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~5~
本当のところはいったいどうなんだろう。
自分のココロの中をしっかり見つめるのが怖い気もして、
なるべく目をそむけようとしてる。
でも、胸の奥からふつふつと湧き上がってくるような、
焦るような気持ちは、、振り払おうとしても消えることはなくって。
ただ、偶然に彼女の大切なものを壊してしまっただけで、
お詫びをするのは当然のことで。
ほんとにただの通りすがりの人で・・・。
ニノは深刻そうに言ったけど、
別に自分のことをわざわざしゃべる必要もない。
知らないんだから・・・。
あえてややこしいこと、しなくてもいい。
きっと、次に会うときで、もうふたりの間には何のつながりもなくなる。
もう何も理由はないし、お詫びとお礼でひと通りのやり取りはおわるんだ。
でも、仕事してても、みんなでしゃべってても、
自分の部屋でぼーっとしてても、
何か引っかかって、どこかがチクチク痛んで、
何でなおらないんだろう・・・。
今度彼女と会う日が、早く来てほしいのと、
ずっと先送りにしたい気持ちとが、行ったり来たりしていた。
悩んでても、毎日があっという間に過ぎていく。
これから冬にかけて仕事も増えてくるし、
いつ時間が取れるのかもわからなくなる。
何日か振りに、彼女のケータイにかけてみる。
「相葉です・・・!」
「こんばんは・・・! 先日はわざわざありがとうございました!」
この前会った時よりも、ずっと気さくな感じがした。
彼女の笑顔が目に浮かんだ。
いろいろ考え込んでたのがバカみたいに、早く会いたいと思った。
胸のつかえが消えていった。 何もひっかかるものはなくなって。
「このあいだの話なんですけど・・・。」
「はい、お時間取れました?」
「・・・はい、明日なら・・・。 8時ですよね?」
「あ、別に8時ちょうどでなくてもいいですよ。」
「はい、じゃあ・・・どこで・・・。」
「あの・・・このあいだのカフェの隣にプラネタリウムがあるんですけど。
・・・そこでいいですか・・・?」
「プラネタリウム・・・?」
・・・って、いきなりデートっぽいし・・・。
「はい。 正面の入り口からすぐの階段を上がっていただいたら、
プラネタリウムの入り口がありますから、
中で待っていらしてください・・・。」
「・・・わかりました。」
「もしわからなかったら、お電話くださいね。」
「はい、じゃあ、明日・・・。」
「はい、お待ちしてます・・・!」
プラネタリウムなんてあったっけ?
何年ぶりだろう・・・、小学校以来?
星が好きなのかな?
あの時も火星を見るために公園にいたらしいし。
ホントになんでぐだぐだ考えてたんだろう。
気持ちの内側にどんどんこもってしまって、
不快な痛みにずっと耐えてて、
今、彼女の声を聞いて、
久し振りにホッとした、あったかな気持ちになってた。
ベッドに寝っころがって、目を閉じて、ゆっくり深呼吸を繰り返した。
よどんだ何かが少しずつ出て行くのがわかる。
先のことなんか、わかんない。 なるようにしかならないんだから。
明日、彼女に会える。 それだけが現実。 正直な気持ちでいよう。
あの日、キラキラ輝いてた木漏れ日と、
彼女の胸元に光ってた小さなネックレスが、
閉じた目の奥にまぶしくよみがえってきた。
慌ただしい毎日の中で、彼女との時間だけがゆっくりゆっくり流れる。
懐かしいような、不思議な感覚で、ココロが満たされていく・・・。
待ち遠しい気持ちと、タイムリミットが近づいてくるような緊張感が、
交互に押し寄せてくる落ち着かない一日だった。
一日って、こんなに長かったっけ・・・。
気がつくと、時計ばかり見ていた。
やっと全て終わったのは、8時過ぎてからだった。
それでもいつもよりは早いけど。
彼女に前もって遅れると連絡しておいたけど、
遅くなると会える時間は短くなるし、焦って帰り支度をしてると
ニノが横から覗き込んできた。
「え~~っ?! もう帰るのぉ~~?? どっか行こうよ~!!」
「や、ごめん!! 今日はカンベンして!」
「せーっかく早く終わったのにさぁー!!
