グラン婆ちゃんの  久米島 怪かし物語

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2023.11.01
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カテゴリ: 久米島の民話
ババ様は,妖怪たちを畳のように敷詰められた平な石の上におろした。
「おー、ババ様、石が熱いぞ」
「お前たちは妖怪じゃからのう、この下の胎動が伝わってくるんじゃ。目玉よ、ちと下を覗いて来い」
「いいんかババ様」目玉妖怪の目が、石の隙間からすーと溶けるように潜り込んでいくと、しばらくして
「ふえぇー、すげー、地の底が溶けてるぞ、おいらの目もやばいわ、ここはなんだババ様」
「フガミの流した炎の涙が、まだ地の底にたまってるんじゃ。この石が冷える頃には人は地上にあふれかえっているだろうさ」

 神代の時代、神の国に登って行った人間セイカワは、フガミとの恋をタチジャミに知られ、一刀のもとに首を切られ、その首は粉々になって飛び散り、人の世界に落ちて行ったんじゃ。
 幾多の時が流れてのう、セイカワを追ったフサギリの行方も、不老不死の黄金の実を飲み込んだカラスも、人の世の混乱の中、その消息は消えて行ってしもうた。このババでさえ、よう知れん。あれから何万年の時が過ぎたじゃろうか。


 少しお話を戻しましょう。
 神の世と人の世が混在していたころ、フガミの流す涙によって2度目の天変地異を起こした大地は、天より完全に切り離されてしまいました。これにより、神の世界と人の世界そして狭間に残った物の怪・妖怪の世界が分立してしまったのです。

 フガミは海の神ニライカナイの娘でした。娘の悲しみは海の神の怒りを生み、かって神代の戦時(いくさじ)の天地異変を再発させてしまったのです。
 娘フガミを哀れんだニライカナイは、セイカワを追ったフサギリを100年過去に飛ばしました。黄金の実を食べて天界と縁を結んだユタに願いと引き換えに使命を与えたのです。
 神とて過去には戻れぬのです。思念を飛ばすことはできても、過去に手を入れることはできませんでした。この世でただ一つ、天界の鳥「金冠鳥」だけが時を超えて、時に神の啓示を運ぶのです。
 ユタは、真珠の玉を作ることで、神との約束を果たしました。ニライカナイは真珠の玉の安全を守るために村を保護し、ユタの願いを聞き入れました。

 フガミの悲しみとニライカナイの怒りが三界を分けてしまいましたが、混乱の中、人の世に残されたものがありました。不老不死の黄金の実を飲み込んだカラスです。
 ユタが死んだ日、カラスの多いこの地で群れに紛れたのか、セイカワのカラスはいつの間にか消えてしまっていたのです・・・・。

 天界で起きた出来事を知る由もなく、地上は人々の大地となっていきました。

奥武島の女按司(オージマのおんなあじ)
「ありあり、今日もよくカラスの鳴く事よ、どうした事ですかねえ、おじいちゃん。このオージマのあたりに最近大きなカラスが住み着いているようだよ」
 おばあは、外のカマドで夕餉の支度をしながら、少し気味悪そうに言いました。
「カラスが鳴くときは死人がでると言うからねえ・・」
夕餉のカマの火が、パチパチとはじけながら夕暮れ時の景色の中に溶け込んでいきます。
「今日は、西奥武(イリオー)の按司様もお国を回られて、作物の具合を見て回られる日、さぞお疲れだろうから魚汁でも作って差し上げよう」
 おばあは、貝や魚のいっぱい入った魚汁を作り、おつゆを少し自分たちのものとして残し、西奥武のハンタ城まで差し入れようと思っていました。

今から1000年ほど昔の話です。

「クミ(球美)」の土地は長い時を経て、このころ「久米」と転じ、近隣島国から「久米島(くみじま)」と呼ばれておりました。その久米島の東800メートルところに、浅瀬を隔てて、2つの小島があり、西側の小島を「イリオー島」そこから更に400メートルほど離れた東の小島を「オーハ島」と呼んでいました。

 その頃、イリオー島に「イナグ按司様」と呼ばれる女領主が住んでおり、オーハ島や久米島の東海岸付近を従え、イリオーのハンタムイという所に屋敷を構えていました。
女だてらに大層な弓の名手で、人智に優れ、天を読み地を読み、人々に作物の作り方を教え、井戸を掘り、豊かな治世を行っていましたので、人々に尊い領主としてあがめられていました。

 しかし、イナグ按司様の生活は謎が多く、なかなか歳をとらず、夫もいないのに、いつの間にか4人の子供たちが生まれていました。
 人々はイナグ按司様は、きっと神様と交わっておられるのだと噂し、按司様にはオッパイが4つおありなのだ囁いていました。
 イナグ按司様の城は、ハンタムイと呼ばれる島のはずれにあり、お屋敷は日の光、月の光がいつでも差し込めるように昼夜開け放たれ、ただ1部屋「開かずの間」を除いては、戸を閉めたことがありませんでした。
 イナグ按司様は、たいそう信仰心の厚い方で、毎日この「開かずの間」に入って、神に祈りを捧げ、神様から教えられることを、民に伝えていたのです。

