あーしゃ♪の部屋~雑貨マニアの部屋♪

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■ひとりぼっちのゆうびんポスト■

※このお話は、ちょっと悲しいストーリーです。
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■ひとりぼっちのゆうびんポスト■

 さかえ町商店街のごんざストアの前には、ゆうびんポストがあります。
 口の二つある四角いこのゆうびんポストは、三代目です。

 一代目は、ベレー帽をかぶったみたいな頭をした、丸いポスト。二代目は、口が一つしかない四角いポストです。
 一代目のポストは、最初は人気がありませんでしたが、後には一日七十通くらい手紙が入るようになりました。
 二代目は一番人気者でした。
 多い時は百通以上の手紙が入りました。

 それでこの三代目のポストですが、はじめは人気がありましたが、だんだんと手紙を入れる人が少なくなってきました。

 理由は二つありました。
 一つは近くに大きなショッピングセンターができて、このさかえ町商店街に人が来なくなったことです。
 もう一つはパソコンでデンシメールを送ったり、ケイタイデンワでメールを送ったりするので、わざわざ手紙を書く人が少なくなったからです。
 このポストにはもう半年以上も、手紙が一つも入れられていません。
 郵便屋さんももう、一ヶ月くらい前から回収に来なくなりました。
 さかえ町商店街は夕方六時になると、全部のお店が閉まってしまいます。
 ポストは真っ暗な中、ひとりぼっちになってしまいます。

 ポストはその夜、しくしくと泣いていました。そこへ一匹の子ダヌキがやってきました。
「ねぇねぇ、なんで泣いてるの?」
 子ダヌキはポストにたずねました。
「あのね、だれもお手紙入れてくれなくなったから、もう少ししたらここから追い出されちゃうんだ。ここのごんざストアのおばさんが、今日お客さんにそう言ってたんだよ」
 ポストは悲しそうに言いました。
 でも子ダヌキは手紙を知りません。
「手紙ってなぁに?」
 子ダヌキはききました。
「手紙っていうのは、紙にだれかに伝えたいことを書いてね、その人の住所と名前を書いて、ボクの口に入れたら、ゆうびん屋さんがその人の家まで届けてくれるんだ」
 ポストは子ダヌキに説明しました。
「ふ~ん、むずかしそうだね」
 子ダヌキは言いました。
「でもかんたんなのがあるよ。葉書(はがき)っていうんだ」
「はがき? 葉っぱに書くの?」
 子ダヌキは、またきょうみしんしんでききました。
「葉っぱじゃなくて、紙に書くんだけど…
一枚の紙にね、表に伝えたいことを書いて、うらにとどけてほしい人のあて先を書くんだよ」
 子ダヌキは、手紙を誰かに書いてみたくなりました。
 それから手紙を誰かからもらってみたくなりました。

 そこで子ダヌキは自分で自分あてにはがきを書くことにしました。
 でも紙もえんぴつも持っていません。
 子ダヌキは考えました。
『そうだ。葉書きだから、葉っぱに書けばいいんだ。緑色の葉っぱに赤いなんてんの実をつぶして字を書こう』
 人間の使う字は、夜こっそり近くの小学校にしのびこんで勉強したので、ひらがなだったら書けました。

 子ダヌキは大きな葉っぱを見つけてきて、なんてんの実で手紙を書きました。
『こんにちは おげんきですか なにかいいことがあるといいですね』
 うらには
『もりのこだぬきさんへ』
 と書きました。

 子ダヌキは、タヌキだとばれないように、人間の女の子に化けて、ポストに葉書きを入れに行きました。ポストさんにもばれないように、人間のすがたでは話しかけませんでした。

 それから子ダヌキは毎日ポストにはがきを入れに行き、その後は森の入り口の道ばたで、自分あてのはがきが来るのを待っていました。
 でもゆうびん屋さんは子ダヌキの前を通りすぎますが、子ダヌキのはがきは配達してくれませんでした。
 それでも子ダヌキは毎日せっせと、はがきをポストに入れに行きました。

 そんなある日のことです。
「あぶない!」
 森から出て、道をわたろうとしたしゅんかん、子ダヌキは向こうから来た車にひかれて死んでしまいました。
 子ダヌキはとうとう自分あての手紙をもらうことが出来ませんでした。

 そしてポストもとうとうごんざストアの前から取り外されることになりました。
 ポストは心の中で泣いていました。
 毎日葉っぱのはがきを入れてくれていたのは、子ダヌキだと知っていたのです。
 そして子ダヌキが車にはねられて死んでしまったことも、だれかが話していたのをきいて知っていました。

 いよいよポストが取り外される時がやってきました。
 最後にゆうびん屋さんが、もしかしたら手紙が入ってないかどうか確かめようと、ポストを開けてみました。
 すると中から葉っぱがどっさり出てきました。
 ゆうびん屋さんは、はじめはいたずらかと思いましたが、葉っぱを見てびっくりしました。
 そこには赤い字で『もりのこだぬきさんへ』と書かれていたからです。

 ゆうびん屋さんはすぐに気が付きました。いつも配達をしていると、森の入り口で子ダヌキがじっと立っているのを見かけたことがあります。
 『もしかしたらあの子ダヌキが自分で手紙を書いていたのかもしれない』
 ゆうびん屋さんはそう思いました。
 そして死んでしまった子ダヌキのことをかわいそうに思って、その葉っぱを全部森の入り口に持って行って、いつも子ダヌキが立っていた木の下ににそっとおいてあげました。

☆おわり☆



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