「きらりの旅日記」

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ほしのきらり。

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2021.01.08
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カテゴリ: 美術館・博物館
​​​​​最晩年のフィンセント・ファン・ゴッホは、自ら入院を決めてサン=レミに向かいます〜その様子は、いくらか心揺れる


ゴッホの決心・・・とは? ​


Vincent Willem van Gogh





フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ
​Vincent Willem van Gogh​

​​​ ​​1853年3月30日〜1890年7月29日(37歳没)


オランダ人「ポスト印象派」の画家。


1889年春、 ​​弟:テオをヨハンナが結婚​​
​​


テオが随分と頭を悩ませていたのもこのろのことだった。


ヨハンナは、テオと結婚する少し前、


アルルにひとりで住むフィンセントについて、


私は、手紙の中で尋ねたことがある。


もし、フィンセントがパリに戻りたくないというなら、


オランダで少しのあいだお母様や妹さんと


暮らしてもらったらいいんじゃないかしら、


と。テオからの返信にはこうあった。


​​ 「そうなんだ、

 もっとも困ったことのひとつは、

 健康状態の良し悪しに関係なく、

 フィンセントの暮らしが

 世界からすっかり切り離されて

 しまっていることなんだ。

 でも彼のことを知れば、

 君にもこの複雑な問題を解決する

 難しさがわかってくると思うよ。

 つまり私たちが彼に対して何をすべきかと、

 何ができるかを同時に考えなければ

 いけないということなんだ」。


「知っての通り、

 フィンセントには昔から

 いわゆる世の中の決まりごとという

 感覚が欠落している。あの出で立ちや

 態度は、そのまま兄が

 一風変わった性格の持ち主であることを

 示しているけど、兄に会った人が、

『彼はおかしいよ』とどれほど言おうと

 僕にとっては大したことじゃない。

 でも僕の母は、気にせずにはいられないんだよ。

 そのうえフィンセントの喋り方は、

 すごく惹きつけられるか、嫌悪感を抱くか、

 人によって両極端な反応を引き起こすんだ。

 彼に同情してくれる人はいつも周りにいる。

 けれどそれ以上に敵も多いんだよ。

 適度な距離を置いて人と付き合うっていうことが

 フィンセントにはできない。

 白でなければ黒なんだ。

 親友と呼べる人たちでさえ、

 兄とずっと仲良くやっていくことは難しい。

 兄は誰に対しても気遣いができないから。

 僕に時間さえあれば、

 兄のところへ行くんだけれどな。

 そして例えば一緒に歩いて旅行でもするのに。

 僕が、思いつくのはそれくらいだけど、

 きっとどれもフィンセントのためになるだろう。

 もし画家で僕と同じことをしたいという人がいれば

 その人にフィンセントのところへ行ってもらうのに。

 でもフィンセントが一緒に

 旅行に行きたいと思うような人でも

 フィンセントに、そして彼を取り巻く

 あのゴーギャンが来ても変わらなかった状態に

 どこかで恐れをなしてしまうだろうね」。


「もうひとつ、僕がフィンセントを

 ここに呼ぶのを恐れている理由がある。

 パリでは、

 描きたいものをたくさん見つけていたが

 それでも描けない状況に何度も陥った。

 モデルたちは、フィンセントのために

 ポーズを取るのを拒むようになり、

 それなら道端で通行人を描こうと

 思ったらそれも禁じられてしまった。

 彼は、かんしゃく持ちだから

 他人が不愉快になる状況を

 生み出してばかりで、

 それがさらにフィンセントを刺激し、

 いっそう近寄り難くさせる。

 そして、最後には

 パリというところに向かって

 激しく嫌悪をぶちまけるんだ。

 もしフィンセント自身が戻って来たいのなら

 僕は、少しもためらわないで

 迎え入れるんだけれど・・・

 ただ結局は彼自身の意向に従うしかない。

 自然の中でひとり暮らすか、

 ルーランのような素朴な人でなければ

 彼が静かに暮らすことはできないね。

 だって彼は、どこを歩いても素通りできず、

 必ず自分の痕跡というものを

 残そうとしてしまうんだから。

 間違ったことを見つけたら

 批判せずにはいられず、

 それが争いのタネになる」。


「いつかとてつもなくフィンセントを愛し、

 人生を分かち合ってくれるような妻が

 見つかってくれることが僕の願いだが、

 そう簡単なことじゃないね。

 ツルゲーネフの『処女地』の中に出てくる、

 虚無主義者たちと一緒に国境を越えて

 密書を運ぶ女の子を覚えてる?

