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クロニクル千古の闇シリーズ8巻。今回も目が離せない展開になってきましたね。最終巻まであと何巻なのかわかりませんが、これからも完結までこの作品を追い掛けていこうと思います。
2024年11月29日
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しっとりとしたスポンジ生地がイチゴジャムとあって美味しかったです。
2024年11月29日
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近所のダイソーで見つけたお菓子です。一口サイズで美味しかったです。
2024年11月28日
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ダイソーで買った、雑誌風ノート。表紙が可愛いくて衝動買いしちゃいました。実はこのノートを買う時、セルフレジで精算しようとしたらエラーが出たので、別のダイソーで買いました。近所のダイソーの筆箱売場。見るだけで癒されます。スターとミルキーをお迎えした場所です。
2024年11月28日
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今日は朝から好きな場所(大型書店、図書館、ブックオフ、ダイソー)に行き、昼食後にその場所を2往復して帰宅したのが午後5時過ぎでした。読み終わった本をブックオフに売りました。明日もパートが休みなので、家でゆっくりしようと思います。先月は本を買いすぎたので、暫く予約した本以外は買わないようにして、散財を控えようとしたのですが、大型書店内にある文具専門店で試し書きしたシャーペンを買いました。大切に使います。
2024年11月27日
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表紙は、装丁カフェ様からお借りしました。「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。 その日の夜、アルフレートは自室から出て、スイス宮にあるルドルフの私室へと向かった。「ルドルフ様、わたしです。」「入れ。」「失礼します。」 アルフレートがノックの音と共にルドルフの私室に入ると、彼はアルフレートの腕を掴み、彼を寝室へと連れて行った。「ルドルフ様、あっ・・」「黙れ、何も言うな。」 ルドルフはアルフレートを寝台の上に押し倒すと、彼の唇を激しく貪った。「ん・・」 アルフレートは、徐々に下腹の奥が熱くなるのを感じながら、ルドルフにその身を委ねていた。「あっ、あっ・・」「ここが、いいのか?」ルドルフがアルフレートの一番弱い部分を執拗に責め立てると、そこから透明な蜜が滴り落ち、シーツを濡らした。「もう、これ以上は駄目・・」「じゃぁ、どうして欲しい?」「わかっていらっしゃる癖に・・意地悪・・」 そう言って涙で潤んだ翠の瞳でアルフレートがルドルフを睨むと、ルドルフは、アルフレートを奥まで貫いた。「あ~!」「お前、こんなに締め付けて、食いちぎられそうだ・・」「だって、あぁっ!」「動くぞ・・」 ルドルフは己のモノをアルフレートの中から一旦抜くと、もう一度奥まで貫いた。 寝台の中で互いの肉同士がぶつかり合う水音が響き、アルフレートはルドルフが動く度に気を失いそうになった。「もぅ、限界だ・・」「あ、もぅ・・」 ルドルフが欲望をアルフレートの中に吐き出したが、満たされない。 アルフレートがそっと自分から離れようとした姿を見たルドルフは、彼の両足を自分の両肩に担ぐと、再び彼を激しく責め立てた。「ルドルフ様・・」「まだ、足りない・・」 アルフレートが漸くルドルフから解放されたのは、夜明け前の事だった。「アルフレート、もう行くのか?」「はい、朝の務めがあるので。」「そうか・・」 アルフレートが身支度をしているのを、ルドルフは黙って寝台の中から見ていた。「あの、何か・・」「次は、いつ来るんだ?」「それは、わかりません・・」「出来れば、毎晩来て欲しい。」「それは・・」「なぁ、いいだろう?」 ルドルフはそう言うと、アルフレートが結んでいた腰紐を解き始めた。「お止め下さい。」 アルフレートが軽くルドルフの手を払うと、ルドルフは少し揶揄うかのように再びアルフレートの腰紐を解き始めた。「もぅ・・」 アルフレートは少し困ったような顔をした後、ルドルフの寝室から出た。「あ、フェリックス司祭様だ。」「何お前、フェリックス司祭様の事、知っているのか?」「知っているも何も、俺の姉さんが皇太子様付きの女官でさ、色々とゴシップを聞くんだよ。」「ゴシップ?」「ここは、娯楽といえば専ら噂話だからなぁ。皇太子様はさぁ、色々と女性関係が派手だから・・」「ま、まぁな・・」「それで、姉さん達の間で一時期、“ある噂”が流れたんだよ。」「“ある噂”?」「あぁ、それが、皇太子様とフェリックス司祭様は、恋人同士なんじゃないかっていうものさ。」「え!?」「何でも、フェリックス司祭様は皇太子様に見初められて、宮廷入りしたとか、しないとか・・皇帝陛下と皇妃様に気に入られて、マリア=ヴァレリー様から“天使様”と呼ばれる程美しい方だから、皇太子様とはそんな関係になっているんじゃないかってさ・・」「あ~、それはわかるような気がするな。俺もフェリックス司祭様を見かけると、少しムラムラするよな。」「お前、そんな事言ったら皇太子様に殺されるぞ!」「ははっ、そうだな。」 兵士達がそんな事を話しているのを、シュテファニーは廊下で盗み聞きしていた。(そんな事はないわ・・) シュテファニーは、先程の兵士達の会話を思い出しながら、夫とあの美しい司祭が仲良く歩いている姿を思い出しては、嫉妬に駆られていた。 夫はプレイボーイで、自分が知っているだけでも星の数程の女達と浮名を流して来た。(フェリックス司祭様は男なのだから、決してそんな事は・・) シュテファニーは即座に兵士達の噂話を否定し、それを己の頭から追い払った。 シュテファニーが夫と自分の関係を怪しんでいる事など露知らず、アルフレートは溜息を吐きながらアウグスティーナ教会で事務仕事をしていた。「アルフレート、マリア=ヴァレリー様がお呼びだよ。」「はい・・」 突然マリア=ヴァレリーに呼び出されたアルフレートは、彼女の部屋へと向かった。「天使様~!」「エルジィ様、どうしてここに?」「ごめんなさいね、アルフレート。エルジィがどうしてもあなたに会いたいって言うから、義姉上様にわたしがエルジィの面倒を見るからってエルジィを預かったのよ。」「そうなのですか・・」「天使様、遊んで~!」 エルジィはそう叫ぶと、アルフレートに抱きついた。「すっかり、エルジィはアルフレートに懐いているわね。」「そ、そうですか?」「まぁ、わたしも幼い頃、あなたと会った時にあなたを天使様だと思っていたから、エルジィにもそう見えるかもしれないわね。」 アルフレートは、マリア=ヴァレリーの言葉を聞いて苦笑しながらも、エルジィと時間が許す限り遊んだ。「では、また遊びましょうね、エルジィ様。」「次はいつ遊べるの?」「それは、わかりません。」「エルジィ、余り我が儘を言っては駄目よ。」「はぁい・・」 アルフレートがマリア=ヴァレリーの部屋から辞すると、廊下でシュテファニーと擦れ違った。「フェリックス司祭、あなたとお話ししたい事があるの、少しよろしいかしら?」「は、はい・・」 シュテファニーから急にお茶会に誘われ、アルフレートは戸惑いながらも彼女の部屋へと向かった。「いつもエルジィと遊んで下さってありがとう。これから降誕祭のミサや戴冠式の準備があって忙しいというのに・・」「いいえ、滅相もございません。わたくしの方こそ、こうして皇太子妃様のお茶会にご招待頂き、光栄にございます。」「まぁ、謙虚な方ね。夫も・・皇太子様もあなたのそんな人柄に惹かれたのでしょうね。」「え?」 アルフレートがシュテファニーの言葉に驚き、思わず彼女の顔を見ると、彼女は氷のような冷たい視線を自分に送っていた。「あの、皇太子妃様・・」「マイヤー司祭様から聞いたわ、あなたと皇太子様の関係がどのようなものであったのかを・・」「わたしと、ルドルフ様は幼少の頃から・・」「今まで、信じたくなかったわ・・皇太子様は、わたくしと結婚する前から、そしてわたくしと結婚してからも、数々の女と浮名を流していた・・だから、あの方が同性愛者であるなんて、知りたくなかったわ・・」「皇太子妃様、皇太子様はわたしの事を大切な友人と思って下さり・・」「“ただの友人”の肖像画を、夫が大切そうに部屋に飾るかしら?」「え?」「汚らわしい・・悪魔は、祓わなければならないわ・・」「皇太子妃様?」 シュテファニーの様子が少しおかしい事に気づいたアルフレートは、すぐに部屋から出ようとしたが、外から鍵が掛けられていた。「誰か、開けて下さいっ!」「逃がさないわよ・・」 いつの間にか、己の背後にシュテファニーが立っていた。 その手には、デザートナイフが握られていた。「渡さないわよ・・エルジィも、あの人も・・」 シュテファニーは、虚ろな目でアルフレートを睨みながら、彼の腕を掴んだ。「どこまであの人はわたくしに恥を掻かせるの・・持参金目当て、偶々同じカトリック教徒の王女だった・・唯それだけで、あの人の妻になり、愛されようとしたのに、あの人は・・」「皇太子妃様、落ち着いて下さい・・」「うるさい!あなたに何が・・あの人に一度も愛されず、蔑ろにされ、性病をうつされ、二度と子供が産めなくなったわたくしの気持ちなんてわからないわ!」 感情を爆発させたシュテファニーは、アルフレートにデザートナイフを向けた。「今ここであなたの宝石のような美しい翠の瞳を抉り取ったら、あの人はどう思うのかしらね?」 シュテファニーがデザートナイフをアルフレートの頭上に振り翳した時、乱暴に部屋の扉が開かれ、ルドルフがシュテファニーからデザートナイフを取り上げた。「あなた、邪魔をしないで!」「気でも狂ったか、シュテファニー!」「皇太子妃様、どうかなさいましたか!?」「皇太子妃は気鬱の病に罹り、乱心した。暫く実家で療養する故、急ぎベルギー王家へ知らせよ。」「は、はいっ!」「あなたは、何処までわたくしに恥を掻かせるのっ!」「これ以上恥を掻きたくないのなら、すぐに実家へ帰れ。」「うわぁぁ~!」 シュテファニーは発狂し、その場に崩れ落ちた。「行くぞ。」「ですが、皇太子妃様が・・」「あいつは、放っておけ。」 この一件は、王宮内に箝口令が敷かれた。 シュテファニーは謎の伝染病に罹り、その“療養”の為、暫く実家に戻る事になった。―やっぱり、ねぇ・・―最初からあの方は皇太子様とは合わないと思ったのよ。―あのシャルロッテ様の姪だもの・・「わたしは最初からシュテファニーとの結婚に反対していたのよ。ベルギー王家出身というだけでも気に入らなかったというのに・・」「皇妃様、お声が・・」「あら、誰も聞かれていないからいいじゃないの。」 エリザベートは、皇帝主催の晩餐会でそのような事を言って、その場に集まった者達を凍りつかせた。 その後、フランツ=ヨーゼフが何とか凍りついた気まずい空気を変えようとしていたが、晩餐会はそのままお開きとなった。「まったく、お母様はどうしてあんな事を言ったのかしら?」「さぁね。それよりも、ルドルフ兄様が何も言わなかったのが、気になるな。」 フランツ=サルヴァトールは、晩餐会の間一言も発しなかったルドルフの事が気にかかっていた。「お兄様は、これからの事を色々と考えていらっしゃるじゃない?余りご自分の考えを昔からおっしゃらない方だから・・」「まぁ、そうだよね・・」「とにかく、エルジィや義姉上様との事はお兄様に任せるしかないわ。」 マリア=ヴァレリーがそんな事をフランと話している頃、ルドルフはエルジィを寝かしつけていた。「お父様、お父様はずっとエルジィの傍に居てくれるわよね?」「あぁ、ずっと傍に居るよ。だから、安心してお休み。」「お休みなさい、お父様。」 ルドルフはエルジィの額にキスをすると、彼女の部屋から出て行った後、スイス宮にある私室へと戻った。「ルドルフ様、お待ちしておりました。: ルドルフが私室の扉を開けると、そこには何処か憂いを帯びた表情を浮かべているアルフレートの姿があった。「珍しいな、お前がわたしの所に予告なしに来るなんて。」「少し、聞きたい事があるのです。」「聞きたい事?」「皇太子妃様の事は、全てあなたが仕組んだものですか?」「何の話だ?」「皇太子妃様を、ホーフブルクから追い出す為に、あのような事を・・」「だとしたらどうする?わたしが恐ろしいか、アルフレート?」「ルドルフ様・・」「お前は殺さないから、安心しろ。」「ルドルフ様、あ・・」「お前は何も考えるな。」 ルドルフはアルフレートを寝室へと引き摺り込むと、アルフレートの首筋を強く噛んだ。「ルド・・」「アルフレート、お前は“わたしだけ”のものだ。決して忘れるな。」 ルドルフの蒼い瞳は、狂気で濁っていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月27日
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クロニクル千古の闇シリーズ、まさかの続編が出ていると知り、早速図書館で借りて読みました!いやあ、波乱づくしの展開にこれからなりそうな予感がしますね。完結まで読もうと思います。
2024年11月27日
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事件の犯人はあのコメンテーターが怪しいなぁと思っていましたが、真犯人が意外な人物で驚きましたね。伊岡瞬さんの作品は面白いのですが、残酷描写が多いので、苦手な方はこの作品を読まない方がいいかもしれませんね。
2024年11月26日
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静岡県で起きた一家四人殺害事件、通称袴田事件ー冤罪であるというのに死刑囚として58年も刑務所に囚われ、再審で無罪となり自由の身になった袴田巖さん。検察側の物的証拠が捏造されていたもので、警察·検察側が作ったストーリーによって死刑囚にされた。連日警察で12時間もの取り調べを受け、精神的に深い傷を追った袴田さん。何というか、真犯人は捕まらないままのうのうと生きて、無実の罪となった袴田さんは、58年もの歳月を奪われた。罪は消えても、時間は取り戻せない。後味が悪い事件です。袴田事件の他に、冤罪で死刑にされた事件がありますよね。警察·検察は、袴田さんを犠牲にして何を得たんでしょうか?
2024年11月25日
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最初から最後まで面白くて一気読みしてしまいました。
2024年11月24日
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ハイキング中に森で迷子になった9歳の少女トリシア。森で必死に生き延びようとしている彼女の姿をリアルに描いていて、これからどうなるのか気になってページを捲る手が止まりませんでした。
2024年11月23日
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兄の死の真相を探るため、故郷に戻ってきたローガン。ローガンが凛としていてカッコよかったし、ラストまで一気読みしてしまうほど面白かったです。
2024年11月23日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「長い間、お世話になりました。」 大岩家に奉公する事が決まり、アルフレートは遠縁の叔父夫婦にそう挨拶すると、上座に居た叔母が、彼に金を渡した。「少ないけれど、あんたは働き者だったから、持っておゆき。」「ありがとうございます。」 アルフレートは、叔父達の部屋から出ると、世話になった従業員達と芸妓達に挨拶回りをした。 皆、アルフレートとの別れを惜しみ、中には今生での別れとばかりに大袈裟に泣く者も居た。「碧お嬢様に苛められたら、すぐに帰って来るんだよ。」 鈴駒は、そう言うとアルフレートに竹の皮に包まれた握り飯を手渡した。「これ位しかしてやれないけれど、元気でね。」「はい・・」「翠、お前本当の名はアルフレートというんだね?」 鈴駒の元へと向かったアルフレートの後を密かに尾行していた碧―ルドルフは、そう言うとアルフレートの前に立ちはだかった。「お、お嬢様・・」「これからお前の事をアルフレートと呼ぶよ。」「は、はい・・」「早く来なさい、汽車の時間に遅れてしまいますよっ!」 ルドルフが日焼けしないよう日傘を彼の上にさしていた大岩家の女中頭・きよに怒鳴られ、アルフレートは慌てて彼らの後を追った。(これが、汽車か・・) 駅に停まる汽車を初めて見たアルフレートは、その大きさに圧倒され、暫く汽車の前に立ち尽くしていた。「何を呆けているの、さっさと来なさい。」「は、はい!」「何をそんなに珍しがっているの?ただの汽車じゃないの。」「すいません・・初めて汽車を見たものですから、驚いてしまって・・」「これ位で驚くなんて、田舎者ねぇ。」 ルドルフはそう言ってアルフレートの言葉を鼻で笑うと、汽車の一等席に乗り込んだ。「お前は三等席へおゆき。切符をなくさないようにするんだよ。」「は、はい・・」 アルフレートが乗り込んだ三等席は、狭い座席に乗客達がすし詰め状態になって座っており、汽車が動く度に乗客たちの間から悲鳴と怒号が上がった。 汽車が東京に着くまで、アルフレートは鈴駒が作ってくれた握り飯を少しずつ食べた。「酷い顔をしているわね。」 走る蒸し風呂と化した三等席から辛うじてホームへと吐き出されたアルフレートを見たルドルフは、そう言って笑うと彼に自分の旅行鞄を手渡した。「これにはわたしの全財産が入っているから、失くしたら承知しないよ。」「は、はい!」 駅舎を出たルドルフ達を出迎えたのは、大岩家の家紋が入った車だった。「碧お嬢様、その子は・・」「あぁ、この子はわたしの世話係となった、アルフレートよ。アルフレート、お前は先に車にお乗り。」「え、いいんですか?」「さ、さっさと乗ってわたしをエスコートして頂戴。」 アルフレートはルドルフに言われるがままに、車の中へと乗り込むと、ルドルフが苛立ったような顔を彼に向けて来た。「あ、あのぅ・・」「“エスコート”も知らないなんて、本当に田舎者だねぇ、お前は。」 ルドルフは不快そうに鼻を鳴らすと、振袖の裾を摘まんで車の中へと乗り込んでいった。「頭が痒くて嫌になる。」「お家に着くまでの辛抱でございますよ、お嬢様。」 シャラシャラと、ルドルフがその頭を振る度に、美しい銀細工の簪が華奢な音を立てた。「もう桃割れを結うのは飽きたわ。お姉様にマガレイトでも結って貰おうかしら?」「それが良いでしょうね、お嬢様。」「あの、お嬢様・・」「なぁに?」「お屋敷に着いたら、僕は何をすればいいでしょうか?」「そんなの、自分で考えなさいな。」「は、はぁ・・」 やがて、ルドルフ達が乗った車は、白亜の宮殿を思わせるかのような美しい邸宅の前に停まった。「お帰りなさいませ、ルドルフ様。」「ただいま。ロシェク、お祖母様は?」「大奥様は、離れにいらっしゃいます。」「そう。」 車から降りたルドルフは、彼の執事・ロシェクと共に離れへと向かった。「あの・・」「この旅行鞄を、お嬢様のお部屋へ運んでおいておくれ。」「は、はい・・」 きよにルドルフの旅行鞄を押し付けられたアルフレートは、大岩家の玄関ホールで呆然と立ち尽くしていた。 誰かにルドルフの部屋の場所を尋ねようとしたが、使用人達は皆忙しく働いていて、声を掛けようとしても何処かへ行ってしまう。(どうしよう・・)「あら、貴方が、ルドルフが連れて来た子?」「は、はい・・僕、アルフレート=フェリックスといいます。」「わたしは百合子。本当の名前はジゼルというけれど、しきたりでこの家ではみんな和名で呼んでいるの、よろしくね、アルフレート。」「よろしくお願い致します、百合子お嬢様。」「二人きりの時は、ジゼルと呼んでいいわよ。」「ジゼル様、碧お嬢様のお部屋に行きたいのですが、案内して頂けないでしょうか?」「いいわよ。」 百合子―ルドルフの姉・ジゼルは、アルフレートをルドルフの部屋まで案内している間、色々な事をアルフレートに話した。「アルフレート、弟の事を、許してやって頂戴ね。あの子は、この家の唯一の跡取りだから、周りが神経過敏になってしまうの。その所為で、貴方に我儘を言ったり、困らせるような事を言ったりするかもしれないわ。でも、どんな事があっても貴方だけは、あの子の、弟の味方でいてやって頂戴。」「弟・・碧お嬢様の事ですか?」「ええ、そうよ。弟は―ルドルフは、家のしきたりで20を迎えるまで女装をしなくてはいけないの。」「しきたり?この家は呪われているという噂を聞いた事があるのですが・・」「その噂は本当よ。この家は、正確に言うとこの家の跡取りは皆、20を迎える前に亡くなっているの。」 ジゼルによれば、大岩家に産まれた男子は、20を迎える前に“何らかの形”で亡くなる者が多かったのだという。 このままでは家が滅んでしまうと危惧を抱いたジゼルとルドルフの祖母・厳子(いつこ)ことゾフィーは、大岩家の男子には、“鬼の血の呪い”をかけられているという事がわかった。 その呪いを退ける為、20を迎えるまで魔除けとしてルドルフを女装させる事に気づいたゾフィーは、本人や家族の意思を無視し、“しきたり”という口実でルドルフに女装を強いたのだった。「“鬼の血の呪い”?」「詳しくはわからないのだけれど、お母様の家系には、そういった血が流れているんですって。」「そう・・なんですか・・」 アルフレートがそう言って溜息を吐いた時、離れから耳を劈くかのような悲鳴が聞こえて来た。「誰か、誰か来てぇ、大奥様が~!」「何、一体何があったの!?」「碧お嬢様が、大奥様の目を・・」 ジゼルとアルフレートが離れへと向かうと、そこには片目を押さえて畳の上をのたうち回るゾフィーと、血塗れの簪を握り締めながらそんな祖母を冷たく見下ろしているルドルフの姿があった。 その数時間前、ルドルフはゾフィーに呼ばれ、彼女の居る離れへと向かった。「ルドルフ、最近のお前の行動は目に余ります。これまでにお前は何人も女中を辞めさせたと思って・・」「酷い事をおっしゃるのね、お祖母様。あの子達がわたしの癇に障るような事を言ったとは思わないの?」 そう言って自分を睨みつけるように見るルドルフは、9歳の幼子とは思えない程、恐ろしかった。「あぁ、やっぱりお前・・鬼弓家(ヴィッテルスバッハ家)の血をひいているわ!」「うるさい、糞婆。」 氷のような冷たく光る蒼い瞳でゾフィーを睨みつけたルドルフは、徐に髪を飾っていた一本の簪を抜き取った。「ひぃ、何をするつもり・・やめてっ!」「大奥様、お茶を・・きゃぁぁ~!」 ゾフィーは一命を取り留めたが、その後風邪をこじらせ、肺炎に罹って呆気なく亡くなってしまった。―大奥様が・・―まさか、こんなに呆気なく亡くなられるなんて・・―呪われているのよ、この家は。