Act 4, Scene 7
QUEEN GERTRUDE:
There is a willow grows aslant a brook,
That shows his hoar leaves in the glassy stream;
There with fantastic garlands did she come
Of crow-flowers, nettles, daisies, and long purples
That liberal shepherds give a grosser name,
But our cold maids do dead men's fingers call them:
There, on the pendent boughs her coronet weeds
Clambering to hang, an envious sliver broke;
When down her weedy trophies and herself
Fell in the weeping brook. Her clothes spread wide;
And, mermaid-like, awhile they bore her up:
Which time she chanted snatches of old tunes;
As one incapable of her own distress,
Or like a creature native and indued
Unto that element: but long it could not be
Till that her garments, heavy with their drink,
Pull'd the poor wretch from her melodious lay
To muddy death.
小川のふちに柳の木が、白い葉裏を流れにうつして、
斜めにひっそり立っている。
オフェリアはその細枝に、きんぽうげ、いらくさ、ひな菊などを巻きつけ、
それに、口さがない羊飼いたちがいやらしい名で呼んでいる紫蘭を、
無垢な娘たちのあいだでは死人の指と呼びならわしているあの紫蘭をそえて。
そうして、オフェリアはきれいな花環をつくり、その花の冠を、しだれた枝にかけようとして、
よじのぼった折も折、意地わるく枝はぽきりと折れ、花環もろとも流れのうえに。
すそがひろがり、まるで人魚のように川面をただよいながら、
祈りの歌を口ずさんでいたという、死の迫るのも知らぬげに、
水に生い水になずんだ生物さながら。
ああ、それもつかの間、ふくらんだすそはたちまち水を吸い、
美しい歌声をもぎとるように、あの憐れな牲えを、川底の泥のなかにひきずりこんでしまって。
それきり、あとには何も。
by 『ハムレット』シェクスピア/福田恒存 訳
新潮文庫
柳の木が小川の上に斜めに身を乗り出し
鏡のような流れに銀の葉裏をうつしているあたり。
あの娘は、その小枝で奇妙な冠を作っていました。
キンポウゲ、イラクサ、ヒナギク、シランなどを編みこんで。
あの花を、はしたない羊飼いたちは淫らな名で呼び
清らかな乙女たちは「死人の指」と名付けている。
それからあの娘は柳によじ昇り、しだれた枝に花冠を掛けようとした途端
意地の悪い枝が折れて
花冠もあの娘も
すすり泣く流れに落ちてしまった。裳裾が大きく拡がって
しばらくは人魚のようにたゆたいながら
きれぎれに古い賛美歌を歌っていました。
身の危険など感じてもいないのか
水に生まれ水に棲む生き物のよう。
でも、それも束の間、
水を含んで重くなった服が
可愛そうに、あの娘を川底に引きずり込み
水面に浮かんでいた歌も泥にまみれて死にました。
ウィリアム・シェイクスピア『ハムレット』第4幕7場より
松岡和子:訳:ちくま文庫 シェイクスピア全集1『ハムレット』