路傍に咲く華

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一粒の涙。〈最終話〉


救ってくれたのはヒカリの様な君の掌。

 一粒の涙。-5

―『市立総合病院』

手元にあるメモの字と、目の前の建物を比べる。

・・ここが、父の入院している病院。
今日は、母には黙ってここに来ている。


「・・あの、ここに・・桐生隆志、って人・・入院されてますか?」

あたしは、受付の様な所で、病室の場所を聞く。

「・・あぁ、503号室です。案内しますね」
「・・あ、はい。有難う御座います」

軽く頭を下げ、看護士に案内されるまま、ついて行った。

「・・ここです。」

部屋の前に案内されると、心臓の鼓動が速くなる。
・・ここに、父が・・居る。

あたしはゆっくりと部屋のドアを開いた。

「・・・・お父さん・・?」

部屋に入った途端、時が一瞬止まったように感じた。
病室の窓は、風が吹いているのかガタガタと音をたてている。

一歩一歩、部屋に足を踏み入れる。

ベットの前に立ち、そっと頭まで掛けてある布団を、そっとずらす。

「・・・・お父さん・・」

そこには、変わり果てた姿の父が居た。

すっかり痩せこけてしまった体。
弱々しい程細くなってしまった腕。

あの時の、勇ましい父の姿は、何処にも無い。

そんな事を考えていると、何故か悲しくなった。

どうしてかな?
涙が止まらないのは。

どうしてかな?
こんなにも辛いなんて。

あたしは、父を起こさずに、静かに部屋を出た。

ドアを閉めたと思えば、
体中の力が抜けていく。

そしてその場に座り込んで、気付いたら泣いていた。

「・・・っあはは・・ッ・・」

悲しくて悲しくて、仕方なかった。
だからわざとらしく笑って、寂しさって感情を、ひたすら隠して。

・・・馬鹿みたい。

こんなので紛れる訳が無いのに。

これは、 泣いたって 笑ったって 逃げたって 

ずっと変わることの無い、現実。

「・・・どうして・・ッ」

どうして父なの?

世の中にはこんなにも人が居るのに。

「・・・もう・・嫌だよ―――」

これも、あたし自身の、運命(サダメ)。

暗闇の中
誰かが手を差し伸べてくれる訳でもない。

誰も居ない病院の廊下

あたしはずっと、泣き崩れていた。


――それからも、あたしは毎日、病院に通い続けた。

顔を合わせる訳でもない。
ただ、父が寝ている間、様子を見たり、花を変えたり。

でも、本当はすごくすごく辛かった。

日に日に弱っていく父の姿が、もの凄く痛々しく見えて。
たまに病室で、何度も涙を零した。

―そんな、ある日の事だったんだ。

また今日も、病院へ行く。

でも、今日は・・いつもと違うことが在ったんだ。

ゆっくりと病室のドアを開ければ、
壁に寄り掛かり座っている、父の姿があった。

・・今日は、起きてたんだ――

「・・・理恵・・?」

弱々しい、掠れた様な声で、あたしを呼ぶ声がした。

「・・お父さん」

あたしは、ゆっくりとベットの方へ近づく。
すると父は、辛そうな表情を見せながらも、少しだけ微笑んだ。

「・・いつも、来てくれて、たんだろ・・・?有難うな・・・」

・・・気付いてたんだ。

「・・ううんっ全然だよ!!」

流れそうになる涙を、ひっしに堪えて、父を見た。

「そうか・・・・・・」

すると父は、少し悲しげに窓の方を見て、こう言った。

「・・もしも俺が居なくなっても、しっかり生きるんだぞ」

―――もしも・・居なくなったら・・・?

「・・な、なーに言ってんの!!!お父さんはまだ居なくならないよ!」

わざと明るめの口調で、話し続ける。

「・・じゃ、もう時間だから・・帰らなきゃ!!!」

あたしは軽く手を振って、ドアの方へと足を進めた。
その時、父が何か呟いたのが、聞こえた。

「・・道を、踏み外さない様にな・・・・・・・」


あたしは何も無かったかのように、部屋を出た。
その言葉だけを、しっかりと頭の中に焼き付けて。
父のこの言葉が、後にあたしを救うことになるなんて、まだ知らなかった。


――もしもこの時。

何かを予感して戻っていたら・・
     あんな事にはならなかったのかな・・・・?



