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証拠を掴んだら・・・復讐だ薄暗い天守への階段を上って行く正人の姿があります。正人「父上の死因は何だ・・・何かある・・・殺されたのか・・・そうとすれば誰 に・・・証拠をつかまなければならぬ・・・、証拠を掴んだら・・・復讐 だ」 呟きながら天守の階段を一歩一歩踏みしめ登って行きます。父上はいつも平和を願い、叔父上は野望のために・・・その叔父上と母上はどうして寝床を同じくしたのか、正人の心中に複雑な思いがこみ上げてきたとき、下から「正人・・・正人・・」と母の声がしました。 母時子は雪野と共に、正人を求め階段を上がります。天守の外に身を隠していた正人が笑い声をあげ中に入って来ます。「どうしたのです・・・」と問いかける時子に答えず、手をはらうようにします。 雪野が時子に促され正人に「雪野ですよ・・・どうなすったんです」と近づくと、雪野の顔を両手で持ち上げ不気味な笑いを浮かべながら見て、「空は日本晴れだ」というのです。そんな正人に雪野が「私達の望みです、たった一つの誇りです、・・・お気を確かに・・・」と話しかけます。 すると、正人が「雪野」といい話しかけてきたのですが、正人「雪野、見目うるわしい女か・・・操は正しいか・・・美しさは操を売って売 女にかえる商人だ。・・・・・怖い・・・海は怖いな、怒ると人を呑むぞ」というと、再び笑い声をあげ外へと出て行きます。 師景は正人が気が触れた理由を探り当てるため、正人から片時も目を離さず尾行の者を二人つけるのです。天守から出て来た正人のところへ多治見庄司が駆け寄ってきます。正人は何もいわず速足である程度距離を歩いたところで、庄司の方を振り向くと丁寧にお辞儀をします。正人は尾行されているのを分っていたのです。 そしてゆっくりと歩きだし、庄司に話しかけます。正人「ニセ気違いともならないと殺されるところだった」と。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)炎の城・・・(2)
2024年05月27日
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「よし、約束しよう、必ず、力の及ぶ限り・・・」農民達が大勢集まっている場所に顔を出した正人は農民達が年貢で苦しめられていることを知り、正人「よし、約束しよう、必ず、力の及ぶ限り・・・」農民達から歓声が上がった。 その夜、城では正人が帰って来た祝いの宴が開かれた。師景「正人、よく無事で帰って来たのう、・・・みんなお前の帰りを待っていたの じゃ。・・・今日は、お前の無事を祝って、無礼講で祝おうというのじゃ」そういう師景の方をじっと見つめる正人に、直之進が異国の面白い話を聞かせてほしいと投げかけます。 その様子を目にしていた人々は、正人の気が触れていることを察しました。正人が口を開く。正人「明国は広い、海は青い」そんな正人に、師景「ええ、お前は、父の死を聞いて心乱れたのかも知らんが、これからはのう、 この叔父を誠の父とおもってくれよう、よいか」 師景に対しての正人の返事は、ただうつろな、不気味な笑い声でした。そしてふらふらと歩きだし。正人の目は雪野を探し、答えるように正人を見つめる雪野の目を見つめると、ふらふらと宴の席を抜けていきます。 続きます。🎞️『炎の城』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。炎の城・・・(1)
2024年05月18日
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シェイクスピアを翻案した時代劇というと黒澤明監督の「蜘蛛巣城」「乱」の二作品があることはご存じでしょう。ここで紹介する「炎の城」と黒澤監督の二作品に共通するところは、時代背景を戦国時代にしていることと、4大悲劇にもとづいていることです。加藤泰監督は、黒沢作品「羅生門」ではチーフ助監督をやっていました。「蜘蛛巣城」からはモノクロで水墨画を思わせる画面と力強さで描かれていますが、「炎の城」は華やかな美しい色彩感覚の映像の中に細やかな心理劇が展開されていきます。ラストの燃えさかる城の凄まじい変化の状態を描いていきますが、その中での殺陣の場面は東映時代劇の要素を見せないものになっているといえましょう。加藤監督は「炎の城」は”失敗作だ”と自戒の言葉を残した最大の理由には、ラストシーンにありました。当時のスター中心の考えの会社側との意見の違いから思うように撮影できず、不条理な結末にしてしまったことです。◆第68作品目 1960年10月30日封切 「炎の城」 王見正人 大川橋蔵六角雪野 三田佳子王見時子 高峰三枝子王見師景 大河内傅次郎多治見庄司 黒川弥太郎六角直之進 薄田研二六角祐吾 伊沢一郎相楽宗恵 坂東吉弥王見勝正 明石潮陀七 河野秋武シェークスピアの有名な「ハムレット」を時代劇風に脚色、1560年頃の瀬戸内海沿岸の玉見城を舞台に繰り広げられる復讐劇。留学先の明から帰国した王見城の若殿・王見正人を待ち受けたのは父・勝正の急死だった。叔父の師景が正人の母・時子を妻にして城主となり、悪政によって民を苦しめていることを知った正人は、乱心を装って周りの目を欺き、父の死は師景の謀略であることを追及、討とうとするが・・・。真相を確かめるのだ海岸沿いの映像・・・今から400年近く以前、瀬戸内海の沿岸に・・・場所は王見城、六角直之進に城主王見師景は、昨夜正人の乗っている船が嵐にあって沈む夢を見た、これが正夢ならわしは運がいい男だ、と話しているところへ、物集港から早馬で正人の姿を見たという知らせが届いたのです。その知らせを聞いた王見城の若い家臣達は正人の帰るのを希望をもって待ちこがれ、また、時子に仕える雪野もまた正人の帰りを喜んでいます。師景と直之進は正人の帰国をどう迎えるか考えている頃、多治見庄司が小舟でやって来た正人を出迎えていました。父上のこと、叔父師景の悪事と師景の妻となった母時子のこと等、変ってしまっている王見城の様子を教えてくれた庄司に正人は感謝するのです。 このままでは、叔父師景にも母時子にも会えぬという正人。庄司が、正人にこれからどうされるのかと聞くと、正人「真相を確かめるのだ、証拠をにぎるのだ。父上が急病で亡くなったというの は表向きのことで、その本当の死因については、いろいろなことをいう者が いると、お前いったではないか」ひとまず城へ帰らないと・・・という庄司に、明国へ連れて行った供の者達を先に返してある、といい父上が亡くなってお役御免になり国へ帰った老臣二人から何か聞けるかもしれない、と訪ねます。まずは一色主女を訪れたが。すでにこの世の人ではなくなっていました。お役御免になって帰って来ると、すぐ城からの使者が来て、先君の殉死を求め、その場で切腹させたというのです。「恐らく、主女殿は何か大事なことを知っていたのです」と庄司がいいます。 正人は庄司に先に城へ帰るように、そして、「雪野に俺も間もなく帰るからと伝えてくれ」海の向こうの新しい知識を得、誰も彼もが安穏に暮らせる天国にしたかった、しかしそのために父が一番自分を必要とした時にその場に居合わすことが出来なかった、と正人は悔やみます。正人は庄司に先に城へ帰るように、そして、正人「雪野に俺も間もなく帰るからと伝えてくれ」といい、もう一人の相楽伊賀亮を訪ねます。が、伊賀亮もこの世の人ではありませんでした。国へ帰って来た翌日、裏の沼で釣りをしているところに、急に矢が飛んできて胸板を貫いた、というのです。城へ訴えたが何の音沙汰もなく泣き寝入りで・・・それでいやになって百姓になった、という息子宗恵の気持ちを思い、正人「無理もないことだと思う・・・が、伊賀亮に聞きたいことがあって来たん だ」その言葉に宗恵が正人の方を振り返ったとき、「より合いだあ」という声が聞こえに、「何事だ」と聞くと、宗恵は正人を誘い村の話を聞いてほしい、と。宗恵「今村は大変なことになっている、みんな正人様の帰りを待っていたんだ」正人「・・・うん」 続きます。
2024年05月08日
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生涯を、八幡大菩薩の旗の下で暮らすのだ右衛門太夫の船では、今夜イスパニアの船に女達を売り飛ばす前祝いをやっています。青影丸と住吉丸が静かにニセめくら船に近づいていました。ニセめくら船がそのことに気づいたときには、大砲が打ち込まれます。そして、その大砲の音を聞き、対岸に待機していた鹿門は「いまだッ」というと、鹿門「それッ」といい、先頭で海に飛び込みます。 青影丸、住吉丸の攻撃に気を取られている間に、泳いでニセめくら船に乗りこもうというのです。 帆をあげている船員に気がつかれたので、鹿門は「潜れ」と指示します。海中めがけ飛んでくる銛をかわしながら船まで近づくと、投げたかぎ縄を伝って船に上ります。 ここから、双方入り乱れての船上での立廻りになります。青影丸や住吉丸が応援に来ると新蔵人の名を呼ぶ鹿門がいました。寿賀、与太夫、も応援に右衛門太夫の船に斬り込んでいきます。 大混乱のなかでの、鹿門と右衛門太夫の一騎打ちが始まります。色んな手段でかかってくる右衛門太夫に応戦する鹿門。右衛門太夫は剣を振り払らわれ追い込まれ、鉄砲を鹿門にむけますが、新蔵人により鉄砲も蹴落とされ、帆柱に上って行きます。鹿門は蹴落とされそうになりながらも、右衛門太夫が上りきったところで一刺し、仇を討ちました。右衛門太夫は海へ落ちていきます。 小静と五兵衛は助かり、無事会うことができました。 澄みきった青空のもと、八幡船団は帆にいっぱいの風を受けて、一路目的地に向かって進んでいきます。めくら船の先端に、大海原をじっと見つめている鹿門の姿があります。寿賀が鹿門に近づきます。鹿門と寿賀のにこやかな表情がとても素敵です。寿賀「とうとう、海の男、八幡船の男になってしまったわね」鹿門「寿賀さん、俺は入道殿や父君の意志を継ぎ、八幡船の頭領として働くぞ」寿賀は優しく鹿門を見つめます。鹿門「・・・生涯を、八幡大菩薩の旗の下で暮らすのだ」そういって、風になびく八幡大菩薩の旗を見あげる鹿門の顔には、海の男の力強い誇らしさが溢れています。 (終)🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(17)海賊八幡船・・・(16)海賊八幡船・・・(15)海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年04月27日
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鹿門・・・寿賀の気持ちを受止めます鹿門が先頭で三艘の小舟が密林の狭い流れを進んでいきます。その周りはもうバランガ族に囲まれているのです。鹿門がそれに気づき、黒白斎に鹿門「見張られているぞ」といいます。 バランガ族の目が光るなか、伐採の作業を遂行します。鳥らしき異様な鳴き声が響くなか、切り倒した材木を小舟に結び付けるため水辺まで運んで行きます。小舟に材木を結びつけていた者達が水の中へ放り出されたかと思うと、バランガ族は矢を放ってきす。その矢が鹿門をめがけて来たところに陳が立ちふさがり、鹿門に逃げるよういいます。 森の奥から「ワーッ」というこえが聞こえバランガ族の大群が押し寄せて来ます。鹿門、新蔵人、黒白斎、寿賀はじめ八幡船の乗組員達は石銛が飛んでくる中を必死で逃げます。そんななか寿賀と黒白斎が捕まって連れて行かれてしまいます。鹿門や新蔵人達も追い詰められて身動きが取れなくなったとき、負傷しておいて行かれた伝馬がやって来ていて、爆薬をバランガ族に投げつけ助かり、今度は反対に鹿門達がバランガ族に向かって追いかけていきます。 しかし、あるところまで追って行くと誰もいなくなり辺りは静寂に、恐る恐る前進したところに見たのは、捕らわれ木に縛り付けられた黒白斎と寿賀でした。 鹿門 「爺」新蔵人「寿賀」と叫びかけより縄を切ろうとしたとき、銛が背後から突き付けられます。 全員木に縛り付けられ、バランガ族の儀式のようなものが始まります。 黒白斎が、鹿門に、我々は右衛門太夫の一味と間違えられている、といいます。鹿門「なに、右衛門太夫と・・・」親や兄弟が右衛門大夫に皆殺しにされ、その仕返しをめくら船に乗っていた我々に仕掛けて来たのだ、というのです。違うといっても、黒船が証拠だと聞かないのだと。 恐怖に耐えられなくなっている寿賀に、鹿門が声をかけます。 鹿門「寿賀さん、ほかのところを見るな。俺の目を見ろ」そういわれた寿賀は、ゆっくりと顔を鹿門のほうに向けます。 銛が二人の間を・・・そのなか、少し落ち着いた寿賀が鹿門に話しかけます。寿賀「あたしのために・・・小静さんが探せなくなって・・・」鹿門「いうな・・・寿賀さん、・・・美しい因島の浜辺を、馬に乗って走っている と思え。・・・俺と一緒に並んでな」寿賀が、それに首を縦に振り答え、そして寿賀「鹿門様・・・好きよ・・・好きよ・・・」鹿門も寿賀の気持ちを受止めます。 同じ木の後ろに縛り付けられていた新蔵人が鹿門に声をかけ、新蔵人「お主だけは生かしておきたいなあ」鹿門 「何をいうんだ、ここまで来て仲間外れにするな。俺は八幡船の男ではない か」新蔵人「八幡船の男だから、生かしておきたいのだ」そんな二人を見ていて、「これが船の上だとな」と嘆きます。 かしらの合図で物音が止み、次の合図で槍を鹿門達に向けあわやというとき、右衛門太夫の手下で船の見張りをしていた男をみつけたといって連れてきました。その男の息をかしらが止めました。そして、鹿門のところへ行くと縄を切ったのです。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(16)海賊八幡船・・・(15)海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年04月21日
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頭領だからこそ行くのだ波を見つめ、決心に間違いないことを確かめたあと、月影のもれる密林をさまよっていた鹿門は、沼で水浴びをしている寿賀にきずき足を止めます。寿賀も鹿門に驚き、鹿門は目のやりどころに困り、急いでそこから立ち去ろうとしたとき、 寿賀が「鹿門様」と呼び止めます。寿賀のほうを見た鹿門に、「さっきは有難う、すっかり元気よ」と明るい寿賀に何もいえず、恥ずかしそうな表情をして行こうとする鹿門に、寿賀は「待って・・いま行くわよ」と声をかけます。 二人は楽しそうに歩いています。 鹿門「そなたは何でもできるんだなあ」寿賀「男勝りのお転婆といいたいんでしょ」鹿門「いや、褒めてるんだよ」鹿門「妹の小静も泳ぎが上手かった」寿賀「お可哀想に・・・早く見つかるといいのにね。・・・でも、小静さんが見つ かったら、鹿門様は堺に帰っておしまいになるんでしょ」 鹿門は笑みを湛え鹿門「・・・俺が帰ると思うか」といった鹿門に寿賀は嬉しそうに、寿賀「帰るような人だったら、・・もう、めっちゃくちゃに・・・」と、鹿門に寄っていくと、鹿門のほうも寿賀がすがって来るのをうれしそうによけながら、鹿門「ほれ、また激しいのがはじまった、・・・さっき褒めたばかりじゃないか」寿賀「・・・あたし・・・鹿門様に、もう・・・意地悪いえなくなっちゃった」 そのとき、鹿門は何かに気づいたようで、さっきまでの表情とは違い、険しさのある顔で寿賀に寄って行きます。 そして、寿賀を見つめると、鹿門「寿賀さん・・・・・」そういうと、寿賀を押し倒します。寿賀は「なにすんのよ」と突然の鹿門の行為に驚きと抵抗しますと、鹿門が寿賀に「見ろ」といった方向の木に矢が飛んできたのです。 二人は急いで安全なところに身を隠します。そして、鹿門が短刀を木の茂みに向かって投げますと、地面に咲いている花に血が垂れ、太鼓の音が聞こえたかと思うと死体が落ちてきました。周りを見て逃げます。太鼓の音が遠く鳴り響くなり響き、新蔵人、黒白斎はじめ八幡船の乗組員達は、バランガ族に囲まれていることがわかりました。 翌日、バランガ族が獰猛な土人だということを黒白斎から聞いても、鹿門「俺は、何としても行く」頭領の鹿門に万一のことがあっては、という黒白斎に、鹿門「いうな。頭領だからこそ行くのだ」新蔵人は、修理の材木がなくてこれから先の航海をどうするのだ、といった鹿門が気に入り一緒に行くといいます。「舟を出せ」と鹿門がいいます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(15)海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年04月10日
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俺は海に来てよかったのか浜辺で焚火を囲んでの歌と踊りの宴会が開かれています。鹿門と黒白斎は少し離れた岩場にいます。海に向かって佇む鹿門に黒白斎が話かけますと、鹿門は黒白斎のほうを向きます。黒白斎「若、お父君丹後守様は、この島によくお立ち寄りになりましたぞ。この先 の泉で月明かりの夜など、笛を吹いておられたものじゃ」鹿門「爺、丹後守という人は、どんな人だ」黒白斎「・・・ようお聞きくださいました。爺はそのお言葉をどんなに待っており ましたか。・・・今そうして立っていられる若のお姿は、お父君に生き写 し、勇ましく、お優しいお心根まで、そのままでございます。・・・あな た様のお母上様は、幼いあなた様を抱いて、めくら船におわしました」 鹿門「お二人共、確かに右衛門大夫に殺されたのか」黒白斎「・・・・はい・・・」そのことを聞き、鹿門は海のほうを向くと、 鹿門「右衛門太夫が、めくら船に乗り現われたとき、俺は両親の仇を討つというよ り、奴らの非道ぶりを目の当たりに見て思わず戦った。・・・堺の船火事の 中死んでいった父、あの無残な死にかたをした父を、一日とて忘れたことは ない。・・・俺はめくら船に乗った。・・・小静を探すために船に乗った。 ・・・だが、この長い航海の間に、いつの間にか俺はめくら船、いや、八幡 船の男になっていた」黒白斎「若・・・」鹿門「・・・海が呼ぶ。・・・丹後守という父が俺を呼んでいるのだ」 黒白斎はそれを聞き、うんうんというように首を縦に、鹿門が黒白斎のほうを向き訊ねます。鹿門「爺、俺は海に来てよかったのか」黒白斎「よかったですとも、よかったですとも。そのお言葉で、道休もうかばれま しょう。亡き丹後守様も、どんなにお喜びのことか・・・」海の彼方に目をやる鹿門の表情からは、迷いが消え晴れやかでした。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(14)海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月31日
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二人の間に恋の芽生え島に上陸し、負傷者達が木陰に運び込まれます。その中に伝馬もいました。鹿門が弾を取り出すことに。鹿門「いま荒療治をしてやるから、弱音を吐くなよ」と声をかけますと、「わてかて八幡船の勇士だ、弾ぬくぐらい蚊が止まっているみたいなものだ」と伝馬がやせ我慢。「よーし、はじめるぞ」と声をかけ、酒を吹きかけると、痛いと叫びもう終わったか聞く伝馬に「馬鹿、これからだよ」といい小柄を足に刺します。 その様子を遠くから寿賀も見ています。悲鳴をあげる伝馬に「それでも八幡船の勇士かい」といいながら弾をえぐり取り出し、「やっと出た」と汗を拭います。 笑いながら歩いていくと、ボーとして立っている寿賀の様子を見て、鹿門「おう、どうした、気分が悪いのか」と声をかけると、寿賀は気丈に振る舞い、寿賀「あんなことぐらい平気、あたしにだってできるわよ」と鹿門の手から小柄を取ると、鹿門に対抗するように、近くに横たわっている負傷者の腕から弾を取り出そうとします。鹿門はそんな寿賀が可愛く思っていたのです。何回も試みてやっと取り出せたのか、鹿門の「よーし、取れたぞ」の声で安心したのか、寿賀は気を失います。 鹿門は寿賀を抱き木陰によこたわせると、気がつき動こうとする寿賀に、鹿門「静かにしていた方がいい」寿賀「・・・・・」寿賀をじっと見つめやさしい笑顔を見せ去って行く鹿門に、寿賀「鹿門様」呼びかけられた鹿門が振り返ると、寿賀は優しい笑顔でじっと見つめ、寿賀「忘れものよ」と小柄を差し出します。このとき、二人の間には恋が芽生えていたのです。鹿門は寿賀のところに戻り、鹿門「なかなか上手かった。(小柄を受けとりながら)寿賀どのは名医だな」と話しかけているところに、「若~」という声がします。 島の様子を見て来た黒白斎と新蔵人達が帰ってきたのです。鹿門と寿賀は一緒に迎えに出ます。材木も見つかったと新蔵人から聞き、今夜は久しぶりに土の上で眠れると、みんな喜びます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(13)海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月24日
