2017.09.03
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☆空飛ぶ広報室・有川 浩
・幻冬社文庫
・平成28年4月15日 初版発行
・ダヴィンチの「ブック・オフ・ザ・イヤー 2012」
 小説部門小説部門第1位のドラマティック長編。
 (単行本=2012年夏 刊行)

航空自衛隊広報官空井大祐、帝都テレビディレクター稲葉リカ。苦悩しながら成長してゆく2人の姿を縦軸として、普段知られていない自衛隊の存在意義や活動内容を描いた作品。☆☆☆☆☆=個人的な感想

♣︎空井大祐二尉=市ケ谷 航空幕僚監部広報室
子供の頃からブルーインパルスに入るのが夢だった。航空学生で入隊、10年もパイロット一筋でやってきた。そして、これも子供の頃から絶対これだと決めていた「スカイ」という戦闘機パイロットとしてのタックネームも手に入れた。ブルーへの道程は長く険しくとも、彼にとって決して踏破できない目標ではなかった。それから5年…。順調に階級を上げ、ようやくブルーインパルスの内示が出ていた28才の春だった。彼には何ら落ち度のない交通事故の被害者となった。事故の後遺症は日常生活には問題ないまで回復したが、F15を駆る戦闘機パイロットとしては到底足りなかった。結果としてパイロット資格剥奪となった。

♣︎稲葉リカ=帝都テレビディレクター、元はサツ回り記者。自衛隊嫌い。
ジャーナリストになるのが子供の頃からの夢だった。入社後の配属は希望通り報道部の記者だった。たとえ相手が嫌がっても群がり、食らいついてマイクを向け、そうして見えてくる真実があるのだという上司の訓話をまともに受け止め、体当たりで泥を被った。同期に大きく水をあけ、リカは有望な新人として高く評価された。ところが、入社3年頃から強引な取材が問題になった。評価を取り戻そうとすればするほど裏目にでた。そして5年目の今年、報道部の『記者』から帝都イブニングの『ディレクター』に配置換えになった。

♣︎その他の登場人物・市ケ谷 航空幕僚監部広報室
鷺坂正司一佐=広報室長、比嘉哲広一曹=広報歴12年(空自広報のエキスパート)、片山和宣一尉、柚木典子三佐=紅一点、槇 博己三佐

《あらすじ》
1.勇猛果敢・支離滅裂
やっと手に入れたと思った子供の頃からの夢を、突如として断たれてしまった空井大祐二尉。呆然としつつ迎えた29才の4月、築城基地から防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室への転勤の辞令が下った。空井の勤務先は庁舎A棟19階、航空幕僚監部広報室である。空井が市ケ谷に転勤してから2週間が経った。

不本意な異動に加えて、気に食わない自衛隊特集の担当になった稲葉リカ。リカにとって自衛隊とは、曖昧な位置付けで存在を許されている日陰者というイメージだった。そんな組織の担当にされるなど、ますます干されたという意識しかなかった。ことにメインで引き受けた空幕広報室への当たりはきつくなり、半ば八つ当たりのように、こらえる彼らを試すように挑発的な発言を繰り返していた。どうせ何を煽っても反論などしてこない、と侮りはじめていたところだった。

人を殺したいなんて思ったこと、一度もありません!
怒りを籠めた声に横っ面を張られたかと思った。憤りと悔しさのにじんだその深刻な声に、自分でも意外なほど動揺した。置かれた立場をはき違えていた自分を、いきなり目の前に突きつけられた。大義名分を持たない状態で受けた怒りに心が竦んだ。相手は怒ると同時にひどく傷ついていた。自分は記者としてではなく、稲葉リカ個人として、空井大祐という個人をこれほどまでに傷つけたのだという事実に気がついた。それは自分が加害者になった衝撃だった。
広報室のベテラン、比嘉一曹の言った「自衛官も人間なんです」あなたと同じように。それまで何を投げつけてもニコニコ受け流す最高峰と思っていたが、そのとき初めて諭された。空井のことを詫びながら、遠慮がちに。たった一言のその訴えは、言葉をどれほど尽くされるよりもリカの後ろめたさを暴いた。
さりとて、仕事から逃げるわけにもいかない。先日は比嘉に取りなされてうやむやのうちに帰った。それ以降初めて訪れる広報室は、リカにとってかなり敷居が高い。今さら悔やんだところで遅い。
広報室に通され、空井がお茶を持って来た。「先日は申し訳ありませんでしたっ」押し切るように言い切り頭を下げる空井に、「いえ、こちらこそ・・・。理解が足りなくて」とリカは口の中で謝罪のような謝罪でないようなものを転がす。そんなリカに、空井は「稲葉さんに理解してもらうことが僕の仕事なんです」と、せがむかのように申し出た。こんな意欲的なタイプだったろうか。同じ場面を経て、自分はまだうだうだしているのに、空井はもう立て直したのだ。リカは置いていかれたと感じた。
空井が「どうして自衛隊がそんなにお嫌いなのですか」と聞いた言葉は、逡巡しながらにしては、ド直球だった。

2.はじめてのきかくしょ
3.夏の日のフェスタ
4.要の人々

*.あの日の松島
稲葉リカが空井を中心とした空幕広報室のドキュメンタリーをまとめた一年後、空井は空幕広報室から松島基地に異動になった。第4航空師団司令部管理部渉外室で、引き続き広報を担当するという。空井の送別会のあと「いつか松島で」と指切りだけして別れた。そして、東北をあの震災が襲ったのは、その半年後だった。
リカは帝都テレビの本社ビルでミーティング中だった。十数分ほども続いた不気味な揺れがようやく収まり、報道局から地震についての情報が入り始めた。他社の放送もモニタリングするなか、NHKの恐ろしい津波の映像が流れはじめた。モニターを囲む数十人が、凍りついた。リカは報道局に詰め、次々と飛び込んでくるニュースを原稿にまとめる。そして、そのニュースは突然リカの前に躍り出た。「航空自衛隊松島基地、水没。基地は音信不通」空幕広報室の誰かに詳細を聞けないかと思いついた。携帯を取り出すと、家族からの安否確認に混じって空井からのメールが2通届いていた。1通目は『無事です』2通目は『F–2が全部流れちゃいました』泣き顔の顔文字が付いていた。

震災から10ヶ月後、特集番組の取材のため、リカは一人で松島基地に向かっていた。リカがチーフディレクターを務める新番組の次回のロケでは、3・11の災害派遣で注目が集まっている自衛隊を取り上げることになり、空自パートでは母基地の水没が話題となったブルーインパルスを特集する。「いつか松島で」その約束がこんな形にるとは思っていなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ー 作者の「あとがき」より ー
本当ならこの本は、2011年の夏に出る予定だったそうです。ところが、その年の3月に東日本大震災が起こり、ブルーインパルスの母基地である航空自衛隊松島基地は大きな痛手をうけました。この震災は航空自衛隊の広報を題材にして書いたものであり、作中でブルーインパルスのことにも触れています。作者は、松島基地の、そして空自広報の3.11に触れないまま本を出すことはできないと判断。出版社の同意を得て一年遅れたのだそうです。





自衛隊三部作{*塩の町(陸自)、海の底(海自)、*空の中(空自)}に続く自衛隊シリーズ作品(*=既読)荒唐無稽なストーリーの三部作と違い、この作品は読み応えがありました。
☆☆☆☆☆=個人的な感想





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Last updated  2017.09.03 14:26:34
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