――とても嫌な 夢を見た。

だけど・・とても懐かしいようで
     とても悲しいようで

不思議な 夢。

『・・待って!!!』

一人 出口なんて見えない、真っ暗な場所に取り残される
ほとんど霧で隠れた誰か、の後ろ姿。

『・・待ってよ!!芽衣・・・』

それは、芽衣だった。

芽衣は涙ぐんだ瞳で、こっちを見て、こう呟いた。

『・・・裏切り者・・!』

その言葉が、酷くあたしに突き刺さる。
あたしは、芽衣を―――・・・・

その途端、芽衣は前を向いて、ただ前へと走っていった。
あたしだけが、その場に取り残される。

でも、下を向いて、ただ呆然としていたあたしの前に、
手を差し伸べてくれた人が・・・居た。

『・・・立って』

顔は良く見えない。
だけど、何処か懐かしく

何処か 聞き覚えのある声が、した。


「・・・理恵?」

気が付けば、ここは学校。
そして目の前には、草野。

「・・あっゴメン・・。で、何・・?」

草野はあたしを見て、一つ溜息を吐いて。
そしてまたあたしに話し始める。

「・・だから、コレッ!!!」

あたしの前に、差し出されたのは・・・

 お守り。

これは、芽衣のものだ。

・・・でもコレは。

『・・これねぇ、死んじゃったお婆ちゃんの形見なんだぁ・・・』

悲しそうな表情を見せながら、あたしに見せてくれたもの。

「これ・・浅田の大切なやつなんだって。
 だからさぁ、これを何処かに捨てれば、アイツ・・困るでしょ・・?」

残酷な笑みを浮かべ、草野はあたしにお守りを手渡す。

「・・そうだなぁ、・・あ、あの裏の池はどう??」

草野に続けて今野が言う。

「・・まぁ、それでいいよ。じゃあ理恵こっち来て!!」

あたしは、草野に腕を引っ張られ、仕方なくついて行った。


学校の裏の池。誰も手入れしようとしないから、かなり汚れている。

「じゃあ理恵、ここに捨てて!」

草野は池を指して、あたしに言った。

・・・・これを・・捨てるの?

――『これ、すごく大切で・・私の宝物なんだ』――

芽衣の顔が、浮かんだ。

・・・出来ない・・

「・・早く!・・やらないんだったらアタシに貸して!」

草野は、あたしの手から無理やり、お守りを奪った。

――『道を、踏み外さないように様にな』――

ふと、父の言葉を思い出した。

駄目だよ。
今、これがいけない事って分かってる。
これ以上、道を間違えないように・・!!

「・・だっダメ!!!!」

あたしは、草野達が捨てようとするのを、止めた。

「・・何すんだよ!!邪魔すんな!」
「・・それは・・芽衣の大切なものなんだよッそんなの・・間違ってる!!!!」

すると草野達は、諦めたのか、お守りを持っている方の手を下ろし、口を開く。

「・・・あんた、いい友達を持ったじゃん?」
「・・・え?」

まさか、草野の口から
       この虐めの真実を知ることになるなんて―

「浅田がアタシ達に言ったんだよ。お前が虐められてんの知って。
 私はどうなっても良いから・・・理恵を傷つけるのはもうやめて・・・って。」

・・・・・・・・え・・・

「浅田が虐められるようになったのは、
       お前が原因なんだよ――――――」

頭の中が、真っ白になった。

・・ぇ・・?