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帆を下ろせ昼間の海戦が嘘だったような静けさの中謝花の歌声が流れ、各船の上ではそれぞれの思ひがありました。 鹿門が黒白斎に話しかけます。鹿門「爺、この港でも、小静の手掛かりはつかめなかったが・・・生きているだろ うか」生きている、気を落してはいけない、と黒白斎が、決して殺すようなことはない、琉球でダメなら次は台港です、と陳が励まします。 伝馬が謝花を見てみなさい、来る日も来る日も新蔵人のことばかり、そして「女の一生ほど怖いものはない」というと、何か思い当たる節があるのか?「バカ」と返す鹿門の顔を覗きこむのです。 熱帯特有の凄い豪雨がやって来たかとおもうと降り止み、視界が開けた先に右衛門太夫のめくら船がありました。大砲が鹿門のめくら船に打ち込まれます。雨で火薬のしめった鹿門の船の大砲は役にたたず、あの船に小静が捕らわれているかもしれない、ひきつけておいて斬りこむことにします。「帆を下ろせ」・・・相手の船も近寄ってきます。 そのとき、大砲が打ち込まれます。青影丸が来たのです、がもう少しで・・・というところで邪魔をされたため憤慨する黒白斎、鹿門は伝馬に指示を出します。しかし、相手の大砲に舵を壊されては動くことも出来ず、・・・修理のための木材を集めることと、負傷者の治療のため、近くの島に上陸します。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(12)海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月18日
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わしはわしのやり方でいきたい「知らんとは言わさんぞ」という鹿門に「いいます、その代わり・・・そのかわり、俺はどうなってもいい、子分達の命だけは助けてやってください」との陳赤竜の言葉に、鹿門「よーし、助けてやるからいえ」陳がほんとに助けてくれるのかと、うれしそうな顔をします。鹿門「八幡船の男に二言はない」 黒白斎にも促され、陳が話し始めます。十日程前五島の沖で、瀬戸内海を荒していた明の船から日本人達を買ったというと、鹿門は陳に近づき、鹿門「その日本人達を何処へ売った」まだ右衛門太夫の船にいるという陳、・・・鹿門は、その中に小静という女がいなかったか、五兵衛という男はいなかったか、と迫ります。 陳が、堺の娘がいたことは確かだ、と聞いた鹿門は「それだ」と、黒白斎も「小静さんに違いない」と、希望が見えたのです。 そんな中、右衛門太夫の船を追う前に、陳をたたき斬るのが先決とめくら船に上って来た新蔵人を、鹿門が止めます。鹿門「斬るにはおよばん」新蔵人「なに、貴様初めての海戦でのぼせ上がったな」鹿門「のぼせてはおらん。すでに降伏した者を切ることは、八幡船の男のすること ではない」新蔵人「たわいもない盗賊達の命越えに、心を動かしたか。あはっはっは、先代の めくら船の首領とは大した違いだ」鹿門「違うかもしれん。わしはわしのやり方でいきたい。めくら船のことは、俺に まかしてもらいたい」「勝手にしろ」と怒った新蔵人に次いで、寿賀が鹿門にまた皮肉をいいますが、・・・そんな寿賀を鹿門はうとましく思わなくなっていました。寿賀「お情け深い頭領どの、・・・お気をつけなさいね」また寿賀も言葉とは違い、鹿門に対する気持ちの変化が生じていました。 右衛門太夫の船を追っていた住吉丸が戻ってきました。残念ながら逃げられてしまったようです。 陳赤竜は、頭領に惚れた手下にして欲しいと、いってきます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(11)海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月10日
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幾日か経った日、右衛門太夫のニセめくら船を発見します。黒白斎「めくら船、お父上の仇、右衛門太夫のめくら船でございますぞ」鹿門 「なにぃ」 三隻の八幡船は、それぞれ配置について、全速力でニセめくら船のいる方向に向かって行きます。右衛門太夫のめくら船は奴隷に売るための女達を乗せて島を離れるところでした。その中に小静と五兵衛もいます。逃げる右衛門太夫の船を追いかけ大砲が飛びかいます。鹿門は右衛門太夫の率いる船団のうちの陳赤竜の船を挟み撃ちにし、先端に突っ込み乗りこみます。青影丸と住吉丸が火をつけた矢を放ち援護し、船上は壮絶な戦いが繰り広げられています。そこに、陳赤竜が「お待ちくださいませ」「どうぞお助けくださいませ」と、鹿門は「許してやる」といい、みんなにめくら船に乗るようにいいます。みんながめくら船に乗り移ったとき、陳の船は燃え落ちます。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(10)海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年03月03日
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あなたには人の情けはわかるまい次の日、鹿門は青影丸の新蔵人に帆柱に上る競争をもちかけます。新蔵人は、来た早々の鹿門が競争するといい出したので相手にせず鼻で笑い、鹿門の「負けるのはいやか」に、「帆柱は小さいときからの遊び道具だ」といい返す新蔵人。鹿門 「そんなら来い」新蔵人「こいつのぼせやがったな」そういって鹿門の挑戦を受ける準備をする新蔵人を見て、ニヤリとし、鹿門 「俺が勝ったらどうする」新蔵人「何でも望みどおりにしてやるは」鹿門 「よーし、忘れんなよ」 黒白斎の合図で、帆柱登り競争がはじまりました。梯子の中間まで来たとき、鹿門はめくら船の方を指さし、鹿門 「おーい、謝花が来たんだ」鹿門のいったことに驚き、梯子を上っていた新蔵人が立止まってしまいます。めくら船に忍び込んでいた、といい、先に上って行くのです。 卑怯だそんなことがあるもんかと信用しない新蔵人に、「嘘なもんか、あれを見ろ」といい、新蔵人がめくら船の方を見ているすきに、てっぺんに上った鹿門は、鹿門 「約束だぞ、謝花をこの船に乗せてくれ」と。・・・しかし、女の情に溺れてこの船の頭領の役目が務まるか、追い返せ、と新蔵人はいってきます。鹿門 「女一人、どうして返すことが出来るんだ。見殺しにする気か」新蔵人「俺のいうことを聞かぬ馬鹿女だ、・・・死んでしまえ」 鹿門「そーか、よーし、俺の船に忍び込んだ女だ、俺が預かろう」 そういって、青影丸から小舟に乗り移ろうとしていた鹿門に、寿賀 「お情け深い、めくら船の頭領どの」皮肉な嘲笑を浴びせる寿賀に、鹿門 「あははっ、あなたには人の情けはわかるまい、あっはは」笑って下りて行く縄ばしごを寿賀が力一杯ゆすります。もう少しで小舟に乗り移るというところで海の中へ落ちてしまいます。 少しも動じず鹿門は笑顔を見せ、大笑いする寿賀に、鹿門 「ああ、いい気持ちだ。暑いからちょうどよかったい。あっはっはっは」 そんな鹿門に腹が立ち手裏剣を投げますが、簡単に受け止め立ち去って行く鹿門を寿賀は悔しさいっぱいで見ているだけでした。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(9)海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年02月27日
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暗闇で3里四方か夜空の下で、海を見つめている鹿門に黒白斎が声をかけます。黒白斎「若、左に見えるのが種子島でございますよ」鹿門 「俺の目には見えぬものが、年寄の爺にみえるのか?」黒白斎「見えるのかとは何事、爺は生まれついての船乗り、闇夜でも3里四方は真 昼も同然じゃ」鹿門 「暗闇で3里四方か」そういう鹿門に、黒白斎は笑い飛ばし、「何事も訓練、おいおい若にも見えるようになる」、先代の丹後守様も初めはそうであったといいます。鹿門の心にはまだわだかまりがあるようです。 そこへ、船底から駆けあがって来た伝馬達が「大変だッ」と騒ぎ、その様子に、黒白斎が「出たか?」と、すると「船蔵の中に出た」と伝馬が、「船蔵に?」と黒白斎が念を押し聞いていると、鹿門が笑い出します。 鹿門は大笑いをすると、鹿門「お前らほどの暴れ者が、何をいいだすのだ」この場所を通るときには決まって幽霊がでるという黒白斎のいうことには「迷信だ」といい、黒白斎はじめ乗組員達が本当のこと信じてくれというと、 鹿門「そんな馬鹿なことに自信をもつな」 そういうと、「よーし、俺が行ってみる」という鹿門を、海の神様が怒って船が波にのまれてしまう沈んでしまうと、みんなで止めますと、鹿門は「静かにしろッ」とみんなを制すると、鹿門 「この船が幽霊や海神に呪われてたまるか。あの八幡大菩薩の旗は何のため に背負ってるんだ」それを聞いて「その通り、八幡船に幽霊が出るわけはない。八幡船に幽霊が出てたまるか。八幡大菩薩の旗は何のために背負っているのか・・・しっかりしろ」と黒白斎がいい出したので、乗組員達は呆気にとられ、鹿門はその様子ににやりとしているのです。 船蔵を歩いていると鹿門が突如荷を崩します。すると奥の方に人が潜んでいたのです。「出ろッ」といいますが、なかなか出て来ないので、鹿門が覆っているものを取りますと、新蔵人を追って乗り込んでいた謝花でした。 続きます。🎞️『海賊八幡船』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。海賊八幡船・・・(8)海賊八幡船・・・(7)海賊八幡船・・・(6)海賊八幡船・・・(5)海賊八幡船・・・(4)海賊八幡船・・・(3)海賊八幡船・・・(2)海賊八幡船・・・(1)
2024年02月17日
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俺をめくら船に乗せろッ島を逃げだし夜の海を鹿門が小舟を漕いで行きまと、目の前に漂流してくる船が見えます。「あっ、淡路丸だ」。鹿門は急いで船に近づき、甲板にあがると、帆柱に吊るされた死体の中に長崎屋を見つけ、そこらじゅうに折り重なった死体の山、探したが小静と五兵衛は見当たらない。小静が肌身離さず持っていたお人形を見つけた鹿門は不安に駆られます。 そこへ、あとを追ってきた黒白斎が迎えに来たとやってきます。鹿門が帆柱の死体はどういうことだと聞きますと、「これこそ海賊の仕業」と黒白斎がいいます。鹿門 「海賊?右衛門太夫とかいうめくら船か」黒白斎「ニセのめくら船は海外でございます。恐らく明の海賊が汐に乗ってきたも んでございましょう」鹿門 「小静はどうした、小静は何処へ行ったんだ」与太夫「女や子供は遠い異国へ売り飛ばしたに違いありません」鹿門 「・・・奴隷・・・小静が、小静が奴隷に」鹿門はどうしてよいかわからず狼狽え、鹿門 「小静が・・・・あっ・・・小静」と船の先端まで行き、小静の名を大声で叫びます。 落ち着いたのか鹿門は決心するのです。黒白斎の方に向きを変えると、「黒白斎ッ」と叫び、黒白斎が近くに来ると、鹿門 「入道殿にいえ、新蔵人に伝えろ、俺は・・・俺は、めくら船に乗るぞ」黒白斎が、お父君の志をというと、鹿門 「いうなッ、小静を探すんだ、めくら船に乗って小静を探しに行くのだ。俺 をめくら船に乗せろッ」 島の人達の喜びの歓声のなか、八幡大菩薩の旗を高々とかかげ、先頭を鹿門の乗っためくら船、次に新蔵人の青影丸、そして与太夫が乗った住吉丸の八幡船団が島を離れ大海原に出て行きます。 続きます。
2024年02月11日
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海賊八幡船・・・(8) 2024年2月11日掲載俺をめくら船に乗せろッ島を逃げだし夜の海を鹿門が小舟を漕いで行きまと、目の前に漂流してくる船が見えます。「あっ、淡路丸だ」。鹿門は急いで船に近づき、甲板にあがると、帆柱に吊るされた死体の中に長崎屋を見つけ、そこらじゅうに折り重なった死体の山、探したが小静と五兵衛は見当たらない。小静が肌身離さず持っていたお人形を見つけた鹿門は不安に駆られます。 そこへ、あとを追ってきた黒白斎が迎えに来たとやってきます。鹿門が帆柱の死体はどういうことだと聞きますと、「これこそ海賊の仕業」と黒白斎がいいます。鹿門 「海賊?右衛門太夫とかいうめくら船か」黒白斎「ニセのめくら船は海外でございます。恐らく明の海賊が汐に乗ってきたも んでございましょう」鹿門 「小静はどうした、小静は何処へ行ったんだ」与太夫「女や子供は遠い異国へ売り飛ばしたに違いありません」鹿門 「・・・奴隷・・・小静が、小静が奴隷に」鹿門はどうしてよいかわからず狼狽え、鹿門 「小静が・・・・あっ・・・小静」 と船の先端まで行き、小静の名を大声で叫びます。 落ち着いたのか鹿門は決心するのです。黒白斎の方に向きを変えると、「黒白斎ッ」と叫び、黒白斎が近くに来ると、鹿門 「入道殿にいえ、新蔵人に伝えろ、俺は・・・俺は、めくら船に乗るぞ」黒白斎が、お父君の志をというと、鹿門 「いうなッ、小静を探すんだ、めくら船に乗って小静を探しに行くのだ。俺 をめくら船に乗せろッ」 島の人達の喜びの歓声のなか、八幡大菩薩の旗を高々とかかげ、先頭を鹿門の乗っためくら船、次に新蔵人の青影丸、そして与太夫が乗った住吉丸の八幡船団が島を離れ大海原に出て行きます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж 海賊八幡船・・・(7) 2024年1月31日掲載決心さえつけば立派な頭領になれる男だ入海に浮かぶめくら船のところに、鹿門は来ていました。入道の「あなたのために、新しく造っためくら船、これこそ父上の意志を継ぐめくら船、まことの八幡船」、黒白斎の「どうぞ、お父君丹後守様の志を継ぎ、めくら船にお乗りください」という声が頭をめぐったとき、道休の「それは嘘だ」という声が、鹿門にはめくら船の方から聞こえてきたので、足早にめくら船の方に駆け寄っていきます。 また「鹿門」と呼ぶ道休の声に、鹿門は「お父つぁん」と呟き、めくら船へと吸い寄せられていきます。 船上に上ると、「お父つぁん」「お父つぁーん」「お父つぁーん」と大声で叫びますが、何の返事もない。そのとき、「兄さーん」と小静の声が聞こえ喜びそちらの方へ行ってみますが小静の姿はなく、力なく「小静」「小静」と呟くのです。 そのとき、人の気配を感じ、「誰だッ、出ろ」と叫びますと、姿を出したのは謝花という若い女で船から逃げようとするのを捕まえ、入道につけろといわれたのか、というと、「違う」と女は言い、自分の親を忍んでこの船にやって来たといいます。 ニセのめくら船に右衛門大夫に一族皆殺しにされ、自分は奴隷に売られた、それを救ってくれたのは新蔵人だ、と謝花がいいます。 謝花は「あなたはこの船をつがれるお方、・・・お願いです、私の仇を討ってください、憎い仇を討ってください」と、じっと聞いている鹿門に激しく言い寄ります。そのとき、「おやめ、謝花」と寿賀の声がします。 「その男に頼んでも無駄よ」といってきた寿賀に、鹿門は憤慨します。 寿賀「折角のめくら船も大将がなくて可哀想ね。第一そんな意気地なしが、めくら 船の頭領になれるもんですか」そういう寿賀を「待て」と追いかけようと船を降りようとすると、下に島を案内すると伝馬達が小舟で待っています。これには、鹿門も興奮さめあきれ顔に。 鹿門のような奴が八幡船を率いて七つの海を渡れると思うか、と怒る新蔵人に、黒白斎は、自分が海の男に育てるといい、入道は、あれだけの性根があれば、決心さえつけば立派な頭領になれる男だ、といいます。知らせを受け、黒白斎が慌てて海の岩場に駆けつけます。小舟に乗っていた伝馬達をやっつけ、鹿門が舟を奪って逃げたのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(6) 2024年1月25日掲載八幡船は賊ではない村上入道は鹿門の来たことを喜んで迎えます。入道「我らの念願が叶い、磯野丹後守殿のお子をこの島へお迎え申すとは、八幡大 菩薩のお導き、村上入道この上もない喜びでござる」鹿門「私は堺の商人、壺屋道休の息子です。・・・海賊になるために来たのではな い。妹の安否が気遣われるんだ、返してください」鹿門を止めようと口を挿んだ黒白斎に向かい「うるさい」といい、鹿門「俺は大将にかけ合っているんだ、引っ込んでろ」「そうは参りません」という黒白斎。入道は、突然の境遇の変り方で混乱されるのも無理はない、というと、立ち上がり窓を開けに行き、鹿門を呼び寄せます。 窓から見えた雄大な海に一瞬動ひきつけられた様子の鹿門に入道が話します。入道「この海の彼方には、父君の活躍されたルソン、シャムなどの広々とした国が あるのだ」 鹿門「その南の国々では、八幡船に荒されて、手を焼いていると聞いたぞ」それについて入道は「それこそ父君を滅ぼした右衛門太夫のニセモノの仕業で、八幡船は賊ではない。通商交易を本来の目的としたりっぱな水軍なのだ」と鹿門にいいます。 入道がもう一方の窓を開けて、海に浮かんでいるものを指さします。入道「今度、あなたのために新しく造っためくら船だ。・・・あれこそ、父君の意 志を継ぐめくら船、誠の八幡船じゃ。・・・鹿門殿、入道の頼みじゃ、あの 船の頭領になってくだされ。そして、八幡、和光と盗賊のように思い恐れて いる人々へ、八幡船本来の姿を示すことが、亡き丹後守へ対して我ら水軍あ げてのはなむけじゃ、頼む」 それに対して、鹿門は怒ります。鹿門「やめてくれッ、・・・そんなことは老人の感傷だ、夢だ。俺の運命を狂わし てまで遂げられてたまるか」 それを聞いて新蔵人が「なに」というと、鹿門「大将だなんて、ちっとも話が分からないじゃないか」そういって3人を見ると、「もう頼むものか」と怒鳴り、表へ駆けだして行きます。鹿門を追って行こうとした新蔵人と黒白斎に入道が「追うな」といいます。村の方に走って行くとめくら船の頭領と島の人たちが喜び取り巻くのをかわし、鹿門の足は海岸線を走り、引き寄せられるようにたどり着いたところは・・・・・・思いもかけぬ場所だったのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(5) 2024年1月15日掲載海賊商売なんか大嫌いだ青影丸が帰って来たことを知らせる銅鑼の音で、島の住民皆が青影丸を狂喜で出迎えます。帰りを待っていた女房や恋人たちが、船の着くのを待ちきれずに小舟を出し青影丸の方へ、村上水軍の船方達も待ちきれずに、次から次に海に飛び込み小舟の方へ泳いで行きます。海岸べりを埋めつくす島の住民の出迎えの様子を、「まあ見て下され、あれが我ら八幡船の故郷ですわい。堺などでは見られぬ趣きがありますじゃろ」と、得意げにいう黒白斎に、「なにいってやんでい・・気違い」とその光景に心打たれながらも、鹿門はそっけない返事をするのです。 歓迎するなかを仏頂面で歩く鹿門の前に、兄新蔵人を迎えに出た妹の寿賀が馬に乗ってやってきます。 「その人?・・めくら船の二代目になられる磯野鹿門って方は」と訪ねる寿賀に、「そうだよ、だがこの方は、八幡船がお嫌いらしい」と新蔵人が答えると、鹿門はすかさず鹿門「ああ、嫌い嫌い、嫌いだとも、海賊商売なんか大嫌いだ」 そして、今度は寿賀に矛先を変え八つ当たりするのです。鹿門「へっ、そなたも海賊の片割れか」 鹿門の言葉にムッとなった寿賀が、寿賀「ふん、この方では、八幡船に名立たるめくら船の頭領にはむかないわ」めくら船の頭領になりたくないのですから腹を立てることはないと思うのですが、鹿門にとっては癇に障ったのです。その腹いせに、寿賀が乗っている馬の手綱を取り向きを変え尻をたたき走らせます。その様子を一人おかしく笑うと、「さあ、お前達より物わかりのいい村上入道に合わせろ」といいます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Жおしらせ2024年1月15日の楽天ブログリワードミッション実装にあたり、今までのような仕様が変更され、スクロールしても過去の記事が表示されず、1つの記事のみが同ページ内に表示されるというようになってしまいました。そのため今掲載を始めた「海賊八幡船」から、一つの作品を一枠内に綴っていくようにして、作品1つに対してはスクロールすればを試みました。見ずらいかも知れませんが、一つ一つページを出していくよりは、手数がかからないと思います。楽天ブログとしての操作手順としては、前後のページへ遷移するには、記事上部に白い枠で表示されるボタンの「過去の記事」「新着記事一覧」等をクリックしてください。ちなみに、この"美しき大川橋蔵"ブログでは、最近掲載した10個までの記事は、右側にある「日記/記事の投稿」から、カレンダーからは太字になっている日が記事投稿日になっていますので、クリックして見ることができます。今まで投稿された作品を見つけるには「新着記事一覧」をクリックして『カテゴリー別記事』を開くのも一つです。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(4) 2024年1月7日掲載誰が海賊なんかになるもんかい磯野丹後守を殺し、右衛門太夫の手から赤ん坊の鹿門と逃げだした道休が呼びかける夢で気がついた鹿門は、大海原の上の青影丸の船中にいました。