。
そこで私はおふれを出したのじゃ。

【王さまのおふれ】
◎光をつかまえたものには袋いっぱいの金貨をあげよう。

おふれを見たたみんなは、一生懸命考えた。
いったい光とは何だろう、どうしたら光をつかまえられるのだろう、とな。
すると海辺に住む漁師がこう言ったのじゃ。
「光とはお日さまのことじゃあないだろうか。いつもお日さまが顔を出す海の彼方で待ち伏せしよう。」
漁師はまだ夜の明けないうちに大きな網を持って舟に乗り、海の彼方目指して一生懸命こいで行った。
けれども、こいでもこいでも海の彼方ははるか遠く、とうていたどりつくものではない。
そのうち明るくなって待ち伏せする間もなく、とうとうお日さまがにっこりと顔を出した。
漁師はお日さまに向かって力一杯網を投げたが、魚達のように網にはかからない。
「金貨はもらえなかったか。」
がっかりした漁師が海辺に帰るために舟をくるりと回すと、どうしたことか。
海がきらきらと光り輝きだしたのじゃ。
舟の周りをすいすいといきおいよく泳ぐ魚達のうろこが、お日さまの光りに反射して力強く光り輝いていたのじゃよ。
「何てきれいに光り輝いているんだろう。」
猟師は光をつかまえることも、金貨のことも忘れて見とれていたそうじゃ。

さて、なかなか光をつかまえたと来るものがいないので、私はまたおふれを出した。
【王さまのおふれ】
◎光をつかまえたものには袋いっぱいの金貨と箱いっぱいの銀のスプーンをあげよう。

おふれを見たみんなは一生懸命考えた。
いったい光とは何だろう、どうしたら光をつかまえられるのだろう、とな。
すると町に住む商人がこう言ったのじゃ。
「光とは炎のことじゃあないだろうか。炎をつかまえて袋に入れてみよう。」
商人は持っているだけのろうそくを出して火をつけた。
まず一つ、赤々と燃える炎を手でつかまえようとしたのじゃが、熱くてとうてい出来るものではない。
それでもがんばって、えいっと両手でつかむと炎はたちまち消えてしまった。
今度は袋をろうそくの上からかぶせてみたのだが、袋がちりちりと燃えだして、あわてて火を消した。
紙や布や、水まですくえる皮の袋までも試したが、みんな燃えてしまう。
「金貨と銀のスプーンはもらえなかったか。」
がっかりした商人がろうそくの炎を残らず消すと、とたんに部屋の中は寒々としてきた。
するとどうしたことか。
暖めるため、食事を作るためにいつも燃えている暖炉の炎が、ぱちぱちと暖かく光り輝いていたのじゃよ。
「何てきれいに光り輝いているんだろう。」
商人は光をつかまえることも、金貨と銀のスプーンのことも忘れて見とれていたそうじゃ。

さて、ぜんぜん光をつかまえたと来るものがいないので、私はまたまたおふれを出した。
【王さまのおふれ】
◎光をつかまえたものには、袋いっぱいの金貨と箱いっぱいの銀のスプーンととにかくいっぱいの宝石をあげよう。

おふれを見たみんなは一生懸命考えた。
いったい光とは何だろう、どうしたら光をつかまえられるのだろう、とな。
すると山辺に住む猟師がこう言ったのじゃ。
「光とはお月さまのことじゃあないだろうか。山のてっぺんに登ってお月さまをつかまえて来よう。」
猟師は朝早くから自分の背丈よりも長い棒を持って山に入った。
草むらをかきわけ、林の中をつき進み、岩を登ってようやく辺りがうす暗くなったころ、山のてっぺんにたどりついたのじゃ。
そのうち、まんまるなお月さまが山の上にぽっかりと顔を出した。
けれどもお月さまはあんまりにも空高く、猟師がどれだけ手をのばして棒を振っても、とうてい届くものではない。
「金貨と銀のスプーンと宝石はもらえなかったか。」
がっかりした漁師がしょんぼりと帰ろうとすると、夜のやみは暗く辺りに忍び帰り道を隠している。
がさごそと何かが動く音だけが不気味に耳に響いた。
恐ろしくなった猟師ががたがた震えていると、どうしたことか。
お月さまの光りがすうと夜道を優しく照らしたのじゃよ。
あちこちの草むらには、ウサギやきつねや鹿がお月さまの光りををうっとりと眺めておった。
「何てきれいに光り輝いているんだろう。」
猟師は光をつかまえることも、金貨のことも忘れて見とれていたそうじゃ。

さて、それでも光をつかまえたと来るものがいないので、私はとうとうこんなおふれを出した。
【王さまのおふれ】
◎光をつかまえたものには、袋いっぱいの金貨でも箱いっぱいの銀のスプーンでもとにかくいっぱいの宝石でも、何でも好きなものをあげよう。

何でも好きなものと言われても、かんじんの光とはなんだろう。
どうしたら光をつかまえられるのだろう。
もうみんな、考えることも出来なかった。
すると旅の途中の若い夫婦がおふれを見てこう言ったのじゃ。
「光をつかまえたわけではないけれど、光り輝くものなら知っているし、何よりもこの腕の中にある。こんなにおふれを出すのだから、１度王さまにごらんにいれようか。」
そうして若い夫婦は、腕の中の光り輝くものを大事に抱えながら、お城へやって来た。
「とうとう光をつかまえたのか。」
わしは喜んだ。
ようやく光が手に入るのかとな。
しかし
「いいえ、光はつかまえられるものではありません。」
「私達は光をさずかったのです。」
などと若い夫婦は言うのじゃ。
いったいこの２人の光とは何なのか。
「その光を見せてくれ。」
私はどきどきしながら若い２人の腕の中に、大事に抱えられているものをそっとのぞきこんだ。
すると…。
「おんぎゃあ。」
何と、それは若い夫婦の赤ちゃんだったのだ。
「これが光か。」
私は驚いた。
「そうです。これが私達２人の光です。神さまからさずかった、何よりも大切な、かけがえのない光です。」
力強いお父さんと、優しく暖かいお母さんの腕の中で、確かに赤ちゃんは光り輝くように笑っている。
赤ちゃんの笑顔を見た私は、きんきらの金貨を数えていた時よりも、ぎんぎらの銀のスプーンをみがいていた時よりも、ぴかぴかの宝石をながめていた時よりも、幸せな気分になったのじゃ。
「確かに光だ。」
私はうんうんとうなずいて、おふれのとおりに何でも好きなものをあげようと言うと、若い夫婦はこう願った。
「私たちはずっと旅をして来ましたが、この国には光り輝くものがたくさんあります。青い海の魚達や、暖かく便利な暖炉の炎や、緑の山の動物達です。私達の子供が、ずっと光り輝いていられるように、この国に住まわせて下さい。」
私は喜んで２人の願いをかなえてあげた。
そうして国中の光のために私は金貨や銀のスプーンや宝石を惜しげもなく使うようになった。
お腹をすかせた子がいないように、寒さで凍えた子がいないように、暑さで病気になる子がいないように、学びたいことを諦める子がいないように、みんながいつまでも光り輝いていられるようにとな。
すると、少なくなった金貨や銀のスプーンや宝石よりももっと光り輝くものに囲まれて、私の国はより豊かになったのじゃ。
さあ、これでお話はお終いじゃ。
次は何をして遊ぼうか。

子供達はみんな光り輝いています。
そうして、光は見つけようと思えば、いつでもどこにでもあるものなのです。
もちろん、あなたのそばにも、あなたの中にもね。

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