新潟駅での在来線との同一ホーム化(日本経済新聞 2018年4月16日) や JR東日本、JR西日本、JR北海道が新幹線でのICカード利用を発表(JR東日本プレスリリース 2018年6月5日) し、
新幹線の利便性を高める取り組みが行われている最中の出来事であった。
東京オリンピックに向けて、新幹線の警備の強化は必須と言える。
既にN700系全車両には客室内監視カメラが取り付けられており、
緊急ボタンが押されると運転席のモニターで映像が確認できるようになっている。(JR東海ニュースリリース 2017年12月6日)
ハード面においてはこのように進歩がみられるが、
他方、JR東海は 新幹線乗務員の削減(JR東海ニュースリリース 2016年12月21日) を実施している。
これは驚くべきことに、2015年の放火事件後である2017年3月に実施された。
運行上の「安全」に関してはシステム改築やマニュアル改善、車両改善等十二分に取り組みが行われている。
しかし、今回のような車内での凶事によって乗客の「安心」が妨げられるような部分に関しては、そうとも言えない。
1964年の新幹線の開業から、今回を含め3件の殺人事件(1988年こだま485号殺人事件、1993年のぞみ24号殺人事件、2018年のぞみ265号殺人事件)、
1件の放火事件( 2015年東海道新幹線火災事件(日本経済新聞 2015年6月30日) )、
1件の放火未遂事件( 2017年山陽新幹線放火事件(日本経済新聞 2017年5月26日) )が発生し、
4名の乗客の命が奪われている。
今回発生した事件は、新幹線で初の無差別死傷事件であった。
また上記のうち、2015年の放火事件の際は新幹線での手荷物検査の必要性が問われていた。
もしもこの時金属探知機等の導入が行われていれば、今回の事件は未然に防げていた可能性が高い。
ちなみに、海外では2015年、 欧州の高速鉄道タリスで銃乱射事件(日本経済新聞 2015年8月22日) が発生している。
この時は乗客が犯人を取り押さえ死者は出なかったが、乗務員は乗務員室に逃げ込んだという。
※タリスは国際便だが事件当時は検問を実施していなかった。 現在も一部国際路線では手荷物検査は実施されていない。(THALYS FAQ & CONTACT)
今回の東海道新幹線の事件では乗務員が犯人の拘束を試みていた。
この点は十分評価に値するが、1名の犠牲者が出てしまった。
「新幹線に乗っていると殺されるかもしれない」という不安を利用者に与えてしまったのも事実である。
なお、事件から2日後の2018年6月11日15時時点でJR東海の公式ページには今回の事件に関して何ら記載がない。
自社の従業員が引き起こした事件ではないが、 年間160万人、1日平均4000人以上の旅客を輸送する東海道新幹線(JR東海「財務・輸送の状況」) の運営母体としてこの対応には疑問がある。
同様の事件は、どの交通輸送機関でも起こり得る。
しかし新幹線の持つ影響力を考えると、何らかの防犯強化策の導入は不可避であるといえる。
今回の事件を受け「安心」に対し何ら対策を取らぬ姿勢は「どうせ使うだろう」というある種の驕りと解釈されかねない。
今、JR東海をはじめ新幹線を運営する事業者に求められていることは
揺らぐ新幹線の「安心」神話の立て直しではないだろうか。
来る東京オリンピックを前に日本の大動脈の問題点が浮き彫りとなった。
この課題の解決に各事業者並びに政府レベルでの検討を切に願う。
2018年6月11日 日の丸鉄道
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