そして、その過程を思い出したのでしょう、「ちくしょう」といい船室から出ようとしたとき、黒白斎と伝馬が入って来ます。 鹿門「小静は、淡路丸はどうした」黒白斎「淡路丸は無事に港を抜けて、博多へ向かいました」鹿門「降ろせッ、何故この船に俺を乗せた」 黒白斎が、亡き父の志を継いでほしいと、いうと、鹿門「やめろッ、そんな昔話にだまされるか。降ろせ、俺をこの船から降ろせ」そのとき、頭上から「あはっはっはっ、そうはいかん、あっはっはっは」と笑い声が響いてきます。 鹿門が頭上を見上げると、その男は、船はもはや播磨灘に向かっている、といいます。「誰だ、おまえは」と聞く鹿門に、その男は「この船の頭領」と答えます。村上水軍の若大将、村上新蔵人です。 この青影丸は八幡船の根城因島に行くと聞き、鹿門「因島?・・・ちくしょう、どけ」と、船上に上って行き、鹿門「海賊、船を止めろ」と叫びます。 「手数のかかる客人だ」と苦笑する新蔵人に、興奮を抑えきれない鹿門は、鹿門「これが客の扱いか、人さらいめ」そういうと、新蔵人を押しのけ、海へとび込もうとする鹿門。「泳いで帰るんだ」と喚く鹿門を「鮫の餌食になりたいか」と強く止める新蔵人に「じゃますんない」と突き飛ばす鹿門に、新蔵人も怒り顔色を変えます。 新蔵人「のぼせるな」鹿門 「なにぃ」新蔵人「来い、堺の町で育った細腕を、八幡船の男に叩き直してくれるわ」鹿門 「海賊などにされてたまるか。堺の商人は腕の仕込みが違うんだ、・・・ 来い」 猛烈な取っ組み合いとなります。叩かれたら叩き返す、甲板を動き回り五分と五分の喧嘩が続き、双方ともへとへとで立てなくなりながらも、つかみ合いののしりあうのです。新蔵人「これしきのことでめくら船の二代目になれると思ったら大間違いだぞ」鹿門 「寝ぼけんない、誰が海賊なんかになるもんかい」新蔵人「因島に来て、おれのおやじにいえ」鹿門 「よーし、連れて行け、海賊の大将ならお前達より少しは話がわかるだろ い」 そういうと二人は一旦離れますが、まだ懲りないようなので、黒白斎は伝馬から水の入った桶を受け取ると、二人に浴びせかけます。黒白斎初め乗組員はその様子を見て大笑い、青影丸は因島へ向かって行きます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(3) 2023年12月27日掲載 俺は堺に育った、俺は道休の息子だ陣内を斬って船小屋に入って来たのは、道休の周りをうろついていた気違いの老人が、めくら船の黒白斎と名乗ると道休は思い出したようです。「裏切り者目」と鋭く目を光らせ近づく黒白斎に「どうしょうというのじゃ」と道休がいうと、「めくら船から鹿門様をお迎えに来たのじゃ」と答える黒白斎、鹿門は何も知らない、というと、黒白斎「わしから申上げよう、あなた様は壺屋道休の息子ではござりませんとな」道休は必死で道休「待て、今となっては、鹿門はわしの命だ、鹿門だけは連れて逃げんでくれ。 わしは、殿の子を・・・」黒百斎「さらって逃げたのだ」と、道休の言葉をさえぎると、それは真実とは違う、殿を殺したのは右衛門太夫で、道休はそそのかされて殿を殺害するが、断末魔で苦しむ磯野丹後守の顔が忘れられず、右衛門太夫の手から若君鹿門様をさらって育てていたのでした。「鹿門を奪わないでくれ」と頼んでも、財宝と共に奪って逃げた丹後守の遺児、鹿門を迎えに来たと、道休のいうことに承知をしない黒白斎に、我慢がきなくなった道休が小刀を抜きかかっていきます。村上水軍の乗組員たちに道休が取り押えられているところにやって来た鹿門は「海賊待てっ」と振り払い道休を助けに、するとひざまずき「鹿門様」という黒白斎に、鹿門は、鹿門「おやじに指一本触れてみろ、・・・俺が相手だ」 黒白斎「なにを仰せられます、あなた様は、壺屋道休の息子ではござりません」鹿門「なに」道休「嘘だ。・・・こやつのいうことを聞くでないぞ」 鹿門は、黒白斎から実の父親のことを聞かされます。江州佐和山城主でのちに八幡船の旗頭、磯野丹後守の世継ぎだと、聞かされます。呆然とする鹿門。 道休は、黒白斎達が交易に出ている間に、めくら船を奪った右衛門太夫を手引した裏切り者、まことのめくら船の頭領は鹿門だ、と・・・海へ出てほしいという黒白斎と引き留める道休の板ばさみになり鹿門は道休を見たあと少し考え、 鹿門「・・・俺は堺に育った、俺は道休の息子だ。・・・海賊などまっぴらだ」きっぱりと断り、小静が待っている船に急ぎ行こうとします。 「そんなことを信じると思うか」と止める黒白斎達を振り切り行こうとしたとき、港の方に火の手があがるのを見て、みんなが驚きます。 火をかけ騒ぎの中淡路丸を出帆させるために道休が支持をした時刻がきていたのでした。父や兄を待ってとすがる小静に、長崎屋は役人に捕まってはと、淡路丸を出帆させたのです。警備の軍兵達の矢が淡路丸に向かって矢を放ちます。矢は小静にも向かっていき、道休は淡路丸を追って矢が飛ぶ桟橋をかけていきます。道休を追って桟橋に行こうとする鹿門を引き止める黒白斎達、だが、矢が道休を射倒したとき、鹿門は狂ったようになり、倒れている道休の傍にいきます。 「お父つぁん、お父つぁん」と呼びかける鹿門に、道休は最後の力を振り絞って、「鹿門、・・・わしは・・・わしは・・・わしは・・・そなたに・・・・・そなたに・・・・・」と、あとはいえず道休はこときれてしまいます。 その様子に、黒白斎達が、鹿門を心配してかけより、道休から引き離そうとしますが、気が狂ったようになっている鹿門に困惑した黒白斎達は、仕方なく鹿門を失神させて運んで行くのです。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж海賊八幡船・・・(2) 2023年12月15日掲載 教えてください、めくら船と私に何の関係があるのか鹿門が家へ帰ってみると、父道休が暗い蔵の中で慌てて何かをしているのです。船乗り達が言い残した”めくら船”、帰り道用心の陣内が老人を襲ったのを見ている鹿門には、道休の慌てた行動が腑に落ちませんから、道休に問いただそうとします。鹿門「お父つぁん、・・・何をそんなに狼狽えて、船をだすんですか」道休「急に思い立ったのじゃ。戦のはじまる前に、博多へ避難するのじゃ」鹿門「お父つぁん、博多行きは戦のためではないんでしょう」 鹿門「いったい、何があったんです」鹿門は声を荒げ、道休にいい寄ります。道休「何もない、何もあるはずがない」鹿門「嘘だ、気違いの老人を闇討ちしようとしたのは、何のためです」 鹿門は、続けます。鹿門「お父つぁん、私はさっき、村上水軍の奴らに逢いましたよ」道休「えっ、村上水軍」 鹿門「奴らは、めくら船のいわれをお父つぁんに聞いてみろといいました。 ・・・教えてください、めくら船と私に、何の関係があるのか・・・」道休「知らん、そんなもの知らん」うろたえ、逃げようとする道休に、鹿門がくいさがります。 鹿門「何故隠すんです。・・・たった一人の息子に、何を隠すんだ。・・・・・ お父つぁん、一人で苦しむことなんかないじゃありませんか・・・」 道休「鹿門、夜明けまでに時間がないのじゃ、・・・堺の港を離れたら、訳を聞か そう、話もしよう、頼む、おとなしく淡路丸へ乗ってくれ、頼む・・・」必死になって頼む父道休を見て、興奮していた鹿門が静かになります。 道休「なっ、そうしてくれ、頼む。わしのいうことが聞かれんのか、頼む、この通 りじゃ、頼む」といい、手を合わせて鹿門にお願いするのです。 出港を待つ淡路丸には、父のいうことを信じて乗船した鹿門と妹の小静が先に乗り込んで、道休のやって来るのを待っています。その頃、道休は、船小屋で人足と最後の打合せをしていました。船小屋に火をかけ、その騒動に紛れて淡路丸を出港させるというのです。鹿門が淡路丸で待っている、「急ごう」と陣内と小屋を出ようとしたところで、一足先に出た陣内が、何ものかに斬られてしまいます。 続きます。Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж Ж 海賊八幡船・・・(1) 2023年12月6日掲載時代劇としては異色の本格的海洋スペクタクル巨編です。戦国時代 、瀬戸内海の島々を根城として、八幡大菩薩の旗を翻し、遠く東シナ海を渡り交易のため雄飛した八幡船の男たち。二代目頭領に扮した橋蔵さんの海の若武者ぶりは、スケール雄大な異色時代劇として、ファンの思い出となりましたでしょう。沢島監督が情熱を賭けロケでみせる、芸術祭参加作品「海賊八幡船」・・・「ロケ費用、ロケ期間からすると、映画制作の常識からすれば、このシナリオは大部分は特撮にたよるところだが、今の日本の特撮技術では、どうしても小手先の誤魔化しになる恐れがあるので、無理をいってロケーションをやらしてもらいました。もちろん特撮も併用しますが、この作品のスペクタクルな面、絵柄の大きさといった面は、すべてロケ効果にかかっているといってよく、ロケーション場面の演出の機動力如何が作品の死命を決定するものと考えています」と沢村監督。そのため、会社が瀬戸内海あたりの距離でという意向でしたが、探し歩き、劇中の八幡船の根拠地に駆る因島がふさわしい部落を発見した時は、思わず涙がこぼれそうになったといいます。沢島忠監督にとっては念願の作品でした。本当は一年前に撮ることになっていたのですが、クランクイン直前に身体を痛めのびのびになってしまいました。沢島監督のねらいとは・・・海を嫌い、恐れる一人の青年が、次第に海の大きな魅力に魅せられていき、最後には雄々しく立派な海の男に成長していく。これがこの作品の骨子となっています。が、中心は、あくまでも海洋の大スペクタクルを狙うということなのです。”八幡大菩薩”の旗のもと、南海に雄飛する海の男達の雄大な海洋ドラマを描くのが制作意図です。唐津の立神、博多の芥屋など、約1ヵ月にわたる長期ロケで、ロケーション費だけで2,500万円という大がかりな金額、これは大作一本分の製作費に相当、東映創立以来の大規模なロケになりました。海戦シーンの撮影現場になったのは、福岡県糸島郡志摩村芥屋の海岸。玄海灘の荒波がくだけ散り効果満点です。現地には、佐賀県の漁港、呼子で建造された八幡船五隻が待期し、その中で最も大きいメクラ船には、呼子から長崎まで石炭を運んでいた160トンの貨物船を、その他全部が150トンクラスの漁船を改造したものです。砲撃戦には、ダイナマイトを使用、水柱一本につき、約8本のダイナマイトを点火、水柱も30mの高さまで吹き上げたのです。海賊船がのろのろと走ったのでは迫力が出ないと心配したりしたのですが、風が吹きすぎて面食らう有様でした。今までの日本映画の常識を破った迫力のあるシーンを作り上げたい・・・沢島監督の狙う大きな見せ場は、海賊シーンと堺の港の焼打ちシーンです。この船に乗って、橋蔵さんが大活躍するのですが、沢島監督の狙いは、優男の堺の町人が、次第に海の男として生きるようになる、その過程をいかに描くかということになります。堺の町人時代の鹿門はつけまつげをつけ優男の感じを、海のシーンになると強いメーキャップに変え、胸毛をつけ、逞しさを強調するようにしました。そこには、橋蔵さんの新しい魅力を発揮したい、と願っているといいます。観客の人々に、その気持ちが判っていただけるようになれば、成功したといえるのだそうですが・・・と。▲ 第67作品目 1960年9月18日封切 「海賊八幡船」 磯野鹿門 大川橋蔵寿賀 丘さとみ謝花 入江千恵子浅茅 円山栄子小静 桜町弘子伝馬 田中春男宮地与太夫 沢村宗之助五兵衛 高松錦之助磯野丹後守 北龍二磯野右衛門太夫 阿部九州男村上入道 月形龍之介黒白斎 進藤英太郎村上新蔵人 岡田英次臺屋道休 大河内傅次郎 めくら船 ?永禄四年、貿易港堺の船問屋壷屋道休の息子・鹿門は、ある夜男達に囲まれ、八幡船旗頭・佐和山城主礎野丹後守の遺児、道休は丹後守を裏切り、八幡船の一つめくら船を奪った張本人だと告げらますが、鹿門は信じません。八幡船の動きを知った道休は、財宝を淡路丸に積んで足止めの禁令を破り脱出を企んだが、放たれた矢に道休は殺され、淡路丸は鹿門の妹小静を乗せたまま出港してしまいます。道休にすがり離れない鹿門を、黒白斎たち八幡船の男たちは、失神させ連れて行きます。鹿門が気がついたときは、大海原の青影丸の船中でした・・・・・始まりのスクリーンに昭和35年度芸術祭参加作品の文字がでて、船が進んでいくような画面に歌声と共に配役がでてきます。そして、暗闇の海原を船が進んでいってるような画面から入り、夜が明けてくるなか、船が見えてきます。”八幡船とは”の説明が流れます。八幡船とは、戦国乱世の頃、瀬戸内海の島々を根拠とした水軍の将兵が、遠く明国、朝鮮、ルソン、シャム等の諸国へ、八幡大菩薩の旗を揚げ、通商交易の為雄飛した船団のことである、彼等にとって、戦乱の国土より、海こそは、最大の自由の地であった。永禄四年、当時日本最大の貿易港、泉州堺の町にも、うち続く戦乱の波が容赦なく押し寄せていました。淡路丸で積み荷を運ばないとつぶれてしまうといい寄る長崎屋に、足止め禁止令が出ているのだから出せないと壺屋道休がいっているとき、船乗りたちに漂流しているところを助けられたとみられる一人の老いた狂人が現れ、「八幡船が沈む」「八幡大菩薩の旗が沈む」とおかしなことを言いながら、町の方へ歩いていきます。その老人は、船問屋壺屋に駆け込んで行き、しきりに「盲船」という謎の言葉を呟いて店の周りをうろついているというのです。五兵衛からそのことを聞いた道休は慌て、息子鹿門のことを心配すると、出かけていると聞き、「また廓通いか」と呟くと、五兵衛に長崎屋にあすの朝淡路丸を出すと伝え、出かけている息子鹿門を連れて来いといいます。鹿門が通っている廓では、船乗りたちが宴を開いている座敷に、昼間老人を助けたといっていた船乗りを待ちかねていたようで、「守備はどうだ」と聞かれ「ちゃんと町へ送りこんだ」という会話が聞かれます。廊下ですれ違ったとき、浅茅の髪から取った櫛を取りに来るかと思っていたら、持ち帰って結構ということをいってきたので、「馬鹿にするな」と浅茅の部屋に乗りこみます。伝馬「これ女、わしはな、ものもらいと違うぞ」というと、浅茅の膝枕で横になっている男が、鹿門「なら、置いていったらいいじゃないか」と言ったので、「町人のくせに、海の男を馬鹿にしやがって」と、男に手を出すと、簡単にやられてしまいます。鹿門「こいつは、面白れえや、・・・よーし、表へ出ろ」そういうと、鹿門は立ち上がり、伝馬を外へ連れ出します。船乗りたちや店の者たちみんなが外に出ています。 鹿門「おい、この堺ではな、町人も侍も対等なんだ。証拠を見せてやるから、一度 に来い」 鹿門がそういうと、先頭をきり、船乗りの宮地与太夫が「生意気な」とかかって行きます。浅茅の櫛のことをめぐるささいなことから、乱闘が大きくなり鹿門が追い詰められたとき、「若旦那」と番頭の五兵衛が飛び込んで来ます。 船乗りたちをかき分け、鹿門との間に割って入ると、五兵衛「待ってください。何の騒動か存じませんが、この方は手前主人、壺屋道休 の大事な跡取り、間違いがあってはなりません、どうぞお許しを」というのを聞き、与太夫が「なに、壺屋道休・・・」というと、伝馬が「あかん、与太夫、問題の人や」と、すると「引け、引け」と声がかかり去って行くのを見て、鹿門が「どうした、・・・逃げんのか」と声をかけて来たので、伝馬がこれに答えます。 伝馬「あんたに刃を向けると、わしら村上水軍は、八幡船の掟に背くのや」鹿門「村上水軍?・・・八幡船の海賊か。・・・その八幡船の掟が、この俺にどう いう関係があるのだ」伝馬「それやったらな、はよ帰って、お父つぁんに聞いてみなはれ、めくら船っ てなんやって・・・」鹿門「めくら船」船乗り達は、謎めいた言葉を残し去って行きます。 道休に命じられた甚内は、気の狂った老人を誰にも気づかれないように暗殺しようと襲いますが、川に飛びこまれ逃がしてしまいます。廓からの帰りその現場を通りかかった鹿門は、慌てて、鹿門「陣内、どうした」 続きます。
2024年02月11日
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決心さえつけば立派な頭領になれる男だ入海に浮かぶめくら船のところに、鹿門は来ていました。入道の「あなたのために、新しく造っためくら船、これこそ父上の意志を継ぐめくら船、まことの八幡船」、黒白斎の「どうぞ、お父君丹後守様の志を継ぎ、めくら船にお乗りください」という声が頭をめぐったとき、道休の「それは嘘だ」という声が、鹿門にはめくら船の方から聞こえてきたので、足早にめくら船の方に駆け寄っていきます。 また「鹿門」と呼ぶ道休の声に、鹿門は「お父つぁん」と呟き、めくら船へと吸い寄せられていきます。 船上に上ると、「お父つぁん」「お父つぁーん」「お父つぁーん」と大声で叫びますが、何の返事もない。そのとき、「兄さーん」と小静の声が聞こえ喜びそちらの方へ行ってみますが小静の姿はなく、力なく「小静」「小静」と呟くのです。 そのとき、人の気配を感じ、「誰だッ、出ろ」と叫びますと、姿を出したのは謝花という若い女で船から逃げようとするのを捕まえ、入道につけろといわれたのか、というと、「違う」と女は言い、自分の親を忍んでこの船にやって来たといいます。 ニセのめくら船に右衛門大夫に一族皆殺しにされ、自分は奴隷に売られた、それを救ってくれたのは新蔵人だ、と謝花がいいます。 謝花は「あなたはこの船をつがれるお方、・・・お願いです、私の仇を討ってください、憎い仇を討ってください」と、じっと聞いている鹿門に激しく言い寄ります。そのとき、「おやめ、謝花」と寿賀の声がします。 「その男に頼んでも無駄よ」といってきた寿賀に、鹿門は憤慨します。 寿賀「折角のめくら船も大将がなくて可哀想ね。第一そんな意気地なしが、めくら 船の頭領になれるもんですか」そういう寿賀を「待て」と追いかけようと船を降りようとすると、下に島を案内すると伝馬達が小舟で待っています。これには、鹿門も興奮さめあきれ顔に。 鹿門のような奴が八幡船を率いて七つの海を渡れると思うか、と怒る新蔵人に、黒白斎は、自分が海の男に育てるといい、入道は、あれだけの性根があれば、決心さえつけば立派な頭領になれる男だ、といいます。知らせを受け、黒白斎が慌てて海の岩場に駆けつけます。小舟に乗っていた伝馬達をやっつけ、鹿門が舟を奪って逃げたのです。 続きます。
2024年01月31日
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海賊商売なんか大嫌いだ青影丸が帰って来たことを知らせる銅鑼の音で、島の住民皆が青影丸を狂喜で出迎えます。帰りを待っていた女房や恋人たちが、船の着くのを待ちきれずに小舟を出し青影丸の方へ、村上水軍の船方達も待ちきれずに、次から次に海に飛び込み小舟の方へ泳いで行きます。海岸べりを埋めつくす島の住民の出迎えの様子を、「まあ見て下され、あれが我ら八幡船の故郷ですわい。堺などでは見られぬ趣きがありますじゃろ」と、得意げにいう黒白斎に、「なにいってやんでい・・気違い」とその光景に心打たれながらも、鹿門はそっけない返事をするのです。 歓迎するなかを仏頂面で歩く鹿門の前に、兄新蔵人を迎えに出た妹の寿賀が馬に乗ってやってきます。 「その人?・・めくら船の二代目になられる磯野鹿門って方は」と訪ねる寿賀に、「そうだよ、だがこの方は、八幡船がお嫌いらしい」と新蔵人が答えると、鹿門はすかさず鹿門「ああ、嫌い嫌い、嫌いだとも、海賊商売なんか大嫌いだ」 そして、今度は寿賀に矛先を変え八つ当たりするのです。鹿門「へっ、そなたも海賊の片割れか」 鹿門の言葉にムッとなった寿賀が、寿賀「ふん、この方では、八幡船に名立たるめくら船の頭領にはむかないわ」めくら船の頭領になりたくないのですから腹を立てることはないと思うのですが、鹿門にとっては癇に障ったのです。その腹いせに、寿賀が乗っている馬の手綱を取り向きを変え尻をたたき走らせます。その様子を一人おかしく笑うと、「さあ、お前達より物わかりのいい村上入道に合わせろ」といいます。 続きます。おしらせ2024年1月15日の楽天ブログリワードミッション実装にあたり、今までのような仕様が変更され、スクロールしても過去の記事が表示されず、1つの記事のみが同ページ内に表示されるというようになりました。そのため、前後のページへ遷移するには、記事上部に白い枠で表示されるボタンの「過去の記事」「新着記事一覧」等をクリックしてください。この"美しき大川橋蔵"ブログでは、最近掲載した10個までの記事は、右側にある「日記/記事の投稿」から、カレンダーからは太字になっている日が記事投稿日になっていますので、クリックすればすぐ見ることができます。今まで投稿された作品を見つけるには「新着記事一覧」をクリックして『カテゴリー別記事』を開くのも一つです。
2024年01月15日
