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2019年11月28日
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カテゴリ: 空白
212:留美の話
浅川留美の『同棲ごっこ』はベストセラーとなり、芥川賞の候補にも上げられた。恭二が留美の帰国を知ったのは、タウン誌『くしろ』の宗像修平からの電話でだった。釧路市出身の芥川賞候補作家というインタビュー記事で、取材をしたとのことだった。
そのときに宗像は、作品中の京太郎のモデルが瀬口恭二だということを知った。だから少し、話を聞きたい。宗像は電話口でそう告げた。恭二は留美と一緒の取材なら受ける、と答えた。
 宗像はあっけないほど素早く、明後日に釧路の留美の自宅でインタビュー、という段取りをつけた。

 留美との、再会の日がきた。恭二ははやる気持ちを抑えて、留美の自宅を訪れた。いきなり留美は、玄関に現れた。
「恭二、久しぶり」
 屈託なく笑って、留美は恭二に抱きついてきた。リビングにはすでに、宗像とカメラを抱えた男の姿があった。恭二は宗像の向かいに、留美と並んで座った。待ち構えていたように、フラッシュが光った。

「さて『同棲ごっこ』のお二人がそろったので、インタビューをさせていただきます。最初に浅川先生に確認させていただきますが、あの小説の京太郎のモデルは瀬口恭二さんで間違いありませんね」
「はい。でも京太郎は、私が創り上げた架空の人物です。私と恭二が一緒に住んでいたことは事実ですが、作中の京太郎は恭二とは違います」
「では、瀬口さんイコール京太郎ではないわけですね?」
「恭二は、臆病でも早漏でもありません。嘘のつけない、まじめな人です。主人公の『わたし』を強い女にしたために、脇役の京太郎はとことんダメな男にしなければならなかったわけです」
「いやあ、あまりにも人物造形がみごとだったので、てっきりモデルが存在すると思っていました」
「京太郎が恭二だったら、恭二はかわいそう」

 久しぶりに聞く声だった。物語の進行は事実だけれど、小説のなかで「わたし」に寄り添う京太郎は架空の人物である。留美はそう断言した。恭二は心の澱(おり)が、消えてゆくのを感じた。そして留美に質問した。
「小説を読んで、京太郎はおれだと思った。正直、侮辱されたと腹を立てていた。でも話を聞いて、納得した」
「ごめんね、恭二」

 忙しくノートにペンを走らせながら、宗像は質問を続ける。
「瀬口さんとの出会いや、同居などは事実である。しかし小説のなかの京太郎は、瀬口さんとは別物で、想像上の人物である。これでいいですね」
「はい、そのとおりです」
「浅川先生の今日に、瀬口さんの存在はどう関与していますか?」
「小説家になると決めたのは、二人で将来の夢を語り合ったときです。小説ではH大としていますが、浪人時代も北大に一緒に入ろうと励まし合っていました。恭二はまぎれもなく、今の私を育ててくれた恩人です」
「釧路で執筆活動をなさるわけですが、いろいろ不便はありませんか?」
「原稿はメールで送れますし、ほとんどのことは電話で用が足ります。不便は感じません」

「瀬口さんにとって、浅川先生はどんな存在ですか?」
 質問の矛先が、恭二に向いた。恭二は少し考えてからいった。
「当時は、とても大切な人でした。しかし現在は思い出のなかにのみいる、大切だった人です」
「恭二、何だか意味深な発言ね。いい人ができたんだね」
 留美は屈託なく笑って、恭二の膝に手を置いた。置かれた左手の小指には、光る大きなリングがあった。





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最終更新日  2019年11月28日 03時50分25秒
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