「アルフレート、何処に居るの?」「お嬢様、僕に何かご用でしょうか?」「髪を編み込みにしておくれ。」「わ、わかりました・・」 アルフレートが恐る恐るルドルフの金褐色の髪を櫛で梳いていると、ルドルフが鏡越しに彼を睨みつけて来た。「早くしなさいよ、この愚図!」「も、申し訳ございませんっ!」「もういいわよ、この役立たずっ!」 ルドルフはそう叫ぶと、アルフレートの頬を平手打ちした。「ルドルフ様、あの・・」「何なのよ、もう嫌っ!」 突然癇癪を起こしたルドルフは、そう叫ぶと鏡台の近くに置いてあった鋏を掴んでそれを振り回し始めた。「お嬢様、落ち着いて下さいっ!」「うるさい、うるさい!」 ルドルフと揉み合ったアルフレートは、その弾みで彼を突き飛ばしてしまった。「大丈夫ですか?」「うっ・・」「碧お嬢様、どうかなさいましたか?」「アルフレートが、わたしをぶった~!」 ルドルフは嘘泣きをしながら、涙で蒼い瞳を濡らしてアルフレートを睨むと、彼の胸を拳で叩いた。「わたしの事が嫌いだからって、酷い!」「碧お嬢様に何という事を!」「違います、僕は・・」「誰か、この子を蔵へ連れて行きなさい!」 アルフレートは必死に誤解を解こうとしたが、きよによって彼は蔵へと放り込まれた。 蔵は、埃が舞って暗く、何処か薄気味悪い場所だった。「アルフレート、食事を持って来たよ。」「ありがとうございます、ルドルフ様・・あの、どうしてあのような事を・・」「お前を試したのよ。今までわたしの元へやって来た子達は一日で辞めたけれど、お前は骨がありそうで安心したわぁ、これから苛め甲斐があるもの。」 そう言ってルドルフが笑った時、彼に牙のようなものがある事にアルフレートは気づいた。「アルフレート、ここではわたしに逆らわない方が身の為だよ。まぁ、お前はわたしが思っているよりもずっと、頭が良さそうだから、わたしが言っている意味、わかるわね?」「は、はい・・」「きよにはわたしの方から言っておくから、お前は一晩中そこで反省しておくんだね。」 そう言って蔵から出たルドルフの前に、彼の愛犬・アレクサンダー(黒)がやって来た。「おいで黒、部屋に戻ったらお菓子をあげようね。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月22日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「不細工だな、お前。」「ひぃ、ごめんなさい。」「お前はもう要らない。」 そう言った少女はくるりと背を世話役の女中に向けると、彼女の鼻先で襖を閉めた。―聞いたかい?あの家でまた女中が辞めたそうだよ。―これで何度目かねぇ?―まぁ、あそこの家は、呪われているから。「アルフレート、何こんな所で油売っているんだい、この穀潰しが!」「す、すいませんっ!」「まったく、何だってあの人達は・・」 両親を流行病で亡くし、孤児となったアルフレートは、遠縁の親族が営む料亭で休む暇なく働いていた。 経営者の親族はアルフレートに辛く当たったが、料亭の従業員達や料亭へ出入りする芸妓達には良くして貰っていた。「翠彦、また女将さんに苛められたんだろう?」“アルフレート”という名が長いので、アルフレートは彼女達から、“翠彦”、“翠の字”と呼ばれていた。「僕が、悪いから・・」「そんなに自分を苛めちゃ駄目だよ。あぁそうだ、これをあげようね。」 そう言って芸妓・鈴駒が懐から取り出したのは、何かが入った袋だった。「あの、これは・・」「お菓子よ。一人になった時に食べてね。女将さんに見つからないようにね。」「ありがとうございます。」「お礼は要らないわ。さ、早く仕事に戻って。」 アルフレートは鈴駒から菓子が入った袋を受け取り、それを大切そうに懐にしまうと、調理場へと向かった。「翠彦、丁度良い所に来た!これを“松の間”へ運んどくれ!」「はい!」 アルフレートが“松の間”へと料理を運んでいると、中庭の方から男の悲鳴が聞こえた。(今のは・・)“松の間”に料理を運んだ後、アルフレートが中庭へと向かうと、太い松の木の根元に、男が喉を掻っ切って死んでいた。 その男の前に、一人の少女が立っていた。 真紅の振袖を着て、金褐色の髪を桃割れに結い、豪奢な簪で飾った彼女は、鋭利な刃物を思わせるかのような蒼い瞳でアルフレートを見つめて来た。「お前・・」「その人、死んで・・」 少女の白い肌に、男の返り血と思しきものが飛び散っていた。「お前、見た所ここで働いている小僧だね?名前は?」「ぼ、僕は・・翠ですけど・・」「ひっ、人が死んでるっ!」「あの人、確か、うちの得意先の大岩さんじゃ・・」「碧お嬢様!」 アルフレートの背後から野太い男の声がした後、少女の前に一人の男が現れた。 その男は厳つい顔をしていて、その上長身なので、彼に睨まれたアルフレートは恐怖の余りその場に尻餅をついてしまった。「お前は、ここの子供だな?一体何を見た?」「僕は・・」「いい加減にして下さい、吉田大佐!碧お嬢様が怖がっているじゃありませんか!」 いつの間にか少女の周りには数人の女性達が少女を守るかのように取り囲み、男を睨みつけていた。「だがな・・」「碧お嬢様!?」 気を失っていた少女は目を覚ますなり、甲高い悲鳴を上げた。「あの人・・急に、喉を・・翠、あなたも見たわよね?」 縋るような目で少女に見つめられ、そう尋ねられたアルフレートは、咄嗟に嘘を吐いてしまった。「は、はい・・」「さ、碧お嬢様をここからお連れしないと!」「誰か、お医者様を!」「お嬢様、大丈夫ですからね!」 少女と彼女を取り囲んでいた大人達は、その場から立ち去った。 アルフレートは少女と擦れ違った時、彼女が笑っているように見えた。(え?) 男の死体が松の木の根元で見つかってから、数日が経った。「災難だったねぇ、あんたも。あんなものを見ちまったなんて。」「鈴駒さん、あの女の子は誰なんですか?ほら、金褐色の髪をした・・」「あぁ、碧お嬢様の事?あの方は、大岩家のお嬢様だよ。可愛らしい顔をして、気性が激しくてねぇ、何人もあの子の所為で辞めさせられたって噂で聞いているよ。それに・・あの家は呪われているからねぇ・・」「呪われている?」 アルフレートがそう言った時、彼の遠縁の叔母が血相を変えて使用人部屋に入って来た。「アルフレート、大変だよ!」「アルフレート=フェリックス殿、碧お嬢様の命により、あなたをお迎えに上がりました。」 訳も分からず、アルフレートは馬車に揺られながら、高台にある大岩邸へとやって来た。「碧お嬢様、例の者を連れて参りました。」「入って頂戴。」「し、失礼致します・・」 アルフレートが少女の部屋の襖を開けて中に入ると、そこには黒くて大きな犬が居たので、思わず彼は悲鳴を上げてしまった。「来たのね。」「あ、あの・・」「お前、あの時の事を話してないわよね?」「は、はい・・でも、自殺なんて許されない・・」「嘘吐きのお前も、神様はお許しにならないんじゃないの?ねぇ、お前は何処から見ていたの?」 少女はそう言うと、鋭い眼光でアルフレートを睨んだ。「僕、帰ります・・」「勝手な事は許さないよ。お前はわたしと一緒に東京へ行くのよ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月22日
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ハプスブルク家の不死鳥と称された、フランツ=ヨーゼフの波乱万丈な生涯を描いた本。ハプスブルク家関連書籍は、もっぱらエリザベートや彼女の一人息子ルドルフ様のものしかなく、フランツ=ヨーゼフの生涯を扱った本は斬新で、彼が生きた時代背景が詳しく描かれていてよかったです。しかし、フランツ=ヨーゼフは、ルドルフ様の政治的思想を理解してあげたほうがよかったのかもしれません。歴史に「もしも」はありませんが、フランツ=ヨーゼフがルドルフ様に譲位していれば、マイヤーリンク事件も、第一次世界大戦も、帝国滅亡も起きなかったかもしれませんね。まあ、たとえそうなったとしても戦争は避けられませんが…
2024年11月22日
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アレックス·カーヴァーのスリラーサスペンス。最初から最後までページを捲る手が止まらないほど面白かったです。
2024年11月22日
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甘辛くて美味しかったです。
2024年11月21日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。平井摩利先生の「火宵の月」パラレルです。原作とは若干設定が違っています。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。(全く、なんなんだ、あの男はっ!) シエルはミカエリス邸に広大な庭にいる雑草を怒りに任せて次々と引き抜いていった。というのも、昨夜シエルはセバスチャンに夜這いしたが、失敗し、魔除けの札を額に貼られた挙句、“居候なのだからわたしが仕事で留守にしている間、雑草取りをお願いしますね。”と、今朝彼からそう言われたのだった。「はぁっ、はぁっ・・」 朝からずっと雑草取りをしていた所為か、シエルは少し疲れてしまい、セバスチャンの部屋に入って、そのまま体を丸めて眠ってしまった。「何ですか、これは?」「さぁ?」「賊除けの猫かもしれませんわ。」(随分と可愛い賊除けですね・・) セバスチャンは半ばシエルに呆れながらも、彼を御帳台の中に寝かせた。「ん・・」 鳥のさえずりと共に、シエルが寝返りを打っていると、何かが手に触れる感覚がした。「あれ・・わぁぁっ!」「うるさいですね・・」 セバスチャンは、そう言うと軽く舌打ちした。「なんで・・」「ここはわたしの部屋ですよ。そこへ泥だらけのあなたが入って来て寝てたんですからね。」「う・・」「さてと、一緒に風呂にでも入りますか。このまま泥だらけだと、部屋が汚れてしまいますからね。」 セバスチャンはそう言うと、シエルを軽々しく担いで湯殿へと向かった。「まぁ殿、どうかなさいましたの?」「風呂の用意は?」「出来ております。」「ありがとう。」「何をする、離せ!」「大人しくなさい!」 セバスチャンは自分に爪を立てるシエルと暫く格闘した後、何とか彼を綺麗にした。「全身傷だらけですね。たかが雑草取りでそんなに傷だらけになるものなのですか?」「うるさい・・」 そう言ったシエルは、セバスチャンにそっぽを向いた。「言っただろう、毎日仲間からいじめられてきたって・・」「そうでしたか。嫌な事を思い出させてしまったようで、すいません・・」「別に、今はどうでもいい。」 セバスチャンはそう言って強がるシエルを少し心配していた。「もうあがってもいいか?」「ええ、構いませんよ。」 風呂から上がったシエルは、溜息を吐くと自分の部屋へと戻り、不貞寝した。「セバスチャン様、あの子をこれからどうなさいますの?」「あの子、とは?」「シエルちゃんの事ですわ。」「あの子は、まだ子供ですから、あの子の傷が癒えるまでここに置いておきますよ。」「まぁ、あの子に寝首を掻かれるような事があったらどうなさいますの、殿?」「そんな事はないでしょう。」 セバスチャンがそんな話をしながら式神達と笑っていると、彼は偵察を命じていた式神が動く気配を感じた。「殿、どうかなさいました?」「どうやらまた、“奴ら”が動き出したようです。」「まぁ・・」「少し、出掛けてきます。」 セバスチャンはそう言うと、女物の衣を纏って屋敷から出た。(この妖気、やはり・・)「助けて、助けて下さいまし、そこの方!」 悲鳴と共に、一人の女がセバスチャンに抱きついて来た。「どうかなさいましたか?」「化猫が、化猫が大勢向こうに・・」「化猫?」 セバスチャンがそう言って再び女の方を見ると、女は口端を上げて笑った。「かかったな、セバスチャン。」 その女の全身から強い妖気を感じたセバスチャンが女に向かって筮竹を投げつけると、女は怒りに任せてセバスチャンの顔を引っ掻いた。「セバスチャン、大丈夫か!?」「式神、あいつを追え!」 女に引っ掻かれた目が毒で痺れ始め、セバスチャンは堪らずその場に蹲った。「その血は・・」「化猫に引っ掻かれました・・クソ、もう身体が痺れて来た・・」 セバスチャンがそう言って毒づきながらシエルの方を見ると、彼は蒼褪めた顔をしていた。「どうしました?」「血が苦手で・・」「しょうがない子ですね・・猫族の爪には毒があるんですよ、そんな事も知らないんですか?」「中和してやる。」「猫族の毒を中和してくれるのですか?」「あぁ・・」 シエルは少し顔を赤らめると、セバスチャンの目に軽く口づけた。 その時、シエルの左耳を飾る蒼玉の耳飾りが、セバスチャンの頬に触れた。(あぁ・・これは・・) 蒼玉の冷たい感触が心地良く、セバスチャンはいつの間にか眠ってしまった。 何かが暗闇の中で動く気配がしてセバスチャンがうっすらと目を開けると、シエルが何処かへ出掛ける所だった。 セバスチャンは、シエルを尾行する事にした。 するとシエルは、野猫族の巣へと向かっていた。「来たのか、シエル。」「あの陰陽師をちゃんと骨抜きにしたんだろうなぁ?」「したに決まっているだろう。僕を誰だと思っている。」 そう虚勢を張ったシエルの声は、微かに震えていた。「へぇ、そうかい。だったら、何でその陰陽師を殺さねぇんだ?」「そ、それは・・」「へ、そんな事だろうと思ったぜ。やっぱり、お前は落ちこぼれだなぁ。」 野猫族の一人がそうシエルを嘲るような口調で言うと、仲間達がどっと笑った。「やっぱり、こいつは使えねぇなぁっ!」「半端者には、半端者がお似合いだぜっ!」「今、何て言った?」「半端者だよ、お前も、あの陰陽師も!」「そうさ、あの陰陽師は、人にも、鬼にもなれない奴さ!」「うるさい、黙れ!」 シエルはそう叫ぶと、自分とセバスチャンを罵った野猫族の顔を爪で引っ掻いた。「畜生、目が!」「あいつの仇だ!」「テメェ、ふざけやがって!」 シエルに目をやられた野猫族は、断崖の下にある池へと彼を突き落とした。「はっ、ざまぁねぇな!」「行くぞ。」(苦しい・・息が出来ない・・) 池の中で、シエルは苦しそうに手足をバタつかせ、必死に息をしようとしていたが、ますます苦しくなるだけだった。(僕は、ここで死ぬのか・・?) 遠のいてゆく意識の中でシエルがそんな事を思っていると、誰かが自分を水底から引き摺り出してくれた。「よく頑張りましたね、シエル。」「セバスチャン、お前・・」「へっ、丁度いい、まとめて始末してやらぁっ!」 シエルを助けたセバスチャンを、野猫族は取り囲んだ。「これで終わりだ、セバスチャン=ミカエリス!」「それは、あなた達の方でしょう?」 セバスチャンはそう言うと、宙に浮かんだ。「な、なにぃ!?」「宙に浮かんだだと!?たかが鬼の子にそんな真似が出来る訳・・」「たかが鬼の子?違いますね、わたしを産んだ母は、鬼王の娘、齢二千年の鬼女なのですよ。そんな鬼女の血をひくわたしが、宙に浮くなど朝飯前ですよ?」 セバスチャンはそう言って野猫族に向かって薄笑いを浮かべると、祭文を唱え、彼らを水の中へと閉じ込めた。「何だ・・」「あれは、稲光・・」「まさか・・」「あなた方には、ここで死んで頂きます。」 水の牢獄で、野猫族達は雷の犠牲となった。「シエル、こっちへ!」「セバスチャン!」 シエルは、セバスチャンに抱きついた。「何故、シエルだけ・・」「わたしにとって、彼は何物にも得難い宝なのですよ。」 セバスチャンはそう言った後、シエルを抱き締めた。「ん・・」「気が付きましたか?」「ああっ・・って、どうして僕とお前は裸なんだ!?」「人肌の温もりが、あなたの身体にいいと思いまして。」「僕は、これからどうすれば・・」「ここに居てもいいのですよ。」「え、本当にいいのか?」「ここで会ったのも何かの縁ですからね。」 こうして、シエルとセバスチャンの奇妙な同居生活が始まった。 とはいえ、セバスチャンは多忙で殆んど家を留守にしているので、シエルはいつもセバスチャンの式神達の着せ替え人形になっていた。「キャ~、これも似合うわ!」「次はこれもどう?」「そうしましょう!」「なぁ、いつまでやるんだ?」 シエルは少し疲れて来て、苛々した口調でセバスチャンの式神達にそう言った後、彼女達は一斉に正門の方へと向かった。「シエルちゃんも来て!」「お、おい・・」 セバスチャンの式神達に急に手を引っ張られ、シエルは袴の裾を踏んで転びそうになったが、セバスチャンがシエルを抱き留めた。「おやおや、誰かと思ったら、馬子にも衣裳ですね。」「う、うるさいっ!」 シエルをそうからかっていたセバスチャンだったが、その顔は何処か嬉しそうだった。(あらあら・・)(殿も満更ではなさそうね・・)(着飾らせた甲斐があったわね~) セバスチャンの式神達がそんな事を囁き合っていると、屋敷に何者かが近づく気配がした。「誰かしら、こんな時間に?」「さぁ・・」(この臭い、まさか・・)「セバスチャン、どうしたんだ?」「いえ、何でもありませんよ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月21日
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7年位前に読みましたが、最近再読しました。いやあ、これは頭をまっさらにして読むのが一番いいですね。アガサ·クリスティー作品の中でも一番お勧めしたい作品です。
2024年11月20日
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素材表紙は湯弐さんからお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意下さい。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。(うわぁ、本当に来ちゃったんだ、俺。)東郷海斗は、目の前にずっと憧れているファッションデザイナー、フランシス=ドレイクが居る事が未だに信じられなかった。日本を代表するアパレルブランド・TOGOの社長一家の長男として産まれた海斗は、自然とファッションに興味を持つようになった。9歳の時に渡英し、寄宿学校を卒業した海斗は大学に進学せず、英国王立刺繍学院で刺繍とデザインを学び、卒業後はパリでデザイナーとしてデビューする事を夢見ながら、アルバイトと勉学に明け暮れる日々を送っていた。デザイナー、作家、音楽家―芸術に携わる人間が稀にプロデビューして脚光を浴びても、それを長く維持する事は難しい。だからこそ、ファッション界に君臨するフランシス=ドレイクの存在は、世界中からデザイナーを志す者達の憧憬の的となっている。そんな憧れのドレイクに海斗が声を掛けられたのは、海斗がパリで暮らし始めて半年が過ぎた頃だった。海斗は、自分が好きな16世紀のファッションと、日本の“カワイイ”文化を融合させたドレスをパリの大手ブランドのコンペティションに応募したが、二次選考で落選した。(やっぱ、パリは厳しいなぁ・・)海斗がそんな事を思いながら、家計簿とにらめっこしていると、電話がけたたましく鳴った。「アロー?」「カイト=トーゴ―様ですね?わたくし、フランシス=ドレイクのマネージャーをしております、ニコラスと申します。」「は、はい・・」「キャプテンが、今週末ヴェルサイユ宮殿にて開催されるファッションショーのスタッフに、あなたを加えたいとおっしゃっています。」「是非、参加させて下さい!」こうして、海斗はひょんな事からプロのデザイナーとしてフランシス=ドレイクのファッションショーのスタッフとして参加する事になった。流石、一流デザイナーが手掛けるファッションショーだけあって、ショーのスタッフやモデルも一流揃いで、海斗は自分がまるで夢の世界の住人になったかのような気分になった。(俺、こんな所でやっていけるの?)海斗が所在なさげに会場を歩いていると、彼は一人のモデルとぶつかってしまった。「すいません・・」「見ない顔ね、新入りの子?」淡褐色の髪を揺らし、全身ハイブランドの黒い膝上のワンピース姿のモデルは、そう言うと海斗を見た。「綺麗な赤毛ね、染めているの?」「は、はい・・」「可愛い子だね。特に目がいいね。抉り出して食べちゃいたい。」「ラウル、ここに居たのか。」海斗がモデルに怯えていると、そこへダークスーツ姿の男がやって来た。「じゃぁね。」(あ~、怖かった。)「カイト、来たのか!」「は、はじめまして・・」「そんなに緊張しなくて良い。君のドレス、斬新なデザインで良かったよ。」「ありがとうございます!」ファッションショーの衣装合わせの為、海斗はあるモデルの控室へと向かった。「失礼します・・」「どうぞ。」英国のトップモデルで、今世界中で人気沸騰中のジェフリー=ロックフォードは、金髪碧眼の美男子だった。彼は洗い晒しのデニムにライダーズジャケットというラフな格好をしていたが、彼の美しさというか、彼の纏っているオーラはそれだけでは半減するものではなかった。「見ない顔だな、お前。」「カイト=トーゴ―です。」「その髪は、地毛か?」「いいえ、染めているんです。」「へぇ、そうか。お前、いくつだ?」「今年で22になります。」(何この人、距離が近い・・)海外で長く暮らしていた海斗は、日本人よりも欧米人の方が、パーソナル・スペースが狭いという事は知っていたが、余りにも近過ぎる。しかも、宝石のような蒼い瞳で見つめられると、何処か落ち着かなくなる。「あの・・」ジェフリーは、海斗の顎を掴んで自分の方へと彼を向かせると、その唇を奪った。(うわぁぁ~!)海斗はジェフリーから逃げようとしたが、彼に腰を掴まれ、逃げられなかった。「ん・・」「可愛いな、もしかして初めてか?」「何すんだ、この変態!」「ジェフリー、その顔どうした?」ジェフリーのマネージャー、ナイジェル=グラハムが親友の控室に入ると、彼は顔に赤い手形のようなものが残っている事に気づいた。「いやぁ、可愛い子にキスしたら・・」「あんた、また悪い癖が出たな!」ナイジェルはそう言ってジェフリーを睨んだ。「あんたの男癖の悪さで、俺がどれだけ苦労していると思っているんだ?」「そう怒鳴るな。俺は、“来る者は拒まず”の主義なんでね。」「あんたって奴は・・」ナイジェルは溜息を吐くと、黒褐色の髪を掻きむしった。「それで?あんたの可哀想な被害者は、何処のどいつだ?」「22歳のキュートな日本人さ。」「ショーが終わるまで、そいつには手を出すなよ!」「わかったよ。」(あ~、何なんだよあいつ!挨拶代わりに舌入れるなんて有り得ねぇだろ!)海斗はショーの衣装合わせの為、ドレイクと共に衣装部屋へと向かった。そこにはドレイクの最新作がずらりと並べられていた。「すげえ~!」「驚くのはまだ早いぞ。今日のショーには、君が好きな16世紀の衣装からインスパイアされた作品が出るから、楽しみにしておけ。」「はい!」世界遺産であるヴェルサイユ宮殿を貸し切ったファッションショーとあってか、各国のメディアが集まり、その様子をネット配信していた。「おい、37番の衣装は何処だ!」「わたしのネックレスを出して!」ステージは大盛り上がりだが、バックステージは殺伐としていた。「カイト、大丈夫か?」「はい・・」海斗は少し頭がボーっとしていると、丁度そこへジェフリーがやって来た。彼は真紅のマントをイメージしたコートを羽織っており、まるで16世紀の海賊がそのままタイムスリップして来たかのようだった。「俺に触るな~!」「あ~あ、すっかり嫌われたな。まぁ、これから長く付き合う事になるから、宜しくな。」「え~!」「ジェフリー、もうすぐ出番だぞ!」「あぁ、わかったよ!」ショーのトリを飾ったジェフリーは、華麗に鏡の間を歩いた。ショーが大成功に終わり、海斗はホッと安堵の溜息を吐いた。ショーの後、ドレイクはパリ郊外にある自宅でパーティーを開いた。そこには各国の政財界の要人や王族、貴族などが出席し、海斗はその豪華さに目が眩みそうだった。(この格好、デザイナー失格じゃん・・)海斗はこの日の為に一張羅のスーツを着ていたのだが、周りの洗練されたファッションを見ていたら、何だか出来の悪い七五三のように見えてしまう。(どうせなら振袖でも着て行けば良かったなぁ。)日本人デザイナーだから、自国の民族衣装である着物の事を学んで来た海斗は、友恵が成人祝いの為に贈ってくれた赤地に大牡丹の刺繍が施された大振袖を着てくれば良かったと、今更ながら後悔した。「うわっ!」「すいません、お怪我はありませんか?」「いいえ、大丈夫です。」ボーっとしていた所為か、海斗は給仕係とぶつかり、スーツがワインで汚れてしまった。「こちらへどうぞ!」「ありがとうございます。」海斗がドレイク邸の部屋でスーツを脱ぎ、畳紙に包んでいた大振袖と帯紐、帯締め、帯と肌襦袢をスーツケースから取り出すと、大振袖に着替えた。海斗が帯を締めていると、衝立の向こうから部屋に誰かが入って来る気配がした。「ねぇジェフリー、こんな所でするの?」「いいだろう?」(おいおい、こんな所で乳繰り合うなよ!)衝立の向こうから、恋人達の喘ぎ声が聞こえ、海斗は出るに出られなくなった。「んもぉ、マネージャーが呼んでる。またね、ジェフリー。」「あぁ。」漸く二人の時間が終わった後、海斗が溜息を吐きながら衝立の中から出ると、長椅子には胸元をだらしなく開けたジェフリーの姿があった。その逞しい胸元には、恋人がつけていたと思われるキスマークが無数に散らばっていた。ジェフリーは気だるげな視線を海斗に送ると、舐めるように海斗の振袖姿を見た。「へぇ、似合うなぁ。」「あんた、まだ居たのかよ!?」「キスの続きをさせてくれないのか?」ジェフリーはそう言うと、おもむろに長椅子から立ち上がり、海斗の振袖の身八つ口に手を入れて来た。「何をする、離せ!」「ジェフリー、何をしている!」扉が開き、ナイジェルはそう叫んでジェフリーを海斗から引き離した。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月19日