カア~カア~、 カ~カ~ぁぁ


 「あれあれ、やっぱりカラスがなくねえ、なんと不気味なカラスだこと、声まで恐ろしい。あんな大きなカラスは見たことがないよ、おや、あの目のなんと赤いこと、恐ろしや恐ろしや、なぜ私を見つめているのかえ、あっちへお行き」
 おばあは、ハンタ城へ魚汁を届けようと、夕暮れの小道を急いでいましたが、
「この魚汁がお目当てなのかい、とんでもないよ、ハンタ城の按司様に差し上げる魚汁だ。お前にやるわけにはいかないよ」
 と独り言を言いながら、小走りでハンタ城に向かいました。
カラスは羽を大きく広げながら、おばあの後をついてくるように思えました。
「按司様 按司様」
ハンタ城につくと、イナグ按司様はちょうど「開かずの間」から出てくるところでした。
おばあの目に一瞬、部屋の中で何やらうごめく金色の物が移りましたが、イナグ按司様があっという間に戸を閉めたので、それが何かはわかりませんでした。
「あい、浜のおばあよ、今日はどうしたんだ。血相変えた様子に見えるが」
「ああ 按司様なんでもありません。ただあの大きなカラスがずっと後をついてくるものですから、気味が悪かったのでございますよ」
イナグ按司様が見ると、確かに大きなカラスが、少し離れた木の上でじーとこちらを伺っているようでした。
「なんと大きく、目の赤いカラスだことよ」
と、イナグ按司様はすぐに柱の陰に置いてあった弓矢を取り出し、カラスに狙いを定めようとしました。
しかし、カラスはそれを見抜いたように、バサバサと羽を広げどこかへ飛んで行ってしまいました。
「あのカラス、そういえばここ数日遠目にみかけるな、ところでおばあよ、今日は鍋を持っているが私にくれるのかい」
「あいあい、そうでございます。今日もおじいが大漁だったので、按司様に差し上げようと思ってお持ちしました。いつも按司様が守ってくださっているので安心して漁ができます。どうぞ召し上がってください」
「それはありがたい、おばあ、4人の子供たちももうじき帰ってくるので、一緒にご馳走になるよ」
「あんせー、わんねーけーいびら(それでは私は帰ります)。ただ按司様、最近浜の貝が、陸の人間たちに横取りされていると聞いています。きっとあの強欲なスハラ(塩原城)の年よりめに違いありません。按司様も気を付けてください。
 おばあはそう言って、少しあの「開かずの間」の金色に光るものが気になりましたが、おじいの夕餉のために足早に帰っていきました。

 しばらくするとイナグ按司様の2人の息子と2人の娘たちが帰ってきました。4人とも威風逞しく、娘たちは男と見間違えるほどでした。
「母様の考えていた通りでございます。スハラの按司はどうもよくないことを考えているようです。今に我がオー島に攻め入るかもしれません」
 スハラ城は、スハラ山の山頂に作られた山城ですが、ここしばらく領地の作物の成長が悪く、食糧難で困っていました。スハラの城の作りは頑丈で2重の石垣で守る戦に長けた一族でした。
 スハラの按司は、オー島の豊かな土地を伝え聞いていましたので、何とかこの島のたわわに実る作物や海の幸を手に入れたいと思っていましたが、オー島の女按司は歳も取らず、神と交わり4人の子も設けた魔物のような女だと聞いていましたので、うかつに手を出すことができず、ただただ島の周辺で少ない収穫に甘んじていました。
 しかし作物の出来は芳しくなく、周辺からの上納品は減り、備蓄も底をつく状況になってくると、そうもいかなくなってきました。
 スハラ按司はすぐに血気はやる息子を使いに出し、オー島のイナグ按司様に交渉を持ち掛けたのでした。
「オーの按司よ、食料を分けてくれまいか、われらはそちらの言い値で買い取ろう」
「スハラの若按司よ、今年の夏はたくさんの台風が予想される、食料はわれらにとっても大事なもの、悪いが食料を分けることはできない、ほかの方法を考えてくれ」
再三の願いをオーのイナグ按司様はきっぱり断ってしまったので、スハラの若按司はすっかり腹を立ててしまいました。
「何、これほど頼んでも断るというのか、いいだろう力づくで奪っやる」
もとより、食料を買う気はなく、力づくで奪い取るつもりだったスハラの若按司は、すぐさま城へ戻り、戦の準備を始めました。
 オーのイナグ按司様は、自分の領地の民のため、スハラの願いを断りましたが、いかんせん隠れるところもない平坦な島、山城で戦慣れしたスハラがまともに向かって来たら勝ち目はありません。
オー島には軍隊もなく、戦うとすれば自分と4人の子供たちだけだったからです。
村人たちを避難させたオーのイナグ按司様は、子供たちを島の東西南北に配置し、自身は屋敷の櫓のてっぺんに弓を持って立ちました。
 しかし、得意の弓を使っても、スハラの攻撃をかわす事は至難の業でした。
 子供達も次第に追い詰められハンタムイまで押し戻されてしまいました。

