9月16日のブログ でもデビュー・シングルの" Best Thing (邦題: ベスト・シング )"を紹介して、Styxのデビューまでの経緯を載せておりますが、"Styx I"は 1972年9月25日(諸説あり)にリリースされ、待望のアルバム・デビューとなりました。1973年には日本でもリリースされ、グループ名および邦題は" スタイクス"と表記されておりました。
Styxは1972年2月22日にWooden Nickelレーベル Wooden Nickel(ウッドゥン・ニッケル。活動期間1971-77。RCA傘下)とレコード契約を結び、"Styx I"がリリースされました。Wooden Nickelは1977年にStyxのベスト盤" Best of Styx(邦題: レディ〜スティクス・ベスト)"のリリースを最後に解散しましたが(Styxが1975年に A&Mへ移籍、当時Wooden Nickelのドル箱だったStyxの離脱は大きく、Styxに対して移籍を契約違反として法廷闘争に発展、Styxは違約金を支払うという顛末もありました)、その後親会社の RCAレーベルがこの権利を担い、"Styx I"をはじめ、2作目" Styx II(邦題: スティクス?U。1973年)"、3作目" The Serpent Is Rising(邦題: サーペント・イズ・ライジング。1973)"、4作目" Man of Miracles(邦題: ミラクルズ。1974)"、そして前述のベスト盤" Best of Styx"の計5作品は1980(1979?)年に再発され、RCAからリリースされました。この再発に合わせて、デビュー作は本編で表記している" Styx I"、2作目は" Lady"、3作目は" The Serpent"、4作目は" Miracles"とそれぞれ改題され、ジャケットデザインもすべて他に差し替えられました。
アナログ盤からCDへの、メディア媒体の移行が進んだ80年代、RCAは BMGに売却されましたが(1986年)、1990年頃にはCD化がすすみ、BMG/RCAより、"Styx I"を除いた、上記4作品のCD化が実現しました。4作品のうちベスト盤"Best of Styx"には"Styx I"収録の" Best Thing"と" What Has Come Between Us"が選曲され収録されたにもかかわらず、デビュー作"Styx I"そのもののCD化はなぜか実現しませんでした。
1999年にもBMG/RCAとして"Styx I"を除いた4作品の再発と同時に、Wooden Nickel時代のベスト盤" Best of Styx 1973-1974"をリリースしました。しかし"1973-1974"のタイトルが示すとおり1972年リリースの"Styx I"からは1曲も選曲されていないことから、RCAがまだ権利を残していた1990年のCD化の時はベスト盤"Best of Styx(1977年リリースの方)"に収録された"Best Thing"と"What Has Come Between Us"のみ使用権が認められていたものの、アルバム"Styx I"自体の販売権は所有していなかったらしく、1999年のBMG/RCAでは"Best Thing"と"What Has Come Between Us"の楽曲使用権も無効になっていたことが窺えます。
"Styx I"の原盤権を持っていたのは One Way Recordsという再発に特化したレーベルで、経緯は不明ですが、このレーベルより 1998年にようやく"Styx I"のCD化が施されたのです。そして同じBMGでも子会社である BMG Special Productsも原盤権を得たことで、このレーベルからも"Styx I"がCD化されました。こうして、長らく耳に届かなかったStyxのデビュー作が、CDを通して聴くことができるようになったのですが、日本国内盤はこの時点ではリリースの予定はありませんでした。そのため、輸入盤での購入となりました。これが陽の当たった 2000年12月7日なのです。
その後One Way Recordsは消滅し、2016年には、"Styx I"は Universal Music Group( UMG)傘下である Universal Music Enterprises( UMe)からついに日本国内盤CDがリリースされることになりました(再発とベスト盤に特化した、UMe傘下の Hip-O Recordsからリリース)。"Styx I"の日本における初めてのCD化リリースとなり、1973年にLPとしてリリースされて以来、43年ぶりのデビュー盤の再来となり、当時の"スタイクス"名義での帯ラベルを添えた、懐かしい形でのリリースとなりました。またWooden Nickel時代の他の作品も同時に日本国内で再々発されました。