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映画は観たことがありますが、原作は初めて読みました。とても面白かったです。主人公のマークが逞しいし聡明で、警察官と対等に渡りあう姿がいい。弁護士レジーもカッコいいです。
2024年11月19日
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スティーブン·キング作品はホラーばかりかと思いましたが、こういったハードボイルドな作品もあるんですね。読み応えがあって、時間を忘れるほど夢中になりました。
2024年11月18日
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※画像はDVDのジャケットです。1995年の映画の原作。読みながら、はじめてパソコンに触った時のことを思い出しました。面白くて一気読みしてしまいました。フロッピーディスクが懐かしかったです(笑)
2024年11月17日
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「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。コツコツ、と、上質な靴音が自分の部屋へと近づいて来るのを感じて、アルフレート=フェリックスは痛む身体を引き摺りながら、浴室から出てバスローブを羽織った。ガチャリ、と、外界とこの部屋を繋ぐドアが開かれ、部屋の主であるオーストリア=ハンガリー帝国皇太子・ルドルフが入って来た。「ルドルフ様、お帰りなさいませ。」「これを着ろ。」そう言ってルドルフがアルフレートに見せたのは、彼の瞳の色と同じ、美しい翠のドレスだった。「あの、これは・・」「身支度は彼女達がする。」アルフレートは訳がわからぬまま、女官達によって細いウェストを更にコルセットによって締め付けられ、かつらを着けられ、薄化粧を施された。「アルフレート様のお肌は、肌理が細かくて、羨ましい限りですわ。」「頬の傷があっても、その美貌が衰える事がありませんわね。」「そうですか?」アルフレートは、己の美貌に無関心だった。バイエルンの片田舎の寒村に生まれ、華やかな世界とは無縁の、清貧ありきの聖職者として生きていたので、こうして化粧やドレスでその身を飾る事などなかった。「支度は整ったか?」「はい。」ルドルフは、美しく変身したアルフレートに見惚れて一瞬溜息を吐いたが、すぐにいつもの顔に戻った。「胸元がさびしいな、これを。」ルドルフがそう言って女官に手渡したものは、ダイヤモンドとエメラルドの豪奢なネックレスだった。「このようなもの、頂けません。」「外は冷えるから、これを。」ルドルフはアルフレートに黒貂のコートを羽織らせると、そのまま彼をエスコートして馬車に乗った。「あの・・」「久し振りの外出だというのに、何故浮かない顔をしている?」そう言ったルドルフの蒼い瞳は、柔らかな光を放っていた。「これから、どちらへ行かれるのですか?」「プラハ国立歌劇場だ。今夜は、“カルメン”が上演されるそうだから、一人で観るのもつまらないから、こうしてお前を連れて来たが、嫌か?」「いいえ・・」プラハ国立歌劇場には、ドレスや宝石で着飾った貴婦人達が集まっていた。彼女達の専らの関心事は、ルドルフ皇太子の結婚相手の事だった。ルドルフは現在20歳、まさに結婚適齢期である。母・エリザベートの美貌を受け継ぎ、聡明な頭脳の持ち主である彼が載っている新聞や雑誌の写真を切り抜き、部屋の壁や写真立てに飾ったりして眺めるのが、ウィーンやプラハ、ブタペストの娘達の間で流行っていた。「皇太子様のお相手は、どなたなのかしら?」「きっと、ベルギー王家のどなたかを娶られるのでしょう?」「まぁ、そうなるでしょうね。」「でもベルギー王家の方だと、シャルロッテ様の事がね・・」「そうよね・・」ルドルフの叔父・マクシミリアンがメキシコで処刑され、彼の妻であるベルギー王女・シャルロッテが狂気の中を彷徨っているというのは、社交界中では周知の事実だった。年が近く、同じカトリックの王女といえば、ベルギーのシュティファニー王女か、ザクゼンのマティルデ王女しか居ない。マティルデ王女は物静かで思いやりがあり、慈善事業に熱心であるのに対し、シュティファニー王女は叔母と同じ思想・性格だった。自由主義思想を持ち、各民族の独立運動に対して常に関心を持ち、更にジャーナリストとして天賦の才能を持つルドルフが選ぶのはどちらなのか―貴婦人達がそんな事を囁き合っていると、ルドルフが国立歌劇場のロビーに現れた―美女を連れて。夜の闇のように艶やかで、人魚のように美しい黒髪を結い上げ、新緑を思わせるかのような翠の瞳を持った彼女は、まるで清らかな天使のようだった。「みんなが、お前の美しさに見惚れているぞ。」「ルドルフ様・・」ロイヤルボックスで“カルメン”を鑑賞しながら、ルドルフは時折美しく変身したアルフレートを見ていた。彼の胸元を飾るダイヤモンドよりも、アルフレート自身が美しく輝いていた。早く彼を抱きたいと、ルドルフの奥底で欲望の火が燻っていた。「アルフレート、初めて観るオペラはどうだった?」「とても悲しいお話でしたが、素晴らしかったです。」「カルメンのような、情熱的な恋をしてみたいか?」「いいえ、わたしにはそのような事は出来ません。わたしには、あなた様しか居ません。」「そうか・・」帰りの馬車の中で、アルフレートは少し恥ずかしそうに、ルドルフにキスした。「お前からのキスは、久し振りだな。」「ルドルフ様・・んっ・・」ルドルフは堪らず、アルフレートの唇を貪った。「いけません・・」ルドルフの手が己の下肢をまさぐって来たので、アルフレートはそう言って彼から離れようとしたが、それがかえってルドルフの欲望を煽ったらしく、彼はアルフレートのドレスの中へと潜り込み、アルフレートの秘所を舌で愛撫した。「あっん・・」「感じているのか?わたしはここで、お前を抱きたいと思っている。」「そ、そんなの・・」「どうする、このままやめたら後で辛いぞ?」「抱いて下さい・・」馬車の中で、ルドルフがアルフレートのドレスを脱がすと、彼の秘所からは蜜が滴り落ちていた。「キスだけで、こんなに感じているのか?」「ああ・・もう・・」「アルフレート、愛している・・」ルドルフが自分の中に挿入ってくるのを感じ、アルフレートは躰を弓なりに反らしながら絶頂に達した。「ここだと風邪をひくな。」ルドルフはそう言って黒貂のコートでアルフレートを包むと、馬車から降りて屋敷の中へと入った。「ルドルフ様、これ以上は・・」「夜は、まだ始まったばかりだ。」ルドルフは、アルフレートを寝台の上に寝かせた。「今夜は、寝かせない。」ルドルフの、氷のように蒼い瞳は、アルフレートの薄い腹へと向けられていた。「わたしは、ただあなた様と居るだけで・・」「それでは足りない。」「ルド・・」「今夜は、全てわたしにその身を委ねろ、アルフレート。」どこから、間違ってしまったのだろう。アルフレートは、ルドルフに己の身を委ねながら、ルドルフが自分の“秘密”を知った夜の時の事を思い出していた。それは、ルドルフと彼の母・エリザベートと共に渡英した数日後の事だった。アルフレートが血で汚れたシーツを洗っているのを見たルドルフは、その血が誰のものなのかをアルフレートに尋ねた。アルフレートは一瞬答えに窮したが、ルドルフに誤魔化せないと思い、自分が半陰陽である事、シーツについた血は己の経血である事を告げた。「子は、産めるのか?」「月経があるので・・」「そうか。」あの時から、自分達の関係が大きく変わってしまったと、アルフレートは思っていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月17日
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「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 2000年、オーストリア・ウィーン。 その年の冬、ウィーン・オペラ座では、ミュージカル・エリザベートが上演されていた。 19世紀末、ハプスブルク家、オーストリア=ハンガリー帝国皇后・エリザベートの激動の生涯を描いたミュージカルを、一人の青年が複雑な表情を浮かべながら鑑賞していた。何故なら、“彼”は、“本物”の彼女を知っているから。娯楽作品として、多少の脚色が必要であるというのは頭でわかっているのだが、モヤモヤとした思いを抱えながらミュージカルを観ていた。そんな中、“彼”は誰かに“視られている”事に気づき、周囲を見渡すと、美しい宝石を思わせるかのような翠の瞳と視線がぶつかった。(彼は・・) ミュージカルが終わった後、“彼”はあの翠の瞳の持ち主を捜しに、オペラ座のロビーを駆けた。(何処に、何処に居るんだ!) 血眼になって“彼”がロビーに居る客達の姿を見ていると、再び視線を感じた。「あ・・」「漸く、会えた・・」“彼”は、蒼い瞳で翠の瞳の持ち主を見つめ、そう言った後、“彼”の唇を塞いだ。「ルドルフ様・・」「やっと、わたしの名を呼んでくれたな、アルフレート。」「会いたかったです、ルドルフ様。」「まさか、こんな所で再会するとは思っていなかったな。」「わたしもです。」「何処か、静かな所で話そうか。」「はい。」 オペラ座を出た二人は、カフェへと入った。「懐かしいですね、このカフェ。昔、あなた様とここでコーヒーを頂きましたね。」「あぁ、そうだったな・・」 ルドルフは湯気が立っているコーヒーを一口飲みながら、自分を見つめている翠の瞳の持ち主―アルフレートと出逢った日の事を思い出していた。 その頃のウィーンにはまだ、城壁が街を取り囲んでいたが、アルプスの近くの山村で暮らすルドルフ―ルドヴィカにとって、ウィーンは寓話に登場する夢の国のような場所だった。「ルドヴィカ、早く起きなっ!」「はぁ~い。」(朝からうるさいのよ、クソ婆。) 教会から鳴り響く鐘の音より前に、ルドヴィカは養母の怒鳴り声を目覚まし時計代わりに起きた。 ちらりと横目で鏡に映る己の姿を見た彼女は、素早く乱れた己の髪を手櫛で整え、一階へと降りていった。「漸く起きたね!ルドヴィカ、これをベルジック家の奥様の元へと届けて来な!」「え~、母さんが行ってよ~」「あたしはパンを焼くのに忙しいんだっ、早く行っておいで!」「ふん、わかったわよっ!」 養母におつかいと仕事を頼まれ、パン屋の裏口から外へと出たルドヴィカの姿を見た村の青年達が、彼女に向かって口笛を吹いた。 この年の夏で15になるルドヴィカは、金褐色の巻き毛に蒼い瞳を持った、美しい娘だった。 その美しい容姿に加え、彼女は生まれながらにして高貴な雰囲気を纏っていた。 そんな彼女の姿を遠目に見ながら、村人達はいつもこう囁いていた―この村に居るのはもったいない娘だ、と。 それは、ルドヴィカ自身も思っていた。 自分はこんな田舎で一生を終えたくない、出来る事なら広い世界を見たいと、彼女は思っていた。「あら、来たのね。」「焼き立てのパンをお届けに参りました、奥様。」ルドヴィカはそう言った後、正視に耐えない、眉毛が薄い醜女―ベルジック侯爵夫人を見た。「さっさと調理場へ行きなさい。」「はい・・」 この世はいつも不公平と不平等で成り立っている。 容姿に恵まれぬ貴族の女、片や容姿に恵まれた平民の娘―神は何処で選択を間違えたのだろうか。「ルドヴィカ、今日もよろしくね。」「よろしくお願いします。」 ベルジック侯爵家の料理番・ルイーゼに挨拶したルドヴィカは、早速林檎の皮を器用に包丁で剥き始めた。 その時、調理場に一人の青年が入って来た。「ルドヴィカ、来たんだね。」「お兄ちゃん!」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月15日
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表紙素材は、めばる様からお借りしました。「薄桜鬼」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。-壬生狼や・・-近寄ったらあかん、頭から食われるで市中巡察の際、時折町民達がそんな事を囁き合いながら、冷ややかな視線を自分達で送ることに、歳三はもう慣れっこになってしまっていた。(狼か・・悪魔と呼ばれるよりはましだな。)浅葱色の羽織を翻し、京都市中を巡察しながら、歳三は昔の事を思い出していた。歳三―新選組副長・土方歳三は、多摩の豪農・土方家の末息子として生を享けた。母親は長く続いた産みの苦しみの果てに産声を上げた我が子の身体を見て絶句し、長い間精神を病むこととなった。何故ならば、歳三の身体にはそれぞれ男女の証があったからだ。土方家は、歳三を男児として育てる事にした。歳三の身体の秘密を知る母親は、彼が五つの時に肺病で亡くなり、上の兄姉達は歳三の身体の秘密を決して口外しないことを誓い合った。早くに両親を亡くした歳三は、末っ子ということもあり、上の兄姉達-特に長男・為次郎と、養い親である次男・喜六とその妻・なか夫婦によって溺愛されながら育った。雪のように白い肌と、美しい紫の瞳、そして艶やかな黒髪―類まれなる美貌とは裏腹に、歳三は“触れたら傷つく茨のような餓鬼”-バラ餓鬼と呼ばれ、周囲の人間から恐れられていた。「トシ、あんたまた奉公先を追い出されたんだってね?これで何度目なの?」「俺ぁ奉公なんざ性に合わねぇ。俺ぁ武士になるんだ。」のぶは、溜息を吐きながら弟との会話を切り上げ、夫・彦五郎の部屋と向かった。「またかい。」「ええ。全く、あの子はいつになったら落ち着くのやら・・このままただ飯を喰らっているだけなら、追い出してやろうかしら。」「まぁ、それは本人が決める事だ。」「トシを女として育てていたら、こんなに苦労することはなかったのに。」「のぶ、それを言っちゃしめぇだ。あいつは、女子として生きることは苦痛だろうよ。」「そうねぇ・・」のぶが夫とそんな事を話している頃、当の歳三は試衛館道場で剣術の稽古をしていた。「勝っちゃん、居るか?」「おぉトシ、今日も来たのか!」「急に暇になっちまったから、何もすることがなくてな。」「その様子だと、また奉公先から追い出されたのか?これで何度目だ?」「のぶ姉と同じことを言うんじゃねぇよ。」「すまん。稽古が終わったら、団子でも一緒に食おう。だから機嫌を直してくれ、トシ。」「わ、わかったよ。」歳三はこの頃から、近藤勇に密かに想いを寄せていた。だが、彼には自分の身体の秘密を明かせなかった。明かすことで、今の関係が壊れてしまうのではと思ったからだ。そんなある日の事、歳三がいつものように薬の行商で人気のない道を歩いていると、そこへ昔喧嘩で自分が倒した悪ガキで今は隣村のならず者の源太が向こうから歩いてきたことに気づいた。「誰かと思ったら、石田村のバラ餓鬼じゃねぇか。暫く会わねぇうちにすっかり化けちまったな。」源太はそう言うと口元に下卑た笑みを浮かべ、歳三を廃屋の中へと引き摺り込んだ。「やっぱりな・・男のなりして、お前ぇが女だってことは気づいていたぜ。」歳三の着物を剥いだ源太は欲に滾った目で歳三の白い乳房を見ながら、彼女の下腹をまさぐった。「何だ、これ?」源太が己の下腹をまさぐった後、歳三は隙を見せた彼の顔を拳骨で殴り、自宅へと駆け戻った。「悪魔、あいつは悪魔だ!」廃屋でのあの忌まわしい出来事から暫く経った後、歳三は久しぶりに試衛館道場へと向かった。「トシ、久しぶりだな。」「勝っちゃん。」「お前が暫く姿を見せないから、心配していたんだぞ。」「すまねぇ、ちょっと体調を崩してな・・」「そうか。余り無理をするなよ。」そう言った勇は、歳三の華奢な肩を大きな手で叩いた。「なぁトシ、何処か怪我をしたのか?」「何で急にそんな事を聞くんだ?」「いや、何でもない・・忘れてくれ。」勇は少し気まずそうな様子でそう言った後、慌てた様子で道場から去っていった。その時、歳三は自分の袴が生温い血で汚れている事に気づいた。(畜生!)初めて初潮を迎えた時の事を、歳三は今でも憶えている。“歳三、あんたはね・・あんたの身体は、普通じゃないのよ。”姉から聞かされた、驚愕の事実。男でも、女でもない己の身体-剣術で鍛えても一向に逞しくならない筋肉、それと比例するがごとく、丸みを帯びてゆく不安定な身体。(俺は一体何者なんだ?男でも女でもない、半端者じゃねぇか!)己の身体に歳三が懊悩する日々を送っていた頃、彼はいつものように薬の行商で江戸市中を歩いていると、供を連れて歩いている一人の少年の姿に気づいた。少年が纏っている光沢のある着物で、歳三はすぐに彼が高貴な身分に属する人間であることに気づいた。その事を証明するかのように、少年は供である青年に対して傲慢な態度を取っていた。「申し訳ありません風間様・・」「詫びなど不要だ。興が削がれた、行くぞ。」「はい・・」日本人にしては珍しい金色の長い髪をなびかせ、少年は供を従えて歳三の元へと歩いてくるところだった。歳三が少年とすれ違った時、彼は少年に突然袖を掴まれた。「お前、名は?」「ガキの相手なんざしてる暇はねぇんだ。」「ガキではない、俺は風間千景だ。お前、気に入ったぞ。」深紅の瞳で少年はそう言って歳三を見つめると、口端を歪めて笑った。「俺は高貴な女が好きだ。お前とはまた会う事になるだろう。」「風間様、もう行きませんと・・」「うるさい、わかっている。」(なんだ、あの変なガキは?)これが、歳三と風間千景の運命の出逢いだった。だが二人はこの時、自分達が動乱の波に巻き込まれてしまうことを、まだ知らない。「天霧、何処だ?」「ここにおりますよ。」「あの女の素性はわかったのか?」「はい。」天霧はそう言うと、歳三の素性が記された紙を千景に手渡した。「あの女、武家娘ではないのか。まぁいい、俺はあの女を必ず手に入れる。」「どうなさるおつもりで?」「俺に考えがある・・」そう言った千景の真紅の瞳が、キラリと光った。「はぁ、俺に縁談!?」「そうよ。どうしてもあんたに会いたいって!」「俺は行かねぇぞ。結婚なんて・・」「いいから!」のぶは嫌がる歳三の髪を無理矢理結い、上等な振袖を着せた。「黙っていたら、美人ねぇ。」「うるせぇ!」「あんたは口を開いたら悪態ばかり吐いて!いい事、大人しくしているのよ!」「わかったよ!」縁談相手は、直参旗本の一人息子だった。「お宅は美男美女揃いだと噂に聞きましたが、本当に歳三様はお綺麗ですねぇ・・」「まぁ・・」(さっきから顔の事しか言ってねぇな・・)「歳三様、どうかされました?」「いえ・・何だか緊張してしまって。」「そうですか。」見合いは、滞りなく終わった。「あ~、かったるい!」帰宅後、歳三は乱暴に結っていた髪を解くと、窮屈に自分の身体を縛めている帯を解いた。のぶはせっせと自分の髪を結ってくれたが、頭が重いし、首が痛くなってしまうから嫌だ。「これで良し、と・・」鏡の前でいつもの一本結びの髪型にすると、普段着ている着物に袖を通した歳三は、そのまま家から出て試衛館へと向かった。「勝っちゃん!」「トシ、久しぶりだな。」「あれ、土方さんどうしたんです、白粉なんか塗って?」「え?」総司から指摘され、歳三は自分が白粉を落としていない事に気づいた。「珍しいな、トシが白粉なんて。」「もしかして、若先生と久しぶりに会うから、おめかしして来たんでしょう。」「う、うるせぇ!」そう言った歳三は、頬を赤く染めていた。「トシ、今夜は泊まるのか?」「あぁ。今日はこんな時間まで稽古していたからな。」「そうか。夕飯の後に大事な話があるから、俺の部屋に来てくれ。」「・・わかった。」勇の様子が、いつもと違う事に歳三は気づいた。「あれ、土方さんは?」「あぁ、トシさんなら風呂だよ。」「こら、待ちなさい、総司!」慌てて自分を追いかけようとする井上源三郎こと“源さん”を振り切った総司は、歳三が居る風呂場へと向かった。「土方さ~ん、一緒にお風呂に入りましょうよ!」総司がそう言いながら風呂場に入ると、そこには湯気を纏った歳三の姿があった。抜けるような白い肌は、上気してかすかに薄紅色に染まっており、艶やかな黒髪は下ろされていた。「・・何、ジロジロ見てんだ?」「一緒にお風呂入ろうかなぁって・・」「急に入ってくんじゃねぇよ。俺はもう上がるから、さっさと入れ。」「は、はい・・」その後、湯船の中に首まで浸かっても、総司は歳三の裸体が忘れられなかった。「勝っちゃん、俺だ。」