★ヘルマン・ヘッセ


☆ヘルマン・ヘッセ

―願い―

無言のうちに多くのことを語っている小さい手を
差しのべてくださる時
私はいつかあなたにたずねました
私を愛してくださるか、と

私はあなたに愛してくださいとは望みません
ただ、あなたがそばにいてくださることを知り
あなたが時折無言でそっと
手を差しのべてくださることを望むばかりです


―階梯―

なべて花がみな衰え
若さが老いに屈するように
人生の段階はすべて、叡智も徳も
咲くはひと時、永遠には続かぬ。
人生の招きを聞く時は
心はいつでも別れを告げて
勇気をもって、悲しまず、
次の新たな繋がりへ
おのれをゆだねる覚悟が必要。
始まりの時はどれもみな
不思議な力を宿らせる。
われらを守る、頼みの力。

宇宙から宇宙へ陽気に進もう
故郷のごとく留まる所などない
宇宙の霊が望むのは
われらを縛らず、閉じ込めず
一段一段われらを高め、広げること。
ひとつの世界に住みついて
慣れて気楽に暮らすなら
たちまち心は緩んでしまう。
進んで足を踏み出して
旅に出かける者だけが
萎えた馴染みの世界を飛び出す。
いまわのきわはなおもまた
新たに次の空間へ
われらを送り出す時か
人生の招く呼び声は
決して果てることがない…
ではいざ、心よ
別れを告げて、元気に行こう!



      ―霧の中―  ヘルマン・ヘッセ
                    高橋健二 訳

      不思議だ、霧の中を歩くのは!
      どの茂みも石も孤独だ。
      どの木にも他の木は見えない。
      みんなひとりぼっちだ。

      私の生活がまだ明かるかったころ、
      私にとって世界は友だちに溢れていた。
      いま、霧がおりると、
      だれももう見えない。

      ほんとうに、自分をすべてのものから
      逆らいようもなく、そっとへだてる
      暗さを知らないものは、
      賢くはないのだ。

      不思議だ、霧の中を歩くのは!
      人生とは孤独であることだ。
      だれも他の人を知らない。
      みんなひとりぽっちだ。



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