今回は、スコットランドを代表する2大都市グラスゴーとエディンバラ、そして古都スターリングが舞台の映画を紹介したいと思う。
★★★ スターリング Stirling ★★★
スターリングは、13〜14世紀にかけて現れた二人の英雄、 ウィリアム・ウォリスと ロバート・ザ・ブルースによってスコットランド軍がイングランド軍を破り、独立を成し遂げた歴史的に重要な場所。
「スターリングを制する者がスコットランドを制する」と言われた「スコットランドへの鍵 Key to Scotland」、それがパースとグラスゴーの間に位置する スターリングである。
鉄道もしくはバスでインヴァネスからグラスゴーへ向かう途中、岩山の上に聳えるスターリング城と郊外に建つウォリス・モニュメント(記念塔)が車窓からも望める。更にバスは実際の激戦の舞台となったスターリング橋(映画では予算の都合で草原での戦闘になっていますが)を渡るので、フォース川が近付いた際は気にしてみるとよいかと。もちろん当時のままの橋ではないが…。
本来はウォリスを演じるつもりではなかった メル・ギブソン だったが、制作会社から『マッドマックス』や『リーサル・ウェポン』ですでに売れっ子だった彼自身が主役をやるなら、という条件で資金提供が成立したという裏話もある。
この映画の主なロケ地は、実はアイルランド。だが、スコットランドらしい荒涼な風景が広がるグレンコーやフォートウィリアム郊外でも戦闘シーンが撮影されている。
また、脚本家が明言しているとおり、歴史的事実とは異なる脚色(ウォリスと王妃イザベラとの恋や、スコットランド兵士の顔のペイントなど)がかなり為されているので、ウォリスの伝記映画というよりは、スペクタクル大作として見ることをお勧めする。
メル・ギブソンの初監督作ということもあり、マッドマックス・シリーズの撮影テクを使ったりしていることでもわかるように、この映画は歴史映画というより、戦争映画、戦闘映画としての要素がとても強い。
【 Favorite!! 】
ウォリスをおびき寄せるために処刑される妻ミューロンを演じたのは、私のお気に入り女優 キャサリン・マコーマック 。ブラッド・ピットとロバート・レッドフォード共演の『スパイ・ゲーム』でのブラピの恋人役、ヴェネツィアを舞台にした『娼婦ベロニカ』でのヒロイン役が印象的な彼女の初出演作だった。
またイザベラ王妃役のフランス人女優 ソフィー・マルソー は、この映画でアメリカ映画に初進出した。お気に入り女優2人が出ているのも私にとっては嬉しい見どころだ 時代が生んだ英雄に翻弄されるふたりの女、という観点から見るのも一興。
★★★ グラスゴー Glasgow ★★★
DVの夫から逃れてグラスゴーに近い海辺の町へ引っ越してきたリジ—と9歳の息子フランキー。リジ—は父親は船乗りであり世界を巡っているのだと話し、自分で架空の父親からの手紙をフランキー宛に書き続けていた。ところが、偶然にも架空の父親が乗っているはずの船が町に寄港することを知ったフランキーは、父親に会えることを期待してしまう。困ったリジ—は友人から紹介された船乗りに父親役を演じてくれるよう頼む。
女手ひとつで耳の不自由な息子フランキーを育てるいじらしいリジ—を演じるのは エミリー・モーティマー 。無口だが男の優しさを感じさせる船乗りを『オペラ座の怪人』の ジェラルド・バトラー が演じている。寒々しいスコットランドの港町が、彼らの人生の孤独さを感じさせる。
そしていざ対面。ぎこちないながらも、家族を演じる3人。船乗りを父親として慕い始めるフランキーと息子のためを思うリジ—に、船乗りの男も次第に愛情を感じていく…。