「トシか、入れ。」「あぁ・・」勇は、部屋に入って来た歳三の色香に、思わず卒倒しそうになった。「どうした、勝っちゃん?」「あぁ、すまん・・」「俺に話してぇ事ってなんだ?」「・・実は、天然理心流宗家を継ぐ事になった。」「それはめでたい事じゃねぇか!」「そうなんだが・・」勇の沈んだ表情を見た歳三は、彼がこれから何を言おうとしているのかがわかった。「さっき義父(ちち)が、宗家を継ぐのだからそろそろ身を固めろと・・」「へぇ、そうか・・」「トシ、俺はずっと、お前の事を・・」「わかっている。俺も同じ気持ちだから・・」「トシ・・」「だから、抱いてくれ・・」それ以上、二人の間に言葉は要らなかった。「あまり見ないでくれ、恥ずかしい・・」「とても綺麗だ、トシ・・」勇はそう言うと、歳三の身体に覆い被さった。「ずっと、お前を抱いてみたかった・・」「勝っちゃん・・」歳三はそう言うと、涙を流して身を委ねた。勇は、天然理心流宗家四代目を襲名する前に、徳川家の家臣である松井つねと結婚した。それは1860(安政7)年の事だった。近藤勇の妻となったつねという女は、何処か掴みどころのない雲のような性格をしていた。もっとわかりやすく言えば、“何を考えているのかわからない”性格である。試衛館は貧乏道場だが、食客が多く、つねや勇の養母・ふでが彼らの食事の世話をしていた。「いやぁ、つねさんが来てくれて助かるなぁ。」「あの子は働き者だから、あたしとしてはかなり助かっていますよ。」ふでがそう言って笑っていると、そこへ噂の当人が勇達の前にやって来た。「お義母様、少し出掛けて参ります。」「そうかい、行っておいで。」「はい。」つねはそう言ってふでに頭を下げると、彼女を従えて出て行った。「あら、土方様。」「つねさん、何処かへお出かけですか?」「えぇ。勇さんなら、母屋に居ますよ。」「ありがとうございます。」「では、わたくしはこれで。」「お嬢様、こちらの方は?」「土方歳三様とおっしゃって、勇さんの昔からのご友人よ。」つねの言葉に、歳三は少し棘があるように思えた。「さぁ参りましょう。」「はい、お嬢様。」つねの侍女・リンはキッと歳三を睨むと、そのまま主の後を追った。(何だ?)歳三は自分に対するリンの態度が気になったが、さほど気にも留めなかった。「勝っちゃん、居るか?」「トシ、今日は早いな。」「あぁ。さっきつねさんと門の前で擦れ違ったが、何だかあの人、俺苦手だな。」「どうしてだ?」「何だか・・上手くは言えねぇが、つねさんは俺の事を一方的に敵視しているような気がするんだ。」「考え過ぎだろう!」「そうか・・」「あれぇ土方さん、またあのインチキ薬を売りに来たんですか?」「うるせぇ、総司。」「そんなに怒ると眉間の皺が増えますよ。」「誰の所為だと思っていやがる!」「あ、鬼婆だ~!」「うるせぇ~!」「トシ、落ち着けぇ~!」木刀を振り回しながら総司を追いかける歳三を、更に勇が追いかけていた。「なんだか、あの三人のああいう姿を見ると何だか安心するんだよなぁ。」「わかるぜ。」「何だか土方さんが口うるさい母ちゃんみたいに見えて来たぜ。」「おい、誰が母ちゃんだって、新八?」「それは土方さんに決まって・・って、土方さんいつの間に!?」「さっきから何コソコソとしゃべっていやがる!?」「ひぃ、くわばら、くわばら!」新八がそう言って歳三を見ると、彼はまるで鬼のような顔をしていた。「楽しかったですね、お嬢様。」「えぇ。お芝居を見るのは久しぶりだったわ。」つねはそう言ってリンと連れ立って歩きながら、帰り道の途中で団子屋を見つけた。「まぁ、美味しそうだわ。」「えぇ、本当に。」つねはそう言うと、リンと共に団子屋の中へと入った。「旦那様にも、食べさせてあげたいわ・・」「えぇ。」勇は甘い物が大好きな“甘党”である事をリンも知っているので、彼女は店主に頼んでみたらし団子を包んで持ち帰った。「それよりもお嬢様、あの方と勇様は一体どのようなご関係なのです?」「さぁ・・わたしには余りわからないわ。ただ、土方様はわたしより美しいのは確かだわ。」「お嬢様・・」つねに彼女が物心つく前から仕えていたリンは、彼女が己の容姿に引け目を感じている事を知っていた。それ故に、リンは主よりも美しい勇の友人を見て、ある思いに囚われてしまった。主が彼によって悲しい思いをするのではないかと。「日が暮れる前に帰りましょう。」「はい、お嬢様。」つねがリンと共に家路を急いでいると、簪や櫛などを売っている小間物屋の店先で、彼女は意外な人物の姿を見た。「勇様・・」(旦那様が、何故ここに?)つねが暫く勇の方を見ていると、彼は少しはにかみながら一枚の櫛を手に取った。それは、赤地に白梅の模様が入ったものだった。「リン、行きましょう。」「まぁ、どうして?」「いいの!」つねの態度が少しおかしい事に、リンは気づいた。「お嬢様?」リン達が道場へと戻ると、丁度歳三が井戸端で汗を手拭いで拭っていた。雪のように白い肌に、時折水が弾いて水晶のように輝いていた。どうして、こんなにも彼は美しいのだろうか―リンがそう思っていると、そこへ勇が現れた。「トシ、髪が乱れているぞ。」「いいって、こんなもん。」「どれ、俺が梳いてやろう。」そう言って勇が懐から取り出したのは、あの小間物屋で彼が手に取っていた櫛だった。「やっぱり、トシには赤が似合うなぁ。」「そうか?」あの美しい赤い櫛が、歳三の射干玉の黒髪によく映えていた。「リン、団子を皆さんにお出しして。」「はい・・」リンが勝手場で茶を淹れていると、そこへ歳三がやって来た。「何か、手伝う事はねぇか?」「いいえ、大丈夫です。」「そうか・・」(あんな方、絶対に認めないわ!)リンの中で、少しずつ歳三への敵意が募っていった。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月15日
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表紙素材は、黒獅様からお借りしました。「黒執事」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。オメガバース・二次創作が嫌いな方はご注意ください。「お産まれになられたぞ!」「男か、女か?」「双子のお子様達だったが、片方は・・」 蒼い月が空に浮かんだ夜、シエルと双子の兄・ジェイドは生を享けた。 双子でありながらも、シエルは健康で甲種(アルファ)であるジェイドとは違い、病弱で丙種(オメガ)であった為、姫君として育てられた。 周囲は、名門貴族でありながら丙種として産まれたシエルの事を蔑む者が居たが、兄がいつも守ってくれた。―ほら、あの瞳・・―何と気味の悪い・・―魔物ではないのかしら? 一族の集まりに出席したシエルは、御簾越しに聞こえて来る女達の囁き声に俯いた。「シエル、大丈夫だ。僕が居る。」「兄様・・」 シエルが兄と違うもの。 それは、左右の瞳の色が違う事と、男女両方の性をその身に持っている事だった。 だが、その事で両親は兄と自分を差別しなかったし、シエルは家族に愛されながら育った。 あの日が来るまでは。 賊に襲撃され、両親と兄を眼前で殺されたシエルは、ならず者達に陵辱された。(助けて・・) 生き地獄のような日々の中で、シエルはあの日燃え盛る屋敷から唯一持ち出した母の形見の箏を爪弾く事だけが、生きる糧となっていた。 そんな中、いつものようにシエルが箏を弾いていると、風で御簾が捲り上がり、空に浮かぶ蒼い月が見えた。 その月は、常世に居る兄の化身に見えた。(兄様、どうして僕を置いて逝ってしまったの?) シエルが袖口で涙を拭っていると、何処からか伽羅の香りがした。「嗚呼、芳しい蜜の香りがすると思ったら、愛らしい姫君がいらっしゃるなんて。」「あなたは・・」 月に照らされた、美しく端正な顔立ちをした直衣姿の男は、紅茶色の瞳でシエルを見た。「さぁ、わたしと共にいらっしゃい。わたしが、あなたを救って差し上げます。」 差し出された男の手を、シエルは取った。「若様、その子は・・」「わたしの番です。」 主に抱かれている姫君を見た家人は一瞬驚愕の表情を浮かべたが、その後は黙って主が車の中に入るのを見送った。 男―セバスチャンは、己の腕の中で眠るシエルの髪を梳きながら、彼女こそ己の運命の番だと確信した。 甲種として生を享けたセバスチャンは、東宮(皇太子)という身分も相まって、彼の元には山程縁談が来ていたが、彼はそれを全て断った。(何かが違う。彼女達は美しいが、それだけではわたしの魂を震わせる事は出来ない。) そんな思いを抱えながらセバスチャンは父帝から持ち込まれた縁談相手の元へと向かったが、その相手にもときめかなかった。 父帝には適当な言い訳をしなければ―そう思いながらセバスチャンが牛車に揺られていると、突如外から蜜の香りが漂って来た。(この香りは・・) 甲種の本能が、セバスチャンの奥底で目覚めようとしていた。「停めろ。」「はい!」 牛車から降りたセバスチャンは、香りの主を捜した。 すると、その香りはある貴族の屋敷から漂って来た。 御簾の向こう側に居たのは、美しい少女だった。(この子が、わたしの・・) セバスチャンの視線を感じた少女は、紫と蒼の瞳で怯えたような顔をしながら自分を見つめていた。「さぁ、わたしと共にいらっしゃい。わたしが、あなたを救って差し上げます。」 セバスチャンが差し出した手を、少女は握った。「あなたは、誰?」「わたしは、あなたの背の君ですよ。」 シエルは、いつの間にか眠ってしまった。「あの子は、一体何処へ消えた!」「申し訳ありません・・」 シエルが消えた事に気づいた男は、使用人達にシエル捜索を命じた。「お帰りなさいませ、東宮様。」「お帰りなさいませ。」 セバスチャンがシエルを抱いて牛車から降りると、使用人達が彼を出迎えた。「暫くこの子と二人きりにさせておくれ。」「はい・・」 寝所に入ったセバスチャンは、シエルをそっと御帳台の上に寝かせた。「ちょっと、失礼しますね。」 セバスチャンはそう言いながらシエルの衣を脱がすと、その白い肌には無数の傷があった。 特に目立つのは、背中に捺された焼き印だった。 幼い少女が、一体あの屋敷でどんな扱いをされて来たのか、セバスチャンには容易に想像できた。「安心なさい、あなたの事はわたしが守って差し上げます。」 セバスチャンはそう言うと、そっとシエルの額に口づけた。「ん・・」 シエルがゆっくりと目を開けると、そこにはあの男が隣で寝ていた。「おはようございます。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月15日
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中世に誕生し、20世紀初頭に崩壊したハプスブルク帝国を、膨大な写真と資料で紹介した本。巻末には年表もついており、とてもわかりやすかったです。
2024年11月14日
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・この小説は、平井摩利先生の「火宵の月」ヴィク勇パラレルです。・原作と若干違う設定にしております。・オリジナルキャラ多めです。・勇利が両性具有設定です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。注意事項を無視して読んで気分が悪くなった等の苦情は一切受け付けませんので、ご了承ください。その夜は、空に炎の様な紅い月が浮かんでいた。夜な夜な鎌倉の町に出現する人喰いの妖・野猫族調伏の為、京で暮らしていたヴィクトル=ニキフォロフは、宮中から追い出され、生まれ故郷の鎌倉へと戻って来た。邸の自室で星の動きを見ていたヴィクトルが邪悪な気を感じて鶴岡八幡宮へと向かうと、そこには野猫族に食い荒された男女の遺体が転がっていた。「・・遅かったか。」美しい顔を怒りで歪ませ、ヴィクトルがそう言って舌打ちした後、何かが茂みの中で動く気配がした。「何者だ!」ヴィクトルが筮竹を投げると、それは近くの木に当たった。「あ、すいません・・僕、驚かせるつもりじゃなかったんです。」茂みの中から現れたのは、黒髪紅眼の青年だった。白い着物に緋色の袴姿の青年は、じっと真紅の瞳でヴィクトルを見ていた。「あの、貴方がヴィクトル=ニキフォロフ様ですか?」「そうだけど、お前は?」「初めまして、僕は勝生勇利と申します。あの、早速なのですがヴィクトル様にお願いがありまして・・」「お願い?」「僕、貴方の子供を産みたいんです!」青年が頬を赤く染めながらそうヴィクトルに言い放った時、気まずい沈黙が二人の間に下りて来た。「・・俺は、男に子を授ける術は持っていないけど?」「あの、僕男でもないです。女でも、ないし・・僕の一族は、紅牙族といって、野猫族の一種で・・」「ふぅん、それじゃぁお前、妖の一種か。運が悪いね、俺は今機嫌が悪いんだ。」「え、あの・・」「行け、式神!」突如ヴィクトルの掌の中から現れた青龍に驚き、慌てて逃げようとした青年は、そのまま階段を踏み外し転落してしまった。(妖だというのに情けない奴だな・・)ヴィクトルがそう思いながら呆れ顔で青年の様子を見に行くと、そこには黒豹が転がっていた。このままここに青年を転がしておくわけにもいかず、ヴィクトルは彼を邸まで連れて帰る事にした。まだ幼さが残る顔に、華奢な身体、そして漆黒の髪。巷を最近騒がしている野猫族とは似ても似つかない容姿をしているが、奴らの仲間かもしれない。そう思いながらヴィクトルが青年を寝かせようと彼の身体を抱き上げると、その拍子に彼が右耳につけていた紅玉の耳飾りがシャラリと揺れた。それを見た瞬間、ヴィクトルの脳裏に幼い頃、可愛がっていた黒猫の姿が浮かんできた。“暴れるな、今手当てしてやろうとしているのに!”池で溺れていた黒猫を助けたヴィクトルは、逆にその黒猫に引っ掻かれた。全身に酷い傷を負っていた黒猫の手当てをしていたヴィクトルは、猫の目から美しい紅玉が零れ落ちるのを見た。“お前の瞳の色、綺麗だな。僕は赤が一番好きな色なんだ。そうだ、お前の名前は紅玉にしよう!”黒猫はヴィクトルの言葉を理解したのか、嬉しそうな声で鳴いた。孤独だった少年と黒猫は、出逢ってから互いの魂を温め合うように、いつも一緒に居た。だが、ヴィクトルは突然親戚筋の叔父によって京に連れて行かれ、あの黒猫と離れ離れになってしまった。青年の耳飾りにつけている紅玉は、幼い頃ヴィクトルがあの黒猫の首飾りにしたものと同じ紅玉だった。(まさか、な・・)「気が付いたか?」「あの・・僕・・ここは、何処ですか?」「俺の邸だよ。お前、名前は?」「勇利といいます。」青年の名を聞いたヴィクトルは、驚きのあまり顔が強張ってしまった。「どうかなさいましたか?」「いや・・その耳飾りは何処で手に入れた?」「ああ、これは昔、大切な人から贈られた物です。」青年―勇利はそう言うと、紅玉の耳飾りを指先で触れた。「大切な人?」「はい。昔僕が幼い頃、仲間からいじめられて谷底へと突き落とされた時、助けてくれた人から贈られたんです。」勇利の言葉を聞きながら、ヴィクトルは彼が昔飼っていた愛猫“紅玉”であると確信した。「その大切な人は、今どうしているの?」「知りません。随分昔に、生き別れになったから・・でも、もし生きているのなら、会いたいです。」勇利はそう言って両膝の間に顔を埋めた。「怪我が治ったら出て行け。」「はい・・」(少し、冷たくしてしまったかな・・)その日の夜、ヴィクトルがそう思いながら寝返りを打っていると、廊下から控えめな足音が聞こえて来た。誰だろうと思いながらヴィクトルが再び寝返りを打とうとすると、胸の上に温かい感触がした。(何だ?)ヴィクトルがゆっくりと目を開けると、そこには自分の上にのしかかっている勇利の姿があった。「お前、何をしているの?」「え、あの、それは・・夜這い・・です・・」勇利はか細い声でそう言うと、頬を羞恥で赤らめながら俯いた。「君、大人しそうな顔に似合わず大胆な事をするね。俺が誰なのか知っていて夜這いしに来たんだ?」「すいません・・」「謝らなくてもいい。」ヴィクトルはそう言うと、勇利を抱き寄せた。「え、あの・・」「どうした、俺を誘惑するんじゃないのか?」至近距離でヴィクトルから見つけられた勇利は、顔を赤く染めながら慌てて彼の傍から離れた。「すいません、忘れてください!」耳飾りをシャラシャラと言わせながら、勇利は慌ててヴィクトルの部屋から飛び出して自分の部屋へと戻ってしまった。(本当に、妖らしくないな・・まぁ、それが可愛いけれど。)ヴィクトルはクスクスと笑いながらそんな事を思った後、ゆっくりと目を閉じた。―・・めてまた、あの夢を見た。―やめて、お父さん、苦しいよ・・自分の細い首に絡みつく父の指。そして、耳元で囁かれる呪詛の言葉。“子供など、作らなければよかった。”昨夜は悪夢を見た所為で、一睡も出来ずにいた。「・・トル殿、ヴィクトル殿?」「何か?」誰かに呼ばれたことに気づいてヴィクトルが振り向くと、そこには意地の悪い笑みを浮かべた男が立っていた。「ここ最近、野猫族が大人しくしているようですなぁ。やはり雨の所為で奴らの動きが鈍ったのでしょうね。」「そのようですな。他に話がないのなら、俺はこれで失礼いたします。」ヴィクトルがそう言って男に背を向けた後、“愛想のない奴だ”と、先程の男が仲間に向かって陰口を叩いているのが微かに聞こえた。昔から“愛想がない”、“可愛げがない”などと言われるのはもう慣れている。他人と馴れ合うつもりも、親しくなるつもりもないのだから、いい加減放っておいて欲しいものだ―ヴィクトルがそんな事を思いながら帰宅すると、式神の和紗が何やら慌てた様子で自分の方へと駆け寄って来た。「ヴィクトル様、大変です!勇利様が・・」「ユウリが、どうかしたのか?」「先ほど、勇利様にお会いになりたいという客人が来て、断ったら急にその男が勇利様を連れて行かれてしまったのです!」「何だって・・」和紗の言葉を聞いたヴィクトルは、自分の顔から血の気がひくのがわかった。他人の結界内、敏腕陰陽師として名を馳せているヴィクトルの強固な結界を容易に破る者など居ない。もしそのような者が居るとしたら、ヴィクトルと同等の、またはそれ以上の呪力を持っている同業者―呪術師しか居ない。「ユウリを探せ、今すぐに!」(ユウリ、どうか無事でいてくれ!)何処かでカラスがヴィクトルを嘲笑うかのようにしわがれた声で鳴いていた。ピチョン、と水滴が落ちる音で、勇利は閉じていた両目をゆっくりと開いた。「ん・・」辺りを見回すと、今自分が居るのは何処かの洞窟のようだった。「目が覚めたか?」闇の中から突然ぬぅっと男の顔が現れたので、勇利は思わず悲鳴を上げてしまった。「驚かせてしまって済まない。お前がユウリだな?」「はい、そうですが・・貴方は?」「わたしはギオルギー。ヴィクトル無き今、わたしが宮中の権力を全て掌握していると言っていい。」そう言った男―ギオルギーは、欲望に滾った瞳で勇利を見た。「僕を、どうするつもりなのですか?」「ここでお前を殺し、わたしは不老不死の力を手に入れる!」ギオルギーは勇利を睨みつけてそう叫ぶと、彼の上に馬乗りになった。(助けて、ヴィクトル!)「そこまでだ、ギオルギー。」「ふふ、来たなヴィクトル。漸くお前と互角に戦える時が来た。」「俺と互角に戦えるだって?ふざけた事を言うね、ギオルギー。」ヴィクトルはそう言って口元に冷笑を浮かべると、ギオルギーを衝撃波で吹き飛ばして彼を気絶させ、勇利を優しく抱き上げた。「怪我はない、ユウリ?」「ごめんなさい、ヴィクトル、心配を掛けてしまって・・」「無事だったから、ユウリが俺に謝ることはないよ。」「ヴィクトル・・」「勇利、探したぜ。まさかお前がこの陰陽師様とデキていたとはなぁ?」二人の背後から嘲るような冷たい声が洞窟内に響いたかと思うと、数頭の黒豹が洞窟内へと入って来た。彼らは巷を騒がせている野猫族だと、ヴィクトルは勘で解った。「君達、俺に何か用?まさか、俺の呪力欲しさに俺を殺しに来たとか?」「へへ、まぁそんな所かな!」野猫族達はそう言うと、一斉にヴィクトルに飛びかかった。「ヴィクトル様、危ない!」ヴィクトルを庇った勇利は、胸を野猫族の爪に切り裂かれた。「しっかりしろ、ユウリ!」「やっと会えた・・ヴィクトル様・・」苦しそうに喘ぎながら、勇利はそう言うとヴィクトルの頬を撫でた。「けっ、ザマァねぇな。まぁ、これでこいつを殺す手間が省け・・」「お前達がユウリに手を出す前に、俺がお前達を殺す!」全身から怒りのオーラを発しながら、ヴィクトルは碧い瞳で野猫族達を睨みつけ、祭文を唱えた。「業火招来!」野猫族達の身体はあっという間に紅蓮の炎に包まれ、彼らは断末魔の悲鳴を上げながら息絶えた。「ユウリ、俺の元へ戻っておいで・・俺の愛しい紅玉。」ヴィクトルは祭文を唱えた後、自分の気を勇利に吹き込むため、彼の唇を塞いだ。「ヴィク・・トル様・・?」「さぁユウリ、俺と共に家に帰ろう。」「はい。」ヴィクトルに抱きかかえられながら、勇利は彼と共に洞窟を後にした。「ねぇユウリ、俺が一番好きな色が何か、知ってる?」「いいえ。」「俺は、紅が一番好きなんだ。お前の瞳の色の様な、綺麗な紅が。」「ヴィクトル様、もしかして僕の事を思い出してくれたんですか?」「俺がお前の事を忘れる訳がないだろう。」ヴィクトルはそう言って勇利に微笑むと、彼がつけている紅玉の耳飾りに触れた。「ヴィクトル様、ずっと貴方のお傍に居てもいいですか?」「勿論だ。」月が優しく、睦み合う恋人達の姿を照らしていた。(ヴィクトル様、今日も帰りが遅いなぁ・・)巷を騒がしている野猫族を退治したヴィクトルは、そのまま勇利とのんびりと休めると思っていたのだが、有能な陰陽師を逃がしたくない執権は、何かにつけてヴィクトルに仕事を依頼し、その結果彼は職場に連日泊まり込む位多忙な日々を送ることになってしまった。そして今夜も、勇利が待つ自宅に帰って来なかった。あの時―野猫族から身を挺してヴィクトルを勇利が庇い、生死の境に彷徨っていた時、ヴィクトルが自分の耳元で囁いた言葉が忘れられなかった。“ユウリ、俺の元へ戻っておいで・・俺の愛しい紅玉。”その言葉を聞いた時、ヴィクトルは自分を幼い頃に助けてくれたあの少年だと言う事を、勇利は思い出した。野猫族を退治した後、傍に居てもいいかとヴィクトルに勇利が尋ねると、彼はいいと言ってくれた。(僕は、ヴィクトル様のお傍に居てもいいんだろうか?)「あら勇利ちゃん、どうしたの?またそんな所で殿の帰りを待っているの?」「うん、そんなとこ・・ねぇお姉さん、僕はヴィクトル様に相応しいと思う?」「あら、どうしたのよ。そんな事をあたしに聞いてどうするの?」和紗はそう言って袖口で口元を隠しながら笑うと、勇利は深い溜息を吐いた。「ヴィクトル様は男の僕から見ても綺麗で、ヴィクトル様の隣に立つのは僕じゃなくて綺麗な女の人がふさわしいじゃないんかなぁって・・」「まぁ、殿はモテるからねぇ。独身で仕事が出来て、その上イケメンだと、出自なんて関係ないって思っちゃう女の方が多いわよね。」和紗は苦笑しながら、ヴィクトルが女性から恋文を毎日のように貰って来ていることを思い出した。「何だか僕、自信失くしちゃうなぁ。」自分がヴィクトルの“一番”だと思っていた幼い頃、勇利は彼と離れ離れになった時、悲しくて寂しくて辛い日々を送った。