芽衣が虐められるようになったのは、
全部、全部・・・

「・・あたしを、守る為・・・?」

悔しい。
なんでもっと・・・

彼女はあたしを守ってくれたのに。

あたしは・・芽衣を・・守れなかったんだ―――

自分が、本当に情けなく感じた。

あたしは、お守りを握り締めて、校舎の方へと走っていった。
後ろからは、草野達の声が聞こえる。
でもあたしは、そんなのは気にせず、ただ走り続けた。

「・・・ッ芽衣!!!!!!」

教室に入れば、あたしは大声で芽衣を名前を呼んだ。
一斉に皆が振り返る。

「・・・・理恵」
「話があるのっ・・・こっち来て!」

あたしは、芽衣の腕を引っ張る。
けど芽衣は動こうとしない。

「・・・芽衣?」

あたしは、芽衣の顔を覗き込む。

「・・・き・・・」

芽衣は、目に涙を溜めて、重そうな口を開いて言った。

「・・嘘吐き・・!
 裏切らないって約束したのに・・・・」

芽衣は大粒の涙を零している。

「・・芽―――・・」
「呼ばないでッ!!!」

いきなり芽衣は、声を張り上げる。
そして、あたしを睨み付けた。

「名前を呼ばないでよ・・!!
 私、ずっと理恵が私に微笑んでくれるの・・待ってたのに・・!!

 ・・・・酷いよ――――・・・・・・・」

「ごめんね・・・・」

あたしは、その後もずっと「ごめん」と繰り返すけど、
芽衣は許してくれる事も無かったんだ。

人の心って、傷付きやすくて
脆くて・・・・

友情も、そうでした。
簡単に裏切れて
簡単に崩れてく

結局、あたし達の絆は、浅かった事に気付いたんだ――


でも、この間に・・・

家ではもっと深刻な問題が 起きていたなんて――――


――プルルルルルル・・・

誰も居ない家に、電話の音が鳴り響く。

「・・もしもし・・」
『・・あっ・・理恵!?』

電話は、母からだった。
・・それにしても、やけに電話の向こうは騒がしい。

「・・お母さん?どうしたの・・」
『・・ちょっと、早く病院に来て!!!お父さんがっ・・・・・・・・・・・』

―・・・え?

よく内容なんて理解出来なかった。
だけど気付いたら、体は走り出していた。


「・・お母さんっ・・?」

父の居た病室のドアを開ける。
いつもは静かだった病室も、
たくさんの人が居て、涙を流していた。

・・・・なんだろう。
嫌な予感がして。

大勢の人を掻き分けて、ベットの前に立つ。

何だ。
お父さん、いつも通り・・寝てるだけじゃない。
なのに、どうして皆・・泣いてるの??
父の頬にそっと触れると、
・・・・氷の様に冷たかったのを・・憶えてる――

「・・理恵・・・・・」

名前を呼ばれて、後ろを振り返ると、
目が真っ赤に腫れた、母が居た。

「・・お父さん、今朝・・・亡くなったの・・・・・・・」

・・・・・・・・・え・・?