父親不在の母子映画を見るたびに、世の中の女性たちはなんてエライんだろう、と思わずにいられない。まだ若いのにDV夫から逃れながら、スコットランドを転々としてきたリジ—のように、厳しい状況下で障害を持つ息子を愛情をこめて育てるなんて、私にはできない。子供を守るためだけに生きているような彼女の姿は、自分の面倒を見るだけでも精いっぱいな私に「誰かのために生きること」の強さと恵みを教えてくれる。
そんな彼女の一途な姿が、一人で生きてきた船乗りの凍えた心を溶かしたのだろう。「守りたい人」がいるということが、一番人を強くする。そして、敏感に真実に気づきながらも母のためを思い、船乗りが実の父親ではないと気付いていないフリをする健気な9歳の少年、フランキー。
運命を受け入れて懸命に生きている人々の姿に、ほろりとさせられる映画だ。
★グラスゴーへのショート・トリップ記事は こちら
★★★ エディンバラ Edinburgh ★★★
人々が突然踊り出し、歌い出すミュージカル映画は不自然すぎて好きではないという人も多いが、私は気にしない派だ。特に大勢が一堂にはじけるように歌って踊るシーンを見ると、感動で泣き出してしまう傾向がある。どうも歌とダンスが合わさった映像の持つパワーに弱いようだ。
そしてこれは、家族の映画だ。どんな幸せな家族にも秘密や葛藤はある。
ロブとジーンの娘リズは、フロリダで看護師として働く夢と、恋人からのプロポーズという板挟みのなかで悩む。新しい彼女との間に軋轢が生じ、何が自分にとって一番大切なのかを真剣に考える息子のデイヴィー。
そして、長年連れ添った夫の不実に人生の意味を問うジーン。
それぞれが様々な「愛」という名の障壁にぶつかりながらも前向きに生きていこうとする姿が、力強い音楽、ダンスとともに描かれる。なかでもラストのエディンバラ中心部ロイヤル・スコティッシュ・アカデミー前での大掛かりなダンスシーンは圧巻で、見終わった後ほっこりした気分になれる映画だ。
つらい境遇のユアン少年と、主人を失くしたボビーに次々と不幸が襲い掛かるが、ふたり(一人と一匹)は困難を乗り越えるため、いつも協力しあう親友のような関係。しかし、ボビーが野良犬として捕獲されてしまいそうになるという最大のピンチが。果たして彼らは無事に窮地を脱することができるのか?
19世紀エディンバラ貧困層の暮らしがどんなものであったのかも興味深い。スコットランド国立博物館も近くなので、エディンバラを訪れた際は、ロケ地めぐりと共に行ってみるのもいいかもしれない。
麻薬とセックスに溺れる主人公レントン(ユアン・マクレガー)は何度も麻薬を断とうとするが、仲間とつるみながらやめられない日々。しかし、万引きで捕まり友人のスパッドが刑務所に送られたことをきっかけに、今度こそ麻薬を断とうと決意。
やっとの思いで麻薬中毒を克服し、ロンドンへ出て働き始めたレントンだったが、故郷の仲間が押しかけ、結局仕事をクビに。仲間とともに故郷スコットランドへ帰ると、エイズで死んだ友人の葬儀が行われていた。仲間から大きな麻薬取引を持ち掛けられたレントン。この先どう生きていくのか、彼が最後に選んだ未来はー?
まともに生きることに意味を見出せない若者たちは、クスリに溺れ、やみくもに危険なことに手を出し、人生を破滅させていく。この映画には、そんな「どうしようもない若者たち」の姿がリアルに描かれている。
工業都市のイメージが強いグラスゴーという都市で、どんよりとしたスコットランドの空の下、発信されるのは若者たちの「閉塞感」と「焦燥感」。
ちょっとおバカな彼らの行動と妄想を、ダニー・ボイル監督が斬新な映像で切り取ったコメディのようなドラマ。「愚かだな〜」と呟かずにはいられないけれど、彼らの鬱々とした気分は痛いほど伝わってくる。
当たり前だけど、生きることにもがいているのは、自分だけじゃないんだよねー