だからヴィクトルと再会した時、これから彼の傍にずっと居られるのだと、一人ではなくなるのだと勇利は嬉しく思った。だが、勇利の夢は、厳しい現実の前に儚く散った。大人になって美しく、そして凛々しく成長したヴィクトルは、“自分だけのもの”ではない事に勇利が気づいたのは、数日前の夜、ヴィクトルが久しぶりに職場から帰宅した時の事だった。「お帰りなさい、ヴィクトル様!」「ただいま。」いつものようにヴィクトルに抱きついた勇利は、彼の身体からいつも彼がつけている香とは違う香りがすることに気づいた。「ヴィクトル様、これ・・」カサリという音を立てて勇利の前に落ちた物は、女性からヴィクトルに宛てた恋文だった。「ああ、これか・・俺は結婚するつもりは全くないよ。もし結婚するとしても、ユウリを傍に置くつもりでいるから、安心して。」―そんな言葉なんて欲しくない。勇利はそうヴィクトルに向かって叫びたかったが、出来なかった。(僕は、ヴィクトル様の恋人に相応しいのかな?)そんな事を思いながら勇利が再び溜息を吐いていると、突然茂みの中から一人の青年が飛び出して来た。「会いたかったぞ、ユウリ!」青年は勇利の顔を見るなりそう叫ぶと、逞しい両腕で勇利の華奢な身体を抱き締めた。「JJ、どうしてここに?」「決まっているだろう、お前を俺の嫁として迎える為だ!」(すっかり遅くなってしまったな・・)執権の館で開かれた宴に渋々と顔を出したヴィクトルは挨拶だけして帰ろうとしたが、執権がなかなか彼を帰さず、ヴィクトルは執権を酔い潰して漸く執権の館から出たのは、空に月が浮かぶ頃だった。(ユウリ、今頃俺の事が恋しくて泣いているのかな・・)そんな事を思いながら馬から降りて自宅へとヴィクトルが向かっていると、勇利が見知らぬ男と抱き合っている姿を彼は見た。「やめて、離してよJJ!」「そんなに恥ずかしがることはないだろう、ユウリ!」「やめてよ!」JJの拘束から逃れようとした勇利だったが、体格差があるJJから勇利はなかなか逃げられなかった。「君、俺のユウリに何をしているの?」「ヴィクトル・・」勇利が背後を振り向くと、そこには冷たい碧い瞳で自分とJJを見つめるヴィクトルの姿があった。「ユウリ、こいつは誰だ?」「君こそ一体誰?そして俺のユウリに何故抱きついている?」ヴィクトルは全身から殺気を発しながら、JJにそう尋ねると、彼は舌打ちして勇利から離れた。「俺は、ユウリの許婚のJJだ!今夜ここに来たのは、ユウリを抱く為だ!」「抱く?君が、ユウリを?」JJの言葉を聞いたヴィクトルの周囲の空気が、突然冷えていくように勇利は感じた。「ああ。今ユウリは子を孕める大事な時期だからな!」「ユウリ、一体どういうことなのか、俺にもわかるように説明して?」その場から逃げ出そうとした勇利の肩を掴んだヴィクトルはそう言って彼に微笑んだが、目は全く笑っていなかった。「鶴岡八幡宮で、僕最初に説明したよね?僕は両性体で、伴侶と契りを交わした後、雄と雌、どちらにもなれるって。」「そんなの初耳だよ。酷いよユウリ~、何で俺に黙ってた?」「黙っていたも何も・・その説明を僕がしようとした時、ヴィクトルが勝手に襲って来たんじゃないか!」「そのことは今でも悪かったと思ってるよ!ねぇユウリ、あの男はユウリとは一体どういう関係なの?」「えっと、JJとは幼馴染みたいなもので、それ以上でもそれ以下でもないっていうか・・」「酷いなユウリ!子供の頃一緒に寝ていたじゃないか!それに水浴びだって・・」「一緒に寝た?水浴び?」「ヴィクトル、JJが言ったことは真に受けないで!JJ、用がないならもう唐土に帰ってよ!」「嫌だ、お前を俺の嫁にするまでは帰らないぞ!」「君、俺に殺されに来たの?」「ヴィクトル、落ち着いて~!」唐土に帰れと言う勇利と、彼を嫁にするまで唐土に帰らないと言い張るJJに困り果てたヴィクトルは、暫くJJが自宅に滞在することを許した。「ユウリ、まだ夜はこれからだぞ~!」「ひっつかないでよ、JJ!」「ユウリから離れろ、この変態!」JJがヴィクトル邸に滞在するようになってから数日が経ち、JJは隙あらば勇利を襲おうとしているので、ヴィクトルはJJに対して全身から凄まじい殺気を放ちながら彼を睨みつけていた。「ねぇ、あれいつまで続くのかしら?」「さぁね。」勇利を抱き締めたまま離そうとしないヴィクトルの姿を廊下から見ながら、彼の式神たちはそんな話をした後溜息を吐いた。「JJ、いつまで居るの?」「それは、お前を嫁にするまでだ、勇利!」「またそんな事を言って・・」JJ―かつて同じ時を過ごした幼馴染の言葉を聞いた勇利は、何度目かわからぬ程の溜息を吐いた。「僕は、ヴィクトル様以外とは・・」「何言っている、勇利?あいつは、自分のようなガキを作りたくないから、お前を抱かないんだろう?要するに、あいつは・・」「俺が、何だって?」氷のように冷たいヴィクトルの声に、二人が背後を振り返ると、そこには出張から帰って来たばかりの彼が、眉間に皺を寄せながら立っていた。「お帰りなさい、ヴィクトル様!」「俺が居ない間にこいつと浮気したの、ユウリ?」「え、そんな事は・・」「へっ、よく言うぜ!てめぇは姫君達に囲まれて嬉しそうに鼻の下を伸ばしていたくせによぉっ!」「え?」「お前の目は節穴か、JJ?婆共に囲まれ、その上子供達に纏わりつかれて嬉しいもんか。」「ヴィクトル様・・」勇利がそう言いながらヴィクトルに抱きつこうとした時、彼のつけた香とは違うものが彼から漂っている事に気づいた。「あ・・」「気にするな。」 ヴィクトルはそう言うと、恋文を直衣の袖の中から出した。「風呂に入って来い、あちこち泥だらけだぞ。」「はい・・」(こいつ、勇利の気も知らねぇで・・)JJは、湯殿へ向かう前、勇利が泣いていた事に気づいた。「なぁにむくれてんのよ、この子は。」「むくれてなんかないよ!」湯船に浸かりながら、勇利はヴィクトルに恋文を送った女性の事を想っていた。きっと彼女は美しくて、教養があって、ヴィクトルの妻に相応しいのだろう。中途半端な自分とは違って。(有能だし、養子とはいえ貴族だし、ヴィクトル様綺麗だし、それに比べて・・)「勇利ちゃん、まだお風呂に入って・・きゃぁ~!」和紗が中々風呂から出て来ない勇利を心配して湯殿の方を見ると、勇利は湯船の中で気絶していた。「風呂でのぼせるなんて、全く・・」「まぁ殿、どちらへ?」「俺の部屋に決まっているだろう。」「まぁ、そうですの。」“殿、もしかして・・”、“きゃ~、それ以上言うのは野暮よ~”と言う式神達の声を聞きながら、ヴィクトルは舌打ちして自室の中に入った。「ったく、ユウリは俺が少しでも目を離すと、こうなんだから。」勇利を御帳台の中に寝かせると、ヴィクトルは彼と共に横になった。「ん・・」翌朝、勇利が寝返りを打つと、何かが指先に触れた。それは、ヴィクトルの長く、美しい銀髪だった。「え、えっ!?」「そんなに驚くな、ユウリ。」「どうして、僕・・」「ユウリ、お風呂でのぼせちゃって、俺が自分の部屋まで運んで来たんだよ、憶えてない?」「え、あ、わぁ・・」勇利はパニックになり、暫くヴィクトルに抱きついたまま離れようとしなかった。「勇利ちゃん、おはよ・・きゃぁ~!」ヴィクトルの式神達がヴィクトルの部屋で見たのは、抱き合っているヴィクトルと勇利の姿だった。「もぅ~、二人共狡いわよ、抜け駆けなんて~」「ち、違うって、おねーさん達っ!」「あらぁ、さっきの様子だと、殿も満更でもなかったようなだけど?」「ね~」「もぉ~、ヴィクトル様に言いつけてやる!」「残念でした、ヴィクトル様ならお仕事へお出かけになられたわよ。」「そ、そうなんだ・・」「あら、元気ない。そんなにヴィクトル様が恋しいの?」「そりゃぁ、共寝した仲だもんね~」「お、おねーさん達、いい加減に・・」「一体、何の話だ、勇利?」「あ、JJ・・今の話・・」「俺は、認めないぞ!」JJはそう叫ぶと、勇利に抱きついた。「ぎゃ~!」「あ~、また出たわ。」「殿、早く追い出してくれないかしら?」「無理よぉ、最近呪術師殺しが多発していて、殿はその捜査に追われているんだもん。」「それにしても、被害者がみんな雷で焼き殺されるなんて怖いわよね~」(ヴィクトル様、大丈夫かな?)式神達の話を聞きながら勇利がヴィクトルの身を案じている頃、ヴィクトルは執権に命じられ、逗子に住むある貴族の姫君を警護する仕事に就いていた。(全く、何だって俺がこんな事を・・)そんな事を思いながら、ヴィクトルは自分が警護する姫君と御簾越しだが会う事になった。「お初にお目にかかります、ヴィクトル=土御門=ニキフォロフと申します。」「まぁ、あなたが・・」「姫様、なりません!」ヴィクトルが俯いていた顔を上げると、自分の前には勇利と瓜二つの顔をした姫君の姿があった。(ユウリ、なのか・・?)「あなたが、京からいらっしゃったという方・・」勇利と瞳の色は違えども、琥珀色の瞳にヴィクトルは魂を吸い込まれそうになった。「俺・・わたしを、知っているのですか?」「ええ。わたくしの従兄のオタベックから、京に居た頃色々とお話を聞いておりましたのよ。」「オタベック・・」以前、宮中で顔を合わせた事がある、ギオルギーの異母弟。「あなた、京から何故、逗子に?」「あなた様の事が忘れられず、こうして参りましたの。」「わたしを?」「ええ。」(おかしい・・どうして、俺は・・)勇利と瓜二つの顔をした姫君―椿に、ヴィクトルは次第に溺れていった。(遅いなぁ・・ヴィクトル様。)ヴィクトルが出張から帰って来たのは、ヴィクトルが逗子へと向かってから七日後の事だった。「ヴィクトル様、お帰りなさ・・」「まぁ、あなたが勇利様?本当に、わたくしと瓜二つの顔をなさっているのね。」ヴィクトルに抱きつこうとした勇利は、彼の背後に立っている椿を見て動揺した。(この人・・)「ヴィクトル様、この方は・・」「初めまして。わたくし、帝の護持僧・オタベックの従妹の、椿と申します。」こうして、椿は暫くニキフォロフ邸に滞在する事になった。「ねぇ、何なのあの女?」「もしかして・・」「まさかぁ、殿に限ってそんな事・・」 突然の恋敵の出現に、勇利と和紗達は激しく動揺した。「一体どうなさるおつもりなのかしら?」「さぁねぇ~」(ヴィクトル様とお似合いだったな、椿様・・)自分と同じ顔をしていても、椿は女だ。中途半端な自分とは、全く違う。その日の夜、ヴィクトルが自室で寝ていると、渡殿から強い妖気が自分の方へと近づいて来ている事に気づいた。(何だ、この妖気は?)「何者!?」「あら、驚かせてしまったみたいで、申し訳ないわね。」「椿殿・・」「あなたともっと、お話したくて・・構いませんこと?」(吸い込まれる・・)翌朝、勇利がヴィクトルの部屋へと向かうと、そこで御簾越しに裸で抱き合うヴィクトルと椿の姿を見てしまった。「まぁ、勇利様・・」「失礼します!」居た堪れなくなった勇利は、その場から逃げ出した。「ユウリ!」「ヴィクトル様、ここはわたくしが。」勇利は、人気のない塀の近くで泣いていた。(そうだよね、僕みたいのよりも、ヴィクトル様は・・)「見つけたわぁ。」「つ、椿様・・」勇利は、自分を見つめている椿の全身から凄まじい殺気を感じた。「あなたには、消えてくれないと・・」(ヴィクトル様、助けて・・)「ユウリ、何処だ、ユウ・・」ヴィクトルは、“何か”の中へと沈む勇利と、それを眺める椿の姿に気づいた。(強い妖気、こいつ・・)「何者だ!?」「ちぃっ、勇利と同じ顔をして化けてお前を油断させる気でいたけど、甘かったようだね!傀儡師のあたしもヤキが回ったもんだ!」「ユウリを、どこへやった!?」「あの子なら、もうこの世には居ないさ。あたしが魔界に堕としちまったんだもの。」「魔界だと・・?」「勇利を取り戻したかったら、あたしに協力するんだね。」椿はヴィクトルに、鶴岡八幡宮に祀られている頼朝を調伏するよう目地た。「さぁ、早くおし!」「魔界へ行くなら、このJJに任せな。」「は?お前が、魔界に?」「次元通路なんざ一発で開けるからな。勘違いするな、俺は勇利の為を思って・・」「いいだろう。」魔界へ逃げた椿を追う為、JJとヴィクトルは魔界へと潜入し、勇利を発見した。勇利は、魂を喰われてしまった。「あぁ、そんな・・」「おい、女が逃げたぞ!」「許さない・・ユウリを、返して貰う!」ヴィクトルはJJと協力して椿を倒し、彼女の中から勇利の魂を救い出した。「この役立たずが、失敗しただと!?」「申し訳ありません、主上・・」オタベックはそう主に詫びながら、ヴィクトルの弱点が勇利である事に気づき、勇利を攫う事を企んだ。「え、どういう事ですの、それ!?」「件の呪術師殺しが殿の仕業だと密告した者が居ると!?」「あぁ。その者が“誰”なのか、見当がつくけど。」(間違いない・・あいつだ・・)呪術師殺しの疑いをかけられたヴィクトルは、勇利をギオルギーの部下によって攫われてしまい、その途中で呪力を失った。「ヴィクトル様、ごめんなさい・・」「謝るな。」勇利はヴィクトルがオタベックに狙われている事を知り、その身を挺して彼からヴィクトルを守ろうとした。矢を受け倒れた勇利の姿を見たヴィクトルは、オタベックの企みを挫き、その額に醜い傷を刻んだ。「おのれ、ヴィクトル・・」呪術師殺しの疑いが晴れたヴィクトルと勇利は、再び共に暮らす事になった。勇利の身体に異変が起きたのは、冬の訪れを告げる木枯らしが吹いた頃だった。その頃ヴィクトルは仕事で多忙を極め、職場に泊まり込む事が多くなり、勇利と顔を合わさない日も多くなっていった。「久し振りのご帰宅かよ、陰陽師サマ。」「何だ、お前まだ居たの?」ヴィクトルは勇利の為に屋敷周辺に強い結界を張り巡らし、勝手に勇利が外に出られないようにしていた。その所為で、JJは勇利に会う事が出来ず、日に日に苛立ちが募っていった。「勇利をほったらかしにして、平気なのかよ?あいつは今・・」JJがそう言ってヴィクトルに詰め寄った時、屋敷の中から何かが倒れる音がした。「ユウリ?」「あ、ヴィクトル様、お帰りなさ・・」そう言ってヴィクトルを出迎えた勇利は、激しく咳込んだ。その足元に、血が滴り落ちた。「ユウリ!」勇利は、そのまま床に臥せってしまった。「全部テメーのせいだ、ヴィクトル。変化期に抱かれなかった未分化は、そのまま血を吐いて死ぬんだ。」「けれど、俺は・・」「JJ、僕の相手をしてくれる?」「ユウリ・・」「あぁ、わかった。」「ユウリ・・」「部屋、かりるぜ。」ヴィクトルは、部屋の中へと入っていくJJと勇利を、黙って見送る事しかできなかった。「あ、ごめん・・」勇利は、とうにJJに抱かれる覚悟をしていたのに、彼の唇を噛んでしまった。「いいって事よ。」その時、ヴィクトルが部屋に入って来た。「ユウリは、お前にしか抱かれたくないってさ。はぁ~、50年も片想いしてきて、キツいよなぁ。」JJはそう言うと、ヴィクトルと勇利を見た。「ユウリの命を助けたいっていうのなら、他にも方法があるぜ。」「え?」「唐土に・・紅牙族に代々伝わる不死の妙薬がある。」「不死の妙薬?」「あぁ、紅牙族の雌の涙―紅玉さ。嫌なら、いいぜ。」「僕、行きたい。」「ユウリ・・」「僕、“ふるさと”を知りたいんだ。紅牙族の村がどんなものなのか、見てみたいし。」「そうか・・」こうして、ヴィクトルと勇利はJJと共に唐土へ向かう事になった。「ここが、唐土?」強い雪と風で周りが見えず、勇利は寒さで死にそうになった。「おい、村にはいつ着くの?」「もう着いているぜ。」「え・・この焼けた廃墟が?」勇利達の眼前に広がっているのは、“村”だったものだった。「助けて!」焼けた村の跡地で、一人の子供が兵士と思しき男達に囲まれていた。「樹里、大丈夫か?」「JJ、帰ってたの!?」「こいつらは?」「政府の役人じゃないよ。村を焼いたのも、こいつらだよ。」「へぇ~、紅牙狩り再開って訳か?じゃぁ、ここで殺しても誰も文句言わないよな?」「やめて、JJ!」男達を殺そうとしたJJを、ヴィクトルが止めた。「JJ、どうして早く帰って来なかったんだ!」「雌と子供達は?」「人質に取られた。」「JJ、そちらの客人達は?」紅牙族の長がそう言って勇利とJJを指した先に、紅牙族の雄達がどよめいた。「な、何だ!?」「雌(おんな)か!?」唐土の服に着替え、ヴィクトルと勇利は紅牙族の雄達と共に食卓を囲んだ。「JJ、あの男は誰だ?」「あいつか・・あいつは、日本幕府お抱えの呪術師様さ。」「お前、何を考えて・・」「まぁ。こっちにも色々と考えがあるんだよ。血を流さずに、人質を取り戻す方法をな。」JJがそんな事を長と話している間、勇利は酒を飲み過ぎてしまった。「おい、順番な!」「わかってるって・・」紅牙族の雄達がそう言いながら酔い潰れた勇利を運ぼうとしていると、彼らの前にヴィクトルが立ちはだかった。「な、何だテメー!?」『類友だな、まさに。』ヴィクトルはそう言うと、薄笑いを浮かべた。『それに触るな、妊娠する。』「あのさぁ、俺らやる事やらねぇと溜まる訳よ、わかる?」紅牙族の雄がそう言ってヴィクトルの胸倉を掴んだ時、勇利が彼に噛みついた。「ヴィクトルをいじめるな!ヴィクトルは、僕の大切な人なんだから!」「え、じゃぁ、こいつがあんたの伴侶?」「そうだよ~」「酒乱め!」ヴィクトルはそう言って勇利の唇を塞ぐと、長から用意された部屋に入った。「よ、飲むか?」「あぁ。」ヴィクトルは、JJから雌の紅玉が入手出来ないと知った時、微かに手の痺れを感じた。「貴様、はめたな。」JJは王と交渉する為、ヴィクトルを連れて都にある城に来ていたが、王は南の離宮で休暇中だった。上手く交渉が出来ると思っていたJJだったが、ヴィクトルと共に彼は牢に繋がれてしまった。「馬鹿だな。」「うるせぇ!」何とか牢から脱出した二人だったが、雌と子供達の命を盾にとられ、なす術がなかった。「畜生・・」「目を閉じていろ。」ヴィクトルは、“神風”を起こし、城から脱出した。「ねぇユウリ、大丈夫?」「うん、大丈夫・・」JJ達が雌の救出作戦を考えている間にも、勇利の容態は徐々に悪化していった。「樹里、シーツ換えておいて。」「ねぇ、ヴィクトルに頼めばいいじゃん、そうしたら・・」「駄目。ヴィクトル様には心配かけさせたくないんだ。」「でも・・」「お願い。」樹里と勇利がそんな事を話していると、渋面を浮かべたヴィクトルが部屋に入って来た。(うわぁ、機嫌悪そう・・)「ヴィクトル様、どうされたんですか?また、JJが失礼な事を?」「あいつは存在自体が迷惑だからな。」ヴィクトルは、そう言うと勇利を見た。「ユウリ、いつまで意地を張っているつもりだ?俺が言っている意味、わかるな?」「え・・」「ユウリをいじめるな!」樹里はそう言ってヴィクトルの部屋から出ると、自分とJJの部屋へと入った。「俺、わかんない!何でヴィクトルはユウリを抱いてやんねーの?」「色々と複雑なんだよ、大人ってのは。」「ガキ扱いすんなっ!」その日の夜、ヴィクトルは悪夢を見た。子供の頃、父に殺されかけた悪夢を。「ヴィクトル様?」「お前は俺に、何を望みたいの?」「僕は、ヴィクトル様と一緒に居たい・・それだけです。」翌朝、勇利は意識不明の状態に陥った。「もう、このまま・・」“お父さん、しっかりして!”目の前で父を喪った悲しみ。大事な存在を失った苦しみ。そんな思いを、二度としたくない。「ユウリは誰にも渡さない。」その時、JJはヴィクトルの髪が紅く染まるのを見た。「最初から、こうすれば良かったね、ユウリ。俺は、絶対にお前を失いたくないんだ。」ヴィクトルはそう言うと、勇利の上に覆い被さった。ヴィクトルと結合した勇利は、その七日後に意識を取り戻した。だが、勇利は記憶を失っていた。「落ち着け、ユウリ!俺がわからないのか!?」「嫌~!」勇利は、己の名さえ忘れてしまっていた。「なぁ、冗談だよな?」「猫族の言葉、しゃべってみな?」「んと・・えと・・」言葉がたどたどしい勇利を見た紅牙族の雄達は、困惑した。「これは・・」「マジでヤバイぜ・・」「ねぇユウリ、ヴィクトルの事、わからないの?あんなにヴィクトルの事、大好きだったじゃん!」「わかんないよ・・」厩で樹里と馬の世話をしながら、勇利が樹里とそんな事を話していると、JJが厩に入って来た。「樹里、長が呼んでる。」「わかった。」勇利は馬の世話をしながら、自分の名前を思い出そうとしていた。「名前・・僕の・・」「ユウリだ。」厩に、銀髪の男が入って来た。「お前の名だ。」男―ヴィクトルは、鋭い刃物のような“気”を纏いながら、勇利の腕を掴んだ。ヴィクトルは、数時間前に長と話した内容を思い出していた。「俺がユウリと結合したから、ユウリが記憶を失ったって!?」「あんたは呪術師だ、我々にはわからない術を使う。それに、死者が蘇生された時、生前の記憶を失うという。」「何だって・・」(俺が、ユウリを・・)「長は、俺がお前を蘇生させたとさ。今ここに居るユウリは、俺が知っているユウリじゃないって。」(怖い、この人・・)「お前の記憶は、俺が・・」(怖い!)恐怖の余り、勇利は黒豹に姿を変え、厩から逃げ出した。「うおっ!?ユウリ、どうした?こいつに何かされたか?」「お前と一緒にするな、ユウリ、こっちへ来・・」ヴィクトルがそう言って勇利を見ると、勇利はJJに抱きついた。「あ、こいつお前が怖いんだよ。」暫く勇利は、JJ達と同じ部屋で寝る事になった。「何だかわかるような気がするなぁ、あいつの“気”、刃物みたいに鋭くて怖いもん。」「陰陽師なんざ、俺達妖にとっては天敵そのものだからなぁ。」JJはそう言いながら、自分に抱きつく勇利を見て嬉しそうな顔をしていた。(ガキの頃から手なづけて来たっていうのに、あいつにとっちゃきついよなぁ。)勇利が記憶喪失になってから、一月が過ぎた。「いいか、今日は俺とお前の関係を話す。」「か、関係?」「お前と俺は、約二十年前に出会い、長い空白期間を経て、再会した・・おい、何で逃げる!?」「だ、だって、追い掛けて来るから・・」勇利は恐怖の余り、木の上に登ってしまった。「降りて来い、ユウリ!話を聞けと言っているだろう!」「い、嫌だっ!」勇利は足を滑らせて木から落ちたが、そのまま逃げてしまった。その日から、勇利とヴィクトルの“追いかけっこ”が始まった。「まぁた、酷い顔してんなぁ。」JJはそう言うと、顔に勇利の爪で引っ掻かれた傷があるヴィクトルを見て、ニヤニヤと笑った。「いい加減諦めろよ、記憶を取り戻すのは至難の業だって、お前にもわかっているんだろう?ま、同族の俺達がユウリの面倒を見てやるから安心しな。あ、それともユウリなしで寝るのは辛いってか?」「うるさい!」「で、どうやってユウリの記憶を取り戻すんだ?」「ユウリの“精神内”に潜る。」「そ、そんな事、成功すんのか!?前は、成功したけどよぉ・・」「やってみないと、わからないだろう?」(自分でも、良くわからないけどね。)ヴィクトルは、城攻めについて紅牙族の雄達と揉め、城攻めに加わる気がない事を彼に話した。「あ~あ、誰かさんに冷たくされて、いじけちゃったんだろうな。」JJはそう言ってヴィクトルにあてつけるかのように、彼の前で勇利とキスをした。ヴィクトルはJJの頭を壁にぶつけた後、そのまま人気のない湖へと向かった。「あいつ、こっちの気も知らないで・・」そんな事を思いながらヴィクトルが独り言を呟いていると、そこへ勇利がやって来た。「僕の所為で、ごめんなさい・・」「俺は、昔からこの力の所為で利用されたり、怖がられたりした。それに、沢山失ったものが多い。」「そ、そう・・」勇利はそう言ってヴィクトルに背を向けて歩き出そうとした時、誤って凍った湖に落ちてしまった。