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誰が海賊なんかになるもんかい磯野丹後守を殺し、右衛門太夫の手から赤ん坊の鹿門と逃げだした道休が呼びかける夢で気がついた鹿門は、大海原の上の青影丸の船中にいました。そして、その過程を思い出したのでしょう、「ちくしょう」といい船室から出ようとしたとき、黒白斎と伝馬が入って来ます。 鹿門「小静は、淡路丸はどうした」黒白斎「淡路丸は無事に港を抜けて、博多へ向かいました」鹿門「降ろせッ、何故この船に俺を乗せた」 黒白斎が、亡き父の志を継いでほしいと、いうと、鹿門「やめろッ、そんな昔話にだまされるか。降ろせ、俺をこの船から降ろせ」そのとき、頭上から「あはっはっはっ、そうはいかん、あっはっはっは」と笑い声が響いてきます。 鹿門が頭上を見上げると、その男は、船はもはや播磨灘に向かっている、といいます。「誰だ、おまえは」と聞く鹿門に、その男は「この船の頭領」と答えます。村上水軍の若大将、村上新蔵人です。 この青影丸は八幡船の根城因島に行くと聞き、鹿門「因島?・・・ちくしょう、どけ」と、船上に上って行き、鹿門「海賊、船を止めろ」と叫びます。 「手数のかかる客人だ」と苦笑する新蔵人に、興奮を抑えきれない鹿門は、鹿門「これが客の扱いか、人さらいめ」そういうと、新蔵人を押しのけ、海へとび込もうとする鹿門。「泳いで帰るんだ」と喚く鹿門を「鮫の餌食になりたいか」と強く止める新蔵人に「じゃますんない」と突き飛ばす鹿門に、新蔵人も怒り顔色を変えます。 新蔵人「のぼせるな」鹿門 「なにぃ」新蔵人「来い、堺の町で育った細腕を、八幡船の男に叩き直してくれるわ」鹿門 「海賊などにされてたまるか。堺の商人は腕の仕込みが違うんだ、・・・ 来い」 猛烈な取っ組み合いとなります。叩かれたら叩き返す、甲板を動き回り五分と五分の喧嘩が続き、双方ともへとへとで立てなくなりながらも、つかみ合いののしりあうのです。新蔵人「これしきのことでめくら船の二代目になれると思ったら大間違いだぞ」鹿門 「寝ぼけんない、誰が海賊なんかになるもんかい」新蔵人「因島に来て、おれのおやじにいえ」鹿門 「よーし、連れて行け、海賊の大将ならお前達より少しは話がわかるだろ い」 そういうと二人は一旦離れますが、まだ懲りないようなので、黒白斎は伝馬から水の入った桶を受け取ると、二人に浴びせかけます。黒白斎初め乗組員はその様子を見て大笑い、青影丸は因島へ向かって行きます。 続きます。
2024年01月07日
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俺は堺に育った、俺は道休の息子だ陣内を斬って船小屋に入って来たのは、道休の周りをうろついていた気違いの老人が、めくら船の黒白斎と名乗ると道休は思い出したようです。「裏切り者目」と鋭く目を光らせ近づく黒白斎に「どうしょうというのじゃ」と道休がいうと、「めくら船から鹿門様をお迎えに来たのじゃ」と答える黒白斎、鹿門は何も知らない、というと、黒白斎「わしから申上げよう、あなた様は壺屋道休の息子ではござりませんとな」道休は必死で道休「待て、今となっては、鹿門はわしの命だ、鹿門だけは連れて逃げんでくれ。 わしは、殿の子を・・・」黒百斎「さらって逃げたのだ」と、道休の言葉をさえぎると、それは真実とは違う、殿を殺したのは右衛門太夫で、道休はそそのかされて殿を殺害するが、断末魔で苦しむ磯野丹後守の顔が忘れられず、右衛門太夫の手から若君鹿門様をさらって育てていたのでした。「鹿門を奪わないでくれ」と頼んでも、財宝と共に奪って逃げた丹後守の遺児、鹿門を迎えに来たと、道休のいうことに承知をしない黒白斎に、我慢がきなくなった道休が小刀を抜きかかっていきます。村上水軍の乗組員たちに道休が取り押えられているところにやって来た鹿門は「海賊待てっ」と振り払い道休を助けに、するとひざまずき「鹿門様」という黒白斎に、鹿門は、鹿門「おやじに指一本触れてみろ、・・・俺が相手だ」 黒白斎「なにを仰せられます、あなた様は、壺屋道休の息子ではござりません」鹿門「なに」道休「嘘だ。・・・こやつのいうことを聞くでないぞ」 鹿門は、黒白斎から実の父親のことを聞かされます。江州佐和山城主でのちに八幡船の旗頭、磯野丹後守の世継ぎだと、聞かされます。呆然とする鹿門。 道休は、黒白斎達が交易に出ている間に、めくら船を奪った右衛門太夫を手引した裏切り者、まことのめくら船の頭領は鹿門だ、と・・・海へ出てほしいという黒白斎と引き留める道休の板ばさみになり鹿門は道休を見たあと少し考え、 鹿門「・・・俺は堺に育った、俺は道休の息子だ。・・・海賊などまっぴらだ」きっぱりと断り、小静が待っている船に急ぎ行こうとします。 「そんなことを信じると思うか」と止める黒白斎達を振り切り行こうとしたとき、港の方に火の手があがるのを見て、みんなが驚きます。 火をかけ騒ぎの中淡路丸を出帆させるために道休が支持をした時刻がきていたのでした。父や兄を待ってとすがる小静に、長崎屋は役人に捕まってはと、淡路丸を出帆させたのです。警備の軍兵達の矢が淡路丸に向かって矢を放ちます。矢は小静にも向かっていき、道休は淡路丸を追って矢が飛ぶ桟橋をかけていきます。道休を追って桟橋に行こうとする鹿門を引き止める黒白斎達、だが、矢が道休を射倒したとき、鹿門は狂ったようになり、倒れている道休の傍にいきます。 「お父つぁん、お父つぁん」と呼びかける鹿門に、道休は最後の力を振り絞って、「鹿門、・・・わしは・・・わしは・・・わしは・・・そなたに・・・・・そなたに・・・・・」と、あとはいえず道休はこときれてしまいます。 その様子に、黒白斎達が、鹿門を心配してかけより、道休から引き離そうとしますが、気が狂ったようになっている鹿門に困惑した黒白斎達は、仕方なく鹿門を失神させて運んで行くのです。 続きます。
2023年12月27日
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教えてください、めくら船と私に何の関係があるのか鹿門が家へ帰ってみると、父道休が暗い蔵の中で慌てて何かをしているのです。船乗り達が言い残した”めくら船”、帰り道用心の陣内が老人を襲ったのを見ている鹿門には、道休の慌てた行動が腑に落ちませんから、道休に問いただそうとします。鹿門「お父つぁん、・・・何をそんなに狼狽えて、船をだすんですか」道休「急に思い立ったのじゃ。戦のはじまる前に、博多へ避難するのじゃ」鹿門「お父つぁん、博多行きは戦のためではないんでしょう」 鹿門「いったい、何があったんです」鹿門は声を荒げ、道休にいい寄ります。道休「何もない、何もあるはずがない」鹿門「嘘だ、気違いの老人を闇討ちしようとしたのは、何のためです」 鹿門は、続けます。鹿門「お父つぁん、私はさっき、村上水軍の奴らに逢いましたよ」道休「えっ、村上水軍」 鹿門「奴らは、めくら船のいわれをお父つぁんに聞いてみろといいました。 ・・・教えてください、めくら船と私に、何の関係があるのか・・・」道休「知らん、そんなもの知らん」うろたえ、逃げようとする道休に、鹿門がくいさがります。 鹿門「何故隠すんです。・・・たった一人の息子に、何を隠すんだ。・・・・・ お父つぁん、一人で苦しむことなんかないじゃありませんか・・・」 道休「鹿門、夜明けまでに時間がないのじゃ、・・・堺の港を離れたら、訳を聞か そう、話もしよう、頼む、おとなしく淡路丸へ乗ってくれ、頼む・・・」必死になって頼む父道休を見て、興奮していた鹿門が静かになります。 道休「なっ、そうしてくれ、頼む。わしのいうことが聞かれんのか、頼む、この通 りじゃ、頼む」といい、手を合わせて鹿門にお願いするのです。 出港を待つ淡路丸には、父のいうことを信じて乗船した鹿門と妹の小静が先に乗り込んで、道休のやって来るのを待っています。その頃、道休は、船小屋で人足と最後の打合せをしていました。船小屋に火をかけ、その騒動に紛れて淡路丸を出港させるというのです。鹿門が淡路丸で待っている、「急ごう」と陣内と小屋を出ようとしたところで、一足先に出た陣内が、何ものかに斬られてしまいます。 続きます。
2023年12月15日
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時代劇としては異色の本格的海洋スペクタクル巨編です。戦国時代 、瀬戸内海の島々を根城として、八幡大菩薩の旗を翻し、遠く東シナ海を渡り交易のため雄飛した八幡船の男たち。二代目頭領に扮した橋蔵さんの海の若武者ぶりは、スケール雄大な異色時代劇として、ファンの思い出となりましたでしょう。沢島監督が情熱を賭けロケでみせる、芸術祭参加作品「海賊八幡船」・・・「ロケ費用、ロケ期間からすると、映画制作の常識からすれば、このシナリオは大部分は特撮にたよるところだが、今の日本の特撮技術では、どうしても小手先の誤魔化しになる恐れがあるので、無理をいってロケーションをやらしてもらいました。もちろん特撮も併用しますが、この作品のスペクタクルな面、絵柄の大きさといった面は、すべてロケ効果にかかっているといってよく、ロケーション場面の演出の機動力如何が作品の死命を決定するものと考えています」と沢村監督。そのため、会社が瀬戸内海あたりの距離でという意向でしたが、探し歩き、劇中の八幡船の根拠地に駆る因島がふさわしい部落を発見した時は、思わず涙がこぼれそうになったといいます。沢島忠監督にとっては念願の作品でした。本当は一年前に撮ることになっていたのですが、クランクイン直前に身体を痛めのびのびになってしまいました。沢島監督のねらいとは・・・海を嫌い、恐れる一人の青年が、次第に海の大きな魅力に魅せられていき、最後には雄々しく立派な海の男に成長していく。これがこの作品の骨子となっています。が、中心は、あくまでも海洋の大スペクタクルを狙うということなのです。”八幡大菩薩”の旗のもと、南海に雄飛する海の男達の雄大な海洋ドラマを描くのが制作意図です。唐津の立神、博多の芥屋など、約1ヵ月にわたる長期ロケで、ロケーション費だけで2,500万円という大がかりな金額、これは大作一本分の製作費に相当、東映創立以来の大規模なロケになりました。海戦シーンの撮影現場になったのは、福岡県糸島郡志摩村芥屋の海岸。玄海灘の荒波がくだけ散り効果満点です。現地には、佐賀県の漁港、呼子で建造された八幡船五隻が待期し、その中で最も大きいメクラ船には、呼子から長崎まで石炭を運んでいた160トンの貨物船を、その他全部が150トンクラスの漁船を改造したものです。砲撃戦には、ダイナマイトを使用、水柱一本につき、約8本のダイナマイトを点火、水柱も30mの高さまで吹き上げたのです。海賊船がのろのろと走ったのでは迫力が出ないと心配したりしたのですが、風が吹きすぎて面食らう有様でした。今までの日本映画の常識を破った迫力のあるシーンを作り上げたい・・・沢島監督の狙う大きな見せ場は、海賊シーンと堺の港の焼打ちシーンです。この船に乗って、橋蔵さんが大活躍するのですが、沢島監督の狙いは、優男の堺の町人が、次第に海の男として生きるようになる、その過程をいかに描くかということになります。堺の町人時代の鹿門はつけまつげをつけ優男の感じを、海のシーンになると強いメーキャップに変え、胸毛をつけ、逞しさを強調するようにしました。そこには、橋蔵さんの新しい魅力を発揮したい、と願っているといいます。観客の人々に、その気持ちが判っていただけるようになれば、成功したといえるのだそうですが・・・と。▲ 第67作品目 1960年9月18日封切 「海賊八幡船」 磯野鹿門 大川橋蔵寿賀 丘さとみ謝花 入江千恵子浅茅 円山栄子小静 桜町弘子伝馬 田中春男宮地与太夫 沢村宗之助五兵衛 高松錦之助磯野丹後守 北龍二磯野右衛門太夫 阿部九州男村上入道 月形龍之介黒白斎 進藤英太郎村上新蔵人 岡田英次臺屋道休 大河内傅次郎めくら船 ?永禄四年、貿易港堺の船問屋壷屋道休の息子・鹿門は、ある夜男達に囲まれ、八幡船旗頭・佐和山城主礎野丹後守の遺児、道休は丹後守を裏切り、八幡船の一つめくら船を奪った張本人だと告げらますが、鹿門は信じません。八幡船の動きを知った道休は、財宝を淡路丸に積んで足止めの禁令を破り脱出を企んだが、放たれた矢に道休は殺され、淡路丸は鹿門の妹小静を乗せたまま出港してしまいます。道休にすがり離れない鹿門を、黒白斎たち八幡船の男たちは、失神させ連れて行きます。鹿門が気がついたときは、大海原の青影丸の船中でした・・・・・始まりのスクリーンに昭和35年度芸術祭参加作品の文字がでて、船が進んでいくような画面に歌声と共に配役がでてきます。そして、暗闇の海原を船が進んでいってるような画面から入り、夜が明けてくるなか、船が見えてきます。”八幡船とは”の説明が流れます。八幡船とは、戦国乱世の頃、瀬戸内海の島々を根拠とした水軍の将兵が、遠く明国、朝鮮、ルソン、シャム等の諸国へ、八幡大菩薩の旗を揚げ、通商交易の為雄飛した船団のことである、彼等にとって、戦乱の国土より、海こそは、最大の自由の地であった。永禄四年、当時日本最大の貿易港、泉州堺の町にも、うち続く戦乱の波が容赦なく押し寄せていました。淡路丸で積み荷を運ばないとつぶれてしまうといい寄る長崎屋に、足止め禁止令が出ているのだから出せないと壺屋道休がいっているとき、船乗りたちに漂流しているところを助けられたとみられる一人の老いた狂人が現れ、「八幡船が沈む」「八幡大菩薩の旗が沈む」とおかしなことを言いながら、町の方へ歩いていきます。その老人は、船問屋壺屋に駆け込んで行き、しきりに「盲船」という謎の言葉を呟いて店の周りをうろついているというのです。五兵衛からそのことを聞いた道休は慌て、息子鹿門のことを心配すると、出かけていると聞き、「また廓通いか」と呟くと、五兵衛に長崎屋にあすの朝淡路丸を出すと伝え、出かけている息子鹿門を連れて来いといいます。鹿門が通っている廓では、船乗りたちが宴を開いている座敷に、昼間老人を助けたといっていた船乗りを待ちかねていたようで、「守備はどうだ」と聞かれ「ちゃんと町へ送りこんだ」という会話が聞かれます。廊下ですれ違ったとき、浅茅の髪から取った櫛を取りに来るかと思っていたら、持ち帰って結構ということをいってきたので、「馬鹿にするな」と浅茅の部屋に乗りこみます。伝馬「これ女、わしはな、ものもらいと違うぞ」というと、浅茅の膝枕で横になっている男が、鹿門「なら、置いていったらいいじゃないか」と言ったので、「町人のくせに、海の男を馬鹿にしやがって」と、男に手を出すと、簡単にやられてしまいます。鹿門「こいつは、面白れえや、・・・よーし、表へ出ろ」そういうと、鹿門は立ち上がり、伝馬を外へ連れ出します。船乗りたちや店の者たちみんなが外に出ています。 鹿門「おい、この堺ではな、町人も侍も対等なんだ。証拠を見せてやるから、一度 に来い」 鹿門がそういうと、先頭をきり、船乗りの宮地与太夫が「生意気な」とかかって行きます。浅茅の櫛のことをめぐるささいなことから、乱闘が大きくなり鹿門が追い詰められたとき、「若旦那」と番頭の五兵衛が飛び込んで来ます。 船乗りたちをかき分け、鹿門との間に割って入ると、五兵衛「待ってください。何の騒動か存じませんが、この方は手前主人、壺屋道休 の大事な跡取り、間違いがあってはなりません、どうぞお許しを」というのを聞き、与太夫が「なに、壺屋道休・・・」というと、伝馬が「あかん、与太夫、問題の人や」と、すると「引け、引け」と声がかかり去って行くのを見て、鹿門が「どうした、・・・逃げんのか」と声をかけて来たので、伝馬がこれに答えます。 伝馬「あんたに刃を向けると、わしら村上水軍は、八幡船の掟に背くのや」鹿門「村上水軍?・・・八幡船の海賊か。・・・その八幡船の掟が、この俺にどう いう関係があるのだ」伝馬「それやったらな、はよ帰って、お父つぁんに聞いてみなはれ、めくら船っ てなんやって・・・」鹿門「めくら船」船乗り達は、謎めいた言葉を残し去って行きます。 道休に命じられた甚内は、気の狂った老人を誰にも気づかれないように暗殺しようと襲いますが、川に飛びこまれ逃がしてしまいます。廓からの帰りその現場を通りかかった鹿門は、慌てて、鹿門「陣内、どうした」 続きます。
2023年12月06日
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次郎長は、おめえさんに・・・惚れましたよ次郎長をはじめ子分達が政吉を待っていました。政吉は、次郎長に真向からきりだします。政吉 「聞かせてくれ、次郎長。おめえは、佐幕に与するのか、それとも・・・」次郎長「ちょいと、待った。・・・どっちがいいかわりいか、俺のしったこっちゃ ねえ」政吉 「なにい」というと、政吉は刀を抜きます。それを見て子分達もドスを抜きますが、次郎長の「馬鹿野郎、刀を引け」との怒鳴ります。 そして、みんなに、こういうのです。次郎長「俺はな、この勤皇のお侍さんの、味方をするぜ」 次郎長がそういうと、子分達はドスをおさめました。その光景を目にし政吉がびっくりしていますと、次郎長が、政吉に、刀をおさめてくれるよう、促します。 じっと次郎長を見つめていた厳しい政吉の顔に笑みが浮かび、刀を鞘におさめます。 次郎長は「ありがとうござんす」というと、腰を下ろしあらたまって、政吉にこういいます。次郎長「次郎長は、おめえさんに・・・惚れましたよ。・・・東海道のことは、こ の次郎長にまかしておきなせい」政吉 「うん。・・・かたじけない」政吉の言葉に「へい」と返事をした次郎長は、立ち上がると外に待っていた者達に「野郎ども、出て来い」と声をかけました。「おう」という声がして、入って来たのは旅支度をした三下達でした。 これは・・・という表情で次郎長を見る政吉から視線を外す次郎長。六助や七助たちは、政吉のお供をして京で男らしい大喧嘩をさしてもらうというのです。「いけねえ、そいつはいけねえよ」と困り次郎長に助けを求める政吉に大笑いする次郎長。 次郎長「あはっはっはっは、さあ、次はお雪だ」政吉 「えっ?」 次郎長がお雪を呼びます。六助達は二人の仲を羨ましそうに見ています。 お雪の姿が見えると政吉も神妙な表情になりました。 お雪が政吉に呼びかけます。お雪「政吉・・・」政吉がお雪の方を向き、政吉「お雪さん・・・」といいますと、お雪は2、3歩近寄り、政吉にお雪「ごめんね、政吉と、もう一度だけ、呼んでみたかったの」 政吉は、じっとお雪を見つめます。そして、お雪の気持ちに、政吉「へい」と答え、深々と頭を下げます。 お雪が、お詫びのしるしと、政吉が京に上るために用意をした装束を差し出します。茶摘み娘達がチャッキリ節の歌を唄いながら茶摘みをしている茶畑のところに、侍の装いの政吉を先頭に、三度笠の装いの六助達が京へ向かって行きます。 娘達の唄声に合槌を入れながら、楽しそうに歩いていた政吉、チャッキリ節の”きやーるが鳴くんで雨ずらよ”という節に来たとき、政吉は清水に来たあの日を思い出したのでしょう。政吉「おれぃ・・・おう、(明るく笑い)あっはっはっはっ、・・・合羽を着ろい」みんなが何のことかと「えっ」というと、政吉「合羽を着るんだい」 の声で一斉に合羽を着て、走り出します。 おしまい。
2023年09月26日
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勤王志士跡部政之進(ここから、大立回りになります)政吉を待ちかまえていた為五郎一家の中にいた用心棒の浪人がかかってきます。浪人を見て、政吉は「新選組くずれ」と分かります。 政吉は中へと入って行き、一段落したところで、政吉は懐から熊吉の位牌を出すと、 政吉「おい熊、おめえを殺したのはこいつかい、・・・それとも、こいつ か・・・」と位牌を向けながら、部屋の奥へと踏み込んでいきます。 政吉「よーし、それじゃ、みんな叩き斬ってやるぜ」 用心棒を斬った後、為五郎を追い詰めていきます。為五郎が斬られ、子分達は逃げて行きました。 政吉は、襖に、勤王志士跡部政之進と残していきます。為五郎の家からの帰り六助には、金子を渡し、おすきさんのところへ帰るようにいっているところへ、次郎長からの迎えがやってきました。次郎長一家と政吉(跡部政之進)とのけりをつけたいのでどうしてもお連れして来いと、いうのでした。 政吉は笑いを浮かべ政吉「そうかい」というと、今度は真顔で政吉「もし、いやだといったら・・・」というと、「親分が、こうしろとおっしゃいました」とドスを抜いてきました。 それを見て政吉は政吉「よーし、わかった、望むところだ・・・会おう」 続きます。
2023年09月15日
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分かってるよ、お侍れえさん熊造と書かれた位牌に線香をあげ手を合わせている次郎長の部屋の障子が静かに開きました。「誰だい」と声をかける次郎長、入って来たのは政吉、障子を閉めたとき、次郎長「何の用だ」政吉「次郎長親分」政吉は刀を持ち仏壇の前に座っている次郎長のところまでやってきます。政吉「街道一とうたわれた大親分だ、・・・といいてえところだが、見ると聞くと は大ちげえだ。かわいい子分をなぶり殺しにされて、位牌に手を合わせて、 ぼろぼろ泣いていなさる。ちえっ、・・・いいかい、男一匹と生まれたから にゃ、やるべき喧嘩にゃ、りっぱに命をかけるもんだ。おらあ、京都で、 ・・・よろこんで死んでいった男をいくらも見た。それは武士だけじゃな い、町人も百姓も、・・・みな笑って死んでいきやがったぜ。・・・残され た家族の口からも、一度だって角太郎の女房のような言葉はもれなかった。 何故だか、・・・」次郎長は黙ったままです。 座っていた政吉は、刀を持ち、片膝たてる姿勢で、次郎長に浴びせかけます。政吉「おうっ、次郎長さん、いま国をあげて佐幕か勤皇かと大喧嘩の真っ最中だ ぜ。兎に角、(この時、次郎長が傍にあるドスに手を伸ばしています)どっ ちがいいか悪いか、その人たちの心ではっきり決めて、死に物狂いでやっ てるんだ。男の中の男といわれる次郎長さんなら、一生に一度はそんな喧 嘩の味を、なめてみる気はねえかい」 そのとき、「なめるねい」という言葉がとび、次郎長のドスが政吉めがけ振り落ろされます。振り下ろされたドスを政吉が止めると、次郎長は笑って、次郎長「分かってるよ、お侍れえさん」その言葉に、一瞬ハッとするが、政吉は何もかも見通した次郎長を見て、笑いを浮かべ、 政吉「そうと分かりゃ、・・・親分、しばらくこの位牌をかりますよ」 部屋を出て行こうとした政吉は、廊下にいたお蝶とお雪を見て足が止まりますが、次郎長の方に「ご免なすって」というと、二人には声をかけずに足早に行くのです。 次郎長は、お雪に、政吉は為五郎のところへ殴り込みに行ったことを伝えます。為五郎一家の方へ急ぐ六助は、喧嘩支度をした政吉に会い、一緒に死んでくれるか、というと、政吉は「俺は死にやしねえよ」と。そして厳しく、政吉「てめえなんかの、出る幕じゃねえ、けえれ」走る政吉、一緒に行くと追ってついて来る六助、そのとき、為五郎一家の者がかかってきたあと、政吉は囲まれます。一匹だけでも斬らしてという六助に「よーし、それじゃ気をつけて付いて来いよ」と為五郎の家に向かっていきます。 続きます。