 櫓のてっぺんでスハラ城に向けて、最後の矢を放ったイナグ按司様は、もはやこれまでと観念しました。するとその時、大きな真っ黒いカラスが現れて、イナグ按司様の頭上をグルグルと回り始めたのです。それにつられ、一羽また一羽とカラスが集まりだし、なんと島の上空は真っ黒い雲に覆われたようにカラスの群れが集まってきたのです。
 そのカラスたちの羽音はすざましく、バッサバッサと遠くかなたの島まで聞こえたほどでした。スハラの山の上はカラスの羽の起こす風が台風のように巻き上がり、木々を揺らし屋根の蚊帳を吹き飛ばしてしまいました。
「あな、恐ろしや、オーのイナグ按司はやはり神と交わった魔物だったのだ」
スハラの若按司はすっかり度肝を抜かれ、それ以後オー島に手を出すことはありませんでした。

 オーのイナグ按司様は、突然現れたこのカラスの大群に驚きましたが、これがあの大きな赤い目のカラスの仕業だとすぐに悟ると、
「そうか、これが約束の印か、では神よ、約束の時がとうとう来たのだな」と天に向かって叫びました。
 その瞬間、黒いカラスがイナグ按司様めがけて突進してきたと思うと、イナグ按司様は、櫓の上から真っ逆さまに地上に落ちて行ってしまいました。

 幸い、屋敷の屋根のカヤの上に落ちたイナグ按司様は、一命を取り留めましたが、カヤにたたきつけられたその瞬間、イナグ按司様の体の中から、光の欠片が飛び出し、地面に落ちていったのです。
するとカラスたちが、屋敷の「開かずの間」に次々とぶつかり、戸を壊してしまいました。

 その時、壊れた戸の隙間から一羽の黄金の冠をかぶったような、金色の鳥が飛び出し、すかさず地に落ちた欠片を加え、飛び去って行ってしまいました。その羽の輝きは透き通るような金色で見事な鳥でした。
 それは、瞬く間の出来事で4人の子供達は、わけもわからず傍観するしかありませんでした。
カラスたちは次々に飛び去り、島を覆っていた黒いカラスの群れは、雨雲が去るように消えて行ってしまいまったのです
 あの赤目の大きなカラスは、しばらく木の上に留まっていましたが、やがて悠々と羽を広げ、カーカーと鳴きながら西の空へ飛び去ってしまいました。

一命を取り留めたイナグ按司様は、4人の子供達を呼んで言いました。
「ワラビンチャーヨ、ユーチキヨー(子供達よ、よくお聞き)」
「私は人間であるが、地の神と交わり神の知識を得、我が民を収めてきたが、時が来れば神に命をお返しする約束であった。そしてその約束の日は、ニライカナイの神様よりお預かりした「黄金の鳥」が目覚める時であった。かの鳥は50年の間、我が「祈りの間」で寝たままであった。しかしここにきて「黄金の鳥」が目覚め、私は命の覚悟をしていたのだが、どうやら命は助かったらしい。
ニライカナイの神様がお情けを下さったのであろう。
 お前たちは、人間として育ってきたが、地の神の血を引く尊い一族なのだ。その血に恥じぬようよき人よき領主になって人々を導くが良い」

 そののちイナグ按司様の子供達は、母の教えに従い、それぞれ人間の相手を娶り人間に嫁ぎ、久米島の各地に旅立っていきました。
 イナグ按司様も「黄金の鳥」と「カラス」の事情は知る由もありませんでしたが、深く神を信仰し、良き領主となり民に慕われ、残る命をまっとうしたという事です。

 ちなみにイナグ按司様が最後に放った矢は、遠くスハラの城まで届き、その武勇は末代まで恐れられたそうです。


              久米島 奥武島の畳石

※ 畳石:奥武島海岸にある六角柱状節理
 六角状の岩石群、溶岩がゆっくり冷えて岩石になるときに、溶岩の体積が収縮し規則的な割れ目ができたと考えられる。表面は波の浸食を受けほぼ平坦で、畳のような景観を示すことから畳石と呼ばれている。南北50メートル、長さ250メートル、直径1メートル前後のものが1000個あると言われているが、砂に埋もれて見えない部分がある。


※ 民話: 「奥武女按司と山城塩原城按司」 参照
原話は「仲里村史 第4巻」に掲載されています、無断掲載が出来ませんので、原話に興味のある方はそちらをご覧ください。


※「久米島怪かし物語」は ただの寝物語です。

              「水曜更新」





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Last updated  2023.11.02 21:57:09


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