「ユウリ!」―馬鹿、暴れるな、人が助けてやっているのに!「わぁっ!?」洞窟の中で目を覚ました勇利は、ヴィクトルと自分が裸である事に気づいた。「まだ動くな。」「あの、それ・・」「お前に引っ掻かれて、毒が少し躰に回って来た。」「毒?」「猫族の爪には毒があるんだ。お前との追いかけっこで慣れたが、凍死寸前の躰にはきつい。」「あの、どうすれば・・」「中和してくれ。」「中和?」「傷口に口をつけるんだ。出来ないなら、いいさ・・」「やる・・ユウリの所為だから・・」ヴィクトルは、勇利にキスをして、勇利の”精神内“に潜ろうとしたが、失敗した。それから、JJはヴィクトルが城攻めに加わる事を知り、驚いた。「どんな心変わりなんだよ、あいつは?」「もしかして、ユウリが頼んだのかも。」湖で助けてくれた日から、勇利はヴィクトルの事が気になってしまった。そして、城攻めの日が来た。「じゃぁ、行って来るぜ。」「留守番なんてつまらないよ、一緒に連れて行ってよ!」「駄目だ、村で大人しく待ってな。」JJと樹里がそんな話をしている頃、勇利はヴィクトルと話をしていた。「それ・・」「お前の耳飾りだ。なくさないように身につけた。行って来る。」ヴィクトル達が紅牙の村を発った頃、城では大臣達が南の離宮から帰って来た一人の呪術師を迎えた。「これはこれは、ユーリ=プリセツキー殿、随分とお早いお帰りで・・」「城の“気”が乱れてるな。俺に隠し事なんて無駄なんだよ、ばぁか。」そう言って大臣達の前に現れたのは、金髪に美しい翡翠の瞳をした少年だった。「これの所為だろ?」ユーリはそう言うと、城内に残っていた残留思念を呼び出した。すると、二人の男がユーリの前に現れた。一人は、紅牙族の雄。だがもう一人の男は・・「どうしたの、ユウリ?ヴィクトルの事が、気になる?」「そんなんじゃないよ・・」樹里にそう言いながらも、勇利はヴィクトルに会いたくて堪らなかった。「追い掛けよう、ユウリ!」「今から?」「今から追い掛ければ、間に合うよ!」 勇利と樹里はヴィクトル達を追い掛け、彼らと共に城責めに加わった。「え~、俺行けないの!?」「もしユウリに何かあったら、お前が唯一の雌候補だ。言っている意味、わかるな?」「うん・・」「じゃぁ、行って来る。」 樹里は城へと入って行くJJ達を見送った。「結界に侵入者・・あいつら、人質を奪いに来た。」「兵を早く集めよ!」「心配ねぇよ。俺の結界は誰にも破られねぇし。」(馬鹿な奴ら、俺の結界から逃れられねぇし。) ユーリがそう思いながら笑っている頃、ヴィクトル達は迷路の中に居た。「なぁ、ここおかしくねぇ?」「そうだな・・」(何だ・・まるで・・) ヴィクトルがそう思いながら鏡の中を覗き込むと、突然それに大きなひびが入った。「うわぁ~!」「皆、大丈夫か?」「あぁ・・」 謎の空間に巻き込まれ、ヴィクトル達は謎の黒い霧に包まれた。 JJ達の様子が少しおかしい事に、ヴィクトルは気づいた。「どうした?」「シラクチヅル・・猫族だけに効く麻薬よ。」 そう言ったJJ達は、何かに怯えていた。「どうした?」「嫌、来ないでっ!」 勇利が突然怯えたので、ヴィクトルは祭文を唱えた。「飲み込め、少しはマシになる。」 勇利はヴィクトルから渡された護符を飲み込むと、幻覚を視なくなった。「世話が焼ける連中だ。」 ヴィクトルはそう言うと、ユーリの結界を破った。「結界が破られた・・」「な、なんですと!?」(こいつ、未分化か・・丁度いい。)「ちょっと、行って来る。」(僕、どうしてここに?さっきまで、みんなと・・)「おいお前、そこで何をしている!?」「白の塔から抜け出して来たな、来い!」 兵士達に連れられて勇利がやって来たのは、人質が監禁されている白い塔だった。 そこには、麻薬で魂を奪われ、涙を流す雌と子供達の姿があった。(何、ここ・・) シラクチヅルの、黒い霧に包まれた勇利は、気を失った。 終わらない悪夢の中で、勇利は涙を流していた。 そんな中、ヴィクトル達は、“白の塔”へと辿り着いた。「何だ、これ・・」「ユウリ!」 ヴィクトルは、何を流している勇利の頬を叩いたが、反応は無かった。(おかしい、まるで、“壁一枚”隔てているかのような・・) ヴィクトルは、勇利の“精神内”に潜入し、勇利を救い出した。「ヴィクトル様・・」「ユウリ?」(まさか、記憶が戻っ・・)「お前か、俺の結界を破ったのは?」 そう言ってヴィクトルを睨んだのは、一人の少年だった。「誰だ、てめぇ?」「ユーリ=プリセツキー、今はこの城の全権を預かっている。ていうか、人の遊び場にズカズカ入ってくんじゃねーよ。」「遊び場ぁ?」「ま、退屈しのぎには良かったぜ。」「テメェ~!」 少年の言葉に激昂したJJは、少年に向かって妖火を放ったが、彼はすぐさまJJに反撃した。「ここ、俺の結界内だって忘れてねぇ?」 そう言ったユーリの髪は、赤くなっていた。「お前、人間じゃ・・」「人間なんて、こっちを怖がるか利用する事しか知らねぇ、下等動物さ。」 ユーリがJJにそう得意気に話していると、ヴィクトルがユーリを抱き上げた。(こいつ、俺の結界を、まるで自分のものみたいに・・) ユーリは、ある事に気づいた。「お前・・俺と同じ“匂い”がする。」「ユーリ様、大変です!南の離宮に・・」「クソが。ここはひとつ貸しだ。」「お前、妖狐か?妖狐は普通、魔界に棲むと聞くけど?」「半端なんだよ、半分人間だから。お前と同じでな。」 無事人質達を救出したJJ達は、南の離宮へと向かうユーリの龍を見た。「あれは・・」「妖狐族は生まれつき龍と契約できる力を持っている。元々は龍族だったという言い伝えがある。」「へぇ。」 雌達が戻り、紅牙の村に活気が戻った。 だが―「いい加減、機嫌直せよ、ユウリ!俺が抱いてやるから、いいだろう!」「バカ、ユウリはね、ヴィクトルじゃなきゃ駄目なのっ!それ位わかってやれよっ!」 樹里はそう言うと、JJの顔に蹴りを入れた。「ユウリ、俺だ、開けてくれ。」「畜生~!」「ユウリは、ヴィクトルしか見ていないんだからさぁ、諦めろって。」「でもよぉ~」「多分、ヴィクトル気づいちゃってるよ、自分の気持ちに。」「ヴィクトル様、これ・・」「証だ、専属契約更新の。」 ユウリの事が大好きだって事にね。 唐土から遠く離れた京では、ある男がヴィクトルへの復讐にその胸を滾らせていた。「う・・」「僧正、また発作ですか?」「放っておけ。」 ヴィクトルから呪詛返しを受け、男―オタベックは法力を失った。(おのれ・・ヴィクトル・・)「オタベック、法力は戻ったか?」「いえ・・」「朕はお主を頼りにしているぞ、オタベック。一刻も早く、法力を取り戻してくれ。」「はい、主上・・」 オタベックは、そっと額の傷に触れた。 それは、ヴィクトルによってつけられたものだった。(俺は、あの男を許さない・・あいつが、血の涙を流すその日まで。) その頃、唐土ではちょっとした騒動が起こっていた。「はぁ、伴侶になる?お前とユウリが?」「そうだよ、ナイスカップルだろ!」「どちらが雄になるの?」「じゃんけんで決める!」 樹里とユウリの言葉を聞いたJJとヴィクトルは、同時に笑い出した。「ヴィクトル様、真面目に聞いて・・」「好きにすれば?でも、俺は男とは寝ないからね。」「ヴィクトル様~!」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月14日
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表紙素材は、ソラ様からお借りしました。「ユーリ・オン・アイス」「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。勇利とアルフレートが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「本気なの?」「俺が冗談で、こんな事を言うとでも思っているの?」「もしかして、僕の所為?」「違うよ、俺自身が考え、俺自身で決めた事だ。ユウリの所為じゃない。」「でも・・」「もうこの話は終わりだ、いいね?」「う、うん・・」 勇利とヴィクトルは、互いに気まずい空気を纏ったまま、バルコニーから去った。「じゃぁ俺、先にホテルの部屋に戻るから。」「わかった。」「ユウリ、浮気したら承知しないよ?」「し、しないって!」 バンケット会場の前でヴィクトルと別れた勇利は、アルフレートが待っているレストランへと向かった。『すいません、遅れました。』『いいえ、今来た所ですので。』 アルフレートがそう言った時、店員が二人の元にやって来た。『ご注文はお決まりですか?』 勇利はコーヒーを、アルフレートはハーブティーをそれぞれ注文した。『あの、僕に話したい事って・・』『ユウリさんは、ヴィクトルさんとはどのような関係なのですか?』『えっ』 アルフレートの直球過ぎる質問に、勇利は思わずコーヒーで噎せそうになった。「ぼ、僕とヴィクトルは、コーチと生徒だけど・・恋人同士かなって・・」『そ、そうなんですか?ごめんなさい・・』『い、いえ・・』 アルフレートは少し困ったかのように、首の後ろを掻いた。 その左手薬指に、真新しい結婚指輪が光っている事に勇利は気づいた。『あの、それは・・』『これは、ルドルフ様・・あの方から贈られたものです。』『え、それじゃぁ・・』『来年の夏には結婚式を挙げるつもりです。』『おめでとうございます。』『ありがとうございます。実は、家族が増える予定なんです。』 アルフレートは、そっとまだ目立たない下腹を擦った。『そ、そうなんですか?じゃぁ、スケートは・・』『年齢が年齢なので、引退しようと思っています。ユウリさん、あなたとお話出来て良かった。』 アルフレートはそう言うと、勇利に微笑んだ。『また、会いましょうね。』『はい。』 勇利とレストランの前で別れたアルフレートは、ホテルの部屋へと戻った。「お帰り、アルフレート。外は寒くなかったか?」「はい。」 ルドルフに抱き締められ、アルフレートはそう言った後彼に微笑んだ。「お前は何故、あのロシア人の恋人と仲良くなろうとしているんだ?」「それは、彼が・・」「今日は疲れた、休もう。」「はい・・」 グランプリファイナルを締めくくるエキシビションで、世界中の注目を集めたのはヴィクトルと勇利ではなく、表情で優雅なワルツを披露したルドルフとアルフレートだった。「流石ウィンナワルツの国、やるね。」「やっぱりルドルフさん、カッコよかねぇ・・」「ユウリ・・」「ヴィクトル、そんな顔しないでよっ、僕はヴィクトル一筋だからっ!」「俺もだよ、ユウリ~!」「あ~あ、バカップルがまたやってるよ~」 エキシビションの後、アルフレートをホテルの部屋に残し、ルドルフはある場所へと車で向かった。『来ないのかと思っていたよ。』『彼女は?』『あの小屋の中さ。』『そうか。これで‟後始末“を頼む。』『はいよ。』 ルドルフは、“彼女”が居る小屋を一瞥した後、車でホテルへと戻った。「お帰りなさいませ、ルドルフ様。今までどちらへ行かれていたのですか?」「お前は、知らなくていい。」「はい・・」 アルフレートには、“あの事”を決して知られてはいけない。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月13日
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生まれた時代があと100年くらい違っていたら、この人は自由に生きられたのでは?と思ってしまいました。でも、そうしたら彼女の現代における人気がなくなりますね。生涯を過酷なダイエットによって多くの時間に費やした彼女ですが、晩年はシミやシワ、リウマチや神経症に悩まされていたとか…やはり、無理なダイエットは、その後の人生を壊すものだったのですね。それよりも、ルドルフ様が鳥類学者として有名になり、学問に探究していたことは知っていましたが、やはり生まれた時代が違っていたら、幸せに生きられたのかもしれませんね。時代に翻弄されたエリザベートとルドルフ様、哀しい親子だなあと本を閉じた後思いました。
2024年11月13日
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最近、SNSなどで普通に顔出ししたり、私生活を公開したりする人がいるみたいですが、わたしはしません。というのも、わたしはインターネット黎明期、今から29年前にパソコンを触りはじめ、本格的にネットに触れたのは高校生から大学生の頃からでした。ただ、その頃は色々と失敗ばかりして、ネットリテラシーやネットマナーなどがわからなかったクソガキでした。そんな失敗を経て、わたしはブログやSNSでは私生活の愚痴を吐かない、顔出ししない、という2つのことを守っています。ネットには、これは偏見かもしれませんが一定数頭がおかしい、言葉が通じない人達がいるので、そういった輩の餌食にならない為に警戒しながらSNSを使っています。SNSに自分の私生活をアップしたりすると、変なストーカーに狙われたりする可能性がありますし、SNSに個人情報を載せることは、公共の場に全裸で行くようなものだとわたしは思っていますので、しません。用心するには越したことはありません。
2024年11月12日
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最近、アガサ·クリスティー作品を本屋で買ったり、図書館で借りて読んだりしています。わたしが初めて読んだアガサ·クリスティー作品は、「アクロイド殺し」でしたが、一度読んだだけだと分からなかったので、この前再読したいと思って購入しちゃいました。わたしはお気に入りの本は何度も読み返したいので、一度買った本は手元に置きます。アガサ·クリスティー作品はどんな作品も好きですが、一番好きなのは「オリエント急行殺人事件」「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」でしょうか。
2024年11月12日
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濃厚で美味しかったです。
2024年11月12日
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ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ5巻目。このシリーズは面白くて、つい夢中になって読んでしまいます。今回も、面白かったです。
2024年11月11日
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子供の頃からスケートだけに打ち込んでいたが、26歳になっても鳴かず飛ばずでいるジャスミン。そんな中、犬猿の仲であるスター選手·アイヴァンから、1年限定でペアを組まないかと声をかけられる。水と油の関係のようなジャスミンとアイヴァン。しかしその関係が徐々に変化していくところがいいですね。フィギュアスケートというのは、お金がかかるけれど体力や精神力も必要とされるハードな競技ということは知っていましたが、ジャスミンのタフな性格と、アイヴァンのクールで愛情深い性格が情熱の炎となり…二人のホットなラブシーン、そして幸せに満ちたエピローグまで一気読みするほど夢中になりました。アスリートが主人公のスポーツロマンスは初めて読みましたが、面白かったです。
2024年11月11日
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2年前の結婚記念日に突然失踪した妻·フランセスカ。残された夫·クレイは、あらぬ疑いをかけられる。そして2年後、自分の元に帰ってきた妻の首の後ろには奇妙なタトゥーが刻まれていて…傷付いたフランセスカに寄り添い、深い愛情で彼女を包むクレイの姿に読んでいて惚れました。悪人には勧善懲悪な結末を迎えるのが、シャロン·サラ作品なので読むのが好きです。
2024年11月11日
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焼き鳥の旨味が凝縮され、ご飯と合って美味しかったです。
2024年11月11日
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11の間取りから見える、歪で悲しい人間模様。最初の間取りから全てが繋がる。この人の作品は、夢中に読み耽るほどの面白さがあるなあ。
2024年11月10日
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奇妙な家の間取りから浮かび上がる戦慄の事実。この本、3年前から気になっていたんですが、今まで読まずにいました。しかし、立ち読みして面白そうだなと思い、2巻も購入。時間を忘れて読み耽るほど面白かったです。
2024年11月10日
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「薄桜鬼」「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「鬼だ!」「鬼が来たぞ、逃げろ!」バタバタと、子供達が逃げる足音が池の方から聞こえたので、森崎和哉が池へ向かうと、そこには全身ずぶ濡れになった幼馴染であり許婚の姿があった。美しく桃割れに結われた髪は乱れ、髪と同じ色の振袖は泥だらけになっていた。「海斗、どうしたの?」「和哉、俺は鬼なの?」「そんな事ないよ、海斗は可愛いよ。」「本当?」「うん。」和哉の許婚・海斗はこの世に産まれ落ちた時、炎のような鮮やかな赤毛をしていた。黒髪の者が多い日本では、海斗の存在は異質なものだった。それ故に彼は家族や周囲の者達から“鬼”と呼ばれ、海斗はいつも近所の子供達から苛められた。「恐ろしい、あの子は必ずや東郷家に災いを齎す事でしょう。」「お義母様、どうすればあの子を守れますか!?」「あの子を娘として育てるのです。そうすれば、この家に災いは降りかかりません。」海斗が産まれた時、友恵は姑・洋の助言を受け、海斗を娘として育てた。「母上、只今戻りました。」「お帰りなさい、和哉。まぁ、海斗様、どうされたのです!?」和哉が海斗を連れて帰宅すると、和哉の母・千春は慌てて泥だらけの海斗を風呂場へ連れて行くよう女中に命じた。「母上・・」「友恵様に使いを出さなくては・・」目の前で狼狽えている千春を見て、和哉は嫌な予感がした。その予感は、的中した。「奥方様、東郷の大奥様が・・」「わたくしの孫が、迷惑を掛けましたね。」「い、いいえ・・」「海斗は?あの子は何処です?」「海斗様は、全身泥だらけでしたので、お風呂に・・」「全身泥だらけですって!?一体あの子に何が起きたのですか!?」「あいつらが、海斗を苛めたんだ!」「あいつらとは、誰です?」「和哉、部屋に行ってなさい!」「ですが、母上・・」「洋様、息子のご無礼をどうかお許し下さい。」「千春さん、顔をお上げなさい。和哉さん、息子を助けて下さってありがとう。」「僕は当たり前の事をしただけです。」「これからも、海斗を守ってやって下さいね。」「はい、わかりました。」「お祖母様・・」「海斗、迎えに来ましたよ。」洋は、清潔な着物に着替えさせられた海斗を見てそう言った後、安堵の笑みを浮かべた。「お祖母様、どうしてわたしは男なのに女の格好をしているのですか?」「それはお前の為なのですよ、海斗。お前を守る為なのです。」まだ子供であった海斗は、その時自分が“普通”ではない事に気づいていなかった。“その事”に気づいたのは、海斗が洋から薙刀を習い始めた時だった。稽古用の木刀を手に、洋と突きの練習をしていた時、海斗は額を切ってしまった。「海斗様、大丈夫ですか?」「額に血が!」「誰か、お医者様を呼んで来て!」海斗は手拭いで額を拭った後、額の傷が塞がっている事に気づいた。「お義母様、海斗は大丈夫なのですか?」「大丈夫です。」洋はそう言うと、布団の中で眠っている海斗を見た。「友恵、今日の事は誰も話してはなりませんよ。」「わかりました。」それから、長い歳月が過ぎた。17となった海斗は、家を飛び出して試衛館という剣術道場で暮らしていた。何度も友恵と洋が家に連れ戻そうとしたが、海斗は頑として家に帰ろうとしなかった。試衛館は江戸市中から離れている多摩に道場を構えており、天然理心流という剣術を門下生達に教えていた。天然理心流は、剣術の他に柔術など、実戦に近いものだった。型にはまった道場剣術よりも、実戦で役に立つ剣術を習いたかった海斗にとって、試衛館は最適の場所だった。今日も海斗は、試衛館で稽古に励んだ。「東郷君は、最近腕を上げたな。」「ありがとうございます、若先生。」近藤勇は、屈託の無い笑みを海斗に浮かべた。「あれぇ、君今日も朝早くから稽古を受けてるの?熱心なのはいいけれど、無理はしないでね。」沖田総司はそう言うと、翡翠の瞳で海斗を少し呆れたように見た。「近藤さん、今日は土方さん来ないんですか?」「トシは今日、実家で用事があるから来られないそうだ。」「へぇ、残念だなぁ。東郷君を土方さんに紹介したかったのに。」「まぁ、トシとはいつでも会えるさ。」「トシって、誰なんですか?」「近藤さんの親友で、薬の行商をしているよ。黙っていれば美人なのに、口が悪いしわがままだし・・」「誰が、口が悪いって?」「あ、噂をすれば、だ。」海斗が声のした方を見ると、そこには一人の青年が立っていた。射干玉のような美しく艶のある黒髪を背中でひとつで纏め、雪のように白い肌を少し赤くして、美しい紫の瞳で総司をその青年は睨んでいた。「土方さん、この子で最近入門して来た東郷海斗君。」「はじめまして、東郷海斗です。」「東郷、確かこの前、八郎の道場で同じ名前の奴を見かけたな。」「あぁ、それは俺の弟です。」「へぇ、そうか。そういえば、お前の弟から預かって来たぜ。」「ありがとうございます。」歳三から文を受け取った海斗は、その文に目を通した後、溜息を吐いた。「何て書いてあったの?」「家に帰って来いとさ。祝言の準備があるからって。」「祝言!?君その年で結婚するのか!?」「いいえ、俺は“嫁ぐ”身です。」「え、どういう事?」「実は・・」海斗は、近藤達に許婚と、家の事情を話した。「へぇ、身分が高い人は色々と大変なんだね。」「えぇ、まぁ・・暫くこちらを留守にするので、色々とご迷惑をお掛け致しますが・・」「大丈夫だ。祝言が終わったら帰って来なさい。」「ありがとうございます、若先生。」こうして、海斗は二週間ぶりに実家へと戻った。「お帰りなさい、海斗。お風呂をわかしたから、お入りなさい。」「はい。」風呂に入った海斗が自室に入ると、美しい白無垢が衣紋掛けに掛けられていた。「美しいでしょう。この白無垢は、東郷家の女達が代々受け継いで来た物なのですよ。」「お祖母様・・」「海斗、お前は男ですが、昔のように女の格好をなさい。」「俺は・・」「お前の為なのですよ、海斗。」そう言った洋の顔からは、表情が読み取れなかった。「お祖母様、俺は一体、何者なんですか?」「もう、お前も良い年だし、これ以上隠しても無駄のようね。」洋は深い溜息を吐いた後、海斗に“ある話”をした。それは、東郷家の“呪われた血”の話だった。