GOlaW(裏口)

2009/03/20
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 一つの歪みが、次なる歪みを招く。
 25年前、正されなかった歪みは、彼をずっと壊していく。


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 以下、ネタばれあり。要注意。

 一番外れてほしい予想が当たってちょっと凹んでいる管理人です。
 まさか、丸山さんだったとは……(泣)。 

 しかし『時効成立で犯人勝利』という結末では無く、『時効が成立してしまったが故の、崩壊』を描いているのは印象的でした。

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◆ 25年の、丸山の心の軌跡

 これはあくまで、個人的な推測です。



>「神様が導いてくれたんだ」
>「別に犯人がいてくれって、そう願った時もあった」

 現実と内面世界が、ゆっくりと乖離していく。
 完全に狂ったわけでは無い。現実を認識し、それに干渉し、望む方へと導くこともできる。

 けれど。
 最初に始まったのはおそらく、『妹の喪失』。
 彼の場合、悲しみや怒りが渦を巻いていたと思われます。
>「兄貴として、妹の前だとどっかカッコつけたいっていうかさ」
 妹が、苦しみを話さずに死んだときの、悔しさと憤り。兄として守れなかったことへの、虚しさ。
 それが、自己弁護と混じり合い、負の感情を外へと向け始めるのでしょう。

 自分は間違っていない、現実が間違っている。
 妹を追いこんだ男に、同じ報復を。
 自分を責める限界を超えたとき、心の自己保全機能が、ゆっくりと責任をすり替える。

 本当なら、その責めはいつしか時間によって昇華されるはずだったのに。
 昇華される前に、それは出口を見つけてしまう。

 そう、その怒りと憎しみをぶつける先に、出会ってしまう。

 まだ25年前は。心のどこかでは、自分が間違っていることを知っていた。
 その理性を、『運命論』にすり替え、黙らせる。
 そこから少しずつ、彼の中で『自分の中の世界』と『常識』が乖離していく。


 けれど一瞬、自分の心が否応なく現実に引き戻されてしまう。
 郷田との出会いによって。
 彼は少年に怯える。―――いや、『自分が罪を犯した』という事実に。
 その恐れは、彼にさらなる殺意へとつなげていく。


 もしも、25年前、丸山が掴まっていたならば。
 彼の『神様』信仰も根拠がないと分かり、現実に戻れただろうに。
 彼は捕まらなかったが故に、『自分は間違っていない』と更に狂うことになるのです。


 彼は『自分の殺人の正当性を壊す存在』を失わせるために、郷田殺害を実行します。
 『顔にあざのある男』とは、『神が、自分の正当性を支えるために教えてくれた存在』。それをチラつかせることは、自分の歪んだ信仰に基づく行為です。
 だから彼は、『神の加護』を信じ、その信仰を守るために、殺害を実行し。
 そうして、心の中の理性と道徳観をさらに壊します。
 『罪を認める』ことは自分の精神が破滅する段階にまで、彼は自分を追い詰めたのです。


 彼はそして『警察官』を演じ続けます。
 演じながら、その心の『仮面(ペルソナ)』を強固にしていくのです。


 そしてやがて郷田がやってきます。
>「俺、お前を信頼してないから」
 丸山が笑って言った言葉。それは、その時の本心だったのでしょう。


 やがて焦りを隠し、『初対面の演技』をしている間に。
 丸山は自分ですら予測のつかない25年前からの因縁に困惑し、時に昇給を蹴らざるを得ない状況を経験していく間に、『仮面(ペルソナ)』をかぶり続けることに快感を覚えていきます。
 その『仮面』は、彼自身の心にも強い変化を生み出していきます。

 『押し込められていた本来の理性と道徳観』は、それまでの反動も加わって『仮面』と強くつながり。
 それまで自分を支えていた『信仰』すらを押しのける力を得るのです。

 けれど、拮抗する『仮面』と『信仰』は決して交わることはありません。
 その強すぎる二つの感情を融合しようとしたならば、彼はどちらとも支えを失い、破滅する段階にあるのです。


 郷田に疑われた時に、彼が苦笑いで赦したのは。
『実際に、自分が犯人だから』
『彼を、助けたいから』
 そのどちらの想いが強かったのだろうか。


 彼はその二つの意識に振り回されます。
 郷田を襲ったのは、彼らと離れることで『仮面』への執着が薄らぎ、『信仰』の方が強くなったから。
 自分の首を絞めるように調査に協力したのは、本当に事件を忘れ、『仮面』にしがみついて安らぎを得ていたから。


 彼の言葉は、相手をだます言葉であると同時に、本心であるという、奇妙な事態になっていたのです。


 彼が捕まった時の笑みは、何だったのだろう。
 自分が刑務所の中に逃げ切り、郷田に殺されないとほっとしているのか。
 『新藤利道』の名前が出るだけで、自分が決して控訴されないことを、確信したからか。
 『仮面』を失い、『信仰』と『仮面』のせめぎ合いから解放されたからか。


