inatoraの投資日記

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2005年08月20日
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四半期決算が定着することで事業の進捗度をモニタリングする機会が増える一方で、年次より短い四半期という区切りによって会計上の数字が歪められて実態を表さないという可能性があります。

その一方で、市場参加者がそうした四半期決算の数字だけを表面的に解釈して誤った形で反応するということは不思議ではありません。特に3月決算企業が多いので、第一四半期の決算を発表する時期が集中しており、人間の情報処理能力の限界を考えるとそうなる可能性があります。

7月から8月にかけて行われた第一四半期の決算においては、そうした誤認が見られるケースがいくつかありました。他のサイトの引用も含めて、いくつか紹介したいと思います。

************************

1.タナベ経営(9644)

タナベ経営は第1四半期の決算を以下のように発表しました。(カッコ内は、前四半期)

売上高:1147(1087)
営業利益:90(73)
経常利益:104(90)
当期利益:3(42)

タナベ経営の第1四半期の当期利益は大幅減でした。これは「湘南研修センター」という建物に対して減損会計を適用したことによる減損損失であり、流動資産が豊富で人材という無形資産が収益力の要であるタナベ経営にとって、特段の悪材料とは言えません。

しかし、市場は「減益」という表面上の数字を嫌気して、一時的に大幅に株価が下落しました。その後は、一時的要因であると市場が冷静になったこともあり株価は持ち直し、数日後には年初来高値を更新しました。

こちらは「Value Investment Since 2004」のvis2004さんの日記(8月4日)を引用しました。


2.秀英予備校(4678)

秀英予備校は第1四半期の決算を以下のように発表しました。(カッコ内は、前四半期)

売上高:2467(2202)
営業利益:▲356(▲122)
経常利益:▲344(▲108)
当期利益:▲217(▲79)

表面上の数字だけを見ると「前期比で赤字幅拡大」です。これは、夏季講習から開校する新校舎のための投資によるものであり、夏期講習の募集自体は前期比で順調であり問題はないというものです。

このように、第1四半期に先行投資を行うために費用配分が偏って四半期決算の数字が悪くなるという企業は多々あります。

秀英予備校の場合、収益の柱の一つである「夏季講習」募集のための費用が第1四半期に計上されるという形で「季節性」があるので、この点を見誤ると「赤字幅拡大」という悪材料に見えてしまうかもしれません。

そんなわけで、「秀英予備校の季節要因」とも言うべきもので株価が過剰反応して下落したので、その下げ局面で買うことができたならば、短期間でリターンを稼げたかもしれません。

こちらの内容は「賢明なる投資家への道」のKENさんのコラム(8月3日)を引用しました。


3.光製作所(8191)

こちらは、タナベ経営の「減損損失」や秀英予備校の「季節要因」に比べてやや分かりにくいかもしれません。これはホルダーである私が詳細をフォローしてみたいと思います。

光製作所は第1四半期の決算を以下のように発表しました。(カッコ内は、前四半期)

売上高:2510(2610)
営業利益:527(519)
経常利益:924(604)
当期利益:549(384)

売上は微減、営業利益は横ばい、経常利益・当期利益は大幅増となっています。経常利益以下が大幅増となったのは、「営業外収益」の「その他」という項目によるものです。

この数字をどう捉えるか?結論から言うと、「特段良くもなく悪くもなく、事前の予想の範囲内の決算内容」だという感想です。

今回の四半期ベースの損益計算書だけを見ていると営業外収益の実態がよく分からないのですが、これは「通貨オプションの評価益」です。キャッシュフロー計算書の「営業キャッシュフロー」にそれに近い数字が掲載されていますので、そこから確認が出来ます。

この「通貨オプション評価益」が、財テク目的のものであれば素直に増益要因と捕らえることが出来ます。(もっとも、そんな投機的な財テクしている企業に投資したいとは思わないのですが。)

しかし、この「通貨オプション評価益」は「ヘッジ目的」であり、特段のプラス要因とはいえず、通期ベースの決算で見れば必ずどこかのタイミングで相殺されることが予想されます。具体的には以下のような話です。

有価証券報告書にもありますが、光製作所は家具販売を事業としており、その家具または家具の材料を海外から輸入しています。当然ながら為替変動リスクが存在し、輸入企業の場合、為替変動リスクがノーヘッジであれば円安はマイナス要因です。

光製作所はこの為替変動リスクを通貨オプションでヘッジをしており、為替変動に関わらず商品の購入代金を円ベースで固定させています。すなわち、通貨オプションは円安のときに含み益が出るようにポジションを取っているのです。

ちなみに、第1四半期は為替が円安方向に触れました。そうすると、通貨オプションの評価益が発生します。それが第1四半期の営業外収益に計上されたのです。

通貨オプションに評価益が発生したので第1四半期の数字が良くなったように見えますが、それとは逆に、円安によって商品の購入代金が高くなるはずなので、そこで相殺されます。

商品の購入代金が高くなる影響が損益計算書ではどのタイミングで出てくるかというと、これは会計の原則から「(家具を仕入れた時点ではなく)家具を販売した時点」です。家具を販売すると棚卸資産が消えて、その代わりに売上原価が計上されます。

時価会計の対象となっているデリバティブ(この場合、通貨オプション)の評価益は第一四半期に計上され、売上原価(この場合、割高になった商品の購入代金)はそれ以降に計上されるということで、収益と費用の認識にタイムラグが生じたということです。

したがって、通期ベースでみれば「為替リスクをヘッジした」というだけの「中立」な材料にも関わらず、四半期で決算期を区切ったために大幅増益のように見えただけに過ぎません。しかし、こうした要因に気づかなければ「いい決算だと誤認して、買いにくる市場参加者もいるのかな?」とも思いました。

決算発表が14時くらいで、最初の30分くらいは反応がなかっただけに、そこで素早く買いを入れていれば810円くらいで買うことができ、引けにかけて株価が839円まで上昇、そして3~4日くらいは株価の上昇が続いていただけに、投機的利益を手に入れられたことかと思います。

そんなわけで、私自身もそうした市場参加者の誤認を利用した投機的行為(先回り買い)で利益を上げられなくはなかったのですが、既に大きなポジションをとっていることと、そんな材料がなくても今の株価水準は長期保有として魅力的であること、を勘案してそれはやりませんでした。

今回の増益を当て込んで買ったという人に対しては、「残念でした」と申し上げておきます。

************************

似たような市場参加者の誤認は、探してみれば山のように出てくるかもしれません。次回は、可能性がありそうな材料をさらに列挙してみたいと思います。

今日の言葉:
「四半期という短い期間で区切られた決算内容の経済的実質を良く知るためには、事業内容を知る必要がある。」

P.S.
長期保有と決めてそんなものは気を留めないということもありかも知れませんが、ここまで誤認が激しいと、利用可能なノイズとして研究する価値があるかもしれません。





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最終更新日  2005年08月20日 23時47分45秒
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