平安の世、海斗のように赤い髪の“姫”が産まれた。その“姫”は、かつてこの国を揺るがした鬼の一族の末裔だった。“姫”はやがて人間と恋に落ちたが、その恋に破れて自害した。“姫”は死の間際、自分を討ち取ろうとした父親に、こう言い放ったという。『わたしの呪いは、末代まで続く』と。「お前が産まれた時、わたしと友恵は血の呪いからお前を守ろうと、お前に女の格好をさせました。けれどもお前は、血の呪いから逃れられなかった。」「お祖母様・・」「海斗、わかっておくれ。何もわたし達は、お前が憎くて女の格好をさせている訳ではないの、お前を守る為なのよ!」洋は、そう叫ぶと泣き崩れた。海斗はそれ以上洋に何も言えなかった。祝言を迎えるまで、海斗は洋と友恵の元で花嫁修業に励んだ。二人は幼少の頃と比べて海斗に松脂のように纏わりついて来なかったが、自由気ままに過ごしていた頃と違い、いつも二人に監視されているような気がして良かった。そんなある日、海斗は三味線の稽古の帰りに花見をしようと足を伸ばして寛永寺へと向かった。春の盛りを迎えたそこは、満開の枝垂れ桜が咲き乱れていた。(うわぁ、綺麗だなぁ・・)桜の美しさに見惚れていた海斗は、近くを歩いていた男とぶつかってしまった。「ごめんなさい!」「前を向いて歩けよ。」海斗とぶつかった男は、目つきが悪い男だった。腰に二本の大小を差している男の身なりを見た海斗は、最近上野辺りに西国からやって来た浪士達の溜まり場になっているという噂を、使用人達が話していた事を突然思い出した。「何じゃぁ、ここいらでは見かけん身なりの娘じゃのう。」「良く見れば、上玉じゃのう。」いつの間にか、海斗の周りを男の仲間と思しき数人の浪士達が取り囲んでいた。海斗は咄嗟に帯に挟んでいた懐剣を抜き、浪士達を睨んだ。「近寄るな!」「威勢の良い娘じゃ。」海斗は懸命に懐剣を手に浪士達と戦ったが、多勢に無勢で、彼はあっという間に浪士達に動きを封じられてしまった。「離せ!」「大人しくせぇ!」「見た所、生娘じゃのう。」逃げようとしても、振袖の所為で動きが制限され、裾が邪魔で浪士達の股間を蹴る事も出来ない。「誰か~!」「助けを呼んでも無駄じゃぁ・・」海斗に向かって下卑た笑みを浮かべながら、振袖の身八つ口の中に手を入れようとしていた浪士の一人が、突然後頭部を何者かに殴られ気絶した。「嫌がる娘を無理矢理手籠めにするのが、西国の作法かい?」「何じゃぁ、貴様!?」「やれ!」突然の闖入者に気が立った浪士達は、次々と刀の鯉口を切り、彼に襲い掛かった。だが男は浪士達の攻撃を次々と躱すと、腰に差した木刀で彼らを倒した。(凄い・・)試衛館で幾度となく近藤や総司の稽古を見て、彼らの見事な剣技に驚いた海斗であったが、目の前に居る男も彼らと同様、かなりの剣の遣い手である事は確かだ。「クソ、覚えちょれよ~!」「怪我は無いか、娘さん?」「はい、助けて下さり、ありがとうございました。」そう男に礼を言った海斗は、目の前に立っている彼の顔を見て、まるで雷に打たれたかのようにその場から動けなくなった。自分は、“彼”を知っている。遥か昔、自分がこの世に生を享ける前、“彼”と共に大海原を航海した記憶が、海斗の脳内に津波のように押し寄せて来た。「どうした?俺の美しい顔に見惚れたか?」「はい・・」海斗は咄嗟に嘘を吐いたが、男の顔は稀に見る程の美男子だった。白い肌、良く通った鼻筋、形の良い唇、そして金色の美しい髪をなびかせ、海のように美しく蒼い瞳を持った男の顔は、この国では珍しいらしく、先程若い娘達が時折擦れ違いざまに男に対して好色な視線を送っていた。「あの、あなたのお名前は?」「俺は、ジェフリー=ロックフォード。そういうあんたの名は、娘さん?見たところ、何処か大店のお嬢さんか、武家のお姫様にしか見えないが・・」「俺・・わたしは・・」「海斗!」突然海斗と男―ジェフリーとの間に割って入って来たのは、海斗の許婚である森崎和哉だった。「和哉、どうしてここに?」「君が中々帰って来ないと静さんから聞いて、もしかしたらと思ってここへ来たら・・」「ごめん和哉、心配かけて。もう帰ろう。」「あぁ。」海斗は去り際、ジェフリーに一礼して彼に背を向けて歩いていった。「ジェフリー、捜したぞ。一人で勝手に行くなと、何度言ったら・・」ジェフリーが赤毛の武家娘を見送った後、一人の青年が彼の前に現れた。黒褐色の髪に、右目に黒絹の眼帯をつけたその青年は、灰青色の瞳でジロリとジェフリーを睨んだ。「ナイジェル、済まない。さっき若い娘が浪士達に絡まれていた所を助けたのさ。」「どんな娘だ?」「赤毛で、黒真珠のような瞳をした娘だった。その娘は、俺の顔を見た途端、泣きそうな顔をしていたんだ。」「どうせ、また嫌がる所を迫ったのだろう?」「いや、あの娘は俺と“誰か”の顔を重ねているように見ていた。」「後でお前の与太話を聞いてやるから、宿へ戻ろう。」「あぁ。」あの娘とは、また会う事になるだろう―ジェフリーは親友・ナイジェルと共に寛永寺を後にした。「緊張しているの、海斗?」「うん、少しね・・」紋付きの羽織袴姿の和哉は、そっと震える海斗の手を握った。白無垢の角隠しの隙間から見える彼の顔は、仄かに紅くなっていた。今日は、自分達の祝言の日だった。三三九度の盃の儀を終えた二人は、森崎家で披露宴を行った。それは、深夜まで続いた。「疲れたね。」「うん・・」「海斗、急な話なんだけれど、僕は来月京に行く事になったんだ。」「京へ?」「大丈夫、毎日手紙を書くし、半月もすれば戻って来るから。」「そう・・」一月後、和哉は海斗を江戸に残し京へと旅立った。彼は毎日海斗に文を送ってくれたが、それが途絶えたのは、丁度和哉が上洛して半月後の事だった。不安な気持ちを抱えたまま、海斗が試衛館へ向かうと、近藤達が何やら興奮した様子で何かを話していた。「皆さん、何を話していらっしゃるんですか?」「おお東郷君、久し振りだな。あ、今は森崎君だったな。」「東郷で良いですよ。」「そうか。実は、浪士組の隊士の募集をしているから、俺達も参加してみようと思ってな。」「浪士組?」「身分を問わず、上様の警護をする為京へ向かうそうだ。」「京・・」 海斗の脳裏に、自分に笑顔を浮かべていた和哉の姿が浮かんだ。「俺も、行って良いですか?」「勿論だ!」 試衛館で稽古を終えた海斗は、実家へと向かった。「お祖母様、母上、お話があります。」「珍しいわね、お前がそんな風にかしこまって・・」「俺、京に行きたいんだ。」「何ですって!?」 友恵はそう言うと、海斗の頬を平手打ちした。「京に行くなんて、許しません!」「和哉を捜したいんだ!あいつが帰って来るのをじっと待っているのは嫌なんだ!」「どうしても行くというのであれば、親子の縁を切りますよ、それでも良いのですか?」「もう、俺は誰に何を言われても、京へ行く。」「ならば、勝手にしなさい!」 海斗は友恵と言い争った後、自室で荷物を纏めていた。 そこへ、洋がやって来た。「どうしても行くのですね?」「お祖母様、申し訳ありません。」「これを持っておゆきなさい。何かの足しになるかもしれません。」「ありがとうございます。」「京は物騒だと噂では聞いておりますから、気をつけて行くのですよ。」「はい・・」 こうして海斗は、近藤達と京へと向かった。「見ろよ、あの赤毛・・」「本当に日本人か?」 ヒソヒソと、悪意ある囁き声が聞こえ、海斗は拳を握り締めた。「大丈夫?あいつら、黙らせようか?」「気にしていませんから・・」 物心ついた頃から、この赤毛の所為で周囲の人々から心無い言葉を投げつけられて来た。 海斗を理解してくれたのは、和哉だけだった。(会いたいよ、和哉・・) 京に着いた海斗は、そこで一人の男に目をつけられた。 その男は、芹沢鴨。 水戸浪士で、天狗党に属していたという。 芹沢は、京に着いた日の夜に海斗を女だと思い込み彼に酌をさせた。「お前、幾つだ?」「17です。」「その様子だと、まだ生娘のようだが?」「芹沢さん、こいつにそれ以上絡むのは止めて貰おうか。」「うるさいぞ、土方。」「芹沢さん、今夜はもう飲みすぎでしょうから、お休みになられては?」 睨み合う芹沢と歳三の間に割って入ったのは、山南敬助だった。「ふん、つまらん!」 芹沢はそう言うと、部屋から出て行った。「大丈夫だったか、海斗?」「すいません、ご迷惑をお掛けしてしまって・・」「気にすんなって!」 藤堂平助はそう言うと、海斗の背中を叩いた。「芹沢さんは、お酒さえ飲まなければいい人なのですがね・・」(何だか、嫌な予感がする・・) 京に海斗達がやって来て一年も経たない内に、芹沢は商家に押し借りをするようになった。「芹沢さん、あんた最近まるで不逞浪士のような真似をしているようじゃねぇか!」「そこらへんの野良犬と一緒にするな、土方。我らは尽忠報国の志士だ。」「土方君、芹沢先生に対して何という口の利き方をするんだ!」「これだから、武家じゃない者は困る・・」 芹沢達はそう言うと、そのまま部屋から出て行った。「芹沢さんには、困ったものですね・・」「ええ。山南さん、左腕の調子はどうですか?」 山南は大坂出張の際、不逞浪士達と戦闘中に左腕を負傷した。「もう私の左腕は動きません。」「山南さん・・」 山南は負傷して以来、自室に引き籠もるようになった。「海斗、山南さんどうだった?」「相変わらず、自室に引き籠もっています。」「そうか。それよりも、この文を黒谷へ届けてくれ。」「わかりました。」 海斗は屯所を出て、会津藩本陣がある黒谷へと向かった。 だが、京の道に慣れない海斗は、いつの間にか迷ってしまった。(日が暮れる前に、何とかしないと・・) 海斗が途方に暮れていると、彼は一人の男とぶつかった。「すいません・・」「怪我は無いか?」「はい・・」 海斗が俯いていた顔を上げると、そこには美しい緑の瞳をした男が立っていた。「何かあったのか?」「あの、道に迷っちゃって・・」「何処へ行きたいんだ?」「黒谷です。」「奇遇だな、わたしも黒谷に用事があるんだ。良ければ一緒に行かないか?」「え、でも、ご迷惑なんじゃ・・」「構わない。」 男は、ビセンテ=デ=サンティリャーナと名乗った。「その髪は、地毛なのか?」「はい。」「江戸から来たのだろう?」「どうしてわかるのですか?」「訛りがないから。それに、一年前江戸から上洛した浪士組の事を噂で聞いたことがある。」「そうですか・・」 ビセンテと暫く話しながら歩いていた海斗は、彼に道案内してくれた礼を言うと、そのまま彼に背を向けて去っていった。「ビセンテ様、こんな所にいらしたのですか?出掛けるのなら一言言って下さらないと困ります!」 海斗の背中を見送ったビセンテの前に、一人の少年が現れた。 総髪にした糖蜜色の美しい髪をなびかせた少年は、蒼い瞳でビセンテを睨みつけた。「済まなかった、レオ。困っている人を見つけると、放っておけなくてな。詫びに、美味い菓子でも奢ってやろう。」「もう、わたしは子供じゃありませんよ!」 そう言いながらも、レオの口元は微かにゆるんでいた。 ビセンテはレオと共に最近贔屓にしている鍵善吉房へと向かった。「おこしやす。」「ビセンテ様は、この葛切りがお好きですね。」「あぁ。食べやすいから好きだ。」「それにしても、最近の京は物騒でかないませんね。西国の浪士達のみならず、江戸からもならず者が来るなんて・・」「レオ、声が大きい。」「すいません。」「さてと、腹を満たしたところだし、宿へ戻るとするか。」「はい。」 二人が店から出て洛中を歩いていると、男達の怒号と女達の悲鳴が聞こえて来た。「どうか、堪忍しておくれやす!」「最初からそう頭を下げていれば、我々も手荒な真似をせずに済んだものを。」 額を地面に擦りつけるようにして店の前で土下座している店主夫妻を見た芹沢は、そう言うと笑った。 その奥で、彼らの娘と思しき若い娘が泣き叫んでいた。 「壬生狼や・・」 「押し借りをするやなんて、不逞浪士達と同じやないの・・」 「はよ、出て行って貰いたいわ。」 「行くぞ。」 芹沢達が去って行った後、ビセンテとレオは荒れ果てた店内を見て呆然としている店主一家に手を貸そうとしたが、断られた。「あいつらのような連中が居るから、京が物騒になるんです。」「まったくだ。」 ビセンテはそう言いながらも、黒谷へと道案内した赤毛の少年に想いを馳せていた。「あ~、疲れた。」 黒谷から壬生の屯所へと戻った海斗は、そう叫ぶと畳の上で大の字になって寝転がった。「海斗君、少しよろしいですか?」「あ、はい!」 山南に連れられて、海斗は彼と共に大広間に入った。 そこには、険しい表情を浮かべている勇、歳三ら試衛館一派の姿があった。「あの、俺に話って・・」「実は、島原や祇園の茶屋に不逞浪士達が出入りしているという噂があってな。そこで、隊士を一人潜入させようと考えているんだが・・」「俺が、祇園に潜入する事になったんですね?」「話がわかって助かるぜ。そこでだ、これからお前には祇園の置屋で暮らして貰う。」「わかりました。でも、赤毛の俺だと目立つのでは?」「祇園に潜入する為には、ある程度芸事に通じてねぇと、敵に簡単に見破られてしまう。だがお前は芸事に通じているようだから、大丈夫だろう。」「そうですか・・」「向こうにも話はつけてある。」 こうして、海斗は祇園に潜入する事になった。「まぁ、可愛らしい舞妓ちゃんにならはったねぇ。」「ありがとうございます。」 江戸を出て一年振りに女装した海斗だったが、余り違和感がなかったので安心した。 ただ、髪を久しぶりに結ったので、少し首が痛かった。「あとは源氏名を考えなあきまへんなぁ。」「“鈴菜”というのはどうでしょう。呼びやすくて、響きが可愛いし。」「ええ名前やね。それにしまひょ。」 こうして海斗は、性別を偽り“鈴菜”として祇園で暮らす事になった。「へぇ、ここが祇園か。右を見ても左を見ても、良い女ばかりだなぁ。」「ジェフリー、余りはしゃぐなよ。」「あぁ、わかっているよ。」 ジェフリーとナイジェルはその日、祇園の茶屋で酒を酌み交わしていた。「なぁナイジェル、ここには芸妓や舞妓を呼んでお座敷遊びが出来るんだろう?俺達も・・」「駄目だ。」「そんなケチ臭い事を言うなよ。」「あんたは羽目を外し過ぎる事がある。あんたの尻拭いをしているのは誰だと思っている?」「悪かった。」「わかればいい。」 親友であるナイジェルとは長い付き合いだが、彼の堅物さには時々うんざりする事があった。 だが財布の紐を握っているナイジェルを怒らせると面倒な事になるので、ジェフリーはそれ以上何も言わなかった。 彼らが居る隣の座敷では、西国の志士達が宴を開いていた。「今晩わぁ。」「可愛い舞妓やないかえ!おんし、名は?」「鈴菜と申します。」「鈴菜、こっちへ来て酌ばせんね。」「へぇ・・」 海斗は愛想笑いを浮かべながら志士達に酌をしたが、その中の一人が泥酔して彼に抱き着いて来た。「やめて下さい!」「嫌がらんでもええやないか。」 海斗は志士を押し退け、座敷から出て行った。「待て!」「誰か、助けて!」 欲望に滾る志士から逃げた海斗は、とっさに隣の座敷へと逃げ込んだ。「お前、あの時の・・」「助けてくれ、追われているんだ!」 海斗はそう叫んだ後、ジェフリーに抱き着いた。「ここか!」 直後に襖が開き、志士が座敷に入って来た。「おやおや、人の女に手を出すなんて感心しないねぇ。」「貴様は黙っとれ!」「そんなに騒ぐなよ、酒が不味くなる!」 ジェフリーはそう叫ぶと、志士を蹴飛ばした。 志士は悲鳴を上げ、無様に尻もちをついた。「今の内に逃げろ!」「助けてくれて、ありがとう。」 海斗はジェフリーに礼を言うと、そのまま座敷から出て行った。「・・変若水が・・」「・・これを飲めば不死身に・・」 廊下から漏れ聞こえた声に、海斗は耳をそば立てた。 そっと少しだけ開いた襖から部屋の中を垣間見た彼は、何者かが真紅の液体を入った硝子壜を渡している事に気づいた。(あの硝子壜、何処かで・・) 部屋の中の者に気づかれぬよう、海斗がその場から離れようとした時、彼は一人の芸妓とぶつかった。「すいまへん、おねえさん。」「気ぃつけて歩きや。」 彼女は海斗を睨みつけると、そのまま去っていった。「そうか、そないな事があったんか。」「迷惑を掛けてしもうて、すいまへん。」「謝るんは、こっちや。土方はんにはこっちの方から事情を説明しておくさかい、お部屋でお休み。」「はい・・」 置屋に戻った海斗は、与えられた部屋で化粧を落とした後溜息を吐いた。(こんな調子で、潜入捜査とかやっていけるのかな、俺?) 翌日、海斗は舞の稽古を受けたが、師匠さんからことごとく駄目出しをされて落ち込んでしまった。(ここで落ち込んでいる場合じゃないな。) 海斗は置屋に戻って舞の練習を寝る間も惜しんで続けた。 一方、海斗が茶屋でぶつかった芸妓は、連れ込み茶屋の部屋で男としけ込んでいた。「こんな所へ俺を呼び出すかと思えば、そういう事か。」「ヤン、お前の“ご主人様”はどうしている?」「最近江戸からやって来た浪士組の奴らの存在が気に喰わないらしく、こちらに八つ当たりされて困っているよ。」「それは可哀想に。」「心にもないことを。」「それにても、最近の祇園の客の格は落ちたね。西国の浪士達が耳元で喚くからうるさくて嫌になるよ。」「客相手にあんたはそんな態度なのか?」「まさか。」 芸妓は、そう言って声を上げて笑った。「こんな所で油を売っていないで、とっとと置屋へ戻ったらどうだ?」「つれないね。まぁ、そんな所も好きだけど。」 芸妓は名残惜しそうな様子で男―ヤンの唇を塞いだ。「浮気は許さないよ。」 芸妓―ラウルは連れ込み茶屋から出て、置屋・桔梗へと戻った。 階段を上がって自室に入ると、そこは嵐が過ぎ去ったかのように荒れ果てていた。「これは一体、どないしたん?」「あ、あの・・」「うちは暇やないから、早く部屋を片付けてや。」「は、はい・・」 ラウルを見た仕込みの娘は、怯えた顔をしながら部屋を片付け始めた。 彼は舌打ちして昼餉を取ろうと階下へ降りると、廊下で一人の舞妓と擦れ違った。 彼女の鮮やかな赤い髪に、ラウルは見覚えがあった。「桃世、帰って来たんか。」「おかあさん、この子誰やの?見ない顔やね。」「ここは鈴菜ちゃんや。訳あってうちで引き取ったんや。」「へぇ、そうなんや。」 ラウルは興味が無さそうな振りをすると、女将と舞妓と共に昼餉を取った。「おかあさん、うち三味線の稽古に行って来ます。」「気ぃつけて行きや。」 昼餉の後、ラウルが自室へ戻ると、そこは綺麗になっていた。「暫く一人になりたいから、出て行ってくれへん?」「へ、へぇ・・」 ラウルは鏡に映る顔を見ながら、口元に紅をひいた。(あの赤毛、わたしと同じ“におい”がする。) 今までラウルの周りには、同族が居なかった。 だが、今は違う。(あの子は、己の事をまだわかっていない。これから、面白くなりそうだね。) 三味線の稽古の後、ラウルはご贔屓筋のお座敷へと向かった。「桃世、久しいなぁ。」「西崎様、お元気そうで何よりどす。」 ラウルはそう言うと、客にしなだれかかった。「最近、ここら辺で化物が夜な夜な人を襲っているそうや。」「へぇ、それは恐ろしい事。」 海斗は提灯を手にお座敷がある料亭へと向かった。 その途中、海斗の前に白髪赤眼の化物が現れた。「ひっ・・」「血ヲ寄越セ~!」 血飛沫が上がり、海斗がつぶっていた目を開けると、そこには茶屋で自分を助けてくれた男が立っていた。「大丈夫か?」「助かった・・」「おいっ、しっかりしろ!」 海斗は男の腕の中で安堵の余り気絶した。 目を開けると、海斗は紅蓮の炎の中に居た。 周囲には悲鳴や怒号などに包まれながら、多くの人々が逃げ惑っていた。 ―父上、母上? 海斗が炎から逃げていると、上空から轟音が鳴り響き、火の玉が海斗に向かって落ちて来た。「カイト、おい、しっかりしろ!」「う・・」 海斗が悪夢から目を覚ますと、自分を心配そうに見つめているナイジェルとジェフリーの姿があった。「俺、一体・・」「覚えていないのか?お前、謎の化物に襲われたんだ。」「化物・・」 ジェフリーの言葉を聞いた海斗の脳裏に、あの化物の姿が浮かんだ。「あの化物について、何か知っている事はあるのか?」 ジェフリーの問いに、海斗は静かに首を横に振った。「あの・・」「大丈夫だ、置屋の方へは俺が文を出しておいた。」「ありがとうございます。」「おかあさん、鈴菜はどないしたん?」「あの子なら、事情があって暫く外泊するそうや。」「へぇ、そうなん・・」 ラウルは、そう言うと笑った。(世間知らずの生娘だと思っていたけれど、中々やるじゃないか。)「おかあさん、このごろ化物がこの界隈に出ているらしいって聞いたわ。」「物騒な世の中になったなぁ。」「ほんまどすなぁ。」 ラウルは、自室に戻るとヤン宛の文をしたためた。「桃世、あんたにお客様え。」「へぇ、只今。」 ラウルが一階へ降りると、そこには紫の瞳をした美男子の姿があった。「おかあさん、こちらの方は?」「こちらは新選組副長の土方様や。」「土方様どすか。お噂は色々と聞いていますえ。」「そうか。ならば話が早い。ここに居る鈴菜という舞妓が行方知れずになっているが・・」「その事やったら、今知り合いに捜させて貰うてます。」「そうか。」「わざわざ鈴菜の事で来て下さっておおきに。ぶぶ漬け、どうどす?」「いや、結構。」「そうどすか。」 歳三が置屋から去ると、ラウルは自室へと戻った。「おかあさん、仕込みの子はどないしたん?」「あの子なら、里に帰したわ。桃世、仕込みいじめるのも大概にしぃや。」「嫌やわ、おかあさん。うちがあの子をいじめたやなんて・・」「あんた・・」「この世界で根性据わってへんと、生き抜かれへん。そないな事、おかあさんかてわかっていますやろ?」「ひぃっ」 ラウルに睨まれ、置屋の女将は恐怖の余り動けなくなった。「三味線の稽古に行って来ます。」 ラウルは、置屋から出てある場所へと向かった。「遅かったのぅ。」「すいまへん、三味線の稽古が長引いてしもうて。」 部屋に入ったラウルを待っていたのは、西国の過激派浪士の一人だった。「これをどうぞ。」「これは何ぜよ?」「最近、幕府が開発しているものやそうどす。飲めば、不老不死になるとか。」 ラウルがそう言って浪士に差し出したのは、変若水が入った硝子壜だった。「ほぉ・・」「タダではお譲りできまへんぇ。」「いくらなら譲ってくれる?」「ふふ・・」 ラウルは浪士の耳元で何かを囁くと、浪士を残して部屋から出て行った。「ナイジェル、あの子の様子はどうだ?」「カイトなら、部屋で文を書いている。」「文?」「色々と事情がありそうだな。」「あの娘とは一度、江戸で会った事がある。その時は武家娘のようだったが、どうして舞妓になったのかが、気になるな。」「他人にも色々と事情があるんだ。」 ナイジェルがそう言って茶を一口飲んでいると、部屋に海斗が入って来た。「すいません、お邪魔でしたか?」「いや、大丈夫だ。何か用か?」「実は、ある場所へ連れて行って欲しいんだ。」「わかった。」 海斗をナイジェルとジェフリーが連れて行った場所は、壬生村にある新選組屯所だった。「お前、何者だ?」「東郷君、無事でしたか。」 ジェフリー達の前に、新選組副長・山南敬助が現れた。「山南さん、ご心配かかけてしまい、申し訳ありませんでした。」「ここでは人目があるので、奥へどうぞ。」 山南と共に奥の広間へと向かった海斗達は、そこで渋面を浮かべている歳三の姿に気づいた。「副長・・」「お前が姿を消した事情は、文を読んで知った。羅刹に襲われたというのは本当か?」