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麗老(5)
雄吉は朝のニュースを見て眠るという生活をしていた。起きるのは正午、パンを一切れと牛乳とコーヒーで朝昼の食事を済ますのだ。 カーテンを開きサッシを開けると春の陽射しが六畳全体を照らし夏のような陽気を感じさせた。掛け布団を跳ねて敷き布団の上で大の字になる。じっと陽射しを体に受けながら、さて今日は何をしょうかと考えるのだ。
雄吉はパチンコもカラオケもしなかった。パチンコ屋の駐車場もカラオケ屋の駐車場も真新しい高級車で占められていた。そんな風景を見て、こうはなりたくないなと思うのだった。がといって何をするかをまだ決めてなかった。
雄吉はゆっくりと起き上がり、朝の支度を済ますとパンを焼きコーヒーを淹れ牛乳を温めた。
今日は町をぐるぐると走って、ドライブをすることにしたのだった。家と会社の往復で町の様子を全く知らないことに気づいたのだった。仕事をしていたときの休日は庭の掃除やら、木々の剪定、壁のペンキ塗り、買い物でつぶれたのだった。郊外に大きな複合ショッピングセンターが出来たの、レジャー施設が出来たのという言葉を聞き流して生きたのだった。先輩の言うように車を買う予定もなかった。定年退職者が車を買うのはどういう事なのか理解のほかであった。そんなに見栄を張る必要はないという思いもあったが、ホームカーを乗っていた人たちが大きな車に乗り換えるのが流行っているらしかった。それをステータスだと言った人がいたが・・・。今ではゴルフに行く人たちも大きな車でなくても恥をかかなくなっていた。そんな時代に大きな車を乗り回すのは退職金が入り今まで我慢してきた裏返しのように思えるのだ。パチンコ屋に乗り付け、カラオケ屋に横付けして何がステータスかと思う心があった。
エンジンを掛けてその音に耳を澄ます、快適な響きが伝わってきた。この分なら後五年は大丈夫だと思った。ハンドルもそんなに遊びが来ていない、クラッチも滑っていない、ガソリンの消費が少し多くなっている程度だ。雄吉は満足して車に乗り込んだ。百メートル道路を西に走った。中央の分離帯が公園になっていて桜が花びらを散らしアスファルトの上に白く敷き詰めた様に広がっていた。車の中は暑いくらいだった。窓を開けて風を入れ頬に受けた。
レジャー施設の周りを走った。子供たちが幼かったら喜ぶだろうにと思った。孫に手を引かれ嬉しそうな顔をして年寄りが入園していた。ショッピングセンターや、あれこれと見て周り時間を潰した。町の様変わりに驚きながら町も生きているのだという実感を持ったのだった。
麗老(6)
「ジュンちゃんかったんだって」
「買ったの」
「生活変わったって」
「変わるんだ」
「変わる変わる元気になって艶々だもの」
「そう、いいな」
「飲むか、話すがどちらかなして」
「ごめん、それで何買ったの」
「でしょう、猫を飼ったの」
「真っ赤なスポーツカーだと思ってた」
「犬か猫でも飼ったら」
「それもいいね」
「貰って来てあげましょうか」
「何でも世話するんだ」
「猫は血圧や心臓にいいそうよ」
「初めて聞いた。犬は・・・」
「心臓と血圧かな・・・」
「飼ってみたいけど、どちらにしょうかと迷うよ」
「猫にしなさいよ、散歩に連れて行かなくていいから」
「決めてくれるの、犬も捨てがたいし、何か犬に悪いような気がするし・・・」
「これでは女性が嫌がるわ」
「いいよ、仕方がないだろう」
「この前の話し・・・」
「なによ」
「いい人紹介するって話・・・」
「その話は・・・なぜ今なの」
「もっと前にと言うの」
「そうでもないけど・・・」
「一人で旅行するより楽しいでしょう」
「優柔不断だから・・・」
「一度結婚に失敗してるのじゃないし、生き別れだからいいでしょう」
「別に、何よ、それ・・・」
「死に別れだと、なかなか心から消えないっていうし」
「そうなんだ・・・」
「ああ、死に別れなんだ」
「いいけど、別に・・・」
「まだ愛してる」
「・・・」
「三十八なの」
「え」
「考えといてね」
最近とみに冠婚葬祭のダイレクトメールが多くなっていた。
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