以上のことから、"Styx I"がまずは本国アメリカでCD化されるのに非常に時間がかかり、日本国内盤がCDとしてリリースされるまでも気の遠くなるような時間を要したわけですが、自分が輸入盤CDが発見できたのは1999年当時の海外ネット通販で、現在のようにネットから試聴もできたりしていたのですが、"Styx I"を発見した時は非常に喜んだものの、これまで自分の中で聴くことができなかった幻のデビュー盤をようやく試聴できると思いきや、当時の通販サイトは、他の作品は視聴できたにもかかわらず、なぜか"Styx I"の試聴だけファイルが損傷していたのか、全然聴くことができず、買うまでは音源自体がわからない状態でした。
これが余計に神がかった印象を持ってしまい、しかも当時買おうとしたのは"One Way Records"の方で、後にも述べますがジャケットは1980年再発時の差し替えられた方でした。しかし届いたのはBMG Special Productsの方で、デビュー当時のジャケットでしたので、さらに超常的な魅力を持ってしまいました。手に取って当時のCDデッキから聞こえてきた音源は、自分が勝手に想像していたStyxの原点を大きく覆す、素晴らしい作品でありました。
"Styx I"の制作にあたったラインナップは、 John Panozzo( ジョン・パノッツォ。drums)、 Chuck Panozzo( チャック・パノッツォ。Bass)、 Dennis DeYoung( デニス・デヤング。vo,key)、 John[ JC] Curulewski( ジョン・クルルウスキー。gtr,vo)、 James[ JY] Young( ジェームズ・ヤング。gtr,vo)の5人です。Styxの初レコーディングは紛れもなくこの"Styx I"なのですが、デビュー前、まだ Tradewinds ( TW4 )のバンド名で活動していた彼らの初レコーディングとして、Destinationレーベルから1966年にリリースされた、“Oop-Oop-a-Doo/Floatin'”が挙げられたものの確証はなく、サーフィン・サウンドを特徴とするThe Cambridge Fiveのメンバー、Chuck Francour(piano,vo。 参考サイト )なる人物が結成したR&BバンドのTradewindsを指すものと思われます( 参考サイト )。いわゆる"New York's a Lonely Town"のヒットで知られる The Trade Winds を含めて、60年代半ばにはTradewindsのフレーズをグループ名に使用したバンドが少なくとも3組存在したと言うことになります。
シカゴの Paragon Recording Studios(運営期間1969-2015)にて、レコード契約する前年の1971年よりカナダ人プロデューサーの John Ryan( ジョン・ライアン。1928–2010)によるレコーディングは行われており、それをキャッチしたWooden Nickelの創業者の一人、 Bill Traut( ビル・トラウト。1929-2014)の目に留まったことで、Bill Trautによるプロデュースも加わりました。Paragon Recording Studiosの設立者である Marty Feldman( マーティ・フェルドマン)と、Foodという60年代サイケデリック・バンドのドラマーをつとめた Barry Mraz( バリー・ムラッツ)がエンジニアをつとめました。
バンド名「Styx」のロゴはRCAレーベル所属ミュージシャンのアートワークを担当していた Acy Lehman( エイシー・リーマン)が手掛け、ダンテによる『神曲』の「the Inferno(地獄編)」を彷彿とさせるアルバム・デザインが、グループ名の「Styx(訳:三途の川)」とよく調和しています。個人的にこのジャケットに写っているJYが少しGuns N' Roses(ガンズ&ローゼズ)のAxl Rose(アクセル・ローズ)っぽく見えて格好いい印象です。当時は髭を蓄えていなかったので全盛期の風貌とはまた異なって見えます。
1980(1979?)年のRCAが再発した時のジャケットはJoseph J. Stelmachがアート・ディレクターをつとめ、Tim Clarkによるイラストによるもので、火山の噴火のように、Styxのロゴが勢いよく飛び出している様を表しているように見えます。前述の通り、初のCD化となった1998年のOne Way Records盤ではTim Clarkヴァージョンのジャケットで、自身が購入したBMG Special Products盤は、初回リリースのジャケットが使われました。