2023年09月06日
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くそやくざと仁義ぼけは、でいきれいだ政吉が企てた芝居以後、次郎長の様子が変わって、喧嘩法度の禁止令が出たことは、清水の町中にひろがり、清水一家の三下の六助や熊造達にとっても影響がありました。酒を酌み交わし不満をぶちまけているところへ、鳶の山の為五郎一家が、新選組崩れの用心棒を連れて、飲み屋に入って来ました。そして、為五郎のところの者が、浪人に、次郎長とか八百長とかいう、独活の大木に止まっている虫けらがいるが辛抱願いますといって大笑いするのを辛抱していたが、酒を飲んだ勢いで、熊造が我慢できず相手に向かっていき浪人に峰内にされます。熊造は、次郎長親分を悪くいわれ口惜しさのため、深夜たった一人で、為五郎一家に殴り込みをかけ斬られてしまいます。そのとき、政吉は目を覚まし、寝床に熊造の姿がないので、小さな声で「熊・・・」と呼んで、どうも気になり、起きて土間の方に探しに行き、また「熊・・・」と囁いたとき、何度も戸を叩くので「へっ、今開けますよ」といい開けると「独活の大木にたかる、ドモ虫一匹献上」と書かれた紙を背中に突き刺された、熊造の死体が倒れ込みます。熊造の遺体のまわりに集まっている子分達を前に、次郎長の言葉は冷たかったのです。「ばか・・・俺のいいつけに背いて勝手なまねする。俺はな、一度いったことはこんりんざい通すおとこだ。おめえ達、この死骸を表に放り出せ」・・次郎長の様子に睨むような視線をむける政吉がいました。 長屋の一室で熊造の通夜は静かに行われています。政吉とお雪は・・・川をみつめる政吉に、お雪が話かけていきます。お雪「ねえ、政吉、・・・おまえと初めて会ったのは、ここだったわねえ」政吉「そうでしたねえ」お雪「ほんとうのことゆうわ・・・あたい・・・おまえが好きよ・・・好きな の。・・・惚れてるわ」政吉「お雪さん」お雪「うん」政吉「今さら、おめえさんに惚れられたって」というと、政吉は柳の木の下に移動し、政吉「死んじまや、もともこうもねえや」 お雪「そうね、・・・でも、お願い、行ってほしいの」政吉「いやだ」 お雪「だって、・・・みんな、お前が弱いとも知らないで、ども熊の仕返しに、為 五郎んちへ殴り込みをかけに行ってほしがっているのよ。このままじゃ、ど も熊があんまり、かわいそうじゃない、・・・ねえ、・・・あたいも、 ・・・ついていくから」 政吉は、そういうお雪の方を向くと、政吉「おめえさんも、死ぬ気か」その言葉に、一瞬お雪はびくっとした表情になりますが、お雪「うん、・・・おまえと・・・一緒なら」 政吉は、そういうお雪をじっと長く見つめていましたが、 政吉「うれしいな・・・といいてえが、俺はおめえさんがいうような、くそやくざ と仁義ぼけは、でいきれいだ」お雪「えっ」政吉「断る」そういうと、お雪の方には振り向きもせず、足早でいってしまいます。お雪「政吉のばか、・・・おまえなんか、だっきらい」 続きます。
2023年08月20日
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次郎長の「おい、やめろ」という声がいよいよ政吉達が芝居を打つ日になりました。芝居小屋は満員、次郎長もお蝶やお雪と共にやって来ています。熊造の浪花節に乗り、都鳥一家が負傷した石松を追い、小松村の七五郎の家を家探ししますがいないので、引き揚げていきます。大丈夫とみて、押し入れに隠れていた石松に声をかけます。石松に扮した政吉が見得を切ると、「政吉~」というお雪のかけ声に一瞬気を取られますが、芝居にもどり、「うわ、ちきしょう、・・・」と倒れ込みます。 石松「斬られた傷がいてえのと、蚊にくわれて痒いのと、暑いのと三つ一緒になり やがって、こんな苦しいことはなかったい、おっ、七兄い、すまねえ。お民 さんありがとよ」七五郎が石松に「これからどうするつもりだ」と聞き、「おらあ、これから清水にけえり、この傷を治し、この仇討ちをするつもりだ」といいます。俺も一緒に清水へ行こうという七五郎に、それは断る、のちの世まで名前が残って、石松は命が惜しいから、七五郎と一緒に行ったといわれては、「清水一家のなめえが汚れらあ」客席から「そうだ、そうだ」の声がかかります。と、政吉の思うようになったようです。 痛みをこらえやせ我慢して、一人よたよたと清水へ向かって歩きますが、傷の痛みで七五郎の前では強がりをいってはみたが、到底一人ではかえれない、と立ちすくんで゜いると、足音に驚き隠れます。 都鳥はが逃げた石松を卑怯とうと、客席からヤジが飛びます。卑怯といわれた石松が現れると、客席から拍手が起ります。逃げたんじゃない、ここで都鳥を待っていたんだ、という石松に客席は拍手。斬りあいますが、石松は傷の痛みによろけたところを滅多切りされますと、観衆が立ちあ゛り、舞台に座布団を投げてきました。 その時、政吉は熊造に浪花節を続けるように合図を送ります。 「・・・捨てる命があるならば、人々のため国のため・・・命を捧げてこそ、これが男というものよ」」そこで、政吉はチラリと次郎長の様子をうかがうのです。次郎長の顔色が変わっていました。浪花節はまだ続きます。「いまや徳川幕府の悪政に、とって立った侍や・・・・・、たとえしがないやくざでも、あんな立派な大喧嘩に、もしも石さんが死んだのなら・・・」そこまで来たとき、次郎長の「おい、やめろ」という声が響きますと、石松に扮した政吉は、起き上がり、うまくいったという表情を見せます。 続きます。
2023年08月13日
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「次郎長の腹は?」・・・政吉は芝居を打つことにあるとき、政吉は六助達にこんなことをいい出したのです。政吉「おらあ、こねえだからかんげえていたことなんだが、今度の祭りによ、あの しべえ小屋を借りて、俺達でしべえやってみねえか」「外題は何か、忠臣蔵か」と六助が聞いてきますと、政吉「違うよ、石松さんのしべえだよ。石松さんが、どんなひでえ騙され方をして 都鳥に殺されたか、それを俺達が役者になって、お袖さんや町の人達に見せ るんだ。そうすりゃ、清水一家が都鳥を向こうにまわして、どうでも喧嘩を しなけりゃならなかったってわけが、みんなにも納得がいくと思うんだ」そういうと、熊造に浪花節をやってもらうといったのです。その話を通りかかったお雪が聞いていて、お雪「政吉、その石松の役を誰がするの」立ち上がりお雪の傍に行くと、政吉「へっへっ、そりゃ、主役となりゃ、あっし以外にあいにくと誰もいません よ」その言葉にみんなが不満の様子でよってきて、政吉は突き飛ばされ屏風にあたり、それを見て「弱い石松ね」というお雪顔、・・・政吉は頭をあげたとき、通りの侍に目がいきます。 お雪がいった言葉に対して、政吉「おっと、この政吉が弱いってんですか。えへっへっ、わらわしちゃいけませ んよ」そういうと、お雪に、そとを指さし、「あそこにいるおさむれいさん、強そうでしょう」お雪をはじめみんなが政吉のいうことに耳を傾けますと、政吉「よござんすか、あの侍に、あっしが喧嘩をふっかけて、きりきりっとまわし て見せりゃ、この政吉が強いってことがわかるでしょう」馬鹿にしているみんなに「じゃ、見てろ」と行く政吉を「馬鹿だね、おまえは」と止めますが、政吉「ちぇっ、なにをいってんだい、馬鹿でも強けりゃいいんだろう」というと、表へ出て行き、草鞋の紐を締めなおしているそぶりの侍に喧嘩をふっ掛けていきます。 お雪や六助達が覗きこむようにしてその成りゆきを見ています。すると政吉は、その侍の手を足で払い、政吉「やい、間抜け野郎・・・」そういってきた政吉の顔を見た侍の顔が驚きの表情を見せます。そして、侍が「おお・・・」と政吉にいったとき、政吉はそれを遮るようにまくしたて、「・おつ、おうおう、烏は田圃へ行った、田圃へ。・・ここは人様が通る往来のど真ん中だぜ」とか何とかいいながら、お雪達の見ているなか、侍を海辺の方に誘います。それを見て、お雪は慌て六助達に止めるようにいい、追いかけていきます。 海辺まで来て、みんなが追って来ないのを確認すると、二人は砂浜に座りこみ大笑いします。政之進どんと申すまで、ビックリしたと、侍はいい、こんな所で何をしているのか、と聞きます。すると、政吉は懐から長州藩桂小五郎からの封書を出し、政吉「これを読んでくだされ」と、侍に渡します。 書かれていたことは次のようなことでした。「帰洛の途清水港に立ち寄り、次郎長一家にもぐりこみ、次郎長の真意、勤王ににあるか佐幕にあるかをお探りくだされたく、万一佐幕にあるときは一刀の下に斬り捨ててお戻り願い上げ候ものなり」というものでした。侍が、政吉に、「ご苦労様です」といい、「次郎長が幕府に味方をして、とうせいの官軍に立ち向かうなら」までいって黙ると、政吉は政吉「踏み破ってとおるにしても、多少の犠牲は免れません」で、「次郎長の腹は?」との侍の問いに、政吉は芝居を打つことを話したのでしょう。・・・なかなかよい思いつきだといっているところに、お雪達が探しに来た声が聞こえます。 政吉は侍に「御免」といい、こぶができるほど強く一発、そして、侍をやっつけたとみんなに思わせ成功します。 続きます。
2023年08月06日
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あっしに惚れてる為五郎の子分が胸倉をつかんでくると、政吉はその手を掴んで、政吉「おっと、・・・あれ、見ねえ顔だな。おめえさん方、いってい何処のお人だ い」といったのに対し、為五郎の身内の・・・までいったところで、待てと、お雪に「為五郎ってえのは、えれえ親分さんかい」と聞いたとき、「馬鹿野郎」といってきたのをうけて、政吉「ああ、馬鹿か」と返したので為五郎の子分たちが一斉にドスを抜き政吉にかかってきます。 政吉「暴力はいけません、話し合いましょう」と慌て逃げ回りながら、次から次へと子分達を投げていき、最後には自分で川に落ちるような格好をし「助けてくれー」と、子分達は引き揚げます。そして、政吉が本当に川に落ちるのではないかと、お雪が助けようと手をさしのべ、政吉「あっはは、やっぱりお雪さんは、あっしに惚れてる」と、お雪を抱きかかえると、お雪「馬鹿、惚れてなんかいるものか」と、力一杯政吉を押しのけたので、政吉は川の中にドボーン。 次郎長一行が都鳥を打ち果し戻って来たのは、それから数日後でした。町民達が出迎える中、喜三郎と角太郎は、二つの白い箱に入っていた。盛大な葬儀であるが、お袖は欲しいものは夫です、この子の父親ですと、泣き伏すお袖の前に言葉も出ない次郎長でした。このとき、またもやその情景に、政吉の目が・・・政吉の狙いは・・・何を探っているのでしょう。 続きます。
2023年07月25日
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しょってるわねえかまどの焚き付けも上手になったみたいね、とお雪がやってきました。そして、甘い声で政吉にお願いをするのです。お雪「ねえ、政吉、・・・お話しがあるの・・・ちょっと来て」といわれ、政吉「えっ、・・・はい(可愛く)」というと、六助の肩を叩き、政吉「どうだい、そう来ると思ったんだ」といって立ち上がると、お雪の手を掴み「さあっ」といったのはよいが、早とちりだったようで、「なによ」といい、手をはらうお雪に、政吉「えっ、あっしを口説くんでしょう」お雪の素振を見て、政吉「ほーら、あかくなったあ、・・・えっへへ、わかってるんだ。思うまい思う まいと、つとめればつとめるほど、こいつは世の習い」お雪「おあいにくさま、ばかね」周りにいた人たちからも「馬鹿」「馬鹿野郎」と声がかかると、政吉「なにを・・・馬鹿はおめえらだい。大きな声じゃいえねえがな、お雪さん は、ほんとうにあっしに惚れてるんだ。・・・ねえ」お雪「相変わらず、しょってるわねえ。・・・でも、今日は、しょってもらうの がちょっと違うの」政吉「えっ」お雪がくすっと笑います。 お雪のお供で米俵を担がされた政吉が行った先の、喜三郎のところでは米俵をありがたく貰ってくれましたが、角太郎の女房のお袖は、今回ばかりは受け取れないというのです。(聞いていた政吉のこの様子も何となく気になりますね) というわけで、米俵を担いで帰らなければならなくなりました。足はがくがくで途中倒れると、足を投げ出しぐったりの様子で、政吉「ああ・・・世が世であれば、この政吉・・・」 その様子を見ていたお雪は、お蝶がいってたことを思い出し政吉にいいます。「政吉は、ちょっとすると、大政みたいに、元は武家の出じゃないか」といっていたというと、急に起き上がったのです。 そして、お雪にこう言います。政吉「えれえ、さすがは清水一家の台所を束ねるだけあって、目がたかいぞ」お雪は、それを信じたように「ほんとうだったの」というと、政吉「いかにも」といい立ち上がったのはよいのですが、足はまだがくがくして、米俵に腰を下ろしてしまいましたが、政吉のこと、ここからまた続きが・・・・始まるのです。 政吉「なにを隠そう、拙者こそ、もと赤穂浪士、二刀流の達人、堀部安兵衛の忘れ 形見・・・」それに対してのお雪の「おおぼらふきのかみ、まさべえっていうんでしょう」という切り返しでその場での話は打ち切り、米俵を担ごうとして、勢いあまって、その俵は、ちょうどやって来た為五郎一家の子分達の前に落ちてしまったのです。 続きます。
2023年07月17日
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惚れんなよ次郎長親分のところに厄介になることになった政吉は、早速下働きで、かまどの火を起こすため一生懸命火吹竹を吹いていますが、うまくいかず煙りが充満し、政吉は「まかしとけ」と一生懸命ですが、周りは煙たく調理場は大変な騒ぎになっています。 そのとき、「どうしたの、こんなに煙りを出して」と若い女の声がします。政吉はそれに対し「うるせえや、このおたふく」と返しました。すると、「なにさ・・・、とんまだねえ、貸してごらんよ、ほんとに・・・不器用な男だね」と政吉から火吹竹を取り上げ代わりに吹きはじめます。それを見て、六助が慌てると、その女がお雪とまだ知らない政吉は、六助に、政吉「あっ、止めとけ止めとけ、こんな仕事は女にまかしとけ、ってんだ、ちきし ょう」 「大体、男にやらせることが間違い・・・」といい振り返った政吉は、かまどに火が点いたのをみて、政吉「ああ、あっははっ、点いた点いた」 お雪が、煙たそうな顔で立ち上がり、政吉の方に火吹竹を渡そうとして、政吉の顔を見たとたん「あら」という声に、政吉も思わずお雪の顔を見ます。 政吉「おう、おめえは・・・」お雪は、おかしそうに笑うと、お雪「あら、まあ、中政の親分さん」そういわれ、笑っている政吉に、「親分さんとあろうお方が、こんな三下の仕事なんか、はい」と火吹竹を渡すと、笑ってお雪を突き飛ばすようにして政吉「何だい・・」とお雪を突くと、政吉「おい、おめえ、ここの女中だったのかい、あっはは、そうか」と、いっている政吉を六助がとめると、政吉「ああ、いいんだいいんだ、知ってるんだ、あっ、知ってるんだ。・・・惚れ んなよ、ええっ」そういわれたお雪は、政吉に切り返します。お雪「でも、あんたになんか恋煩いしないから、安心してね」 奥へ引っ込もうとしたお雪に名前を聞き、「よろしく頼むぜ」と親しげにいうので周りの者はヒヤヒヤものです。お雪が奥へ消えると、政吉は、政吉「恥ずかしがって行きやがったぜ。(熊造の方に行き)おうおうおう、あいつは ね、俺にね・・・」という政吉に、どもりの熊造が「馬鹿」といいたいのだろう、”ば、ば”でどもっていると、政吉「”ば”じゃねえよ”ほ"だい、”ほ"・・・惚れてんだよう」という政吉に、「馬鹿野郎」と熊造かいってきたので、呆気にとられたところに、六助が政兄いと呼んで付け加えます。六助「あほやで、・・・あの人はなあ、親分の嫁さんの妹なんやがな」政吉「えっ、ほんとか、おい」六助「ほんまやがな」失態をまたまたおかし「あっ、痛い・・・」という政吉です。 そのころ、奥座敷にいる次郎長のところに、小松村の七五郎がやって来ていました。次郎長へのお詫びに頭を丸めてきたというのです。勝手のほうでは、熊造が政吉を捕まえて・・・熊造のどもりを笑わなかったから好きだ、分からないことは何でも教えてやる、と。奥座敷では、七五郎から森の石松が都鳥一家にやられたことを聞かされ、次郎長は二十八人衆を集めます。政吉はその面々の顔を熊造の浪花節に乗せて教えてもらっています。(政吉は何を考えて何を思っているのでしょう。ただ者ではない感じがしますね) 草の根分けても都鳥一家を探しだし石松の仇を討つ、二十八人衆は賛同し、次郎長も一緒に行くことになります。その中に、かねてから石松に目をかけられていた角太郎が加えられます。家族のためにやくざ稼業から足を洗おうとしていた矢先の出来事、女房のお袖の反対を押し切って一行と旅に出て行きました。 続きます。
2023年07月08日
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あっしに惚れちゃあいけないよおすきに家を追い出された政吉と六助は、清水の町をあてもなくさまよっています。六助がまだかけだしの三下であることを聞かされ、またまたがっかりさせられる政吉。六助は、親分には恐れ多く頼むことはできないが、姐さんか姐さんの妹のお雪さんにお頼みして、二人で住み込みにしてもらうから、ちょっと待っていてほしい、といい走り去って行きます。 残された政吉は、六助が行ったのを確かめると、にやっと笑いを浮かべ、水の流れを見ていると、犬の吠える声がしたかと思うと、「キャーッ」という女の悲鳴が聞こえます。その方を見ると、若い娘が「助けて」と走って来て政吉にしがみつきます。(この娘が六助がいっていた姐さんの妹のお雪なのです) 犬は二人の脇を通りいってしまいます。「もう大丈夫ですよ」といい、なれなれしくする政吉を振り切り、娘が「ありがとうございました」といい、去ろうとすると、政吉「おっ」と呼び止め、娘が振り返ると次のようなことをいい出すのです。 政吉「おめえさん、あっしの名前聞かねえのかい」お雪「あっ、・・・あんまりびっくりしてしまったもんで・・・あのう、どなたさ までいらっしゃいましょう」政吉「ほいきた」 政吉「次郎長の身内でねえ」お雪「ええっ、・・・次郎長親分の」政吉「うん、・・・政ってんだ」お雪「ああ、・・・政っ・・・」政吉「ああ・・・」 政吉「清水港は鬼よりこわい、大政小政の声がするってんだ」お雪「まあ、あの大政さんですの」政吉「いや、ちょっと違うんだ」お雪「それじゃ、小政さん」政吉「とも違う、うぅー、中政ってえところさ」お雪「そうでしたの・・・じゃ、中政の親分さん」政吉「おう」お雪「どうもありがとうございました」といい、行こうとしたお雪を引き止めるのです。 政吉「おうおう、ちょ、ちょっ、・・・念のために聞くが、あっしに惚れちゃあい けないよ」お雪は「あーら、・・・いやだあ」と笑いながら、政吉の手をはらい離れます。政吉「そうくると思ったね」 そして、懲りずに続けるのです。政吉「ああ、よくあるやつだ。助けていただいたあの殿、有難い有難いがつのっ て、恋しい恋しいってことになる。・・・娘心に思い詰め、口では言えな いところから、気鬱がつのって病の床に就く。あーあ、竹庵先生の脈では わからん。お医者様でも草津の湯でもってなことに・・・だが、おれは、 ・・・あいにく女はでえきれいだからなあ」といい見たお雪は、うんうんというように首を縦に振る。政吉「次郎長親分ご身内の政吉さんと訪ねて来られても、ついついつれねえ返事 をする。(お雪は少しずつつ政吉から離れていってしまいます。それにきず かず・・・)するてえと、おめえさんが、女の口から恥ずかしいことを言わ せておいて、このまま生きてはいられません。いっそ一思いに死んで・・ ・・そんなことで、よっーお」川に飛び込む仕草をしていたその時、戻って来た六助は、政吉が本当に飛び込むと勘違いして、「兄貴、短気起こしたらあかんで」と止めに入りました。政吉は、いると思った娘がいなくなっているので、そちらの方が気になって、六助が、次郎長親分の家に厄介になることになったといっても、政吉は上の空、「あっそうか」といって、いなくなった娘の方が気になっているのです。 続きます。