いっつもそっちから誘ってくんじゃん!!」
「ホントごめんっ!! 約束あっから!」
「・・・ふ~~~ん・・・。 ・・・ただのさん?」
「はぁ? 誰だよ、それ!」
「ただの知り合いさん?」
「・・・。」
「あーそっか~! じゃあしょーがねーな!
バレないようにがんばってね~~!!」
「なんだよ! その言い方っ!」
「だってそーだろ? それともカミングアウトする気?」
「カンケーねーだろっ!!」
マジで腹が立って、怒鳴ってしまった。 ニノはにやにや笑ってるだけ。
誰にも声をかけずに、乱暴にドアを閉めた。
廊下を早足で歩きながら、ケータイを開く。
「相葉ですっ! 今から行きますから!」
「はい・・・!」
「時間、大丈夫ですか? 間に合わないんじゃ・・・。」
「大丈夫ですよ。 急がなくていいですよ。
気をつけていらしてくださいね・・・!」
だって、プラネタリウムって、上映時間決まってるはずなのに・・・。
彼女はいつもと同じ余裕の優しい声。
次の回ってことかな・・・?
タクシーを降りると、コンクリート打ちっぱなしの建物があった。
見上げると、屋上にドームが見えた。
隣のカフェは昼間とは違って、テーブルの上にキャンドルが灯って
シックなカフェバーになっていた。
なんとなく東の空を見上げる。
このあいだより高い位置に、まだ明るい火星が見えた。
でも、少しずつ地球から遠ざかっているんだな・・・。
正面玄関から入ると、ひっそりしてて誰もいない。
階段を上がっていくと、扉の前に母親くらいの年齢の女の人がいた。
彼女の姿は見えない。
軽く頭を下げて、きょろきょろしてると、
「どうぞ、もう始まりますから。
中に入ってお好きなとこにお掛けください・・・。」
「あ・・・はい。 でも、あの・・・待ち合わせしてて・・・。」
その人はニコッと笑って扉をゆっくり開けると、
「どうぞ・・・。」 と促した。
仕方なくゆっくり歩いて中に入る。
久し振りに見るプラネタリウムのドーム。
思わずじっと見上げてしまう。
静かで、誰もいなくて、夢を見てるようだった。
この建物も、彼女も、幻だったりして・・・。
あたりを見回しながら、ゆっくり席に着いた。
待っててくれてたんじゃなかったんだ・・・。 ちょっとヘコむ・・・。
一息ついたとたん、照明が落ちた。
「えっ、ちょっと・・・、来てないじゃん・・・!」
思わずつぶやいて見回したけど、もう何も見えない。 暗闇だけ。
なんかヤバくない? 不安になってきた。
その時・・・。
頭の上で何かが散らばった気がした。
見上げると、満天の星・・・!
暗闇の中に、キラキラ瞬く星が散らばって・・・。
口を開けたまま、釘付けになってしまった。
まるで宇宙の中に放り出されたみたいに、
方角も、上も下もわからないまま、宙に浮いているようだった。
彼女が現れない戸惑いと、関係なしに広がる綺麗な星空・・・。
このまま座ってていいのか迷いながら、目は離せない。
彼女のお礼って、このこと? でも、彼女はいない。
ほんとにお礼だけ・・・?
俺にこの綺麗な星空を見せたかっただけ?
どうしてここにいてくれないんだろう・・・。
いろんな想いが頭の中を巡って・・・。
でも、どこからか聞こえてくる星の輝きのような音楽に、
頭の中のいろんなことが、フェードアウトしていく・・・。
どのくらい時間が経ったのか・・・。夢から覚めたようにぼーっとしていた。
ふと気付くと、薄暗い照明が点いていた。
とうとう彼女は来なかった。 やっぱダメだったか・・・。
今までの彼女の笑顔や気配りや、電話での優しい感じとか、
いったい何だったんだろう・・・。 からかわれてたのかな・・・。
でもいいか、久し振りに綺麗な星空見れたし・・・。
ココロの洗濯ってやつ?
損じゃなかったよな。 また明日から頑張ろう・・・。
ヘコんだ気持ちを紛らわすために、いろいろ考えながら、
でも立ち上がる気力はなくて、ため息をついた。
「いかがでしたか・・・?」
ドキッとして跳び起きた。 振り向くと、
斜め後ろの席で、彼女が微笑んでいた・・・!
