もの言わぬ友
若いとき、わたしはいっぽんの若木を植えた。
しかし、いま、その木は生い茂り、わたしは老いた。――
そこに、冬の駒鳥は寒気を避けて身をかくし、
その銀のさえずりをこぼす。
みどり溌剌たるいっぽんの木を、わたしは植えた。
つややかに葉っぱのついた、常盤木のいっぽんを植え。――
真昼の日照りのつづく間じゅう、その木は一まいの幕をひろげ、
その下に行っては、わたしは座ったものだった。
しかし、いま、その木がおのが場所にそびえるのを見るばかり。
わたしは、家ぬちの窓べに坐り、窓鳴らす疾風に
その木が揺さぶられるのを、また、その木が霜で銀いろを帯びるのを見るばかり。
あるいは、美しい夏のさかりの日に、
その木が、そっと接吻しては過ぎて行くやさしい風にむかって、
堂々たる優雅を示しながら、その円いみどりの頭を頷かせるのを見るばかり。
その木は、みどりに成熟した年齢を証しているのだ。――そして、わたしは?
わたしは、色褪せて皺だらけになった顔のみ証す。
わたしは、よくその木を見つめたものだ。きまって、最後には
眼いっぱいに涙があふれ、わたしは見つづけていられなくなってしまうのだ。
しかし、いま、その木こそわたしの莫逆の友では内科という気がする。
わたしの秘密の全部を知り抜いている友ではないかと。
実直で、気の置けない友。年経るに従って、
わたしの成長とともに成長し、わたしが強くなるとともに強くなっていった友。
その友の緑の生涯は、しかし、わたしの生涯より長いことを証している。――
わたしがここに坐らなくなったときにも、
この木は、なおもかわることなく、春には芽ぶき、秋には少しばかり葉をこぼし、
夏の炎暑には木陰のとばりをつくってくれ、
冬には暖かさをつくってくれるだろう。――さらには、わたしの死の床が
この糸杉の織りだす影の中に置かれるときにも。
by Christina・Rossetti
斉藤正二 訳
世界女流名詩集・深沢須磨子編/角川書店