2023年07月03日
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吉良の仁吉の物語よ翌朝、落ち着かない様子で六助が玄関先の掃除をしていますと、「あんた、ちょいと」と長火鉢に座ったおすきが呼ぶ声に、びくびくして中にはいっていきます。おすきは、六助を近くに呼ぶと、二階の図々しい男をいつまで置いておくつもりだといってきました。はっきりしない六助に、しびれをきらし、「どうしてもいやだから、今日限り出て行ってもらって」というおすきに六助が「それは可哀想、夕べあれだけご馳走になって、ご馳走の手前だけでも・・・」と、・・・そこへ鰻屋、酒屋、天ぷら屋が、夕べの勘定を取りに来たのです。兄貴が払ったはずだと、二階の政吉を呼びます。呼ばれた政吉は、政吉 「どうだい、ええ、よく似合うだろう」と六助の仕立て下ろしの着物を着て階段を気分よく下りてきます。 金を取りに来てるといわれ、小僧達をみて、政吉 「なんでい、もう来やがったかい。・・・おう、六・すまねえが、今こまけ のねえから、おめえ頼むわ」その言葉に、「うん」といい六助はおすきに頼もうとしたとき、おすきが政吉に言います。おすき「ちょいと、大きいのでもいいんですよ」政吉は、おすきの言ったその言葉に、「おうっ」といい、おすきにいいはじめます。 政吉 「おかみさん、無理言っちゃあいけませんよ。えっ、大きい金があるぐれえ なら、こんな汚ねえうちにぁ、泊まりゃあしませんよ」 「大きいのも、小さいのもないのか」と聞く六助に、「ないよ」と答える政吉。そこへ六助が「ないって」とおすきにいったから大変・・・六助に向かって「馬鹿野郎」の声が・・・そんなことにはおかまいなしの政吉は政吉「払ってやれよ」と、他人事のようにいう政吉に「ちきしょう」と腹立たしさを覚えるおすきですが、ここのところは、払うから後で取りに来てくれ、とその場は落着します。 おすきは、草鞋銭を六助に渡し、政吉に今からすぐに出て行ってもらうようにしてくれといわれ、素直に、その草鞋銭を政吉に渡そうとすると政吉「おう、六、けえしな」 そういわれ、おすきの方を向くと、「渡すの」と板ばさみの六助は、六助 「折角うちの嫁さんがゆうてるのに・・・」と、政吉に差し出すと、政吉 「何だと」六助 「もろときな」政吉 「おう、六・・・こんな目腐れ金で、おめえはこの俺を追い出す気か。・・ ちきしょう、・・・ひでえぜ、六・・・」 政吉の芝居にほだされてしまった六助は、「出てってもらって」というおすきに、「泣いてんのやで」とお願いすると、おすき「どうしても、あの人を出せないというなら、あたしが出て行く」と言い出しました。 それを聞いた政吉はニコニコして六助にいいます。政吉「おう六六、いいじゃねえか、出てってもうじゃねえかよ」そう いう政吉を、六助は「あかんねんて・・」と止めようとしますが、「黙ってろってんだ」とそれを振り切り、おすきに向かって啖呵を切りはじめます。 政吉 「おう、おかみさんよう」おすき「なにさ」政吉 「おう、おめえ今出て行くといったろう、ああ、出て行ってもらおうじゃねえか」 止める六助をふりきり、政吉 「でいいち、おれはなあ、かかあ殿下ってえのは気に入らねえんだ。とっと と出て行ってもらいましょう」六助が止めるのを見て、政吉は六助に腹がたったようです。政吉 「馬鹿だなあ、おめえも、おう、六、いいか、よーく考えてみな、女房のか けがえはいくらでもあるが、本当の友達ってえのは、一生に一人か二人の もんだ。ええ、ことにやくざ仲間の義理ってものは、(そういいながら、 六助の手から草鞋銭を取り、自分の懐にいれるのです)それそれそれ、吉 良の仁吉の物語よ、おめえ、知ってるか」六助 「知ってる」 政吉 「きょうでい分のために、女房を離縁して、荒神山へ斬り込んだ、あの心意 気だ。・・・おい、・・・♪てめえもなりたや、仁吉のように、義理と人 情のこの世界、・・・ってんだ。おめえ分かるか」六助 「分かってる」政吉 「どうすんだ、六」すると、政吉の懐から草鞋銭を取り出し、それをおすきの方に差し出し、六助 「おすきさん、長いことお世話になりました」と、深々と頭を下げる六助を見て、政吉は「あっ、・・おい、どうしたんだ、六」と、六助は政吉に「兄貴、行こう」と、玄関外へと促します。 政吉 「なにを・・・、行こうって、おめえ・・・何処へ」六助 「そやさかい、さっきから、あかんあかんゆうてたやろう。・・・ここは な、わしのうちと違うねん」政吉 「・・えっ?」六助は、おすきの紐だったというのです。驚いたのは政吉です、「紐?・・・あいた・・・・あいたたたた」 続きます。
2023年06月25日
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明日の朝でいいんだわけがわからないまま政吉の巧みな芝居に乗せられてしまった六助。政吉は「ちょいと用をたしてくるからな」と言い出て行きます。おすきは六助に、あの男を本当に知っているのかとつめよると、六助は思い出せないが、六、六というのだから・・・と、おすきが腹を立てていると、「へい、お待ちどうさまです」と酒屋が一升樽を、すると次に鰻が、続いて天ぷら届いたのです。呆気に取られていると、「ああ、ご苦労」と政吉が帰って来ました。「兄貴のおごりや」と喜ぶ六助に、政吉「なに、そう言ってくれるない、恥ずかしいぜ。思いがけなくお前に会えてよ う、そのお前がこうやって立派な家を構えてるのに、手土産一つ持って来ね えもんだからなあ、ほら・・・ほっ、ほっ、ほっ(酒樽、うなぎ、天ぷらを 指す)なっ」 六助に、兄貴はいいとこあるだろうといわれ、おすきが「すいません」と言うと、政吉「おっ、・・・礼をいわれちゃ困るなあ、ああ、おっ・・・さあこっちへ来ね え、こっちへ来ねえ」あがりこみ厚かましい政吉です。 こうなると、政吉の思い通りにことは運んでいきます。着ている着物をみて、政吉「おう、六、おめえ、俺んちでくすぶっていた頃、よく俺の着物を着たっ けな」六助「そやったかいな」政吉「そうじゃねえか」六助「ああ、そうそう」政吉「へえっへえっへっ」 政吉の着物を見て、「そういえば、だいぶ汚れているな」と六助がいうと、政吉は「うん」と返事・・・・・政吉は料理をおかもちから出しながら、自分のペースに運んでいきます。 すると、六助に、「なんぞ、おれの着物を出して兄貴に着せてやってくれ」といわれたおすきは、「なんぞって、あんたの着物は今着ているのと、私がこしらえたばかりの仕立て下ろししかないんです」 政吉が話に割り込みます。政吉「そう、そっ。思い出すぜえ、・・・おめえ、あの頃、よく俺の仕立て下ろし を着たなあ」 六助は、おすぎがこしらえた仕立て下ろしの着物を政吉に着てもらってくれという始末に止めようとするおすぎ。そのとき、「ああ、いいんだ、いいんだよ」その言葉を聞いて安堵し笑顔を見せるおすきでしたが、次に政吉から出た言葉に、すぐ消されました。「明日の朝でいいんだ」 「明日の朝で」と違和感を覚えない六助、「うん」と答える政吉。 おすきにいわれ六助「なら、兄貴、・・・今夜は・・・」政吉「うん・・・あの頃もよく、おめえ、俺んちの二階でごろごろ居候していた な」ここで、六助が「俺、居候していたかいな」と考え込むと、政吉が「おい」と。 政吉「てめえ、また忘れたのかい」六助「いや、そんなもん忘れてへんで」政吉「うん・・・えれえ」六助「おおきに」 政吉「だいぶ長かったなあ」六助「そやったかなあ」政吉「どのくらいいたかなあ・・・30年ぐれえかな」六助「30年」政吉「うん」 それを聞いたおすきは六助に向かって指3本を見せ、おすき「ちょっとお前さん、30年よ」そういわれた六助が、六助「あっ、そりゃ兄貴あかんわ」政吉「えぇっ」六助「わしまだ26やで」政吉「26か、あっは、それじゃあなにかい、おめえでも、年は順々に取るのかい」ぬけ六でも年は順々に取るというと、政吉「あっはっは、なーに、お前のこったからな、貧乏で越せねえ年がかなりあっ たろうと思ってよ」というと、六助はどうしようもないですねえ、政吉に乗せられ、「そういわれてみると、そういう年がおおかった、してみると、わしは40かいなあ」と。聞いていたおすきは六助の馬鹿さ加減に呆れて、「阿保」と突き飛ばし怒って奥へ行ってしまいます。その様子を面白そうに笑っている政吉です。 続きます。
2023年06月16日
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久しぶりだなあ「ちとやそっとの御意見なんぞで、酒やめられましょか、ときやがら」といい機嫌で歌いながら飲んでいる政吉に、「こらあ」という六助に、「おっ、お帰り」といい動じない政吉です。 「どこの馬の骨か知らんけど、人の留守に上りこみやがって、飲み食いさらすとはむちゃくちゃやないけ。この俺を誰だとおもてけつかんねん」と六助がまくしたてるのを、酒を飲みながら聞いていた政吉が、「待て」と制すと、六助の方にさっと向きを変えると、 政吉「おうっ、六、・・六助じぁねえか」そういわれ呆気にとられた六助は、おすきが「お前さん」というと、心安くいわないでくれと政吉にいい返します。 政吉「だって、おめえ、六だろう」そして、少し強めの口調で政吉「松原の六助だろうが」と相手をのみ込んでいきます。そういわれた六助は「うん、そやがな」と返事をすると、政吉「あぁ、久しぶりだなあ、まあ、上がんな」と自分のペースにもっていきます。 政吉にいわれ素直に上がろうとする六助はおすきに止められると、自分は六助だが、「お前はいったい誰なのだ」と聞き返すと政吉「おい、六。おめえ、兄弟分の俺を忘れたのか」六助「えっ、兄弟分」 政吉「おう(強い調子で)六、・・・(悲しそうに)六・・・六・・・六よう、え、 おい、兄弟分の俺を忘れるなんて、そりゃあ、あんまりつれなかろおぜ」政吉にいわれていることがさっぱりわからないというような六助だが、ここからの政吉の真に迫った芝居に乗せられてしまうのです。 続きます。
2023年06月05日
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政吉無銭飲食?か《ここからは”風来坊政吉の無銭飲食?”場面に入ってゆきます》すっかり上がり込んだ政吉はお銚子のお燗をつけ過ぎ「あちちちちっ、おっ、あちいっ」と・・・「せっかくの酒が、つき過ぎて台無しじゃねえか。・・酒ってものはなあ、お燗の加減が一番大切なんだがな・・・へ」といいながら、ご馳走をかぶせてある布をとり、箸を持ち醤油にワサビを入れ、刺身に手をつけようとしています。 刺身に箸を持っていくと、「一つぐらいいいだろう」と口にひょいと刺身を入れたのはよいのだが、ワサビが効き過ぎで「あああっ」といいながらお銚子に手を伸ばします。そして、お猪口で一杯飲んだ政吉は、「あああっ、・・こいつはワサビが効きやがるぜ、こりゃあ」・・「はあーあ、うめぇ」と。 こうして、すっかり落ち着いてしまった政吉、刺身をさかなに酒がすすみます。いい気分になったところで、「あれっ」と気がついたのです。「こいつはいけねえや。いつの間にか、一皿なくなっちまったぜ、こらあ」皿を持って困ったかなあと思いきや、妙案が浮かんだのです。「よしきた、それじゃ、これをこうやってと、へっ、これだったら、わかるめえ、あはっは」 隣家のおかみさんが、家の中の様子をうかがっているのを分かっている政吉、でも気にしません。 「ひ―ふーみーよー、(もう一つの皿を見て)ひーふーみーよ―・・・いつ切れか。・・四切れと五切れじゃ、こいつは不公平だな。一つ食ってやらなきゃ、あとでもめるぞお」外で様子をうかがっているおかみさんに聞こえるような素振をします。 そして、悪気もなく食べ続けるのです。「では、・・・ごちそうさま・・・いただきます」 六助とおすきが帰ってきたので、さっそく隣家のおかみさんが知らせます。六助が慌てて行き、玄関格子から中の様子を見ています。六助が帰って来て見ているのを分かって、より以上にふてぶてしくなっていきます。(政吉にして見れば「おっ、六助の野郎帰って来たな、よし」というところかな?) この後、六助の家では何事かがおきるのでしょうか。政吉は六助が清水一家の者と分かってやっているようにも思えますが・・・どうなるのでしょう。 続きます。
2023年05月27日
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政吉は豪雨のなかを清水の町に駆け込んできて、ある長屋の入口の軒下で雨宿りをしています。政吉「清水港ってとこは天気まで意地悪く出来てやがるぜ」そういって濡れた着物を拭いていると、長屋の奥の方で「あら、おすきさん」と呼ぶ声の方に政吉がひきつけられます。 真向いの家のおかみさんが、おすきに雨の中何処へ出かけるのか聞いています。この雨で主人の六助が帰るのに困っているだろうから、むかえに行くところだと小走りに走って行きます。 政吉はおすきが出て来た家の前に行き、何となく格子越しに家の中に目をやると、ちゃぶ台には夕餉の支度がしてあり、晩酌用のお銚子まで用意してある。お腹の空いている政吉には目の毒・・「ああっ・・」と唾をのんでしまいます。政吉「ちきしょう、世間さまは夕飯時ときやがる、・・・」さっきから隣家のおかみさんが政吉の様子を見ていますので、何気ないふりをし表札をながめ、政吉「松原の六助・・」何か納得したように頷くと、さっきから末吉の様子を見ている隣家のおかみさんに「留守ですかい?」・・・そうだと聞くと、「何処へいったんです?」・・・清水の親分の家にという返事に、「あぁあぁああっ」と。そして、あのご馳走、猫にでも食われたらどうする、といわれたおかみさんは呆れて家に入ってしまいます。 すると、政吉は六助の家の方に動きながら、こういいます。政吉「おれ、きっと猫に食われると思うがなあ・・・もったいねえなあ」 政吉「食われても、おらぁ知らねえよ」といい、玄関を開けると、それからが大へんなお芝居?が・・ 政吉「あっ、いけねえいけねえ、シーシーシーシー、この泥棒猫め、シーシー シー」と大騒ぎ。隣家のおかみさんもびっくりしてしまいます。 そのころ、六助は迎えに来たおすきと仲良く帰ろうとしていました。 続きます。
2023年05月16日
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旅の風来坊この作品は、1939年(昭和14年)にこの作品の監督でもあるマキノ雅弘監督が片岡千恵蔵さん主演で、好評を博し大当たりをとった「清水港」の再映画化です。作品の内容は、勤王、佐幕に日本中が大きく割れた幕末のころ、各地に大きな勢力を持っていたやくざの動向が、勤王、佐幕の争いにも大きくものをいったため、日本一の大親分として清水港に勢力をほこっていた清水の次郎長の動向を探るため、風来坊の政吉と名乗って一家にもぐりこんだ軽妙洒脱な一人の勤皇の志士の挙動を、面白おかしく描いたものです。「清水港」で好評を博した実績があり、軽妙洒脱な人物を描いては右に出るものはないといわれるマキノ雅弘監督が橋蔵さんのユーモラスな一面をどのように引出してみせるのか楽しみになります。主演の橋蔵さんも、劇全体の90%は徹底した三枚目の演技という新しいジャンルにいどんだ作品です。「前に片岡先生が一度演られ、非常に評判をよんだ作品だったそうですが、残念ながら私はこの作品を見ておりません。だから、前の作品にとらわれることなく、私は私なりの二枚目半演技に撤したいと思っています。とにかく、こんなに徹底した二枚目半役はほんとに初めてで、いささか演技面で苦心をしていますが、出来るだけ不自然な芝居をさけ、自然な笑いをさそうような作品に仕上げたいと思っています」と、二枚目半の新境地に橋蔵さんも激しい意欲をもやしていました。◆第65作品 1960年7月31日封切 「清水港に来た男」 政吉 大川橋蔵お雪 丘さとみおすき 青山京子お蝶 喜多川千鶴お袖 小暮実千代熊造 堺俊二小松村の七五郎 加賀邦男鳶の山の為五郎 阿部九州男伝助 杉狂児七助 本郷秀雄角太郎 徳大寺伸六助 田中春男小政 石井一雄大政 中村時之介隣家のお内儀 赤木春恵為五郎の用心棒 楠本健二清水次郎長 大河内傅次郎侍 進藤英太郎清水港にやって来た政吉という風来坊は、突然の雨に降られ、とある家の軒先へと逃げ込みます。その家は清水一家の六助の家でした。覗き込んだ家の中には、ご馳走が・・・さしみにお銚子がついた膳が置かれてありました。お腹の減っていた政吉は我慢できずに家の中へ引き込まれてしまいます。家主の六助とその女房おすきが帰ってくると酒に酔って上機嫌になっています。口のうまい政吉を、六助はすっかり友達と勘違いしてしまいます。二人はたちまち意気投合し、政吉は居候を決め込もうとしますが、それが元で、六助は女房のおすきと大喧嘩に。六助と政吉は家を追い出され、次郎長一家の三下として住み込むことになるのです。始まりは茶摘み女たちが茶を摘んでいる茶畑とくっきりと浮かびあがった富士山が映し出され、ちゃっきり節が流れてきます。茶摘み女たちの唄う・・花は橘、花は橘・・そこへ合いの手を入れながらやって来た旅の風来坊、いかにも疲れたという足どりでふらふらっと茶畑を見ながら歩いていきます。・・・蛙が鳴くんで 雨ずらよ・・・という茶摘み女たちの歌声に誘われるように空を見上げます。 政吉「何が雨ずらよでい、この通りきれいさっぱりと、雲のかけら一つねえ空っぽ の空じゃねえか。まるで、おれの胃袋みてえなもんだ、くそ面白くもねえ」 茶摘み女たちの歌は続きます。・・・ちゃっきりちゃっきりな・・政吉もチリチリチリチリチリツンツン、テーントテンテン、トントンとくりゃと合いの手を入れながら・・・よほどお腹が空いているようです。 ・・・蛙が鳴くんで、雨ずらよ・・また空を見上げたとき、雷が響き雲行きが怪しくなったと思うと豪雨ななりました。「あっ、いけねえ」政吉は急ぎます。 続きます。
2023年05月09日
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暖簾をくぐって誰もいない土間に立った半次郎は、仏壇に目をやるとまっしぐらにその前に行き足を止めます。 おとくが二十数年間、新太郎の帰りを待ちつづけているかげ膳を見たとき、半次郎は堰をきったようにその思いを言葉に出します。 半次郎「おっかさん、あっしはこれで、本望にござんす」 そのとき、半次郎は、誰かがいる気配を感じます。 そう、中富とおこよが来ていて一部始終を見ていたのです。今自分がしていたことをみとられまいと、その場を急いで立ち去ろうとする半次郎に、中富が話しかけます。中富 「そうだったのかあ、何もかも俺には読めたよ」 半次郎「へっ、勝手な推量おきなせい。あっしは、凶状旅のしがねえ渡り鳥だ」と捨て台詞を言い行こうとしたところに、中富が半次郎に「相手ははっている、お主一人では危ない」といいます。 待ち伏せているところへ合羽を着て笠で顔を隠した中富が「浜津賀の権兵衛だ」と名乗り、伊之助の呼子で集まってきたのをひきつけている間に、半次郎はおとくとおけいを助けに安五郎の家を目指し走ります。安五郎一家に入った半次郎は、「誰だ」と問われ、半次郎「上州草間の生まれ、半次郎でござんす。推参のしでえは、こちらの親分さ んがご承知のはず、ご免なすって」そういって入って行こうとしたとき、「待ちやがれ」で立廻りとなります。 安五郎や源右衛門がいる部屋までやってきましたが、二人の姿が見えません。何処かと見回すと、おとくが牢に入れられているのが分かりました。 斬りながら半次郎は牢の方へ向かいます。思わず「おっかさん」と・・・いったんは土蔵の前まで行けたのですが、斬りかかって来る刃に遠ざかり近づくことができません。「おふくろさん、おけいさんは・・・」「源右衛門の家に」。 そのとき、駆けつけた中富に、土蔵に入れられているおふくろさんを頼み、おけいを助けに走るのです。中富は安五郎を斬り、おとくを無事に助け出します。半次郎のことが気にかかっているおとくに、「権兵衛はな、お主の供えたかげ膳を見ていった、”おっかさん”と」と、中富がいいます。源右衛門の家に向かっておけいを乗せた駕籠に、半次郎が追いつきます。 逃げる源右衛門と伊之助を斬り、半次郎は駕篭に近づき垂れをあげます。 そして、半次郎はおけいにいうのです。半次郎「もし、おけいさん、・・・仔細あってあっしは縄を解かねえ。猿ぐつわも そのままにしますが、これを・・・(半次郎は涙を流して)・・・これをご 覧なせえ・・・(といい、左二の腕にある三つのほくろを見せます)」 半次郎「・・・だがあっしは、平田屋の新太郎じゃねえ、・・・浜津賀から見た海 の眺め、・・・あの砂浜の砂の手触り、おぼろにそれと思いがあっても、 やっぱりあっしは、義理の父つぁんがいったように、上州草間の生まれの 半次郎だ。・・・二度とお目にはかかりやせん」涙を浮かべはげしく首を横にふるおけい。そのとき、遠くに「権兵衛」とよぶ中富の声がしたので、「それじゃ、これで」と行こうとしましたが、振り向き 半次郎「おふくろさん共々・・・幸せに暮らしなせいよ」といい、駆けていきました。おけいが、おとくに「あの方の左の腕には、三つのほくろが」というと、おとくは「それじゃあ、やっぱり・・・」と、呆然と半次郎が行ってしまった方を見つめます。おけいは「新太郎さーん」と必死に呼び追いかけます。「新太郎、新太郎~」と叫ぶおとくに、中富は「無駄なことだ。いくら追いかけて見たところで、所詮は帰らぬ渡り鳥だ」と言い聞かせます。必死に呼ぶ声を遠くに聞きながら、半次郎の姿は消えていきました。 翌朝、浜辺に立った半次郎は、浜津賀での思い出を胸に、渡世人の世界に生きていく覚悟で旅立っていきます。 (完)