前よりずっと、人懐っこい、いたずらっぽい笑顔で・・・。
「あっ、あの・・・えっと・・・!」
「・・・びっくりさせて、ごめんなさい・・・!」
「・・・。」
「私、ここで働いてるんです・・・。」
「・・・。」
何となくわかってはきたけど、言葉が出てこない。
すると、彼女は後ろの席からぐるっと回り込んで、
ひとつ空けた隣の席に座った。
「・・・お礼とはいえないですよね、勝手なことして・・・。」
「あ・・・いや、・・・良かったです! キレイでした!」
「そうですか? ありがとうございます・・・。」
「・・・すっぽかされたと思ってました・・・。」
「そんな・・・、あ、でも普通そう思いますよね、ごめんなさい・・・!」
「あ、いえ・・・、別にそんな・・・。」
ふたりで向き合って、少し緊張感漂いながら、でも普通に笑えて・・・。
こういう所では、自分は誰にも知られてないんだ。
心から安心できる場所を見つけた気がした。
彼女と過ごす時間と同じ、あったかい場所・・・。
扉がゆっくり開いて、最初に会った女の人が入ってきた。
「お邪魔して悪いんだけど、そろそろ出ましょうか・・・?」
「あ、はい、ごめんなさい・・・!」
彼女は席を立って、その人の所へ駆け寄った。
同時に自分も立ち上がって、頭を下げた。
その人は、さっきよりもくだけた感じでニコッと笑った。
「なかなか良かったんじゃない?」
「そうですか? どうかなあ・・・。
あ、坂井さん、お時間まだいいですか?」
「うん、別にいいけど・・・。 カレとデートじゃないの?」
「違いますって・・・! 相葉さんも、お時間いいですか?」
「あ、はい・・・。」
なんだか妙な組み合わせだったけど、3人で賑やかに歩きながら、
プラネタリウムの裏にあるお好み焼き屋さんに行った。
会社帰りらしいおじさんたちでいっぱいだった。
「もっとオシャレなとこが良かったんじゃない?」
坂井さんが彼女を突っついた。
「みんなお腹すいてるかと思って・・・、ね?」
彼女が突然こっちに向かってニコッと笑った。
とっさに何も言えなくって、アセってうなずくだけしかできなかった。
彼女が慣れた感じでお好み焼きの生地を鉄板に流した。
「な~んだ、まいちゃんのカレシかと思ったのに~・・・!」
思いがけず、彼女の名前がわかった。 まいちゃんっていうのか・・・。
「違います! 失礼ですよ~・・・。」
おもいっきり否定されるのも、かなりキツイけど・・・。
リアクションのとりようがないじゃん・・・!
「で、あいばくん・・・だっけ? どうだった? さっきの内容・・・。」
「え? プラネタリウムの、ですか?」
「そうそう、あれ、まいちゃんの構成なのよね・・・。
うちのプラネタリウム、存亡の危機にあってね~・・・。
子供向けだけじゃなくって、カップルにウケるロマンチ~ックなのを
企画してんのよ。 どうだった? いいムードになれそうだった??」
「あ・・・、いいと思いますよ、癒されたし・・・うん。」
「でも、ひとりで見たってしょうがないよねぇ~・・・。
今度カノジョと来てよ!」
「・・・カノジョなんていませんよ!」
ムキになってしまった・・・。 まいちゃんはうつむいて、少し笑ってた。
それこそ、どうでもいいみたいに・・・。
「あらら~、ごめんね~・・・。
だって相葉くん、結構オトコマエだから・・・ね~?」
まいちゃんに同意を求める坂井さん。
愛想笑いをするまいちゃん・・・。
このシチュエーション・・・、なんか想像してたのと全然違う。
でも楽しかった。 坂井さんは面白かったし。
「ね、相葉くんは未成年じゃないよね?」
「あ~、はい、なんとか・・・。」
「えっ? ギリギリ?」
「今年21になります。」
「うっわ~、結構若いんだね~! まいちゃんと同い年?」
「やめてください~! 知ってるくせに~・・。」
「ひとつしか違わないじゃない、・・・あ、誕生日来たらふたつか~。」
ふたつ上なんだ・・・、そんなには見えないけど。
