A-World2
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横溝・乱歩作品の感想を書かせて頂きます。今回は横溝正史の作品集「蝶々殺人事件」の感想を書かせて頂きます。由利鱗太郎先生と三津木俊助記者の物語も今回で最後です。蝶々殺人事件映画やドラマになった事がある横溝先生の代表作。名前だけは知っていたのですが、由利先生が探偵役だったのですね。私の在住地・大阪も舞台の1つで、福島区・梅田・箕面の滝などの用語が出てきて興味深く読ませてもらいました。大阪で公演する事になった歌劇団の主宰者である女性歌手が大阪着後に失踪。その後、楽屋に運び込まれたコントラバスのケースから失踪した女性歌手の死体が出てきます。この事件は犯行現場の特定が目まぐるしく変化し、最初は大阪・福島区のアパートで殺人が行われたと思われていたのが、凶器と思われた砂嚢は事件当日には置かれていなかった事が判明。これは偽装で、本当の犯行現場は東京の女性歌手の在住するアパートと見て、由利&三津木は東京へ引き返します。そこを現場と確定した後、また大阪で歌劇団の1人が殺された知らせを聞いて、再び大阪へ戻ります(忙しいなあ・・・・・・)。女性歌手は東京の自宅のアパートで殺害されて、トランクで東京~大阪間を輸送されたと思われていましたが、実際にトランクに詰められてていたのは砂嚢!被害者となる女性歌手は犯人に言い包められて、弟子の女性に自分に変装させて大阪へ行かせ、自分は男装した姿で大阪に向かい、いきなり現れて皆を驚かせようという事になりました。実際の犯行現場は、やはり最初の福島区のアパート。彼女は着替えの最中に殺害され、コントラバスケースに入れられました。犯人は女性歌手のマネージャー。彼は女性歌手の先輩でしたが、彼女が売れっ子になるにつれて主客が逆転(こういう世界では下剋上は常かも)。彼女の傲慢な態度に耐えられず、犯行に及んだようです。その他、秘密を知った団員も口封じに殺害しました。犯人は捜査かく乱の為に、ある事件で殺害された若き歌手の写真を女性歌手のアパートの室内に残し、彼を女性歌手の隠し子であるように見せ掛けますが、後に女性歌手は子供が産めない体である事が分かり、これが大きな誤算になってしまいました。事件解決後、由利先生は女性歌手の弟子の女性と結婚しました。熟年結婚、歳の差カップルという事になりますが、彼女は素敵なステッキの青年に変装したりして、事件解決の為に協力してくれましたからね(行動が怪しげなので振り回されましたが:笑)。(ちなみに、この物語には「悲しき郵便屋」でも出てきた音符の暗号が出てきます)盲目の犬クリスマスの夜、謎の狼男が出現して由利&三津木に殺人が起きる事を予告します。その後、飼い犬を虐待する親父が飼い犬に噛まれて面相の付かない死体になっているのを発見。その妻と知人男性が言うには、これは自殺らしいとの事。飼い主が残した遺書によると、病気を苦に飼い犬に噛まれて死ぬとの事が書かれていました。その後、知人男性宅のくず入れから、飼い主の筆跡を真似て書いた遺書の練習書きの紙片が発見された為、知人男性と飼い主の妻が拘束されてしまいます。狼のような男は、実は飼い犬虐待親父の屋敷で書生をしていたのですが、妻の妹に言い寄るので妻に追い出されていました。狼男は再び妻の妹に関係を迫ってきましたが、彼女が断った為、犬をけしかけようとしました(このワンちゃん、狼男には懐いています)。その時、謎の怪人が変わった形の凶器で狼男を殺害。飼い犬に逆襲されて同士討ちになります。怪人の正体は、殺害されたと思われていた飼い犬虐待親父。彼は妻と知人男性の仲を嫉妬して、ペンチの先に犬の歯形の刃が付いたような凶器で罪の無いホームレスな人を惨殺し、自分の身代わりにして妻と知人男性に罪を着せました。(この歯形の刃の凶器は「吸血蛾」でも犯人が狼男の刻印を死体に残す為に使われています)身代わりにされたホームレスさんもですが、犯罪に利用する為に飼い主に虐待され続けて両目まで潰され、挙句の果てには殺されてしまうワンちゃんが可哀そうです。血蝙蝠仲間達と共に「幽霊屋敷」と呼ばれる屋敷に肝試しに参加した主人公の女性。その屋敷の中で、自分と同じ浴衣を着た女性の死体を発見します。壁には血で描かれた大きな蝙蝠の絵が描かれていました。それ以来、彼女は怪しげな怪人につけ狙われる事になります。犯人は女性の叔父で、彼は姪が相続する事になっている財産を奪う目的で彼女を殺そうとしました。ここで巻き込まれてしまったのが、不幸な事故で体がガタガタになってしまった元スター俳優と彼の恋人の女優。2人は幽霊屋敷を逢引きの場所に選んでいて、先に来ていた女優が着ていた浴衣を見て姪と勘違いした叔父は、間違えて女優を殺害してしまいます。その後、幽霊屋敷に来た俳優を見た叔父は、彼の姿を借りて蝙蝠怪人として姪をつけ狙う事にします。罪無き女性を殺しただけで無く、その恋人を悪に仕立て上げるとは、何という悪辣な・・・・・・。姪である女性は重傷を負わされますが、悪辣な叔父は恋人を殺された俳優によって組み伏せられます。