2023年01月20日
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この浜津賀を守るんだ安五郎は、村の人達の米を買いに出かけた多吉と彦兵衛の帰りを待ち伏せして捕えます。多吉の帰りが遅いので、おとくは分家の彦兵衛は帰っているか確かめにおけいをやります。おけいは、彦兵衛も帰ってはいないことを確かめ帰ろうとしたとき、ひとりでいる半次郎を見て、どうしたのか?何かあったのか?と声をかけます。すると、半次郎は、涙顔で振り返ると、半次郎「おけいさん・・・」と涙声でいうと、しばらく何も言えずおけいの顔を見て、 半次郎「並の、並の人間だったら、一生に一度あるかねえかの身の幸せ、・・・思 うようにいかねえのが人の世の常だ。・・・けえったら、けえったら、お ふくろさんに言っておくんなせい・・・権兵衛は、所詮、堅気にゃなれね え男。・・・銚子陣屋の、陣屋の役人を・・・手にかけた凶状持ちでござ んすと」 おけいは驚きますが、そのあと半次郎の様子を覗きこむように見ると、泣いてその場を去っていきます。 安五郎は、伊之助半次郎を捕まえるために、彦兵衛をおとりにおとくを呼び出し、おけいも人質にしたのです。そのころ、彦兵衛と多吉は分家に急ぎます。二人のただ事ならぬ声に、半次郎と中富、そして若い衆達もやってきます。ご本家とおけいが安五郎達の手に・・・と聞き、長五郎の「支度をしろい」で血気にはやる若い衆達を、「ならねえ」と半次郎が押しとどめます。 半次郎「相手が狙っているのはこの俺だ。結んだ縁も今限り、おめえ達は堅気にけ えって末永く、この浜津賀を守るんだ」「ですが・・・」という長太郎に、半次郎「うるせえ、今の言葉にそむく奴はただおかねえから、そう思え」長太郎達が「へーい」と返事をすると、半次郎はさっと身をひるがえします。と、中富が長太郎に耳打ちするのです。 部屋に戻った半次郎は素早く身支度を整えます。 安五郎、源右衛門達は半次郎が今来るか今来るかと網を張っています。仕度が出来た半次郎は、長太郎をはじめ若い衆に、あとを追うようなことはするな、とくぎを刺し、「みんなが力を合わせて、この浜津賀を守るんだ」といい、おこよに「お達者で」と言って出ていきました。おこよは、権兵衛さんが出かけた、と慌てて中富にいうと、中富は「なあに、心配することはない」と。 その半次郎は、行く途中に本家の前を通り過ぎようとしたとき、何故か足が止まり、ふと引かれるように門をくぐり中に入っていきます。その様子を半次郎の後を追ってきた中富とおこよが見ていました。 続きます。
2023年01月14日
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そなたが堅気にさえなってくれれば浜津賀村の海神祭りの日がやってきました。村中に祭り太鼓が響き、みんなが楽しそうに盆踊りに興じています。おこよから面をつけて来ればご本家にも知られない、好きな方をかぶって祭りに来ればよいといわれ、「へえ、もし気が向きましたら・・・」といい、じっと面を見つめる半次郎です。 おこよが祭りに出かけようと外へ出たとき、中富十兵衛が水戸から戻ってきました。中富の顔を見るや、半次郎は中富の素性を、何故浪人なんかになったか、そして若い衆十人を半次郎のところへ送って来た理由を聞きます。・・・親分になれるし、またそのつもりなら、村づくりも出来ると見込んだからだと、中富が半次郎にいいますと、半次郎は神妙な顔になり、中富にいわれたことに動揺を隠せず廊下に出ます。 そのとき、賑やかだった祭り太鼓の音や歌が止んだことに、二人は様子を見に出かけます。 安五郎と平井の源左衛門達がこのときとばかりに、おとくとおけいの二人を襲ったのです。おけいを連れ去り、止めようとしたおとくは気を失います。助けを求め走って来たおこよと二人は出会い現場に着くと、逸る半次郎に中富は、「ここは俺が引き受けた、お主はおけいちゃんを追え」と半次郎にいいます。 おけいを追って行った半次郎が追いつきます。一人を捕まえて安五郎の一家のものかおけいに聞くと、「違う」という。どこの一家の者か口を割らないので半次郎「けえったら親分にいいな、浜津賀の権兵衛、こっちから楯突く気はさらさ らねえが、この上あこぎな真似をしやがると黙っちゃいねえからな、いい か」と啖呵をきると、やくざは逃げ帰っていきます。一部始終を見ていた中富は、おけいと半次郎が歩いてゆくのを見て、「さすがは親分、貫禄だなあ」と。そして、中富の「こんなことなら、本家の後家の介抱をすればよかった」というのを聞いて、半次郎「おふくろさんが・・・」と・・・。 本家に帰ってきたおけいを見て、臥せっていたおとくが誰に助けられたのか聞くと、おけいは入口の方に目をやります。「おふくろさん」とは呼べず心配そうな顔をした半次郎は、ただおとくに悲しい目を見せるのです。おとくもそんな半次郎を見て何故か気持ちが動きます。 子分から権兵衛という男の様子を聞いた源左衛門のところに、目明しの伊之助がやってきます。もしかしたら、権兵衛というのが半次郎では・・・と何とか誘きだす最後の手段にうってでます。平田屋のおとくは、おけいからすべて聞いた、とおこよにいい、「権兵衛殿にあって是非いいたいことがある」と案内を頼みます。分家でのんびりと村づくりの話をしているところへ、おこよが、おとくが来たことを知らせるとふたりは慌てるが、おとくに知られてしまったことを話しているところへ、おとくがやってきます。 中富十兵衛のことはおこよから道々聞いたというと、「権兵衛どの」とおとくが声かけてきたので、半次郎は下を向いたまま「えっ、へい」と返事をします。すると、おとく「そなた、生まれは何処です?」半次郎「上州で」おとく「親御は?」半次郎「とっくに・・・」おとく「亡くなられたのですね」半次郎「・・・へっ」 そう聞いたおとくは、半次郎に折入って頼みがあると切りだします。おとく「今日限り、きっぱりとやくざから足を洗ってください」 おとくは、五つのときに神隠しにあった子供のことを話しだします。陰膳据えて二十年、その子が帰ってくるまでは、それを望みに今日まで生きてきたが、所詮女だけでは村は守れないと知りました。そなたが堅気にさえなってくれれば、おけいの婿にして、平田屋の跡目を・・・、といってきました。 そこまでいってきたおとくに何もいうことが出来ない半次郎は、いてもたってもいられず庭へおります。 その様子をおとくはこのように理解してしまったのです。おとく「この私に、あれほど冷たく扱われては、そなたも腹がたつであろう・・・ 許してください、この通り詫びをいいます」深々と頭を下げるおとくに半次郎「もったいねえ、・・・願ってもねえお話で・・・思わずあっしは涙がでま したが、手前には手前の都合がございやす、・・・どうかしばらく・・・ しばらく考えさしてくだせいやし」そういう半次郎の様子に何かが気になるおとくの表情が印象深いものでした。 続きます。
2023年01月02日
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あのおふくろさんだけは、憎めませんよ翌朝、浜から聞こえてくる掛け声で目が覚めた半次郎は、中富がいないので、朝ご飯を用意しているおこよに訪ねますと、今朝早く行先はいわないで出かけて、海神祭りまでには帰ってくると、それまで半次郎にはここにいるようにいっていったというのです。 そのとき、本家の養女おけいが、浜に出て来なかったおこよの様子を見にやってきましたが、何事もないというので帰って行くときに、何か様子がおかしいようなそぶりを見せました。半次郎は半次郎でおけいが何故か気にかかったようです。おこよが奥に朝食を持ってきたとき、半次郎はおこよに聞くのです。半次郎「あれは、ご本家の実の娘さんで・・・」もらい子だと・・・詳しいことは分からないが、何でも三つのときに水戸からもらわれてきて、手一つで育てられたそうだ・・・と聞かされます。半次郎「じゃ、いずれご養子を迎えて」おこよ「ところが、そうはいかないんですよ。あの子は、死んだ人のお嫁さんなん ですから」半次郎「・・・死人の?」驚いた半次郎に、おこよは村の申合せでこれ以上のことはいえないと口をつぐみます。。 中富十兵衛は水戸へ行っていました。性根の座った若いのを十人ほど貸してほしいと水戸屋清五郎を訪ね、次に叔父の関口弥左衛門を訪ねます。中富は、藩の重役として一筆したためていただきたいとお願いするのです。何のためにと聞かれ、中富 「添え状ですよ、私が水戸屋清五郎から譲り受ける男達のために」というのです。数日後、浜津賀に中富が清五郎から借りた十人の若者が、平田屋分家にやってました。「ごめんなせいまし」の声に奥にいるおこよと半次郎は何事かと・・。 矢切の長太郎が、おこよに挨拶をします。水戸から来た者ですが、中富さんから権兵衛親分の、と話していると、半次郎がゆっくりと障子を開け彼等の前に座り、半次郎「あっしが、その権兵衛だが」というと、十人の若者が次々に挨拶をし、長太郎が「図らずも縁を持ちまして・・」というと、半次郎「よしてくれい、俺は何時何処へ飛ぶか知れねえ旅がらすだ。中富さんの仕 組んだ茶番にのせられるほどの男じゃねえよ」 すると、長太郎が水戸屋の親分から支度金をいただき、お国家老の添え状までいただいていると、半次郎に見せます。半次郎は、添え状を読み納得したようで半次郎「ようし分かった、そういうことなら、中富さんが来るまで、仮の縁を結ぶ ことにするが、その代わり注文がある」その注文というのは・・・ここは昔から堅気一本で来た村だ、喧嘩口論、賭けごと女、これらは一切法度だといいます。 長太郎は了解し、話がまとまったところに、鹿島参拝から帰って来たところにやくざが分家に宿をとったと聞いた本家のおとくが乗り込んでくるというので、半次郎は慌てて身を隠します。 おとくも国家老からの添え状を持つ若者達を追い払うわけにもいかず引き返していきます。おこよが「あれですからね、うっかり顔は出せませんよ」半次郎「だが、いいお人だ。・・・どうもあっしは、あのおふくろさんだけは、憎 めませんよ」おこよは、そんな半次郎の様子に何かを感じとっています。 おとくは、聞こえて来た子供の歌声にひかれるように浜へ行くと、男の子がブランコに乗っていました。その子は矢切の長太郎の息子福松で五才でした。おとくは五才と聞いて、何かを思い出したようです。そして、福松を家に連れて行くと、おけいと新太郎のことを話しています。ちょうど背丈も同じで五才のとき、鹿島様のお祭りの人ごみに・・何処へ消えたか、と新太郎を思い出しているところに、本家に福松がいることを聞いて、長太郎が迎えに来ます。おとくは長太郎に福松を何処でかどわかしてきたかときいてきて、福松の母親のこと、水戸屋に拾われるまでのいきさつを聞いた果てに、幼い時に母に別れるとは不憫な子だ、哀れな子だと、・・・その様子を聞いていた半次郎は半次郎「涙を・・涙を流しなすったんだな」 半次郎はいてもたってもいられず、おこよに村でご法度になっていることを聞きだします。半次郎「おこよさん、言っておくんなせい。おふくろさんは何故初めて会った子供のために涙を・・・」おこよは「それはきっと、身につまされたからでしょう」と半次郎にいい、その訳を話します。・・・一人息子を鹿島様の大祭のときになくしていて、それから二十数年生き死にの分からない今でも、「新太郎はきっと帰って来る」。そのときは、おけいを嫁にして平田屋を継がせるのだと、蔭膳を据えてまっている・・・というのです。年月が経って見込みがないといっても承知しない、だから、村のみんなが口にしたがらない・・・。 すると、おとくの心の中に秘められた悲しみを聞いた半次郎は、心の動揺を隠せないようでした。 急に立ち上がった半次郎に「どうなすったの?」とおこよがいうと、半次郎「いや、なーに、あっしみてえな親なし鳥にゃ、縁遠い話だ。勝手だがやす ませていただきますよ」といい、奥の部屋へと行く普段とは違う半次郎の態度に、おこよと長太郎は不思議そうに顔を見合わせます。 一人になった半次郎に、母へのやるせない思いが込み上げています。 続きます。
2022年12月25日
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出来るよ、あの海に心を惹かれている限りは村から海辺へと歩いてきたとき、ブランコで遊ぶ子供達を見て半次郎の足が止まります。そしてゆっくりと子供達が遊ぶブランコに近づくのです。 見知らぬ人が近寄って来たため帰ってゆく子供達のうしろ姿を半次郎はあたたかい笑顔で見ています。 そして、ポツンとあるブランコに目をやると、子供に返って懐かしいようにぶらんこにかけ揺らすうれしそうな顔の半次郎がそこにありました。 その夜、平田屋の分家に世話になることになった中富が、おこよと村に男が少ないのは三年前の大しけで海にとられたという話をしているところに、入口の戸が開く音が聞こえます。おこよの「どなた?」に、半次郎「ごめんなすって、・・・手前でござんす」その声を聞いた中富が「権兵衛だな」といい、半次郎を呼びます。 境田の安五郎が子分達を連れて分家平田屋に乗り込んでくるという知らせが入ります。奥で呑んでいた二人にも聞こえ、半次郎が立ち上がろうとしたとき、半次郎が顔をだすと面倒なことになるといい、中富は「ここは俺の出番だ」と・・・。 ・・・安五郎が平田屋本家に乗込みます。半次郎を引き渡すようおとくを脅しますが、ここにはいない、浪人と一緒に何処かへ行った、村中探したっていいと、おとくにいわれます。これを機に網元の権利と養女のおけいをとねらっている安五郎だが、おとくの強気の応対に退散します。その様子を偵察していた中富を、つけてきた半次郎です。 中富 「なーんだ、やっぱり来ていたのか」半次郎「おめえさんの手の内を分かってりゃ、来るにはおよばなかったぜ・・」中富 「こいつ・・・はっはっは」歩きながら、中富がこんなことを言い始めます。中富 「しかしなんだなあ、どう考えても、この村には一ついるものがあるな」半次郎「ええっ?」中富「男だよ」半次郎「男?」本家平田屋のおとくはしっかり者だが、何といっても女だ、安五郎達には勝てない。いずれは、この村の女達が、とんだ災難をこうむることになる、・・・と中富は言います。 中富 「権兵衛、・・・どうだ、・・・おぬし、ひとつ・・・」と言ったところで、半次郎が遮ります。半次郎「よしておくんなせい。あっしは、そんな・・・」中富 「なーに、出来るよ。・・・うっふっふっふ、おぬしが、あの海に心を惹か れている限りはな」ズバリと半次郎の心の奥を見抜いていいきる中富の言葉に、半次郎はドキッとして立止まります。 続きます。
2022年12月17日
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「たしかに・・・どっかで・・・」どうせ畳じゃ死ねないからだ 縁と命があったなら 利根の流れにやくざの染みを 荒い落して会いにくる 半次郎が、足の向くまま、気の向くまま、足をはこんだ先は、鹿島灘の海辺でした。岡っ引きの伊之助は下っぴきを連れて平井の源右衛門を訪ねていました。伊之助は草間の半次郎というやくざが戸山三十郎を斬って、鹿島の方へ来ているのではと、飯岡の息がかかった源右衛門を訪ねて来たのです。源右衛門は境田の安五郎に知らせます。鹿島の海を見つめ、何か思い出すことがあったのでしょうか。遠い日の記憶をたどるようにしている半次郎です。 半次郎「たしかに・・・どっかで・・・」そのとき、背後から浪人が笑いながら半次郎に近寄って来て声をかけてきます。浪人 「何を思い出しているんだ」 浪人「幾千年の昔から、鹿島の海は鹿島の海だ。他にこの眺めがあろうはずはな い」 その言葉に、心の中を見透かされたようで、ムカッときた半次郎が身をひるがえしたとき、浪人が「血だ」といいます。 その言葉に、半次郎が立止まると浪人 「はしおったおぬしの着物の裏に、血がついておる」半次郎が、慌てどこに血がついているのか見ていますと、浪人 「あはっはっは、案外正直ものだな。いまの素振りで、最近おぬしが人を斬 ったことがわかったぞ」 その言葉に、半次郎が身構えると、浪人 「おお、やる気か。おぬしの根性なら、ひょっとするとこっちがやられるか もしれん。ものは試しだ抜いてみろ」そこまでいわれては半次郎も相手にはしません。半次郎「へっへっへっ、馬鹿に付ける薬はあっても、気触れに付ける薬はねえぜ」 そう言い、半次郎は浪人を相手にせず立ち去り、海辺の砂に懐かしさを思っていたところへ、浪人がまたやってきます。「こんどは砂か、いつか何処かでつかんだ砂か」と、つきまとう浪人に半次郎は「うるせえ」と言い残し歩いて行くと、やくざ達が嫌がる娘を連れて行く光景を目にします。 続きます。
2022年11月30日
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足の向くまま気の向くまま大喧嘩の場から怪我をしている弥市を連れ逃げてきた半次郎が竿を操り進んでいく舟が向かった先は、弥市のたった一人で横瀬にいるおふくろさんのところでした。家の戸を何回か叩くと、中からおふくろさんの声がします。 お倉 「どなたじゃ」半次郎「へっ、弥市さんにゆかりのあるもんで・・・」お倉は急いで戸を開けに行き、二人を急いで中にいれます。それをたまたま通りかかった作右衛門が見ていたのです。 翌朝、納屋にかくまい周りを注意しながらよくしてくれるお倉を見ていて、半次郎の心は複雑でした。 半次郎「おふくろさんていうのは、ありがていもんだ」弥市 「まったくだよ、こんどけえって、初めて俺も身に沁みたんだが・・・兄貴 は、おふくろはねえのかい」半次郎「ああ、ねえよ。物ごころついたときには、父つぁんと二人きり、後でわか ったことだが、高町の渡り者だった父つぁんも、ほんとの親じゃなかった よ」 弥市 「じゃ、おふくろの顔に、見覚えはねえんだね」と聞かれた半次郎は深く息を吐くように「うーん」というと立ち上がると、 弥市に半次郎が心の奥深くに思っていることをちらっと打ち明けます。半次郎「霧の向こうを透かすように、おぼろに浮かぶ顔はあるが・・・・」とまでいうと、 半次郎「まッ、そんな話はともかくとして、あれから10日、おめえの怪我の目途も ついた、・・・俺は今夜、草鞋を履くぜ」弥市がびっくりします。その頃、笹川一家を根絶やしにしょうと、逃げのびた者にも必要な追手が向けられていました。ある日、薬売りに変装した岡っ引きの伊之助が横瀬に現われ、出会った作右衛門に、笹川一家と飯岡一家のもめごとがあり、笹川の者が川筋の方へにげたという話をすると、作右衛門は弥市の姿を見かけたため、つい「弥市も」と口に出してしまい、その夜、奉行所の手がまわります。その頃、弥市の家の納屋では、半次郎が旅に出る支度をしている最中でした。弥市が「どうでも行くのか」と思い止まってほしいと思っているのですが、半次郎「行くともよ、言い出したらあとへ引く俺じゃねえぜ」「棒組の俺を身捨てて」と弥市が言ったときに、半次郎は外の様子がおかしいことに気づきます。 半次郎の読みの通り・・・伊之助が奉行所の戸山三十郎を連れて弥市の母屋の戸を叩きます。その音を聞き、納屋にいる半次郎と弥市も動きます。 家に踏み込んだ戸山と伊之助はお倉に問いただしますが、らちがあかないので、そこいらじゅう家探しをはじめます。伊之介が納屋に目をつけました。灯りを消し、物陰に潜む二人、戸が開けられ伊之助はちらっと見る程度て、捨て台詞をいって出ていきます。 「己のおふくろが、攻めにかけられて死んだときは、ちっとは思い知るだろうぜ」半次郎は弥市を見ます。お倉が連れて行かれる声が聞こえてきて、弥市が動こうとしたのを見た半次郎は、半次郎「よしな。その身体じゃ、親子諸共縄目にかかるのが落ちだろうぜ」 お倉が引っ張られるのを見ていた半次郎の気持ちが動きます。 中にいる弥市にこういいます。半次郎「言っとくが横瀬の、上手くことが運んだら、今夜のうちにおふくろさん 共々、江戸を目指して深川町の相模屋さんを頼んな、そすればきっと力 になっておくんなさるはずだ。堅気にけえって、おふくろさんに・・・ 孝行しなよ」というと、弥市のおふくろさんを助けるために飛び出していきます。 「おい、待て、待ちやがれ」と追いついた半次郎に、お倉が「草間のおひと」と声をかけます。草間と聞いて、戸山が半次郎だなといってくると、半次郎「その辺のところは、お察しに任せますが、罪もねえお年寄りをしょっ引く とは、慈悲のねえお仕打ち」戸山三十郎が捕えるように捕り手達に声をかけます。(立廻りになります・・・ここでの立廻りに描写を遠くから撮っている珍しい方法もみられます)半次郎が戸山三十郎を斬ると、伊之助達は逃げ去ります。 お倉が縛られたいた縄を切った半次郎は、半次郎「さあ早く・・・弥市が旅の支度をして待っているはずですぜ」お倉が「お前さまは・・・」と聞かれた半次郎・・・・。 半次郎「足の向くまま気の向くまま、ご心配にはおよびませんや」そういうと、足早に発ってゆくのです。 母と子の固い絆に胸の熱くなるのを感じ、霧の向こうにボヤッと母の面影を想い出した半次郎が、次に草鞋を脱ぐところは何処なのでしょう。 続きます。