オリジナルとカバー曲をうまくブレンドされ、オープニングを飾る大事なトラックには13分11秒からなる4部構成の長編組曲が収められました。楽曲は以下の通りです。
※2016年リリース時の邦題は原題のカタカナ表記です。
A面(アナログ盤)
- " Movement for the Common Man
"
- a. " Children of the Land"・・・JY作
- b. " Street Collage"・・・John Ryan作
- c. " Fanfare for the Common Man"・・・Aaron Copland作
- d. " Mother Nature's Matinee"・・・JY,Dennis DeYoung作
- " Right Away"・・・Paul Frank作
B面
- " What Has Come Between Us"・・・Mark Gaddis作
- " Best Thing "・・・JY,DeYoung作
- "Quick Is the Beat of My Heart"・・・Lewis Mark作
- " After You Leave Me"・・・George Clinton作
プログレ・ファンにしてみればトラックリストの並びといい、構成と言い、文句の付けようがありません。そしてこのアルバム最大のハイライトとなるのが、オープニングのロック巨編である"Movement for the Common Man"です。1973年の日本でのリリースでは" 平凡な人間のための楽章"という直訳に近いタイトルで、まずは子どもたちに呼びかける "Children of the Land"からのスタートです。
ノリの良いテンポでスタートする"Children of the Land"はJYのリード・ヴォーカルで早くもStyxの世界に引き込まれます。Styxと言えばコーラスの美しさが持ち味ですが、この曲でもサビのコーラスが絶品で大器の片鱗を窺わせます。次の"Street Collage"へつなぐこれでもかと言わんばかりのJohnのパーカッション連打も非常に心地良いです。なおこの曲はStyx最初のTop10入りヒット曲、" Lady(邦題: 憧れのレディ)"のB面として使用されました。
"Street Collage"では効果音も使ってセリフ仕立てでスタートし、子どもに呼びかけたあとは現実の大人社会での会話がDennis、JY、JCの声で流れます。Dennisが発したWPAとは戦前の公共事業促進局のことで、1929年の世界恐慌への対策として不況による失業者に公共事業の雇用を促す機関を言っております。不況を知る大人に対して、特にJCが発するくだりでは、最近の若者は金持ちで、仕事ができるありがたみや不況の苦しい現実を知らないなと嘆いており、若者を啓発させて途を開かせるところで、Aaron Coplandの"Fanfare for the Common Man"の登場です。
ELPのカバーでもお馴染みのこのインストゥルメンタル・ナンバーは原邦題が"市民のためのファンファーレ"というタイトルで、庶民を奮い立たせるクラシック音楽の名作です。Styxによるカバー作品ではエレキ・ギターでドラマティックに決めております。そして続く "Mother Nature's Matinee"で組曲のフィナーレに向かいます。
"Mother Nature's Matinee"はますJYが、若者が意気揚々に飛び込んで目の当たりにした現実の世界を歌います。このパートではヘビーでスリリングなサウンド展開になっていきます(b〜d章までは明確な区分が不明なので、ここまでを"Fanfare for the Common Man"とする表記も見られます)。そしてゆったりとしたシンセサイザーの音色が聞こえて、スロー・テンポに進みます。そしてDennisの歌声の登場です。"Mother Nature(母なる自然)"とあるように、日常を忙しく生きる平凡な人々は朝起きると太陽の光が差し、生きていることを実感して、 マチネー (西欧で、通常である演劇や音楽会の夜間公演に対して、特定日に行われるお昼の公演。ここでは歌詞内容から朝に上演) で癒やし、休日を過ごすという内容を情感たっぷりとDennisが歌い上げ、テンポが上がってシンセとギターのソロによるこれぞプログレといえるグランド・フィナーレで終わります。デビューにしてこの大作、圧巻の一言です。
