「トヨタらしい船と言ったら、まず『Fun to Drive』ということで、走りの楽しさを徹底的に追究した。単にスピードが出るだけではなく、操縦安定性や乗り心地、操舵のレスポンスなどを非常に大切にした」
トヨタ自動車は10月10日、新型プレジャーボート「PONAM(ポーナム)31」の発表会と試乗会を開催。冒頭挨拶に立った友山茂樹常務役員はこう話し、「ポーナム31はトヨタのボートづくりの集大成と言っても差し支えない」と強調した。
全長10.5メートル、全幅3.2メートルのそのボートには、トヨタが誇るオフロードカー「ランドクルーザープラド(海外向け)」のディーゼルエンジン2基(1基当たり260馬力)を搭載。最高速度は38ノット(時速約70キロ)とクラストップ級の速さを実現した。その一方で、低ミッション、低燃費、低振動、低騒音の実現を図り、高い強度を誇るアルミ合金を船体に採用することで、快適な乗り心地と高い耐久性を確保したという。
デザインについても、自社のカーデザイナーを起用し、カーデザインで採用している複雑な3D曲面の造形処理のノウハウを取り入れることで、立体的なフォルムと曲線美を追究した。
そのほか、離着岸操作を安全で簡単に行える「トヨタドライブアシスト」や、自動制御で船体の位置や方向を保持する「トヨタバーチャルアンカーシステム」など、操船支援システムに自動車技術を随所に盛り込んだ。
そして価格は、トヨタ得意のコストダウンを進め、2970万円と庶民には高嶺の花ながら同クラスのボートとしては低価格を実現した。「より多くのお客様に海での感動を届けたいと、海のパッセンジャーカーを目指した」(友山常務役員)ボートで、トヨタの自信作だ。
■新しいモビリティを追求するのが使命
しかし、その事業の収益性となると、決して喜べるものではない。トヨタがマリン事業の検討を始めたのは1989年。翌年にマリン事業企画室を設置し、レジャー用ボートの研究開発を始めた。そして、97年にマリン事業部をつくって本格的なボート販売に乗り出した。
当初は15年後をメドに黒字化を達成し、一本立ちする計画だったが、リーマンショックによって、その目論見は狂ってしまった。これまでに販売したボート数は800隻超だが、ここ3年は年間20隻と低迷しており、ピーク時の93隻に比べると約2割。シェアも約6%と、4〜5割のシェアを握るヤマハ発動機と、2位のヤンマーとの差は圧倒的だ。
しかも、トヨタが主力としている国内のレジャー用ボート市場は小さく、年間約300隻。同じ自動車メーカーの日産自動車は、9月に子会社である日産マリーンが15年3月をメドに船艇やエンジンの販売を終了すると発表している。
今回のポーナム31にしても、販売目標は年間15隻、金額にして5億円程度。連結ベースで25兆円の売り上げを誇るトヨタにとって、ボート事業を続けて行く意味はあるのだろうか。
「よくそのことを聞かれるのですが、答えは明快です。陸が車でいっぱいになったら、四方を海で囲まれた日本は海に出て行くしかない。新しいモビリティの可能性を追求するのはトヨタの使命だからです」と友山常務役員は強調し、長期的な視野で事業を続けていくことの重要性を説く。
かつて創業者の豊田喜一郎氏が自動車事業を始めたとき、多くの人間が無謀だと批判した。それが今や世界一の自動車メーカーに成長した。また、住宅事業にしても、赤字が続き、いつまで続けるのかと言われたものだが、25年目に黒字化を達成し、現在トヨタホームとして一本立ちしている。このような歴史を振り返ると、マリン事業も将来花開く可能性もある。今回のポーナム31はそのための一歩なのかも
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