インスタント・メッセンジャー・サービスのテレグラムを創設、同社のCEOを務めているパベル・ドロフが8月24日にパリのル・ブルジェ空港で逮捕された。フランス当局は西側の情報機関に協力するよう、彼を長期の禁固刑で脅すつもりだろうと推測されている。
インターネット上に存在する巨大情報産業は基本的にアメリカの情報機関にコントロールされているが、ドロフはレニングラード(サンクトペテルブルク)の出身ということもあり、情報機関による検閲を拒否してきた。テレグラムはセキュリティーの高さでも知られ、この点も敵視されている理由のひとつだろう。
アメリカにはCIAをはじめ、いくつかの情報機関が存在する。電子技術を使った情報活動はCIAも行っているが、電子情報機関はNSAだ。このNSAはイギリスの電子情報機関GCHQと連携してUKUSA(ユクザ)という連合体を作っている。この2組織の下でカナダ、オーストラリア、ニュージーランドというアングロ・サクソン系3カ国の情報機関が活動している。これらはまとめてファイブ・アイズとも呼ばれているのだが、NSAとGCHQが密接に結びついているのはイスラエルの8200部隊だ。
こうした機関は電子的に情報を収集、蓄積、分析している。ライバルだけでなく自国の動きも監視、社会に影響力を持つ人びとを操るために弱みを握る活動もしている。そうした機関を動かしているのが政府を支配している私的権力にほかならない。
西側を支配する私的権力は言論統制を強化し続けている。イギリスのジャーナリスト、リッチー・メドハーストがロンドンのヒースロー空港で8月15日に逮捕されたのもその一例。彼はWikiLeaksのジュリアン・アッサンジがイギリスで拘束された事件についても取材していた。
アッサンジをロンドン警視庁がエクアドル大使館の中で逮捕したのは2019年4月11日のこと。エクアドルのラファエル・コレア大統領が2012年に政治亡命を認めていたのだが、次のレニン・モレノ大統領が亡命を取り消して逮捕させたのである。アッサンジの弁護団によると、アメリカからの引き渡し要請に基づくものだという。
アッサンジ逮捕をアメリカの当局が決断した要因のひとつは 2010年の4月5日にWikiLeaksが公表した映像 だと見られている。2007年7月にバグダッドでロイターの特派員2名を含む非武装の十数名をアメリカ軍の軍用ヘリコプターAH-64アパッチが銃撃、射殺する様子を撮影した映像が明らかにされたのだ。
アメリカ政府はアッサンジをイギリスからアメリカへ移送させようとしていたが、今年6月に入って風向きが変わり、司法取引で同月24日に釈放された。スパイ法違反について有罪を認めたのだが、イギリスの刑務所で拘束されていた62か月を刑期に含めるとされたからである。
しかし、アメリカでは別の新たな言論弾圧があった。アメリカ海兵隊の元情報将校でUNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の主任査察官を務めたスコット・リッターの自宅をFBIと州警察の捜査官が8月7日に家宅捜索したのだ。FARA(外国エージェント制限法)に違反した容疑だとされているが、具体的に何が問題なのか不明で、彼のようにネオコンが主導する政策に批判的な人びとへの恫喝だと見られている。
その前、6月3日にリッターはニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で国境警備隊員にパスポートを押収されている。SPIEF(サンクトペテルブルク国際経済フォーラム)のパネル・ディスカッションへ参加するため、トルコ航空機に搭乗するところだった。
今年1月12日、ウクライナに住みながら同国のクーデター体制を取材していたチリ系アメリカ人のゴンサロ・リラが収監されていたウクライナの刑務所で死亡した。肺炎が死因だとされているが、刑務所内で拷問されていたと言われ、適切な治療もなされなかったようだ。事実上の暗殺だが、ウクライナ政府が独自の判断でリラの逮捕と殺害を実行したとは思えず、アメリカ政府の了解があった可能性が高い。
アメリカやその属国で言論弾圧が強化されている理由は、支配層が追い詰められているからだと見られている。バラク・オバマ政権はロシアとの外交関係を悪化させ、関係修復を訴えて大統領選挙で当選したドナルド・トランプがFBIやCIAによるスキャンダル攻勢に合っている。
2021年から大統領を務めているジョー・バイデンはオバマ政権の副大統領で、政策は基本的に同じ。バイデンは大統領に就任した直後からロシアに対する軍事的な挑発を強め、ウラジミル・プーチン露大統領を殺人者呼ばわりした。バイデンはルビコンを渡った、つまり第3次世界大戦へ向かって走りはじめたのだ。
バイデンを背後から操ってきたネオコンはジョージ・W・ブッシュを操った勢力でもある。両政権とも、軍事力で世界を制覇しようという1992年2月に作成されたウォルフォウィッツ・ドクトリンに基づく政策を押し進めてきた。
このドクトリンはソ連が消滅、アメリカが唯一の超大国になったという前提で成り立っている。1990年代から「脅せば屈する」という信仰に取り憑かれているネオコンは軍事力を前面に出して侵略戦争を本格化させた。