続くA-2の作者、Paul Frankとはデトロイトのハード・ロック/ブルース・ロック・トリオ、 Head Over Heels(ヘッド・オーヴァー・ヒールズ)のギタリスト兼ヴォーカリストで、1971年に発表したアルバム"Head Over Heels"の2曲目に収録されている"Right Away"をStyxがカヴァーしたものです。ヴォーカルはJYで、ややミドル・テンポでありながらヘビーに歌い上げるJYの凄味が伝わってきます。出だしはサザンロック・グループのLynyrd Skynyrd(レーナード・スキナード)が放ったヒット曲"Free Bird"を彷彿とさせ、Gregg Rolie(グレッグ・ローリー)が歌っていた頃の初期の Journey(ジャーニー)にも通じたり(ただしJourneyはStyxより3年遅れてのデビューですが)、非常にアーシーなロックに仕上がっています。
B面1曲目は"Best of Styx"にも収録された、いかにもStyxらしいプログレ・ナンバーで、デビュー・シングルとなったB-2のB面に収められた、いわばStyxのB面におけるデビュー曲です。1973年の日本でのリリースでは" 二人に何が起こったか"という邦題が付けられました。作者はミネソタのシンガーソングライターとしても知られる Mark Gaddisで、70年代を中心に自身のフォーク・ロック系のアルバムもリリースしています。中間部のチェンバロ風のシンセ・ソロも見事で、Dennisが哀愁漂う歌声を聴かせてくれます。
B-2は言わずと知れた、Styxのデビュー・シングルです。JYとDennisの共作で、二人でヴォーカルを分け合っています。Billboard HOT100シングルチャートで82位を記録しました。この曲は 9月16日 に陽を当てておりますので、そちらをご参考下さい。
B-3はハワイのロック・バンド、Kalapana(カラパナ)のプロデューサーでも知られるLewis Markの作品です。次の"Styx II"でシングル・カットされた"I'm Gonna Make You Feel It"のB面としても選ばれました。ヴォーカルはJYで、緊張感漂うヘビーな作品です。エンディングがどことなくミステリアスで、本編とは違った流れで終わり、変わった余韻を残します。Styxはラスト・パートでこの手法をよく採り入れておりました。例えば"Styx II"収録の"You Better Ask"、"The Serpent Is Rising"収録の"Jonas Psalter"などが挙げられます。
最後を飾るB-4はテネシー出身、George Clintonの作品です。と言ってもParliamentやFunkadelicを率いたPファンクのミュージシャンではなく、映画音楽を手掛けたり、作曲や編曲を手掛けるシンガーソングライターで、PファンクのGeorge Clintonと区別するために「George S. Clinton」と表記される場合もあります。自身が結成したGeorge Clinton Bandの1974年のアルバム"Arrives"にも収録されたロック・ナンバーです。やや気怠さとヘビネスを合わせ持った作品で、JYが泥臭く歌い、サビの澄んだコーラスで絶妙に調和します。
Dennisのみ単独でリードヴォーカルをとる作品はなく、ほぼ全編JYがヴォーカリストとして前面に出たデビュー盤でしたが、両者がソングライティングに関わった3作品は、その後のStyxの作品の原点を見たような印象です。またカバーもWooden Nickel時代に見られたヘビーなStyxらしさを出したアレンジになっております。
さてこの"Styx I"ですが、残念ながらBillboard200アルバムチャートにエントリーすることはありませんでした。しかし、BillboardのHOT100シングルチャートとアルバムチャートの圏外には、エントリー予備軍の順位を記録したアクティブ・ゾーンがあり、 Bubbling Underというチャートがあります。このチャートは公式のトップ200ではないにせよ、後世の評価をはかるための記録として残ります。このゾーンに"Styx I"が1972年10月7日付で、当時Bubbling Underアルバム最下位の214位でランクインしました。すると10月14日付で210位、10月21日付で208位と、Top200にゆっくり近づいていきますが、次の10月28日付で 207位をピークに翌週はランクから消え、結果Bubbling Underエリアでは4週間のランクインを果たしております。
さて、今回はStyxのデビューをご紹介しましたが、Styx初の全米制覇を非常に 早い段階でこのブログでご紹介できるでしょう。デビュー作のリリースから7年、全米No.1ヒットのラブソングの誕生です。
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