■ ”初めて”尽くしのモデルで狙うはファミリー層
“初めて”尽くしのモデルというわけだが、BMWといえば、低めの車高と「ロングノーズ」とも呼ばれる長いボンネットに特徴を持つデザインの、セダンやクーペのイメージが強い。そうした車に親しんできた往年のファンにしてみれば、このアクティブツアラーには少々複雑な思いを抱くかもしれない。
だが、BMW日本法人のペーター・クロンシュナーブル社長が「まったく新しい顧客のグループを狙っていく」と語るとおり、ビジネスの拡大には新規開拓が欠かせない。
そこで注目したのが、「プレミアムコンパクト」と呼ばれる分野だ。国産車ではトヨタ「アクア」やホンダ「フィット」のようなコンパクトカーはもはや不動の人気を得ているが、ここ数年は高級輸入車でも小型化の流れが進んでいる。そして、その購買層の大部分が、1ランク上を求めて国産車から乗り換えるユーザーなのだ。
小型車での躍進といえば、同じドイツのメルセデス・ベンツが顕著だ。2012年の「Bクラス」、13年の「Aクラス」、「CLAクラス」、14年の「GLAクラス」といった“小型車シリーズ”を相次いで投入。国内販売台数でBMWの後塵を拝した年も過去にはあったが、これらのヒットで突き放し、ベンツの13年は過去最高の5万3731台を記録。一方でBMWは4万6037台だった。
もっとも、BMWにも小型車モデルはある。04年から展開している「1シリーズ」や10年に発売したSUV(スポーツ多目的車)の「X1」が代表的だ。国産車からの乗り換えも多く、購入した客の7割を占めるという。ただ、これらの車では訴求が不十分だった顧客層があった。ファミリー層だ。
今回のアクティブツアラーが主要なターゲットとするのが、週末の行楽などに積極的な家族だという。そしてクロンシュナーブル社長が「競合車」として名指ししたのが、上述のベンツ・Bクラスだ。
一般的な立体駐車場にも問題なく入るというコンパクトな見た目とは裏腹に、車内に乗り込むとその広さに驚く。頭上にしても足元にしても、余裕を持った設計だ。後部座席は前後に動かしたり、倒したりしやすく、通常470リットルの積載量は1500リットルまで拡げられる。荷物が多くなる家族旅行やアウトドアに適しているといえそうだ。
車内空間を確保するために採用されたのが、FFの構造だ。冒頭に述べたとおり、今回アクティブツアラーはBMWにとって初めてのFF車。ドイツ本社で開発責任者を務めたニルス・ボルヒャーズ氏は「コンパクトカーの大きさで最大限の車内空間を確保するには、FFの構造がベストだった」と説明する。FR車であれば、車の前方に置かれたエンジンから後輪に駆動を伝えるプロペラシャフトが必要だが、FF車にはない。これにより、FF車のほうが車内空間を広く取れるのだ。
■ 初めてのFF車だが、BMWらしい走りを実現
ただFR車のみを手掛けてきたBMWにとって、一から開発するのには時間もコストもかかる。そこで活用したのが、傘下にある小型大衆車ブランド「MINI(ミニ)」が持つ技術だった。1950年代に英国で生まれたミニは“元祖FF車”ともいわれる。
今年初めにフルモデルチェンジした新型ミニと、このアクティブツアラーは、共通のFF用アーキテクチャー(基本構造)を用いている。
エンジンやアクスルなど共通のモジュールを持つ基本構造があり、その長さ、高さ、幅を調整してBMWとミニそれぞれのブランドに適用しているという。
とはいえ、両ブランドではそもそものコンセプトがまったく違う。ボルヒャーズ氏は「ミュンヘン本社での開発のルールとして、“どんな形状や駆動方式でも、BMWらしい走りを実現しなければならない”というものがある。サスペンションやシャシーは今回のために新たに開発した」と、ブランドイメージの維持に努めたことを力説する。
BMWとミニを合わせたモデル数は14年現在で32と、この10年で倍増した。「多様化する顧客のライフスタイルに合わせるべく、イノベーションを起こす。これが、BMWの更なる成功に向けたカギだ」とクロンシュナーブル社長は話す。まったく新しいフィールドに踏み込んだ同社の戦略は、吉と出るか、凶と出るか。
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