まさに、怪人対怪人の壮絶な戦い。事件後、三津木記者は独りぼっちになってしまった女性の行く末を案じますが、彼女にはたくさんの仲間がいますし、事件で知り合った俳優さんも懇意にしてくれると思います。どうか、彼女には多くの人達に支えられて強く生きて欲しいです。嵐の道化師学生時代からの親友だった資産家に財産や土地を奪われ、サーカスの道化師に成り下がってしまった男性。彼の娘であるサーカス団の女性と悪辣な資産家の息子である青年。2人は敵同士ながら愛し合う仲でした(いわゆる、ロミオとジュリエット)。2人は叶わぬ恋に心中するところでしたが、突然飛び込んできたサーカスの愛犬に導かれ、嵐の夜の中を走り出します。そこで2人が見たものは、青年の死体を船で運び出そうとしている道化師の姿でした。女性の父である道化師は、本当に敵である資産家を殺害したのでしょうか?答えはNOで、真犯人は資産家の弟でした。彼は資産家の全財産を手に入れる為、道化師に化けて資産家を殺した後、甥と道化師の娘も殺そうとし、全ての罪を道化師に着せようとしたのですが、由利先生と三津木記者、そしてサーカスの愛犬にに阻止されます。(「盲目の犬」は不幸なワンちゃんでしたが、こちらは生き残ってくれました)事件が解決した後、資産家の財産は息子が受け継ぎ、彼は道化師の娘と結婚。結果的に、道化師は資産家に奪われた財産を取り戻しました。彼はその後もサーカス団を運営して、これからは偽りでは無く心からの笑いをお客に見せてくれるのでしょうか。菊花大会事件謎の自動車事故で死んだ男の懐には、複数の赤と白の菊の花が描かれた紙と菊花大会のチケットが入っていました。菊花大会の会場に来てみると、1人の女性が鉢植えの赤と白の菊の配列をメモしていました。事情を聞くと、彼女は兄と共に犯罪集団の情報を探っていたのでした。彼女の兄のアドバイスで、赤白の菊の花の配列は電信記号と判明。これにより犯罪者の一味を逮捕し、更に犯罪集団の大元を逮捕しに行こうというところで物語は終わります。電信記号に新版と旧版があるのは知りませんでした。それにしても、三津木記者が関西出身というのも知らなかった・・・・・・と思いきや、名前をよく見ると、三津木では無く宇津木!(この話に限って別人!?何でだろう??)三行広告事件新聞に出された住宅を求める三行広告。その後、その住宅を貸し出す三行広告も出され、出したのは同じ人物。不思議に思う三津木&ゆりりんでしたが、そんな2人の前に依頼人の男性が現れます。どうも、三行広告の住宅を借りた人物らしいのですが、突然2人の前で死んでしまいます。実は、これは反日国家の仕業。三行広告で入手した住宅には発火装置が仕掛けられていて、それを人に貸して夜に発火させ、傍目には住宅で起きた火災に見せかけます。その火を目印に、敵国の攻撃機が一気に総攻撃を掛けるという手筈でした(これは戦時中の物語です)。依頼人は住宅内の発火装置に気付いて、由利先生に知らせようとして口封じされたようです。気の毒です。由利&三津木コンビの活躍が無ければ、街中が爆撃で火の海になっているところでした。2人が手掛けた中で一番恐ろしい事件です(汗)。カルメンの死若い男性歌手と女性歌手の結婚式。その会場に届けられた大きな白木の箱。その箱の中にはウエディングドレス姿の先輩女性歌手の刺殺死体が入っていました(「蝶々殺人事件」と似た展開です)。この男性歌手、先輩女性歌手とは師弟関係で良い仲だったのですが、自分と歳の近い女性歌手と本気の恋に落ちてしまい、先輩との仲を清算してしまいます。でも、先輩女性歌手は男性歌手とよりを戻して欲しそうでした。この男性歌手の他、先輩女性歌手のパトロンや同僚の男性歌手など怪しい人物は多いのですが、実は事件の仕掛け人は被害者の先輩女性歌手でした。彼女は新婦である若手女性歌手を殺害して白木の箱に入れて贈り付けた後、ウエディングドレス姿で男性歌手と心中するつもりでしたが、共犯の同僚男性歌手が自分は利用されているだけという事に気付いて、怒りのあまり先輩女性歌手を刺殺しました。師弟関係であるのを良い事に男性歌手を意のままにしようとした先輩女性歌手の非なのか、彼女をその気にさせておいて他の女性に乗り換えた男性歌手の非なのか。難しいです。神の矢模造殺人事件これらは2つとも未完成作品です。最初の「神の矢」の方は、後に「死神の矢」という題で金田一物として完成するようですが、もう1つの「模造殺人事件」は実際に起きた下山事件を真似たような事件が発生しますが、三津木記者が事件の謎が分かったらしいというところで物語が中断しています。後は読者の想像に任せますという事でしょうか?これで由利先生と三津木記者の物語はお終い。このシリーズは長編が少なく、どちらかというと短編が多いですね。推理物としても冒険活劇としても楽しめました。後は私の知らない金田一物と少年物と短編がちょこっと残るところとなりました。今回は、ここまで。
2024.07.16
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