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2018年10月01日

10月1日は何に陽(ひ)が当たったか?

Styx( スティクス)の6枚目のスタジオ・アルバムで、大手A&Mに移籍して2枚目のアルバム、そして新加入した Tommy Shaw( トミー・ショウ。gtr,vo)が参加した最初のアルバム、" Crystal Ball(邦題: クリスタル・ボール)"がリリースされた日です。

 前作" Equinox(邦題: 分岐点)"が1975年12月1日にリリースされ、大手レーベルのマネージメントによって大々的に活動を期待され、全米ツアーに向けて動き出した矢先、ギタリストの John[ JC] Curulewski( ジョン・クルリュウスキー。gtr,vo)が突如の脱退を申し出たのです。理由は家族との時間が欲しかったこと、JC自身のクリエイティブ活動に専念したいとのことでした。JCは脱退し、その後はSpread Eagleというハード・ロックバンドのギタリストとして活動していくかたわら、息子の所属する野球チームのコーチを担いました。
 残されたメンバーは、後に控えたツアー敢行のため、慌てて後任を探す時間に追われました。当時、地元シカゴで2週間ギグを行っていたMS Funk(前身はThe Smoke Ring)というロック・バンドを注目していた彼らは、そのバンドに在籍して3年目の若きギタリスト、Tommyに視線を集中させました。本作"Crystal Ball"の明記された"Special thanks to"には"" Gary Loizzo ,the folks at Jon's Just Music and to Chick for finding Tommy Shaw"とクレジットされていますが、おそらくこのChick氏なる人物がTommyとStyxを引き合わせたのではないでしょうか。この頃MS Funkは晩期に差し掛かっており、1975年に解散したタイミングでTommyはStyxに加入しました。Styxは美しいコーラスが持ち味のため、JCの後任の第一条件として、ハイ・トーンのヴォーカルを兼ねられるギタリストを探しており、なかでも高音パートのコーラスが必要なヒット曲" Lady(邦題: 憧れのレディ)"のデモ・テープを聴いたメンバーは、加入を快諾、Tommyは正式にStyxのメンバーとなり、ツアーも無事成功に導くことができました。

 こうして、出揃ったStyxのラインナップは、 Tommy Shaw( トミー・ショウ。gtr,vo)、 James[ JY] Young( ジェームズ・ヤング。gtr,vo)、 John Panozzo( ジョン・パノッツォ。drums)、 Chuck Panozzo( チャック・パノッツォ。Bass)、そして Dennis DeYoung( デニス・デヤング。vo,key)のメンバーとなり、その後の黄金時代を現出するメンバーとなっていくのです。その第一弾が本作、" Crystal Ball"です。

 Styxとエンジニアも兼ねるBarry Mrazの共同プロデュースで完成した"Crystal Ball"は、クラシックの名曲のカバーを織り交ぜて、全7曲が聴者に届けられました。収録曲は以下の通りです。
A面(アナログ)
1." Put Me On(邦題: プット・ミー・オン)" DeYoung,Shaw,Young作
2." Mademoiselle(邦題: マドモアゼル)" DeYoung,Shaw作
3." Jennifer(邦題: ジェニファー)" DeYoung作
4." Crystal Ball(邦題: クリスタル・ボール)" Shaw作
B面
1." Shooz(邦題: シューズ)" Shaw,Young作
2." This Old Man(邦題: ジス・オールド・マン)" DeYoung作
3." Clair de Lune(邦題: 月の光)" Claude Debussy(クロード・ドビュッシー)作
 / " Ballerina(邦題: バレリーナ)" DeYoung, Shaw作

 全体的には前作"Equinox"よりはハード・ロック路線が強く、この部分はTommyが関わるA-1やA-4、B-1などで聴かせてくれますが、ドビュッシーの名曲"Clair de Lune"をはさんだB-2とB-3の"Ballerina"の、組曲とも取れる美しい流れとドラマティックな展開の構成は、プログレッシブ・ロック・グループとしてのStyxの本領です。
 JYがヴォーカルをとるパンチの効いた動と、ギター・ソロ後のDennisがヴォーカルをとるメローな静のコントラストが美しいA-1は、数あるStyxの中でも指折りの名曲として気に入っております。アウトロは早送りで締め、間髪入れずA-2が始まります。本作の先行シングルとして、Tommyがメイン・ヴォーカルをとるこの曲は、Tommyの名刺代わりのデビューとなった心地良いロックナンバーで、時には可愛らしささえ感じます。特に"I tell you hello〜"とTommyが歌うと同時にバック・ヴォーカルでDennis、JYの順に"Hello〜"と歌うほのぼのとしたパートは絶品です。この曲はB面に前作"Equinox"の1曲目に収録された"Light Up(邦題:ライト・アップ)"を入れてリリースされ、Billboard HOT100シングルチャートでは1976年12月25日付より36位を2週記録しました。
 A-3はDennidがヴォーカルをとる、色気漂うロック・ナンバーで、JYのギター・ソロも艶めかしく感じられます。そしてこのアルバムの最初のハイライトとなる、Tommy渾身の力作、A-4" Crystal Ball"に入ります。スロー・テンポのロック・バラードで、間奏のDennisのシンセ・ソロ、アウトロのTommyのギター・ソロはいずれも"泣き"が入った感傷的なメロディーで、切なくも美しく、慎ましくもドラマティックな名曲です。この曲はA-1をB面にセカンド・シングルとしてリリースされ、HOT100には惜しくもランクインは逃したものの、圏外のチャートにあたるBubbling Under the Hot 100では109位に相当するセールスでした。しかしその後のベスト盤やライヴ盤に必ず収録されるほど、リスナーにとっては人気と評価が高い楽曲で、Tommyの代表曲となりました。

 B-1はTommyとJYが共作した、ブギーがかったハード・ロック・ナンバーで、Tommyのスライド・ギターが美しく、多少の泥臭さも感じられます。そしてB-2とB-3はDennisがメインの楽曲で、家族や親友を歌にすることの多いDennisは、ここでは実父のことを歌にしています。感傷的なロック・バラードで、アウトロに風の音などを取り入れながら、流れるように入ってくるドビュッシーの"月の光"をDennis風にアレンジしたピアノで静寂な展開へと進みます。
 そして最後のクライマックス、B-3の" Ballerina"へ入ります。前半はゆったりとしたバラードで、途中からの"La La La"と"Wow Wow"の合唱が入るとドラマティックなハード・ロックに転じます。後半のJYとTommyのギター・ソロが美しいインストゥルメンタルは絶品で、このまま長く続いて欲しいと思いながら聴き惚れてしまいます。

 アルバム、"Crystal Ball"は、収録された全楽曲とも非常に聴きやすく、Styxの魅力、メンバーの力量が一瞬にして分かるアルバムです。Billboard200アルバムチャートでは1976年11月27日付の66位が最高ランクで、前作"Equinox"の58位よりは順位を落としたものの、前作に続くゴールド・アルバムに認定され、この励みが次作" The Grand Illusion (邦題: 大いなる幻影。1977)"の成功に繋がっていくのです。"Crystal Ball"は、いわば"The Grand Illusion"の大きな布石となった作品となりました。

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