★The Sonnet 1



              ―Sonnet 1―

              From fairest creatures we desire increase,
              That thereby beauty's rose might never die,
              But as the riper should by time decease,
              His tender heir might bear his memory:
              But thou, contracted to thine own bright eyes,
              Feed'st thy light'st flame with self-substantial fuel,
              Making a famine where abundance lies,
              Thyself thy foe, to thy sweet self too cruel.
              Thou that art now the world's fresh ornament
              And only herald to the gaudy spring,
              Within thine own bud buriest thy content
              And, tender churl, makest waste in niggarding.
              Pity the world, or else this glutton be,
              To eat the world's due, by the grave and thee.

              (Shakespeare)



              美しいものは殖えることこそ望ましい、
              みめうるわしい薔薇のいのちが絶えぬように。
              成熟したものは時を経て滅びてゆくが、
              うら若い子がいれば、親の姿を引き継ぐこともできよう。
              だが君はおのれの輝く眼に見とれてしまい、
              眼の光を保つために、自分の命の火を消耗している。
              ゆたかに燃えるものを消費して飢饉を作り出している。
              君が君自身にそむき、美しい自分をむごく扱うのだ。
              いま君は世の若々しい飾りであり、
              はなやぐ春の無二のさきがけだが、まだつぼみなのに、
              これから開くはずの幸せを葬ってしまっている。
              若いのにしまり屋の君、君は出し惜しんで実は浪費している。
              世に情けをかけてやらねば、君はむさぼるだけだ、
              世に贈られるはずの子を自分で食い、墓に入っていまうのだ。

              (柴田稔彦)


              (別訳)

              たぐいなく美しいものの子孫こそ殖えてほしいのです。
              そうすれば、美の薔薇が死にたえることはない。やがて
              時がきて、年老いたものが亡くなっても、
              若いあとつぎが面影を伝えてくれようから。
              だが、きみは自分の輝く眼(まな)ざしと婚約したようなもの、
              われとわが身を燃やしてご自分の光の焔をかきたてる。
              豊穣のきわまるところに飢饉をつくりだし、
              ご自身を適にまわして、美しい姿をむごい目にあわせる。
              きみは、いまや、この世界の新しい飾りであり、
              はなやかな春の到来をつげる第一の使者なのですよ。
              そのきみが莟(つぼみ)の身におもが財産を埋めたまま、こうして、
              若い欲ばりやさん、出し惜しみしながら浪費している。
              この世を憐れみなさい。でなければ大食の罪におちます。
              世間の分け前をきみと墓とで食らいつくすのだから。

              (高松雄一)


              (別訳)

              誰もが美しい者から子孫が生まれることを願う。
              そうすれば美しいバラが枯れることはないからだ。
              年老いた者が時の滅びをうけるとき
              若い後継ぎが親の思い出を引き継ぐ。
              それなのに君は自分の目の輝きに見とれるあまり、
              自分の燃料で自分の炎を燃やしつくし、
              豊饒の大地で飢饉を引きおこす。
              そんな君は自分の敵であり、美しい自分に冷酷すぎる。
              今や君はこの世のみずみずしい宝、
              極彩色の春のさきがけ。
              そんな君が自分のバラをつぼみのまま終らせたら、
              けちんぼさん、そんな物惜しみはひどい浪費だ。
               世間をあわれみなさい、それがいやならそれでいい、
               あんたのお陰でこの世の宝もお墓行きだ。

              (戸所 宏之)




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