「じゃあ、おばちゃん、ナマみっつ!」
「はいよ~、おばちゃん!」
カウンターの中のおばさんが笑って返してきた。
店中の人たちがドッと笑った。
今日は、かえって3人でよかったのかもしれない。
緊張せずに笑えるし、彼女も楽しそうだし・・・。
坂井さんは、どういういきさつで今日に至ったかに興味津々だった。
ひととおり話したあとで、
「でも、ドラマみたいだねぇ~・・・。
ちょっとでも時間がズレてたら、素通りしてたんだから・・・。」
ジョッキを片手に坂井さんがつぶやいた。
そう言われてみればそうだ。 すれ違ってただけだったのかも・・・。
あの時、走らずに歩いてたら・・・。 あの公園に行かなかったら・・・。
「コワイひとじゃなくって、よかったですよ~・・・。」
まいちゃんが苦笑いしながら言った。
「そうだよね~、だってさぁ~、
どんな人だか、何してる人だかわかんないもんね~・・・。」
何してる人だか・・・ホントのことは言ってないんだけど・・・。
「相葉くんは、学生さん?」
「あ・・・、いいえ・・・。」
「いつもお忙しそうですよね・・・。」
確かに、忙しいといえば忙しいし・・・、曖昧に笑うしかなかった。
「会社員には見えないけど・・・。」
返事に困っていると、まいちゃんが笑って坂井さんを突っついた。
「なんだか面接みたいですよ、坂井さん。
このあいだは、ギャラリーでお仕事だったんですよね?」
「あ~、やっぱりクリエイティブ~! そんなカンジするもん!」
「・・・あ、そうだ、さっきの、眠くなりませんでした?」
愛想笑いをしてる俺に気付いてくれたのか、まいちゃんが話題を変えた。
賑やかなおじさんたちの笑い声に、ときどきかき消されながら、
一生懸命坂井さんと俺を交互に見ながら話しをする彼女の笑顔を、
ついぼ~っと見てしまっては、ふと我に返る、そんな繰り返しだった。
たまに坂井さんと目が合ってニコッと微笑まれると、目が泳いでしまう・・。
ゼッタイ見透かされてた・・・。
店を出て、坂井さんはすぐに大通りでタクシーを拾って帰って行った。
まだ昼間の暑さが残ってたけど、店の中よりは涼しく感じた。
ふたりだけになると、急に静かになったような気がする。
「今日は遅くまでごめんなさい・・・。
それにいきなりあんなの見せたりして・・・」
「えっ? なんで? 楽しかったよ。」
「ほんとに・・・?」
「うん、それにプラネタリウムなんて子供の頃以来だったし。
すっごいキレイだった。」
「・・・よかった~・・・。」
気がつくと、友達みたいにしゃべってた。
「明日、早いんですか?」
ときどき敬語になるとこが、またカワイイ・・・。
「いや、別に・・・。」
「いつもスタジオとかでお仕事されてるんですか?」
「え~っと・・・、だいたい・・・。いろんなとこにも行くけど・・・。」
「海外とか・・・?」
「いや、それはあんまりないけど・・・。 夏はあちこち行って・・・。」
「いいな~・・、あ、でもお仕事じゃあね・・・。」
「でもいろんなとこの、おいしいもの食べられるし・・・!」
「カニとか~?」
「うんうん! 手羽先とか~!」
「え~~っ? ラーメンとか~?」
「そうそう、行った行った!」
「すご~い・・・。 あちこち行ってるんですね~・・・。」
いつの間にか歩道橋の上にいた。
「あの・・・駅の方でよかったんですよね?」
足を止めて、彼女が訊いてきた。
歩道橋の上から、電車の高架が見えた。
「・・・うん・・・・。」
なんとなく返事したけど・・・、もう解散ってことか・・・。
「じゃあ、駅までお送りしますね・・・。」
「えっ? ・・・あの・・・。」
「あ、私、すぐそこですから・・・!」
「じゃあ送るよ、もう遅いし・・・。 駅わかるから。」
「いいですいいです・・・!」
初対面同然なんだし、あんまりしつこくも言えない。
「じゃあ、ここでってことで・・・。 いいですよね?」
もうちょっと一緒に歩きたかったんだけど、またぐだぐだで終わりそう?