ネオコンがそうした信仰に取り憑かれる切っ掛けは1991年1月の湾岸戦争だ。アメリカ主導軍がイラクへ軍事侵攻してもソ連は動かなかったことから、ロシアも動かないと思い込んだようである。その後、そうした思い込みが間違いだということを示す出来事が何度かあったが、彼らは信仰を捨てなかった。
1991年5月、国防総省を訪れたウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官はポール・ウォルフォウィッツからシリア、イラン、イラクを5年から10年で殲滅すると聞かされたという。その後、2001年9月11日から10日ほど後に統合参謀本部で攻撃予定国のリストが存在していたとも語っている。そのリストに載っていた国はイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランだ。( 3月 、 10月 )
ウクライナやイスラエルでアメリカ以上に好戦的な姿勢を見せているのがイギリス。その中でも好戦的なグループの象徴的な存在が2022年6月から24年6月まで陸軍参謀総長を務めたパトリック・サンダース大将である。
イギリスの好戦派はウクライナを利用してロシアを壊滅させるというネオコンの戦略に飛びついた。ネオコンと同じようにサンダースは自分たちが攻撃してもロシアは国連で不満を口にするだけで何もできないと考えたようだ。
ウクライナでは2022年に入るとキエフのクーデター軍がドンバスへ軍事侵攻する動きを見せ始め、砲撃も激化するのだが、キエフ側が動く前にロシア軍が動いた。2月24日からウクライナに対する攻撃を開始したのだ。ミサイルなどでドンバス周辺に集結していたウクライナ軍の部隊を攻撃、航空基地やレーダー施設、あるいは生物兵器の研究開発施設を破壊し始める。この段階でロシア軍の勝利は確定的だった。
そこでイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットを仲介役として停戦交渉が始まり、双方とも妥協して停戦の見通しが立つ。ベネットは3月5日にモスクワへ飛び、プーチンと数時間にわたって話し合い、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領を殺害しないという約束をとりつけることに成功した。
その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・ショルツ首相と会うのだが、その3月5日にSBUのメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺している。クーデター後、SBUはCIAの下部機関。つまりCIAは停戦交渉を壊そうとしたのだ。
停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われた。 アフリカ各国のリーダーで構成される代表団がロシアのサンクトペテルブルクを訪問、ウラジミル・プーチン大統領と6月17日に会談しているが、その際、プーチン大統領は「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案を示している 。その文書にはウクライナ代表団の署名があった。つまりウクライナ政府も停戦に合意していたのだ。
それに対し、イギリスのボリス・ジョンソン首相は4月9日にキエフへ乗り込んでロシアとの停戦交渉を止めるように命令し、4月30日にはアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対し、ウクライナへの「支援継続」を誓う。NATOはウクライナへ武器弾薬を提供し、軍事訓練を施すだけでなく、ISR(情報・監視・偵察)データを提供、さらに作戦を立てるようになった。
ウクライナの戦況はネオコンやサンダースが夢想したような展開にはならない。ウクライナ軍は兵器も兵士も不足、敗北は不可避のように思えるのだが、それをひっくり返そうと彼らは必死だ。
今年1月24日、まだ陸軍参謀総長だったサンダースは「市民軍」の必要性を訴えた 。イギリスでは1960年に廃止された徴兵制を復活させようとしていると理解した人も少なくない。
さらに、サンダースはウクライナを勝たせるため、ロシア政府の反発を恐れずに「決定的な武器」を供給するべきだとしている。西側のウクライナに対する支援に対するロシアの反発をイギリスは過大評価していたと彼は主張するが、実際は過小評価したことが問題なのだ。出てこないはず、何もしないはずのロシア軍による反撃で西側は窮地に陥ったのである。
サンダースは核戦争へのエスカレートを恐れるなとも主張している。ロシアに受け入れがたい脅威を与え、ロシアとプーチン大統領に考え直させるべきだとしている。脅しを強めれば勝てるというわけだが、それには時間がかかるともしている。その間、「お人好し」のロシアは待ってくれると考えているのだろうか?
すでにロシア政府は欧米との話し合いで問題を解決することはできないと判断している。ポール・クレイグ・ロバーツが早い段階から指摘していたことだ。言論統制の強化は戦争の準備でもあるのだろうが、西側が勝てるようには思えない。自分たちが負けるとなったら、世界を滅ぼそうとするかもしれない。
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【 Sakurai’s Substack 】