ル・グウィンが『ラウィーニア』で『アエネーイス』にて一言も話さぬヒロインラウィーニアに語らせた如く、著者は『イーリアス』で語らなかった「戦利品」= a prize of battleブリセイスに言葉を与える。本人の意思は当然のように無視され、モノ扱いされながら、彼女が何も考えなかったはずがない。ましてや彼女だけでなく、敗者トロイアの女性達が共に戦利品として暮らしていたのだ。男たちには何も話せずとも、同じ境遇の女性達が何も語らなかったのはおかしい。むしろ共通体験をした彼女達だからこそ話せたことがあったはずだ。一方で、戦利品として伴われた男性との間に子供が生まれた女性もいれば、クリュセイスのように親元に返される女性もいるなど、女性達もそれぞれ立場が違ってくると、今度は話せない事が増えてくる。