 想像だけど、フィンセントで

 落ちるような苦悩を経験した人・・・。

 フィンセントのために

 何もしてあげられないのは辛いけど、

 非凡な人には非凡な治療法が必要で、

 それは凡人たちが

 思いもしないようなところで

 見つかるものなんだと思う」。


​​​​そしてフィンセントは、​


今度は自分でサン=レミに行くことを決めた


テオは最初、


フィンセントの決心はもうだれの邪魔もしたくないという、


一種の自己犠牲の精神なのかも知れないという印象を受けた。


だからもう一度手紙で、


ポン=タヴァンに行くか?


パリに来るかする方がいいんじゃないかと?


彼は念を押してみた。


それでも、フィンセントは決意を変えなかったので、


テオはこう書いた。


「サン=レミ に行くには、

 兄さんが言うような非難ではなくて

 単に一時の静養なんだと僕は思うことにするよ。

 それでまた元気を取り戻すつもりなんだね。

 僕に言わせれば、兄さんの病気は、

 まず自分が生身の人間であることを

 無視しているところから来ていると思う。

 サン=レミのようなしっかりした施設なら

 決まった時間に食事も出てくるだろうだし、

 生活もとても規則正しいでしょう。

 そういった規則正しさが

 兄さんにとって悪いわけはないよ・・・

 むしろその逆だろうと思う」。


​​​​​​​​テオは、フィンセントに


いつでも自由に出入りできる部屋とは別に


好きなだけ絵が描ける部屋、


それから好きにあちこち歩き回れる自由を含めて、


あらゆる手はずを施設のペロン院長とともに整えた。


その後フィンセントは、


サル牧師に付き添われ


​1889年5月8日、​ サン=レミへと出発した。


翌日、 サル牧師はテオ宛にこう書いている。


「サン=レミ への移動は、

 最後まで良好な状態のまま

 終えることができました。

 フィンセント氏は、全く落ち着いていて、

 自ら院長にご自身の症状を説明したほどです。

 完全に自分の病状を

 把握していらっしゃるのですよ。

 私が、帰るまで一緒にいてくださって、

 お別れするときには、

 丁重な言葉でお礼を述べられ、

 そしてこれからの場所で

 始まる新しい暮らしのことを思ったのか

 いくらか心揺れている

 ご様子ではありました。


 またペロン先生は、

 お兄様の健康状態に合わせて

 できる限り面倒を見て配慮すると

 約束してくださいました」。


同行してくれたこの誠実な牧師との別れに際し、彼が書く


​「いくらか心揺れている」​ というこのひとことが、


号泣どれだけ切なく響くことだろう


サル牧師との別離は、


外の世界とフィンセントを結ぶ


最後のつながりが断たれることを意味する。


フィンセントが取り残されたのは・・・


この上もない孤独にも増してひどい、


神経症、精神疾患の患者に囲まれ、


話しかける相手も理解してくれる人物ではあったが、


控えめで物静かな人だった。


彼がフィンセントの近況を知らせるために


毎月テオに送った手紙からは、


アルルの病院の先生のような


温かい思いやりは感じられなかった。


フィンセントは、丸一年の間、陽気な環境の中で過ごした。


繰り返し襲ってくる病気の発作にも、


不屈の精神力で抗い続け、


しかも昔からのたゆまぬ情熱を持って制作を続けた。


その情熱だけが、


いまや何もかも失った彼を支えていたのだ。


彼は、夜明けと日暮れのひとときを持って、


窓から見える荒れ果てた風景を描いた。


アルプス山脈の麓近くの広い野原を描くために


遠くまで歩き回った。


くねくねと曲がった枝を持ったオリーヴ園を描き、


陰気な糸杉や、


療養院のくすんだ庭、

そして、


『麦刈る人』を描いた。



「自然という

 偉大なお手本が教えてくれるもののひとつ、


 それは死のイメージだ」。


それらは、もうかつてアルルでの浮き立つような


陽光にあふれた、そして勝ち誇るような作品ではなかった。


そこには、より深く悲しげな調べが鳴り響き、


前年にみられた


黄色のシンフォニーの中をつんざく甲高いラッパの音は、


いまやなりをひそめ、


フィンセントの選ぶ色彩は地味になり、


その絵画のハーモニーは短調に転じた。


(参考資料:東京書籍、フィンセント・ファン・ゴッホの思い出より)
(写真撮影:ほしのきらり)

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最終更新日  2021.01.08 00:10:08
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