「はい。その羅刹は・・」 海斗はそう言うと、ジェフリーとナイジェルを見た。「ジェフリー、どうやら俺達は邪魔者なようだ。」「そうか。」「二人共、ここに居て下さい。副長、構いませんよね?」「あぁ、構わねぇよ。」「俺を襲った羅刹は、新選組のものではありませんでした。」「そうか・・」「そういえば最近、この界隈で辻斬りが横行していると、町方から情報がありました。もしかしたら、我々以外にも変若水の研究をしている者が居るのかもしれませんね。」「そうかもしれません。」 山南がそう言った後、外が急に騒がしくなった。「副長、大変です!」「どうした?」「また、羅刹が・・」 羅刹が出没したのは、三条大橋の近くだった。「どうして、こんな所に・・」 羅刹は、橋のたもとで息絶えていた。 その近くに、夜鷹の死体が転がっていた。 彼女は、全身の血を抜かれて死んでいた。「もしかして、辻斬りもこいつの仕業じゃ・・」「そうかもしれませんね。」 海斗達がその場を後にしようとした時、海斗は背後に鋭い視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。「どうした、カイト?」「いいえ、何でもありません・・」(気の所為か。) 海斗達が去って行く姿を、和哉が静かに見送っていた。「あの子には会えたかい?」「いいえ・・」「そう。君はこれからどうしたいの?」「それはまだ、わかりません。」「わたしの事を知ったら、君の奥さんはどう思うだろうねぇ?」 ラウルはそう言うと、和哉に抱き着いた。「やめて下さい。」「つれないねぇ。あの時、わたしが助けなければ、君は死んでいたんだよ。」 ラウルの言葉を聞いた和哉は、“あの日”を思い出していた。 それは、海斗と祝言を挙げ、京へと赴任してから一月が経った頃だった。 雨が降る中、和哉は過激派浪士の襲撃を受けた。(海斗・・) 冷たい雨に打たれ、薄れゆく意識の中で和哉が想ったのは、江戸に残して来た海斗だった。 海斗を残して死ぬ訳にはいかない―そんな事を和哉が思っていると、誰かが自分に傘をさした気配がした。「大丈夫かい?」 そう言って自分を見つめた黄金色の瞳に、和哉は己の魂を奪い取られたような気がした。 気が付くと、和哉は見知らぬ部屋に寝かせられていた。「ここは?」「わたしの隠れ家さ。君には、わたしの為に働いて貰うよ。」 それが、和哉とラウルとの出会いだった。 ラウルに命を救われてから、和哉の身に奇妙な事が起きるようになった。 彼は絶えず、謎の喉の渇きに悩まされ、水を飲んでもそれが消える事は無かった。 それに加えて、傷の治りが異常に早かった。(僕の身体は、一体どうなっているんだ?)「これをお飲み、疲れに効く薬湯だよ。」 ラウルに渡された薬湯を飲むと、あの喉の渇きが一瞬で消えた。「これは・・」「君が知らなくてもいい事だよ。」 ラウルは、和哉が謎の渇きに苦しんでいる度に、謎の薬湯を飲ませた。 その頃から、辻斬りが相次いだ。「おい、あいつをどうするつもりだ?」「どうするつもりって?」「あいつに血を与えて、鬼にしただろう?昔、俺にしたのと同じようにな。」「一体、何の事?」「とぼけるな!」 ヤンがそう叫んでラウルの胸倉を掴むと、ラウルは大声で笑った。「それがどうしたっていうの?わたしは、“人助け”をしただけさ。」「お前という奴は・・」「あの事は、誰にも言うんじゃないよ。」「わかっているさ。」 ヤンとラウルの会話を、和哉は盗み聞きしていた。「どうしたの、浮かない顔をして?」「いいえ・・」「言いたい事があるなら、はっきりとお言い。」「あなたが、僕を鬼にしたのですか?」「そうだよ。」「どうして、そんな事を・・」「先に死んでしまうよりも、共に生きる時間が長い方がいいだろうと思ってね。」「どういう意味ですか?」「おや、君は知らなかったの、奥さんが鬼だという事を。」「海斗が、鬼・・」 和哉は、海斗が鬼であるという事をラウルから聞かされ、衝撃を受けた。 和哉の中で、海斗への不信感が高まりつつあった。 そんな中、ラウルに誘われ和哉は過激派浪士が集まる会合に出席した。「風の強い日に、御所に火を放ち、帝を長州へお連れする・・」「二階のお客様、お逃げ下さい、新選組が!」 宿の主の言葉を聞いた浪士達は、一斉に鯉口を切った。「さてと、わたしはこれで失礼するよ。」 ラウルはそう言うと、闇の中へと姿を消した。「御用改めである、神妙に致せ!」 浪士達は一斉に揃いの羽織を着た男達に斬りかかったが、彼らは瞬く間に羽織の男達に斬り伏せられた。「逃げる者はその場で斬り伏せよ!」 和哉は愛刀を握り締め、鯉口を切った。「え、それは本当ですか!?」「あぁ。」 同じ頃、和哉が池田屋に居る事はを知った海斗は、屯所を飛び出し、池田屋へと向かった。 池田屋に海斗が着くと、そこは既に激戦の只中にあった。「和哉、何処に居るの!?」 海斗が二階へと駆け上がると、奥の部屋から人の気配がした。 襖を開けると、中には金髪紅眼の男が居た。「あなたは・・」「奇遇だな、このような場所で同族と会うとは。」 男は口端を歪めて笑うと、闇の中へと消えていった。 結局、海斗は和哉を見つけられなかった。(和哉、何処へ行っちゃったんだよ・・) 新選組の名を全国に轟かせた池田屋事件は、倒幕派の怒りの炎を燃え上がらせた。 池田屋事件から一月後、長州軍が御所へ向けて発砲した。「あいつら、御所に・・」「本気か!?」 会津・桑名と共に長州を戦っていた新選組は、長州軍を京へと追い出した。「海斗君、屯所へ戻りましょう。」「はい。」 海斗が井上源三郎と共に戦場を後にしようとした時、彼は背後に鋭い殺気を感じて振り向くと、そこには敵の姿があった。「死ねぇ!」 海斗は自分に斬りかかろうとした敵の頭を潰した。 その返り血を全身に浴びても、海斗は全く動じなかった。「東郷君、大丈夫かい?」「はい。」 京の街は、炎に包まれた。「あ~あ、こんなに派手に燃やしてくれちゃって、本当に迷惑だねぇ。」 ラウルはそう言うと、櫛で髪を梳いた。 幸いな事に、ラウルが居た置屋や定宿にしていた宿屋は燃えずに済んだが、ラウルを贔屓にしていた料亭や茶屋は燃えてしまった。 その所為で、ラウルは仕事がなくなり、毎日暇を持て余していた。「桃世、あんたにお客様や。」「はぁい。」 ラウルが身支度を済ませて一階の客間へと向かうと、そこには海斗の姿があった。「今更、わたしに何の用?」「あなた、和哉の居場所を知っているんでしょう?」「知っていたとしても、それを君に教える義務はわたしにはないと思うけど?」「ただ、和哉が無事で居るのかどうか知りたいだけなんだ!」「そう・・じゃぁ、ここへおいで。」 ラウルは海斗に和哉が泊まっている宿屋の住所が書かれた懐紙を手渡すと、客間から出て行った。 その日の夜、海斗は和哉が泊まっている宿屋へと向かった。 だが―「すいまへん、このお客はんはいてはりまへんなぁ。何や、数日前に急用が出来た言うて・・」「そう、ですか・・」 意気消沈した海斗は宿屋から出ると、提灯を手に静まり返った洛中を歩き始めた。(和哉は一体、何処に行っちゃったんだろう?) 会えなくても良いから、彼が無事だと言う事だけ、海斗は知りたかった。 海斗が夜道を歩いていると、何者かが自分を尾行している事に気づいた。「見ろ、赤毛だ!」「間違いねぇ、こいつだ!」 突然目の前に、数人の男達が現れた。「俺に何か用?」「死ねぇ!」 海斗は急に男に斬りつけられ、その場に蹲った。 男は興奮したのか、笑いながら更に海斗を斬りつけようとした。(こんな所で、殺されて堪るか!) 海斗は腰に帯びていた刀の鯉口を切ると、男の首を刎ねた。「ひぃぃ~!」 連れの男達は、首を刎ねられた仲間を見て一目散に逃げだした。(あいつら一体、何だったんだろう?) 海斗が男に斬りつけられた腕の傷口を見ると、そこは完全に塞がっていた。 海斗が屯所に戻った頃、和哉はある場所に居た。 そこは、禁門の変で起きた火災で親を亡くした孤児達が居る寺だった。「みんな、居るかい?」 いつものように和哉が寺の本堂に向かって声を掛けると、その中から転がるようにして出て来る子供達の姿が、今夜に限って見当たらなかった。(どうしたんだ?) 和哉が本堂の中に入ると、そこには血の海が広がっていた。 子供達は、皆息絶えていた。(どうして・・どうして・・) この子達が一体、何をしたというのか。 和哉が子供達の遺体を抱きながら泣いていると、そこへ一人の男がやって来た。「死ね!」 男の刃が和哉に届く前に、男は頭を潰され絶命していた。 男の返り血を浴びた海斗は、自分に怯える和哉に向かって笑顔を浮かべた。「やっと会えた、和哉。」「海斗・・」 自分の前に立っている海斗は、銀髪をなびかせ、金色の瞳で和哉を見つめていた。(誰なの・・)「助けに来たよ。」 海斗が和哉に差し出した手は、血で汚れていた。「どうして・・」「和哉?」「僕に近寄るな、人殺し!」 海斗は和哉に拒絶され、傷ついた。「俺は、お前を助けようと・・」「来ないでくれ・・」 和哉との再会は、悲しいものとなった。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月10日
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エドワード王朝時代の英国をそのまま再現したかのようなバートラム・ホテルを舞台にした殺人事件。その真相は、子を想う母の悲しい犯行でした。アガサ・クリスティー作品はまだまだ未読の作品が多いのですが、どの作品も読み始めると夢中になるし、何度読んでも面白い作品が多いですね。
2024年11月10日
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横溝正史の本をめぐるある一族の因縁。家族というものは、厄介な問題をどんな家でも抱えていますね。
2024年11月10日
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北一の成長ぶりに目を見張る三作目でした。このシリーズ、面白くて一気読みしてしまいます。
2024年11月10日
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うーん、グリシャムのミステリーとしてはイマイチだなあ。
2024年11月09日
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「イット・エンド・ウィズ・アス~ふたりで終わらせる~」のコリーン・フーヴァーの最新作。過酷な環境故に、麻薬ディーラーの男の下で暮らさざるおえないスローン。そこへやって来たのは、麻薬取締局の潜入捜査官のカーター。二人は出会い、恋に落ちるが・・というストーリーです。スローンを取り巻く過酷な環境はリアルすぎるし、麻薬ディーラー・アサの狂気が怖すぎる。この歪な関係はどんな結末を迎えるのか?エピローグを読み終わった後、あぁ、そういうことか!と腑に落ちました。詳しく書くとネタバレになるので、読みたいなとこの記事を読んで思った方は、書店へ行ってこの本を購入してください。頭をまっさらにして読んでください、言いたいことはそれだけです。
2024年11月09日
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マイヤーリンク事件についての考察本。ルドルフ皇太子が繊細な性格になったのは、幼少期の虐待ともよべる厳しい教育のせいだったかもしれない。エリザベートがもっと息子と向き合っていればな…と思ってしまいました。ルドルフ様が死なずにいたら、カール=フェルディナンドとゾフィーの死によって第一次世界大戦が勃発しなかったので、父帝フランツ=ヨーゼフが生前退位してルドルフ様に譲位していればよかったのでは?しかし、貴族制度や社会は21世紀の現在に於いて健在な国もありますが、もしルドルフ様が皇帝となっても皇位継承者が「男子」のみに限られてくると帝国は崩壊してしまうでしょうね。そしたら、性別問わず皇位継承権を与える、ということだったら帝国は生き残っていたのかも…エリザベートについてですが、彼女の生涯を知った当初は何だか彼女に対して同情していたのですが、不思議なことに現在は彼女に対して好感も共感も持てません。ルドルフ様の死後に喪服を着て彼の遺髪を持ち歩いていたのがね、死んだ後に息子を恋しがったりするよりも、生きていた頃にちゃんと向き合えよ、と思ってしまうのです。この本、初版のときに購入できず、長年絶版だったのですが宝塚「うたかたの恋」でこの本が注目され2023年に再版されたそうです。わたしは初版本をブックオフオンラインで購入しましたが、本当に読んでよかったと思いました。
2024年11月09日
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40になったティファニーは独身ゆえに、異母兄ユライアに酷使される日々を送っていたが、そのユライアが謎の死を遂げ、生きるために彼になりすます。18世紀英国を舞台にしたロマンチックサスペンス。ティファニーや公爵夫人の凛とした生き様が好きです。
2024年11月08日
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表紙は、黒獅様からお借りしました。「天上の愛地上の恋」「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗とアルフレートが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「申し訳ないけど、もう来なくていいから。」「え?」 店主からの、突然の解雇通告は、アルフレートにとってまさに青天の霹靂そのものだった。「うちも厳しいから、ね・・」「そうですか、お世話になりました。」 アルフレートはそう言うと、更衣室に入り、ロッカーに入れてあった私物をリュックに詰め込むと、4年間働いていたダイナーを後にした。 警察を辞めてから、貯金とダイナーで働いた給料で何とか食い繋いできたが、それも限界に来ている。 今更大学時代に取った資格を活かして仕事をしようかとアルフレートが交差点で信号待ちをしながら考えていると、信号無視をしたトラックが彼の元に突っ込んで来た。 遠のく意識の中、アルフレートは誰かが自分を呼んでいる声を微かに聞いたような気がした。「それにしても、今日は嵐が来そうだな。」「えっ、こんなに天気が良いのに?」“グローリア号”の船長・ジェフリー=ロックフォードの言葉を聞いた彼の恋人・東郷海斗は、そう言って蒼く澄み切った空を見た。「わかっていないな、坊や。俺位の年になると、雲の動き一つで天気がわかっちまうのさ。」「へぇ・・」 海斗が恋人の言葉に感心していると、何かが“グローリア号”の近くに漂っている事に気づいた。「ジェフリー、あれ見て!人が浮いているよ!」「ボートを下ろせ!」 二人はボートに乗り、海に浮いているアルフレートを救出した。「大丈夫ですか?」「う・・」「カイト、ナイジェルとキットを呼んで来い!」「わかった!」 アルフレートが目を覚ますと、そこは船長室のような部屋にある、ハンモックの中に自分が寝かされている事に気づいた。「あの、ここは・・」「あんた、海の中を漂っていたんだよ!俺達が見つけていなきゃ、死んでたぜ!」「助けて下さり、ありがとうございます・・」「ジェフリー、入るぞ。」 船長室に入って来たのは、ブルネットの髪をした男と、鳶色の髪をした男だった。 ブルネットの髪をした男はナイジェル=グラハム、鳶色の髪をした男はクリストファー=マーロウとそれぞれアルフレートに名乗った。「これ、あんたの荷物だろ?海水に浸かったが、一応中身を確認してくれ。」「は、はい・・」 アルフレートは、部屋の床に広げられた自分の私物をひとつずつ確認した。 運転免許証、IDカードなどのカード類は海水に浸かっていたが、乾かせば大丈夫そうだ。「そのメダイは?」「これは、亡くなった祖父の形見です。これだけは無事で良かったです。」「そうか。ここで会ったのも何かの縁だ。あんた、名前は?」「アルフレート=フェリックスと申します。」「俺はジェフリー=ロックフォード、こっちは俺の恋人の、東郷海斗だ。」「よろしくお願い致します。」 こうしてアルフレートは、“グローリア号”の一員となった。「アルフレートさん、ちょっといい?」「は、はい・・」 アルフレートが“グローリア号”の一員となってから数日後の事、海斗に呼び出され、彼と共にアルフレートは船長室に入った。 そこには、ナイジェルとクリストファー=マーロウことキットの姿があった。「あの、わたしに話したい事って・・」「実は、今朝こんなものが届いたんだ。」 そう言うとキットは、一枚の紙をアルフレートに見せた。「それは・・」「この国の皇太子の許婚が、行方不明になっているみたいでな。その許婚とあんたの顔が、そっくりなんだよ。」「確かに・・」 アルフレートは、その紙に描かれていた女性の顔が、自分と瓜二つである事に気づいた。「そこでだアルフレートさん、俺を助けると思って、俺に協力して欲しい。」「協力?」 キットは、皇太子に命じられて失踪した彼の許婚を捜していたが、一向に見つからない。 丁度いいころ合いに皇太子の許婚と瓜二つの顔をしたアルフレートと出会い、キットの頭の中にある作戦が閃いた。「わたしが、皇太子の許婚の振りをしろ、と?」「あぁ。知り合ったばかりのあんたにこんな事を頼むのはなんだが、俺に協力してくれないか?」「わかりました・・」 キットに協力する事になったアルフレートは、皇太子の許婚を演じる為の“レッスン”を彼から一週間、みっちりと受けた。「さてと、これから色々と大変な事になるだろうが、その覚悟は出来ているか?」「はい。」「アルフレートさん、頑張って!」「ありがとう、カイトさん。」 キットと共に“グローリア号”から降りたアルフレートは、ドレスの裾を摘み、慣れないハイヒールで歩きながら馬車に乗り込んだ。「そうか、アンジェラが・・」 ハプスブルク帝国皇太子・ルドルフは、そう言うと持っていた羽根ペンをペン立ての中にしまった。 彼の前には、許婚の死亡通知書が置かれていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月08日
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素材表紙は、mabotofu様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。 1873年、ロンドン。 この日、ロックフォード伯爵家は、盛大なクリスマス=パーティーを開いていた。「ジェフリー、何処に居るの!?」「あいつの事は放っておけ、エセル。」「でも・・」 パーティーで賑わっている本邸から少し離れた別邸でジェフリーは愛犬達と静かに過ごしていた。 病弱な彼は、一日の大半をベッドで過ごし、唯一の話し相手は、愛犬達だけ。―ジェフリー様は、あそこに?―ロックフォード家の次期当主があれじゃねぇ・・ 周囲の心無い声に、ジェフリーは傷ついていた。「お前達が言葉を話せたらいいのに。」 ジェフリーがそう言うと、愛犬の一匹が泣いている彼の頬を舐めた。「パーティーなんて、出たくないよ・・」「じゃぁ、俺が行って来てやろうか?」 そう言いながらジェフリーの前に現れたのは、彼の双子の弟・アンソニーだった。「アンソニー、そんな事をしたら、怒られちゃうよ。」「なぁに、同じ顔だから、バレないさ。待ってろ、美味しいご馳走を沢山持って来てやるから!」 これが、ジェフリーとアンソニーが交わした、最後の会話だった。(アンソニー、遅いな・・) ジェフリーが中々戻って来ないアンソニーを心配したジェフリーが別邸から出ると、空が赤く染まっていた。 本邸が、炎に包まれていた。(お父様、お母様、アンソニー!) クリスマス=イヴに、ジェフリーは独りになった。 ジェフリーの愛犬達は、それぞれ親族の元へと引き取られていった。(俺は、もう独りだ。) 1893年、ロンドン。「ジェフリー、起きろ!」「あと5分でいいから寝かせてくれ・・」「起きろ!」 ナイジェル=グラハムは中々ベッドから出て来ないジェフリーに苛立ち、シーツを彼から剥ぎ取った。「何をするんだ!」「さっさと起きて、飯を食え!」「わかったよ・・」 ジェフリーは渋々と起き上がってベッドから出ると、台所の方から朝食のパンの香ばしい匂いがしてくる事に気づいた。「今日の朝刊だ。」「う~ん、どれどれ・・あまり面白い事がないな。」 ジェフリーはそう言った後、興味が無さそうに朝刊を長椅子の上に放り投げた。 その時、玄関の方から誰かがドアを叩く音が聞こえた。「こんな朝っぱらから、誰だ?家賃の支払いなら、もう済んでいるぞ。」 ジェフリーがそう言いながら焼き立てのパンを齧っていると、ドアの方から女の悲鳴が聞こえて来た。「おい、そこで何をしている!」 女の悲鳴を聞いたナイジェルが包丁を持って玄関から外へと飛び出すと、そこには大男が今まさに若い娘を襲おうとしている所だった。「大丈夫か!?」「はい、助けて頂いてありがとうございました。」 乱れた髪を手櫛で整えながら、娘はナイジェルに礼を言ってその場から立ち去ろうとしたが、その時僅かな段差に躓いてしまった。「すいません・・」「中で少し休んでいかないか?」「はい・・」 娘―東郷海斗は、全財産が入ったトランクを握り締めながら、『グローリア探偵事務所』の中へと入った。「失礼します。」「狭い所だが、寛いでくれ。」「はい・・」「ナイジェル、そちらの素敵なお嬢さんはどなたかな?」「ジェフリー、レディの前では服を着ろ!」 半裸で浴室から出たジェフリーに、ナイジェルは思わず怒鳴ってしまった。「先程は助けて頂いて、ありがとうございます。」「お嬢さん、もしかして日本人かい?」 ジェフリーの問いに、海斗は静かに頷いた。「ここへは、あるお願いをしに参りました。」「何やら訳ありのようだな?」 ジェフリーは、海斗が握り締めているトランクを見た。「わたしを、匿って欲しいのです。」「わかった。丁度うちは人手不足で、優秀な事務員を募集中なんだ。」「以前、遠縁の伯父が経営する会計事務所に務めていました。」「そうか。なら話は早い。」「ジェフリー、軽率過ぎるだろう!男所帯に若い娘を・・」 ナイジェルは素性が判らない海斗を雇ったジェフリーを非難したが、ジェフリーは次の言葉を継いで彼を黙らせた。「ナイジェル、こちらのお嬢さんにはリリーの所で暮らして貰う。」「リリー?」「会えばわかると思うが、俺達の大家だ。自己紹介が遅れたな、お嬢さん。俺は、ジェフリー=ロックフォード、この探偵事務所の社長だ。」「東郷海斗です。」「海賊探偵社へようこそ、カイト。」「ジェフリー、居る?」 海斗とジェフリーが互いに自己紹介を終えた時、事務所に大家のリリーが入って来た。「あら、もう新しい子を雇ったの、ジェフリー?」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年11月07日
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