魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-9



聞きなれたその声に、ディアッカはモニターの確認をせずに扉のロックを解除する。


「・・・キラは?」

「今は眠っている。
 少し落ち着くまで・・・俺の部屋で休ませるつもりだ」

「そっか、その方がいいかもな」


沈鬱な空気を掻き分けるようにディアッカは言葉を紡いだ。


「アイツ、オーブに戻ったよ。

 許されるとは思ってないけど、
 本当にすまなかったってお前らに伝えてくれって。

 自分じゃ駄目だって事、
 わかっちゃいたけど気付きたくなかったって・・・」



「・・・・そうか」



「イザーク・・・」

「なんだ?」

「その・・・・あれだ、あーーー・・・」

「あ?!貴様一体何が言いたいんだ?!」



「あんま気にすんなって事!っくそ、あ~ガラじゃねー!」



イザークは親友の精一杯の労わりの言葉に目をしばたたかせると、
「ああ・・・そうだな」と淡く笑った。











*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  










浅い呼吸に薄い胸板はせわしなく上下し、
時折眉根を寄せては小さく身じろぐ。


―――悪い夢でも見ているのだろうか?


例えそれが夢だとしても、お前にそんな顔をさせるのは許さん。




しっとりと汗ばむ額に唇を寄せれば、
身体の内側から言葉にならない想いが溢れ出す。




胸が・・・震えるようなこの感情をなんと呼ぶのか。





目尻に滲む涙を舌でそっとなぞった。



「ん・・・イザ・・・ク?」




「おはよう眠り姫。

 頼むから、俺の手の届かないところでそんなに泣いてくれるな?
 さすがに夢は守備範囲外だからな」



不安に彷徨うキラの手を取ると、
冷たい指先に唇を寄せて両手で包み込んだ。


・・・小さい手だ。


こんな小さな手で、お前はずっと戦って来たんだな。






「だいぶ前の話だ。

 母上に頼まれて、アプリリウス市の図書館へ何回か足を運んだ事がある」


「え・・・」


「サンルーム、左奥の窓際だ」


微かだが、キラの指先がピクリと反応したのをイザークは見逃さなかった。



「初めは自分に都合のいい幻覚だと思った。
 まさかお前がプラントにいるなぞ想像もしなかったからな。

 暇を見つけては図書館へ足を運ぶようになっていた俺に、
 クライン嬢から“ある人物の後見人になって欲しい”と依頼された時、
 俺がどんなに嬉しかったか、お前に判るか?」



「・・・ほ・・んと・・に?」

「俺がお前に偽りを告げた事が今まであったか?」

「だ・・・って・・僕、僕は以前アスランと・・・」


「もう、昔の話だろう?
 俺が欲しいのは過去じゃない。今の、そしてこれからのお前なんだ。

 キラ、愛している。

 ―――エターナルで初めて言葉を交わしたあの時から、
 俺の心はずっとお前のものだった」



「イザーク・・・・」


「エターナルの言葉の意味を知っているか?・・・永遠、だ」




いつも僕は君の姿を探して、
君の残像を追ってばかりいた。





胸がいっぱいって、こんな気持ち?




どう言葉にしたら伝わるんだろう。



好きの気持ちは、
君にだって絶対負けないはずなんだから。



君に好きになってもらえた事が僕の誇り。





胸いっぱいに膨れ上がるこの“想い”が、



どうか、


どうか、



君に届きますように。






「イザーク、―――愛してる」












艶やかに濡れたアイスブルーの瞳の中に映る僕を、
イザークの指が優しくあばいていく。




鼓動がどこまでも駆け上がり、

愛しさで膨れ上がった胸は切ない呼吸を忙しなく繰り返す。







―――時間が止まる。











ねぇ、不思議だよね。






イザークは容姿は勿論、
生き方も魂の輝きもあまりに綺麗だから・・・


僕は一緒にいるだけでドキドキして、
落ち着かなくて、
何を話していいか判らなくなって、
頭ん中もパニック起こしちゃったりもする。


でも、


こうして腕の中にピッタリと閉じ込められてしまうと、
この世界のどこより安心して呼吸が出来る場所になるんだ。




ホント、不思議だよね。






*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  


■PHASE-10■へ続く


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