何言ってるの。
こんなに体は冷たいけど・・
死んでいる訳がない。

生きてるよね・・・

今にでも目を覚まして、「理恵」って呼んでくれそうなのに。
どうしてですか。

「・・や、だなぁ・・お父さんが・・死んでる訳ないじゃん・・」

頭では、理解しつつあった。
もう、父は・・しんでしまっている事。
だけど、信じたくない。

現実・・逃避・・・

理解してても、口では違うこと言って。
現実からひたすら逃げようとする。

そうなんでしょ?
あたしは逃げているだけで・・。

でも、現実を受け入れてしまったら、
あたし自身が壊れてしまいそうで・・・・

「・・・嘘だ・・っ!!!!」

ただひたすら、涙が涸れるまで・・泣いた。


―その後も、たくさん泣いたけど、

泣いたってお父さんが帰って来る訳じゃない
泣いたって誰かが助かる訳じゃない

泣いても、どうにもならない事だと 気付いたんだ――


母もあれからずっと泣いてた。
きっと、離れたくなかったんだと思う。
離婚だって、したくてしたんじゃないと思う。

だけど、思い通りにいかなくて、崩れちゃったんだね―――・・・・・・



――見慣れた町並み。

その中をただ黙々と歩くあたし。

・・ここは、あたしが引っ越す前の、町。

どうしてもここで、やらなければいけない事があったのに、
ようやく気付いたんだ・・・・・

「・・家変わってなければ・・ここだよね、」

茶色の壁の一軒家。
ドアの前に立ち、
少し震えた指でインターホンを押そうとした、時だった。


「・・うちに、何か用ですか・・・?」


後ろから、聞き覚えのある、声がした。

・・この声は、

前に見た夢。

あたしに手を差し伸べてくれた人。
ずっと・・この人を待っていたのかもしれない。

「―――あ・・・」

前は肩まである長い髪だったけど、
あたしが切ってしまって、
今は黒髪のショートヘア。

弱々しい声。

真っ直ぐな瞳。

・・・それは、あたしが何度も傷付けた

・・・・玲の姿。

「・・あ・・、えっと・・・」

声が出ない。

今度こそ
  謝ろうと 思った。

「・・・・・ッご、めんね・・・・」

―――やっと言えた。

何故今までこの一言が言えなかったのか。

そんな自分がおかしく思える。

「ほんとに・・ごめん・・」

ただそう呟くと、いきなり体中の力が抜けて、
地面に座り込んでしまった。

「・・ッごめんね―――」

すると急に涙が込み上げて来た。
自分が情けなく思えて。

なんで彼女を傷付けてしまったんだろう。

「ごめんねっ・・本当に・・ごめんなさい・・」

きっと謝っても許される罪じゃないと思う。
だって、あたしは・・どれだけ彼女を傷付けた?

ほら、きっと玲だって呆れて・・・冷たい目で睨み付けてるよ・・・

すると、あたしの前に、手を差し伸べて

「・・・立てる・・・・?」

あたしは『え?』とでも聞き返しそうになる。
でも、どうして?

あたし、貴方をたくさん傷付けたよ・・・

ふと、差し伸べた玲の手首には、
大きな切り傷があった。

・・・・リストカット。

自殺しようとして、手首を切る事。

きっとそれは、あたしがそこまで玲を・・
自殺まで追い詰めてしまったからかもしれない・・・

それでも玲は、ちゃんと虐めと向き合ってた。
それは・・凄いと思う。

「ごめんね――――・・・」

それからも、ただあたしは、ごめんねと繰り返した。

何度謝っても、彼女の手首の傷が、消える訳じゃない。
何度謝っても、報われる訳じゃない。

でも彼女は、こんな汚れたあたしに、手を差し伸べてくれた。

暗闇の様なあたしの心に、一筋の光が、差し込んだ。


人間って、残酷だと思う。

簡単に人を傷付けて
簡単に人を裏切って
簡単に人を憎むから

傷付けて
裏切られて
傷付けられた

裏切られて、涙流した
傷付けられて、涙流した

でも、その涙で、
あたしは成長する事が出来たんだと思う。

その涙で、あたしは、
行き止まりの道から、
また新たな道を作り出したんだと思う。

だからきっと、闇に落ちたあたしに、
やっとヒカリが差し込んだんだ。

芽衣とはもう、話さなくなってしまったけど、
もう泣かない。

辛い事が在ったって、
いつまでも引きずらない様に。

だから歩き続けるんだ。
止まることも、振り返ることも許されない

過去はもう振り返らずに
ただ未来だけを見ていこう。

ねぇ、空を見上げれば、
あの時と変わらず、夜空一面に星が瞬いていたよ

ねぇ、あたしはあの時より・・少しだけ、ほんの少しだけでも・・

強くなれたかな―――・・・・・


人間って、不思議だと思う。

簡単に人を傷付けるけど、
幸せも与えられるから

簡単に人を裏切るけど、
ずっと信じることも出来るんだって

それを教えてくれたのは、
あの時流した一粒の涙でした―――・・・・・

  end

+あとがき+

やっと終わった―!!!!
これ、某おい森サイトの方で書いていたものを修正したやつです。
そして、相変わらず下手だなぁ。
最後の方てきt(言うな

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