落日

落日

2007年01月04日
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カテゴリ: 邦明
「いつ私を好きになったの」とハルはよく僕に聞くが、僕は覚えていない。
覚えているのは、大阪出張の行き帰りの新幹線の中で、ハルがずっと喋っていたこと。そして僕にとってその時間がいつのまにかとてもいとおしいものになっていたことだ。
僕はハルの舌を巻くほどの明晰さと、その対極の幼い行動のアンバランスに惹かれていた。
「つまり運動神経が悪いってことだと思う」
とハルは自己分析した。
「運動神経?」
「そうよ。私、自分の体がどう動いているかってイメージがまったくできないの。自分のイメージしたとおりに動くこともできないし。間宮さんも・・・」
言ってしまってから、ハルはばつの悪そうな顔で少し口をつぐんで・・・、それでもみなまで言ってしまうのだった。
「・・・私が右と思っても左に行ってしまうって言ってたわ」
僕は間宮の名前に反応しない振りをする。ハルの思う壺にはまってしまうのが嫌だったから。
「だから」
ハルは車窓の向こうに流れていく光を見つめながら、上の空な口調でつぶやいた。
「私がもし私を裏切る行動をしても、私を疑わないで」
あなたを、とはハルは言わなかった。
僕はほかの乗客から見えない角度で、そっとハルの手を握った。





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最終更新日  2007年02月11日 00時47分19秒
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