 そして、彼は郷田達に尋問された時も、朗らかに語る。
 自らの歪んだ『信仰』に従ったのだと、間違ってなどいないと、心から信じて。

>「よかった。
> 俺のやったことは、正しかった」
 最後の理性と迷いも、郷田の語る事実に吹き飛んで。

 さらに狂う中、彼はタガを外します。
>「憎いだろ?苦しいだろ?許せないだろ?」
 『自分と同じ殺意を抱いている』、その点に置いて、彼は強く郷田に共感します。
 郷田が丸山を殺すことは、『信仰』に基づく行為だと。

 そして、『仮面』によって逃げ道を与えられていた道徳観と良心からの悲鳴もまた。
『死によって、この葛藤を終わらせてくれ』
と願い、叫ばせたのです。


 けれど、その丸山の願いは拒絶されます。
>「俺の大切な人が、人殺しなんか望むわけないだろ!」
 その言葉が、丸山を狩りたてていた『信仰』の根源を突き崩します。

 自分が誰かを殺したのは、自分の弱さゆえだと。
 『信仰』など、自分の正しさを示すものでは無かったと。


 『信仰』を失ったとき、一瞬だけ、『仮面』を客観的にみることができて。
 『仮面』をかぶっていた時の思いは、心から思った故だったのだと、呟いてしまうのです。


 捕まった後、彼はそのままなら、再び『信仰』に呑まれ、軽い刑に処されただけになるでしょう。
 けれど、舜が『新藤』の事実を摘発したことで、状況は変わります。
 丸山はおそらく『信仰』を揺らがせ、良心と道徳によって苦しみ始めるでしょう。




 私は、丸山の心の移ろいを、そう考えるのです。

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◆ 十字架を背負う者

 これは第十話のタイトルより。
 25年間、誰もがずっと罪の意識に苦しんできたのですね。

 そして、その罪に向き合うだけの強さを持ったのが、舜の父親であり、佐智絵の父親でした。
 彼らは『不可抗力』という逃げ道に逃げず、ずっと25年間事実と向き合ってきたのです。


 舜の父親は、真実を明らかにするためだけに這い上がり、そして真実を明らかにするためだけに地位を捨てました。
 彼こそ、本当の警察官だと私は思います。
 そして同時に、『正しいことをするのに、地位を犠牲にしなくてはならない』官僚社会の歪みも、腹立たしく思うのです。


 佐智絵の父親は、自らの命を危険に晒し、『二人の娘』を守ろうと戦います。
 彼もまた、25年間の闇を黒木信三と戦い続けた人間でした。


 瞬が父親の真実を知った時、どれだけ心強く、尊敬できたでしょうか。
 それこそ、今回の事件における彼にとって大きな救いだったと思うのです。

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◆ 郷田の同級生たち

 郷田にとっての救いは、彼の同級生たちの思いでしょう。
 彼にずっと友情を感じていた人、彼と同じ想いを抱いて行動していたもの、心配していたもの……。
 時に裏切られ、時に信じられないと思いながらも。

 それでも、彼の味方だったのだと。

 二度も『守りたい人』を失った悲しみと怒りに呑まれなかったのは、『サチ』の遺言と彼を支える同級生達の存在が大きかったと私は思います。


 どんなに離れていても、心がつながっていた、本当に素敵な友人達です。

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◆ 舜の決意

 舜が告発へ踏み切ったこと。 
 あまりにも大きなデメリットへと向き合ったのには複数の説があるでしょう。

 一つには、郷田という存在。
 社会の仕組みを無視し、ただ自分の中の信念だけを信じて行動する勇気を。

 一つには、父親の存在。
 正しいことのためだけに這い上がり、そして権力を正しく使い、その力を正しいことのために失う。
 そんな父親の姿は、彼にとってまた新しい驚きであり、喜びであったでしょう。
 偉大な父親像を追うことは、彼にとっての喜びにもなったでしょう。

 そして最後に――丸山の存在。
 丸山が逃げ切ってしまったことによる、悲劇。
 事件を見逃すことの罪悪を知ってしまったから。


 彼にとってこの一件は、更なる成長を促したのだと思われます。

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 とても見ごたえのあるドラマでした。
 これらのほかにも、印象に残る台詞が散りばめられたドラマでもありました。

 あまりにもいろんなキャラクターが魅力的でした。
 この脚本とスタッフでもう一度ドラマが見たい、そう思わせる力がありました。


 できればこの後の黒木舜を主人公に、スピンアウトドラマが見たいですね。正義と共に這い上がる、彼の姿をもっと見たい。
 父親との会話、郷田という強力なコネ、そして情報を得る能力。これからもどんどん話が作れちゃいそうです。
(手元に『ネオクーロンB』(鷹見一幸著 スニーカー文庫)を握りしめつつ)

 もちろんそれは、『トライアングル』とは全く異なる話になるでしょう。この物語は確かに、ここで確かに終わったのですから。
 それでも……というのは、私のわがままかな?

 スタッフ様、出演者様、皆様お疲れ様でした。
 これからも素晴らしいドラマを作ってくださることを願っています。

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 25年をかけ、歪みを吐き出し、残された者達は生きるべき道を歩き出す。





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Last updated  2009/03/20 09:17:12 PM
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