algernon 666’s

2010/07/24
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昼間バイクで馴染みの無い街に「あても無くフラリ」と走って来たんです

天気がとても良く
ターンするきっかけも探す必要も無いような温度

町外れに出ると
空気のカーテンを突き抜けたような瞬間から少し肌寒くなり

「調子に乗ると帰る頃には痛い目に会うな…」と
家路を外れて1時間を過ぎたあたりで休憩

いつの間にか建物も少ない山道のような場所まで来てしまっていたんです

小さな「道の駅」の自動販売機で120円で買える温度を握って
ようやく周りを観察出来る余裕が出来る頃

バイクに座り山の方を見上げる男が一人

それと少し離れた所に車を囲み世間話を楽しむ三人組

トイレに向かって流れて行く家族達

あとはまばらに車の中で休憩してる人達の車が4台ほど

それなりに賑わってる方なのかもしれない。

そんな中で奇妙な事に気がついたんです。

最初に意識した
山を見上げてバイクに座っている彼…

彼の周りだけ時間が止まってるように見えるのだ

しばらくしてバイクを彼の近くに移動すると

音に気がついた彼が
僕と目が合ったついでに軽く会釈をする

人柄が充分に伝わる会釈で、返事がてらに彼に近付き「今日は暖かい方ですね、ツーリングですか?」と聞いてみる

「ええ、一人でここまで来るのは久しぶりで
なんとなく気の向くままです。」

「僕もそんな感じで、」

とても明るい方で少しバイク雑談していると

突然寂しげな表情で

「本当はいつもは四人で来るんです…」

あっ…さっきの彼に戻った…って思ったんです

「今日はどうしたんですか?」と質問してみると

「実は…」

話を整理すると
彼(Aさん)は二年くらい前にバイクを購入して初めてのバイクの為
しばらくは週末に家の近くをぐるぐる走るだけで
それでも充分楽しかったそうです

やがてもっと離れた場所に行ってみたくなり恐いので国道を避けて山の方に向かって走ってる内にこの道の駅を発見したそうです

道にも慣れ毎週のように通っていると
いつもお決まりの三人がそれぞれ駐車場に長居している事に気が付く
同じバイク乗り。

Aさんからそれぞれに話かけると意気投合
購入時期や知識や初心者一人で走ってる不安も同じで運命すら感じた仲になったそうです

毎月一度必ずここで待ち合わせて一緒に走る約束を守り
人生こんなに楽しくなる物なのかとそれぞれ思っていたそうです

そんな四人組の付き合いが一年を過ぎた頃
少しおかしな事になって来たと言うのです

それまでノーマルで走ってた四人でしたがある日一人が「ミラーを変えてみないか?」って話になり、初カスタムに挑戦する事になりました

四人それぞれ社外品ミラーを購入
みんなで一緒に恐る恐る作業を始めたそうです

途中ヤマハの逆ネジで
てこずってダッシュで店に戻ったり
今までに無かった新しい楽しみに
みんな興奮してたそうです。

そんな日々がしばらくすると
いつの間にか次の待ち合わせに装着した状態でみんなをビックリさせるような流れに変わって来て
「凄いね一人で出来るんだ」など
みんなで英雄を讃えるように自分の事のように喜び合ってたそうです。

それぞれのカスタムの好みがハッキリして来た頃
本格的におかしな事が会話に見えるようになって来たそうです

まず付けてきたパーツを「これ付けてきたよ」と言わなくなり周りが気が付くまで不機嫌に知らん顔

周りも気が付いているのに本人から言わない限り知らん顔

そしてあんなに誉め合ってたのに
「うん、ちょっと微妙かな」とか「まぁ定番だよね」などの台詞ばかりになり
揚句は口論になる事も増えて来た

それぞれが知識を得るにつれて

「仲間」から「ライバル」へ「ライバル」から「敵」になって行くような感覚を感じて来たそうです。

Aさんが連絡係だったようなのですが「今月はやめとくよ、〇〇君が少し変だから」など
それぞれが理由を付けて来なくなり始めて

ついに連絡も途切れ今日にいたるそうです。

「こうなっちゃうと、もうダメなんですかねぇ、楽しみたくて集まってたはずなんですけどねぇ、」

ドラマのようなため息を横目に

僕も今まで何度も同じような光景を見て来てるので
沢山の言葉が溢れてきましたが

「彼は大丈夫だな…」

って思ったんです。

彼は既に「バイクと人と自分の幸せ」と言う

これから長い間
お世話になるであろう
自分が何よりも気持ちが良くなれる為の
公式のような物が出来上がってるように見えたんです。

大好きなバイクがあって
同じ温度の仲間が居て
その上にポンと幸福を乗せる。

それが揃わないと本当の意味では気持ち良くなれない。


「バイクなんて実はお金を払えば誰でも手に入る物じゃないですか?
バイカーなんて別に特別な人種な訳じゃないんですよね、
人前で偉そうに語るような理屈や知識なんていう不純物は入れずに、
ただ楽しむ、それだけでいいんじゃないですかね。」とだけ答えて

何度も会釈され「今日はありがとう」と言われ
お別れしました。


彼にまた楽しい日々が戻ってくるといいな…

そしていつか彼の口から後日談が聞ける日が来たらいいな…

なんて考えながら

トップまで上げたギアに
1センチ程度のアクセルを乗せて
のんびり家路に戻るのでした。


多分また僕は

数週間後、

それとも数ヶ月後、

フラリと彼を意識しつつ

そして大きな期待は持たずに、

あの場所に訪れるんじゃないかと思います。


熟練ライダーがよく言う「あても無くフラリ」の

「あても無く」は

実は 人に話す程でも無く

例え何も無くても構わない程度の

一握り程度の小さな
「あて」なら

あったりするんですよね。


そしてその

「小さなあて」が

僕ら「あても無くフラリ」をベースにしているバイク乗りには


とても


大事だったりするんですよね。


もちろん


人に話す程の物では無いんですけどね。





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Last updated  2022/04/20 04:11:48 PM
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