2022年11月20日
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親不孝の泣きごとを言ってから死にやがれ草間の半次郎シリーズ最後の作品第4弾になります。義理と人情の男の世界、やむにやまれず人を斬る、股旅がらすの草間の半次郎。久しぶりに演じた橋蔵さんは、哀愁と悲愴な美しさをみせて、見事なやくざ剣法を見せてくれました。20数年ぶりに故郷鹿島に戻った半次郎が瞼の母と許婚の幸福を守るため、土地のヤクザをたたき斬る股旅慕情篇です。 旅烏の草間の半次郎は、義理のために人を斬って逃れて来たのは鹿島路は浜津賀でした。その鹿島灘の雄大な風景は、半次郎に何故か幼い頃の記憶を呼び覚ますのでした。その土地のやくざ安五郎は半次郎を探す一方で、大しけで働き手の男達を失った村の娘達を売り飛ばそうとしていました。半次郎がさらわれようとした娘を救うが、網元平田屋の女主人おとくは大のやくざ嫌いのため、半次郎を村から追い出そうとします。半次郎は村を去ろうと決めたのですが、不思議な浪人の予言を聞き、平田屋の分家の家に留まっていたが、安五郎が平田屋に乗り込み半次郎の引き渡せとおとくを脅しにかかります。あるとき、網元平田屋の女主人が自分の本当の母親と知った半次郎は・・・。◆第63作品目 1960年5月29日封切 「草間の半次郎 霧の中の渡り鳥」 草間の半次郎 大川橋蔵おとく 山田五十鈴横瀬の弥市 伏見扇太郎おこよ 喜多川千鶴おけい 大川恵子伊之助 原建策飯岡の助五郎 岡譲司平手造酒 須賀不二男矢切の長太郎 田中春男伝八 清川荘司洲崎の政吉 時田一男作右衛門 水野浩柿崎の荒五郎 波多野博中富十兵衛 月形龍之介境田の安五郎 進藤英太郎三波春夫さん歌う主題歌「霧の中の渡り鳥」と共に配役が流れます。親も知らなきゃ ねぐらも持たぬ 生まれながらのやくざ者 夕べ筑波の麓で泣いて 今宵大利根の霧に泣くそして、画面は利根川を笹川一家の三艘の舟が飯岡一家との対決に向かって行くところから始まります。そのうちの一艘では、平手造酒に助っ人の一人横瀬の弥市が飯岡との決戦をどのようにするのか聞いている後ろで、横瀬の弥市の相棒というやくざは寝息をたて寝ています。平手もその度胸に苦笑い。弥市が相棒を起こします。「草間の・・・」と起こされた男は、「ううーん、着いたのかい」と言い目を覚ましました。 弥市が平手造酒がその度胸をほめていると伝えると「ほう・・」そこへ平手が徳利を差し出し平手 「あははははっ、どうだ、眠気覚ましに一杯やらんか」半次郎「いえ、あっしは、とんだ不調法でして」平手 「さようか、ならばすすめまい」 そんなやり取りがあり、利根川を進んでいた舟から見えた部落を見て、弥市が呟きます。弥市 「ああ、横瀬だ」半次郎は弥市を見て半次郎「横瀬?」 弥市が生まれ故郷だといいます。半次郎「すると、あそこに、二親さんが」今は、おふくろさんだけと弥市がいいます。半次郎「そうかい、そいつは知らなかったぜ」 そうこうしていると、目的地につきます。一宿一飯の掟に従い、大利根川での大決斗。待ちかまえていた飯岡一家を前にしたとき、草間の半次郎は笹川の繁蔵の前に出ると、半次郎「へっ、草間の半次郎、一宿一飯の縁の従いまして、一番がけをさしていた だきます、ご免なすって」そう言って飯岡一家の方へ駆けていく半次郎。弥市も半次郎を追っていきます。 半次郎が斬っていくと、双方の乱れての大喧嘩になります。しかし、少し経ったところで飯岡の助五郎が「引けえ」と言う声で飯岡一家が引き揚げていくのです。斬り合っていた半次郎も、笹川の繁蔵達も何が起きたのだろうと面食らっていると、飯岡一家が引いたそこには、助五郎が手を回しておいた代官所の御用提灯が待っていました。飯岡助五郎の奸計にかかったのです。 笹川の繁蔵の「逃げろ、散れ」で、半次郎も逃げようとしているとき、草むらに負傷した弥市が倒れているのに気づきます。「弥市・・・」 半次郎「おい、弥市、しっかりしろい・・・。俺だ、俺だぜー・・」 弥市が「あっ、草間の・・」と気がつき半次郎「傷は浅い、さっ、早く」と言い、辺りの様子を伺い弥市を起こそうとしますと、弥市は半次郎に、弥市 「俺はもうだめだ。・・・兄貴の、兄貴の足手まといになりたくは ねえ。すっぱりと止めをさして・・・」半次郎「馬鹿いえ、川向こうの横瀬には、おふくろさんがいなさるんでい」というと、弥市を抱え起こし、半次郎「死ぬなら、親不孝の泣きごとを言ってから死にやがれ、ちきしょう」半次郎は傷ついた弥市をかかえながら、捨てゼリフのように言い放つのです。 続きます。
2022年11月13日
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つかの間の幸せに向かって「野郎、ふざけやがって、てめえいったい何処の誰だい」という桝安に、次郎吉「おらか、おらあ、おめえ、ほれ、天井裏でよう、がさがさがさが さ・・・」 桝安 「あっ、・・鼠」といい十手を向けますと、次郎吉は次郎吉「そうよ!」というと、屋根へ飛び乗り、スガメを外すと、次郎吉「その鼠小僧次郎吉だい」 子分達が騒ぎ出したのを見て次郎吉は、次郎吉「おおおおっ、そうびっくりすんねい」というと、着ていたボロ着を脱ぎ、屋根に座り込み話しだします。次郎吉「友達に金を持たしてやったが、虫が報せ一足遅れに来てみりゃこのざま だ。・・・おい桝安、女二人友達一人、この鼠小僧の捕物に何の関わり もねえ人々だ。確かに俺が逃がしてやった、文句あるけいっ」 「なんだとう」水をかけようとしたり、竹の六尺棒を持ち騒ぐ子分達を見降ろし、「やかましいやい」と言い放ち、「もう一つだ」と続けます。 次郎吉「てめえみてえな、きてねえ野郎に、鼠小僧、死んでも御用弁にはならねえ よ」屋根に上って来た子分達や梯子を使って上って来る子分達を払いのけ、人殺しはでえきれいだ、・・・とすて台詞を残すと、屋根づたいに走り部屋へ下りるや大乱闘になります。 皆が次郎吉にかかっている間に、権達は桝安の家から逃げることが出来ました。次郎吉の大立廻りが続きます。そして、桝安親分を切ると逃げていきます。 林の中で先に逃げた三人が次郎吉の来るのを待っています。暗闇に疲れきった次郎吉の姿を見るや、おたかが、「兄やん」とかけより、次郎吉も「おたか」と、二人は涙を流し抱き合います。次郎吉「おたか、勘弁してくれ・・・」 その様子を複雑な気持ちで見ていた文字春に気が付いた次郎吉が次郎吉「師匠、おめえにおれは、何と言ったら・・・」文字春「次郎さん、およしよ、今さら」といい、次郎吉が固く握っている長脇差を手から離そうとしますが無理、権が手伝いやっと次郎吉の手から離すことが出来ました。 次郎吉が、「おたか、師匠、権三」と言うと、次郎吉「三人とも、今日限り、俺と他人になってくれ。・・・俺は天下のお尋ね 者、今は人まで殺めた凶状持ちだい。・・・なあ、おたか、俺のことは きっぱり忘れ、権三や師匠と一緒に、おめえだけの幸せを掴んでくれ、 それがせめてもの俺の・・」すると、おたかが「違う、兄やん、違う・・・これを見て・・」と言い、懐から次郎吉が買ってくれた簪を見せるのです。 あの時の楽しい思い出が、嬉しいことがあったと思えるだけで、今日まで死なずに生きて来られのに、兄やんを忘れろっていうのは死ねということと同じだ、とおたかが泣きながら次郎吉に訴えます。黙って聞いていた文字春がおたかの気持ちを考え動きます。文字春「次郎さん、少しは女心が分かったかい。・・分かったらお前さんが年貢を 納めるその日まで、三年、三月、例え三日でもいいやね、おたかさんの思 いを遂げさしておやり。次郎さん、それでこそ男だよ・・・」文字春にいわれ、次郎吉は考えを改め次郎吉「よし、分かった」というと、おたかの顔も明るくなり、次郎吉にも笑顔が見えます。 文字春と権に見送られて、二人はつかの間の幸せに向かって行くのでした。 (終)
2022年06月03日
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新田村の太朗右衛門ちゅう者だでその田舎やくざは、桝安一家の前に立つと、おもむろに笠をとり、合羽を取り、びっこを引きながら桝安一家に入って行きます。 どこからやって来たのでしょう。着ている物はボロボロ、片足びっこを引き、すがめで、田舎弁丸出しです。「ちょっくらご免くだせ」子分の長吉が出迎えます。「旅の、へい、者だでよ。おたのもうしますだ」「客人、お固くなくおらくに・・・」と言われ、「ほいじゃなあ、御免こうむって」というと、長脇差を後ろにまわし仁義を切りはじめます。 田舎やくざが「お引けえなせ」長吉がそれに対し「お引けいなせ」田舎やくざが「お引けえなせ」長吉が「お引けいなせ」と返すと「やだあ、仁義にならねえだで、まずあんさんからお引けえなせ」と言われ長吉が逆いながら控えさせていただくといいますと、田舎やくざは、「それじゃあご苦労さんでござんすが、おらあ、信州新田村から来たたで、渡世につきやしては・・・新田村の太朗右衛門ちゅう者だで」(おや?この田舎やくざは、次郎吉ではありませんか。なんという変装でしょう) 桝安はじめ、鼠小僧は捕まえたも同じと祝いに来ていた親分衆も、新田村の太朗右衛門の名は聞いたことがないので、草鞋銭でもやって帰しちまいという桝安でしたが、一宿一飯でおいて危ない仕事をさせたらという言葉に乗り、燗冷ましの酒でもやって泊めておくことにします。塩をさかなにかん酒を飲みながら、時々鋭い視線で辺りを見ていると、長吉が今日は忙しいから早めに風呂へ入って寝てくれといってきます。うんと賑やかだが、どなたかのお通夜かお葬式でもあるのか、と聞く次郎吉に、長吉が逆だよと言い行ってしまうと、次郎吉は風呂に入れさせてもらうか、といい裏庭の方へ出ていきます。 裏庭には権、文字春、おたかが押し込められている納屋の見張りの子分がいます。子分は納屋の方に歩いて行く次郎吉を止めようとしているようです。長吉と湊屋の女将が話があるようで裏庭に出て行くと、見張りの様子がおかしいと近づいてみると、二人の子分は死んでいました。長吉は納屋の中が心配になり開けてみると、三人の姿はなく、奥から光るものが見え、慌てて外へ飛び出し、「親分・・・咎人が逃げたぞー」次郎吉に抑えた長吉が必死に叫びます「親分・・」 子分達が次郎吉を取り囲まれます。「御用だ」 続きます。
2022年05月28日
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田舎やくざ場所は、江戸から遠く離れた港町になります。湊屋の二階に文字春の姿があります。文字春はおたかを探すためにこの茶屋で女郎に身を落していました。女衒がどこへ住み替えさしてもお客をとらなく、困ったあげく連れて来られた女を連れてきています。この時、客と一緒に二階から降りて出かけて行った文字春は、おたかが来ているとは気が付いていなかったのです。文字春が帰ってくると、お客だといわれ部屋の障子を開けると、権が来ていたのです。久しぶりの再会です。文字春がおたかのことで来たのかと聞きますと、権はそうではないがいい話だと言い、文字春の前に三十両の小判を置きます。「何だいこれ?」といぶかし気な顔をする文字春に「師匠の身代金だよ、・・・誰がくれたと思う・・・次郎公だよ」と権が言うと、「ほんとうかい」と文字春は三十両の小判をかかえはしゃいだが、急に静かになり文字春「権ちゃん、・・折角だけど受け取れないよ。・・・もし、おたかさんが見 つかってごらん、このぐらいの金すぐにだって」それを聞いた権は、周りに用心しながら、権 「今の次郎公なら、・・・百や二百の小判は右から左だよ」文字春が、次郎吉がいくら博打が強いからといったってと沈んでいるところへ、権 「師匠、江戸で評判の鼠小僧の話聞いたろ」それがどうしたという文字春に、権 「へっへっへ、鼠小僧の名前なんてったっけなあ」文字春「鼠小僧の次郎吉じゃん」そう言った文字春がびっくりしたように、権に「まさか・・」と言い寄ります。権 「そのまさかなんだよお。さすがの俺もね、当人の口からいわれるまで、考 えもしなかったよお」そのとき「あの、すいません」と女の声がして障子が開き、酒を持ってきた女の顔を二人は見て「おたかさん」と声をかけます。湊屋の玄関先には、女将がおたかを身売りさせようとしている十手を持った二足草鞋の桝安親分がやって来ました。おたかを呼びに文字春のいる部屋を開けた女将に、権が「急な話だが、この二人は俺が身請けする」と言い三十両を見せますが、女将は動ぜずお金さえいただければと言いたいところだが、おたかには大事なお客様がいるのだからそうはいかないと、「それともこの上に百両積んでくれますか」といい、権の様子を見て、二人だなんて無理はおっしゃらないでとおたかを連れて行こうとしたので、頭に来た権は文字春が止めるのを振り切り、「見そこなうねえ。・・・俺をいってい誰だと思ってやんでい」と啖呵を切ってしまいます。権 「女将、百だろうが二百だろうが金に糸目をつける俺じゃねえや。ただ今日 のところは、俺の名前で・・信用借りだ。俺を誰だと思うんだ、ほかでも ねえ、鼠小僧の次郎吉だあ」女将が桝安親分に知らせに、権は二人の証文はどうしたと二階から降りて来たところを「鼠小僧御用だ」と暴れますがねじ伏せられ捕えられてしまいます。責めたてられ自分は鼠小僧じゃない、ただの友達だという権に、桝安が「手紙を書いてそれを届けることはできるな」といってくると、「できます」と権はつい言ってしまいます。桝安が言うように書くことになります。「おたかさんが見つかりました、ところが病気で動かすことができません、すぐ金を持って迎えに来い」飛脚の格好をした子分が、権の書いた手紙を持って江戸に旅だったのと入れ違いに、桝安一家の表に、右足を引きずった田舎やくざがやってきます。 続きます。
2022年05月20日
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次郎吉でござんす江戸屋に蜆売りの男の子が、蜆を買ってくれないか、と立止まったところ竹がいらないと断ると、次郎吉が「竹、待て」といい、男の子に「蜆はいくらだ」と聞き、次郎吉「おっと、食うんじゃねえや。銭は俺が払ってやっから、全部その蜆を川ん 中へ抛り込んできな」川に全部捨て終わった男の子を、店の中へ入れ、その子のしもやけで傷む手の処置を女将さんに頼むのです。(この男の子に吉五郎が重なったのでしょう) その子供が具合が悪く寝たっきりの姉と目の見えない母親との生活と聞くと、次郎吉は竹に、次郎吉「おっ、竹、それを坊主に食わしてやってくれ、・・食わしてやれ」竹が料理を食べるようにいうと、子供は女将さんに、折詰の古いのがあったら、詰めて持って帰り母親と姉に食べさせてやりたいというのです。 次郎吉「坊主、いいからそれはおめえ食いな、おっかやお姉ちゃんには、また別に 段どってやるから」というと、竹にもう一度仕出し屋に走るよういうのです。 そして、次郎吉は男の子に次郎吉「坊主、おじさんに訳を話してごらん、しでえによっちゃ、力にもなってや ろうじゃないか」男の子が話し始めます。・・・姉は芸者をしていて質屋の若旦那と好い中になった。若旦那が大金を使い込んでしまったため困って心中することにして、川へ身投げをするところを、鼠小僧という泥棒に助けられてお金まで恵んでくれた。そこで、権がそれだったら、めでたしめでたしじゃないか、といいます。 ・・・あとがいけないんだ、と男の子が続けます。(そして、ここから話しを聞いている次郎吉の心境に変化がおきます)・・・その恵んでくれたお金には刻印があり、お手配済みの小判だったため、若旦那と姉はお召取りになり、厳しいお調べで泥棒だけの疑いはやっと晴れたが、若旦那は牢内で病気になり死んでしまうし、姉は寝たっきり、母親まで悲しい悲しいと目を泣きつぶしてにわか目くらになってしまった。・・・と。 鼠小僧が次郎吉とは知らない権は、権 「なるほどねえ、鼠小僧も義賊だ義賊だと世間に騒がれ、てめえもいい気持 ちになってなってるか知んねえが、いっぺんここへ来てこの話聞きなっ て・・・」 次郎吉は自分が良いことだと思いやったことが、こんなことに・・とやりきれない気持ちになっていました。次郎吉「おう、こんなかに三両と二分ばかりあるはずだ、さあこれ持ってき な。・・・おめ、落とすんじゃねえぞ」懐から財布を出し男の子に渡します、そして、権にはこう言います。次郎吉「権三よ、金は俺が何とか考えるから、てめえ、文字春をむけえに行って幸 せにしてやってくれ。・・・おたかは俺がさがす、必ず・・きっと探す」 決心を固めた次郎吉が、その夜更けに黒装束に身をかため、御中老の部屋に入って行きます。寝入っている御中老をゆりおこすと次郎吉「動いちゃいけねえ、黙って・・・そのまま・・・次郎吉でござんす。今じ ゃ鼠、と結構な名前をいただき、とうとうやってめえりましたぜ。・・・ 本当をいや、まだまだ来る気じゃなかった。だが、三千世界の宿無し者 と、今はときめく御中老様、住む世界に昼と夜との違いがあっても、五分 と五分との貫録で、おめえさんに言いてえことがあったんだ。・・・とこ ろがよう、とんだところで帰り打ちだい。へっへへ・・・もうここだけ避 けて通る訳はなくなっちまった。・・・御中老さん、御当家の御金蔵へお めえさんの手からあんねいしてもれえてんだ」 と言い布団をはねると、恐怖におののくその人は、次郎吉が想っていた御中老ではなかった。次郎吉「誰だい、てめえは・・・こりゃあいったい・・・」次郎吉は驚き慌てますが、落ち着きをもどし次郎吉「・・・この部屋の人は・・・どこ行ったい」去年の初午に殿様の目にとまってお手が付き、ご懐妊あそばされた、と聞き次郎吉「何?・・・初午の日・・・」元々お体が弱く難産のためお亡くなりになった、と聞かされ次郎吉「えっ、死んだ・・・」そのことを聞いて涙する次郎吉でしたが、気を持ちなおして御金蔵へ案内させます。 続きます。
2022年05月13日
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逢いたかったぜ雪の降る朝、宗匠姿に高下駄、そして蛇の目の傘をさした一人の男が「ご免よ」と言い入って店にやってきます。朝帰りのように見えます。 伊豆屋の女将が「おやまあ、茅場町の旦那ですか、ほんとにまあ、お珍しい」と言い、男を迎い入れます。「例のところで、てんてんいかれてのお戻りさ」と話をしたりして、女将が出迎えたところをみると、上客のようです。 女将が、お客さんだよ、と船頭の竹を呼ぶと腹が痛いとごねますが、お客が茅場町の旦那だと分かると急いで二階から降りてきます。男は、「おかみさん、小言を言っちゃあいけないよ、別に急ぐ旅でもなし、一杯飲んで体((を温めてから、それから海賊橋まで送ってもらう」と、なかなか羽振りのよさそうな客です。「病気だったんだってね」と旦那に言われ、竹は旦那の顔を見たら病気も治ったと、旦那の召しあがるものをみつくろっておいで、と女将に言われ急いで出ていきます。 料理が来るのを待ちながら、熱燗を一杯飲みほした旦那は、「おかみさん、いこうか」と勧め、「寒さのためかはらわたに沁みわたるよ」と言い酒を注ぎます。次に船頭の竹にもと猪口に注ぎます。注がれた酒を飲もうとした竹が、「しかしね旦那」と話をしてきました。 旦那が「うーん」と気軽な返事をすると、竹が続けます。(竹と女将の話をするのを聞いている時の旦那の表情の移り変りにご注目ください)「例の鼠小僧、大した評判ですねえ。あっしが泥棒ならね、あのくれいの大泥棒になってみてえね」と。そして女将も「この一年ばかりの間に、やられた屋敷が三、四十、とられた小判が三千三百三十三両、・・・」「こりゃまた憎いや、盗んだ金は右から左へぱぱあーっと江戸中の貧乏人にほどこして回るってんだから・・・百年に一人の大泥棒ですね」そこまで、黙って聞いていた旦那が「いくら大泥棒でも、おまえ、やっぱり泥棒は泥棒さ、あっはは」女将と竹の話を聞いていて、悪い気はしなかったような感じです。そこへ、出前持ちが料理を運んできました。 勝手口ではなく表から来た新前の出前持ちが、宗匠姿の客を見て首をかしげてじっと見つめています。その旦那はびっくりした顔をして立ち上がると「あっ、権」と声をかけます。その旦那が懐かしそうに、嬉しそうに「権三・・・」と言います。 その旦那が懐かしそうに、嬉しそうに「権三・・・」というと、権三と呼ばれた男は駆け寄り、旦那と呼ばれている男は「逢いたかったぜ」と、二人は再会を喜びます。この二人、おたかが失踪したとき以来の再会をした次郎吉とデッチリの権だったのです。 次郎吉も権も思いがけない再会に涙ぐみながら、次郎吉「おめえも変わったなあ。おっ、ときに、あれからどうしたい」権 「どうしたもこうしたも・・あれから一年、おたかさんを探して旅の空、文 字春師匠も、おたかさん探さなきゃ女が廃る、宿場女郎に身を売って」次郎吉「えぇっ、また、どうしてそんな・・・」権 「手ずるを掴むには客商売、人の出入りの多いところがいいって、ええ、次 郎公、あの女、心底からおめえに惚れてるよ」「おーい、権」と周りを気にする次郎吉。 すると、権が吉五郎のことを聞いてきました。「死んだ」と答え、それ以上は今はきかないでくれ、いずれ話すと次郎吉がいい、静寂のところへ「しじみよー、しじみー」男の子の蜆売りの声が響きます。その声を聞いた次郎吉は・・・。 続きます。
2022年05月06日
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