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tajim

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Mar 2, 2006
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カテゴリ: 簡単な言語学
赤ちゃんは「言語中枢」なるものを持って生まれてきて、育つ環境によって何語でも習得できるように脳が設定されているという。考えてみれば当たり前の話だけど、それが本当にどういう意味なのか考えたことがなかった。
昨日の授業でその証拠になるような話を聞いて、ちょっと面白かったのでご紹介。

外国語を習得しようと思った事のある人だったら誰でも経験があるだろうが、大人の耳は母国語以外の言語の音を聞き分けるのが困難になる。日本人だったらLとR、BとVなんていう音が区別できなくて苦労した人も多いはず。そういう音の聞き分けが、なんと6ヶ月までの赤ちゃんは何の苦労もなくできるのだという。

こんな実験がある。まず、赤ちゃんを母親のひざの上に置き、赤ちゃんから見て右側につまらないおもちゃ、左側に魅力的なおもちゃを置く。赤ちゃんが両方に興味を示したところで面白いおもちゃの方を隠してしまう。赤ちゃんは仕方なくつまらないおもちゃの方を向くことになるが、その間ずっと「BABABABABABABABA」という発音を聞かせ続ける。赤ちゃんにとってはつまらないおもちゃと「BABABABA」という音がリンクすることになる。それから突然音を「PAPAPAPA」に変え、その後すぐに左側の面白いおもちゃの方を見せる。それを何回か繰り返すと、赤ちゃんは「音がBABABAからPAPAPAに変わったら面白いおもちゃが現れる」という学習をし、「BABABABA...PAPA」と聞いた瞬間におもちゃが現れるより前におもちゃが出てくる左側の方を向くようになるらしい。

ちょっとややこしいが、要するに赤ちゃんがBAとPAという音の対立を聞き分けて、それをヒントにおもちゃの出てくるほうを向く、と言うのが実験の概要。この方法で色んな音の区別を実験すると、実に赤ちゃんはおよそ世界中のどんな言語に見られる音の対立も容易に聞き分けるのだと言う。LとRはもちろんのこと、のどの奥のほうを使うアラブ語の難しい発音とか、何でも聞き分ける。

ところが、この実験を生後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月の子供に対して行ったところ、生後12ヶ月になるとこの能力は消滅してしまうことが分かった。6ヶ月まではどんな音でも聞き分けていた赤ちゃんが、1歳になるとその能力を失い、今度は自分の母国語となるべき言語に存在する音の区別にしか反応しなくなる。こうして考えると、赤ちゃんは最初の六ヶ月で自分の母国語を見極め、その音韻構造を知り、関係のない音の区別は「必要のないもの」として区別しなくなるということになる。その取捨選択の過程が第一言語習得ということになる。

とはいえ、いわゆるバイリンガルになるには、一般に12,3歳までにその国に渡ればよいとされている。小学校を卒業するまえに外国に来れば、子供は立派なバイリンガルになる。だとすると、その「失われた能力」は本当の意味で失われたわけじゃなくて、その後10年くらいは残っているということなのかもしれない。それを過ぎると、もう取り返しがつかない。生まれたばかりの頃にLもRも聞き分けることが出来たのかと思うと、なんだかちょっと悲しい。

おまけとして、赤ちゃんはどんな音も聞き分けるだけでなく、どんな顔も見分ける能力があるらしい。「どんな顔」というのは、人間だけじゃなく猿のこと。赤ちゃんはやはり生後12ヶ月までの間は、人間だけでなく猿の顔の区別もできるのだとか。その能力が何に役に立つのか分からないが、でもきっと「どんな世界に生まれるのか分からないんだから何でも一つ一つ注意して見よう」ということなのかもしれない。人間が猿の顔を見分けられないのは、その必要がないからというだけなのかも。

ここに来て、大学のときに文化人類学の先生が熱心に教えていた「エティック」と「エミック」の話を思い出した。世の中のすべてのものは連続体。それを分節するのが人間の能力で、その分節の仕方は文化によって異なるとか。虹の色を7色と見るか11色と見るかは文化によるけど、実際の虹の色の間には切れ目はないというのと同じ。そうして考えると、赤ちゃんが色んな音の対立を聞き分けている、と言うのは事実を捉えているわけではなく、実際赤ちゃんは世の中を、聞こえてくる音を分節していないだけなのかもしれない。「対立」と言う概念こそが、人間が成長する過程で身につけていくものなのかもしれない、なんて思った。





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Last updated  Mar 2, 2006 10:59:48 PM
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Re:赤ちゃんの耳は万能(03/02)  
こんにちは、遊びにきました。
へぇ~~~~~!ですね。
今度子供ができたら、実験してみようかな?
確かに、子供をみていて新生児や乳幼児の能力というのは、すごいなと思いました。
単なる親バカだろうなと自覚はしているんですが、
やっぱり思いこみだけじゃかったんだ!と今日の日記でわかりました。 (Mar 3, 2006 04:28:21 PM)

Re[1]:パティターニさん  
tajim  さん
こんにちは

>今度子供ができたら、実験してみようかな?

わたしもそれを考えていました。ついでに、日本語にない音も教えてみようとか、色々実験してみたくなっちゃいますね。(今のところ予定はありませんが…)

>確かに、子供をみていて新生児や乳幼児の能力というのは、すごいなと思いました。

生まれたての赤ちゃんの方が大人よりもいい耳や目を持ってるなんて、なんか不思議ですよね。

赤ちゃんは、実は内耳が発達する24週目くらいから母体の中でも音を聞いているといいます。生まれたときにはもう結構学習が進んでいるのかもしませんね。 (Mar 3, 2006 10:44:02 PM)

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