「・・・今日は、お仕事でお疲れのとこ、
本当にありがとうございました・・・。」
笑顔で、ゆっくり頭を下げた。
「・・・またよかったら、見にいらしてくださいね・・・。」
「あ・・・、はい・・・。」
「・・・お気をつけて・・・。」
彼女はやさしく微笑んだけど、こっちはきっと引きつってる・・・。
黙って突っ立ったままだったからか、彼女は困ったように微笑むと、
もう一度お辞儀をして、ゆっくり背を向けて歩き出した。
何も言えなかった・・・。
サヨナラなんて言いたくなかったし・・・。
でも、このまま駅に向かって行くと、それきりになってしまう。
言葉が出てこない・・・。 ・・・でも・・・!
理由なんかいらないんだ。
説明なんかしなくていいんだ。
どうしたいか、それだけなんだ・・・!
車道を走る車の音が、どんどん大きくなっていく気がして、
彼女の後ろ姿に必死で叫んだ・・・!
「まいちゃんっ!!」
弾かれたように彼女が振り向いた。 驚いた顔で。
そしてゆっくりこっちに向き直った。 あっけにとられたまま・・・。
少しの距離を、走って縮めた。
たいして走ってないのに、息切れがする。
彼女はまっすぐ俺を見たまま、動かなかった。
息切れは治まらない・・・。 きっと、何か言うまで・・・。
自分でもわかる。 すごい顔してるって。
彼女の圧倒されたような表情でわかった。
「まいちゃんっ!」
「・・・はい・・・!」
目を丸くして、緊張した声で彼女が返事をした。
「・・・また会ってくださいっ!!」
しばらく見つめあったまま・・・。 何時間にも感じた。
だんだん、彼女の表情が柔らかくなっていく。
息苦しくて、膝が崩れそうだ・・・。
「・・・はい。」
はぁ~~~っと情けないくらい大きなため息をついた。
息切れも治まりそうだ。
「なにごとかと思って・・・、ドキドキしたよ~・・・。」
まいちゃんは、胸元のネックレスの上に手を当てて、笑った。
「・・・これで最後なんてつまんないし・・・。」
「そうだね、楽しかったし・・・!」
飛び上がりそうなくらい嬉しい言葉だった。
こうなると調子に乗ってしまう。
「またよかったら・・・、おいしいものでも・・・!」
「カニとか~、手羽先とか~・・・?」
「いいよ、何でも!」
「え~っ? 本気にするよ~!」
顔を見合わせて一緒に笑った。
夢を見てるんじゃないかと思いながら・・・。
歩道橋の上は、地上よりも少し涼しい風が吹いていて、
のぼせた頭をゆっくり冷やしてくれた。
「ごめん、ドサクサにまぎれてまいちゃんなんて呼んで・・・。」
ホントはそう呼びたいんだけど、遠まわしに探りを入れてみる。
「いいよ、友達みんな、そう呼んでるし・・・。」
友だち・・・そうだよな、コクったわけじゃないし・・・。
「で、相葉さんってのも、ちょっと・・・。」
「あ、それじゃあ・・・、相葉ちゃん!」
「えっ?!」
不意を突かれて絶句してしまった。 ・・・いつもの呼ばれ方なのに・・・。
「うそ・・・! 真ん中取って、相葉くんで・・・いいですか?」
「あ・・・、うん・・・。」
「・・・どうかした・・・?」
「えっ? なんでもない、なんでもない!」
・・・こんなんでいいのか・・・? いちいち反応しまくって・・・。
それからしばらく、歩道橋の上でメールアドレスを交換したり、
彼女の仕事の話とかを聞いた。
でも、自分の仕事のことを話題にするのは避けていた。
言ってしまうのが怖かった。 この雰囲気が壊れそうで・・・。
でも、これから何度か会うことがあれば、
いつまでも黙ったままってわけにもいかない・・・。
今はきっかけがつかめないけど、いつかホントの自分を知ってもらいたい。
いつか、伝えなきゃいけないんだ・・・。
彼女と真剣に向き合う日が来るとしたら・・・。
今日、彼女の隣でゆっくり歩いてたのも、
夏の日、アリーナが振動するほどの歓声の中、走り回ってたのも、
ホントの自分なんだから・・・。
つづく
07,Jan.2005
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