漆黒のツバサ
聞こえるものは、誰かの叫び。
ほら、また一つ 悲劇が繰り返される・・・
―― 漆黒のツバサ
―はらり、と
静かに俺の前に舞い落ちた・・一枚の黒い羽。
空を見上げれば、黒い鳥が何羽か飛んでるし。
きっと鳥の羽だろう。
「翼!!一緒に帰ろうぜ―!!」
大袈裟に手を横に振りながら、こちらに駆けて来たのは、
・・あぁ、やたら俺に付き纏ってくる、桐谷 竜。
俺は手に持っていた羽をその場で捨て、
そいつを無視して早歩きで歩く。
「・・なんだよ―無視？？何か言えよ―」
後ろの方で桐谷は何か言っている様だが、
俺はそんな事は気にせず、歩き続ける。
黒羽 翼（ｸﾛﾊﾞ ﾂﾊﾞｻ）。
俺の名前。
誰も信じる事が出来ない・・人間不信ってやつか。
いや、信じようとする気も無い。
俺がまだガキの頃、両親が事故って死んだ。
周りからは酷いほどの同情の目。
別に同情なんてして欲しくもない。迷惑。
だから俺に近づく奴を突き放して。
一人で居た方が・・・マシなんだ。
「・・っおい!!翼―!!!」
・・桐谷は懲りずに、また追いかけてくる。
「・・・うるせぇ。俺に話しかけんな」
迷惑なんだ。
俺に近づかないで欲しい。
俺がそう言った後は、桐谷も懲りたのか、もう何も言わなかった。
家に入ったと同時に、背負っていた鞄を、適当に投げ捨てる。
その衝撃のせいか、鞄の中身が部屋に散らばった。
「・・・・ったく・・」
溜息を吐いて、仕方無く鞄の中身を整理する。
だけどその時、偶然目に入った。
・・さっき捨てたはずの 黒い羽・・・。
「・・・ッ何だよ・・コレ・・」
気味が悪い。
捨てたはずのモノが、また鞄の中に入ってるなんて。
またその羽を、ゴミ箱にでも捨てようか、なんて思ってた時だった。
―ピーンポーン
家のチャイムが鳴り、
面倒だが、出ることにした。
―その羽を 持ったまま。
「・・はい」
ドアを開けてみれば、笑顔を浮かべた・・・桐谷が居た。
「・・何だよ」
俺はあからさまに迷惑そうな顔をして、桐谷を見た。
「・・遊びに来た！」
「・・・・何で？」
いつも笑ってるコイツが、酷く俺には痛かった。
白くて汚れてない・・・心。
「・・だって・・ダチじゃん！」
桐谷は、笑顔を見せて、そう言ったんだ。
・・『ダチ』。そう言った。
「俺はずっと、黒羽の事、友達だと思ってた。」
へへっとでも軽く笑って、確かに言ったんだ・・・
ふと手に目を向ければ、
「・・・白・・・？」
俺の持っていた黒い羽は、
いつの間にか、・・白くなっていた。
「・・あ、その羽綺麗じゃん。拾ったの？」
・・・いつの間にか、俺の酷く汚れた心も、
お前によって洗い流された・・気がした。
俺の前に在った暗闇に、一筋の光が差し込む。
見えるものは、お前の笑顔。
ほら、また一つ、俺の前には一枚の羽が舞う。
end...
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