平成30年5月6日(日)
詩集「測量船」:三好達治(67)
アヴェ・マリア(2)
私は犬を呼ぶ。私は口笛を吹いて、樹影に睡ってゐる
犬を呼ぶ。私は犬の手を握る。ジャッキーよ、ブブルよ。
――まあこんなに、蝉はどこにも啼いてゐる。
私は急いで十字を切る、
落葉の積った胸の、小径の奥に。
アヴェ・マリア、マリアさま、
夜が来たら私は汽車に乗るのです、
私はどこへ行くのでせう。
私のハンカチは新しい。
それに私の涙はもう古い。
――もう一度会ふ日はないか。
――もう一度会ふ日はないだらう。
そして旅に出れば、知らない人ばかりを見、知らない
海の音を聞くだらう。そしてもう誰にも会はないだらう。
(つづく)
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